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つむじ風のレオン2

 耳をそば立てて聞いても、怪しげなところもおかしなところもなさそうな男だ。

 学友の名はユリウス、平民故に口の悪さが少々気になるところだが、許容範囲内であろう。

 どうやらユリウスは王都出身らしく、就職先には王都内が希望らしい。

 王都はどの騎士団も人気は高く、採用枠は少ないから大変だな。頑張るがよかろう。

 その他にも妹がいるとか、プルファの夜のリボンが欲しい相手がいて、その娘はここで働くウーラという娘であるとか。

 そのウーラが頼んだエールを持ってこちらにやって来る。


「お客さん、お待たせしました!」


 ドンとエールのジョッキと、エードルフ達の食べていたサラミの盛り合わせがテーブルに乗せられた。


「私はエールしか頼んでないが?」


 怪訝そうな顔の私にウーラは言った。


「こっちは店長のサービスです。いつも街を守ってくれてるお礼だって!!」

「そうか! では遠慮なく頂こう。ご亭主にも礼を言っておいてくれ」


 ウーラに金貨1枚の心づけを渡すと「わぁー、こんなにたくさん! ありがとう!!」と破顔して礼を言った。

 エール片手にサラミをつまみながら聞き耳を立てでていたが、会話は至って普通。

 特に問題がある話もなく、エードルフ達は店を出た。

 私も少し遅れて席を立とうとした時、聞き覚えのある名を聞き心臓が跳ね上がった。


「マティアス!」


 どきりとしたのは、さっきまで報告書で見ていた女狐の護衛騎士の名前だからだ。

 名前なら同名なだけかもしれない。

 だが、と思いそのまま聞き耳を立てた。


「お前、お嬢様とはどうなったんだよ?」

「んー。アッチの方の相性いいから付き合ってる」

「それフィーネは知らないんだろ? つーか二股とか、お嬢様の婚約者、怒るんじゃね?」

「こんなのあいつらなら当たり前さ! 愛と身体は別。身分的にもフィーネはちょうどいいし、エルフリーデだって知ってるさ」

「え。それヤバくね? 確かお嬢様の婚約者って、“青の殿下”だろ? 怒るどころか処分の対象になるんじゃね?」

「処分するつもりならとっくにしてるさ。だけど現状なーんもお咎めなしだからな。さすが“お優しい青の殿下”ってトコだよ」


 わははとマティアスは下品な大声で笑い、仲間とエールを酌み交わしていた。


「お優しい“青の殿下”は婚約者の浮気を見逃して、俺のような間男にも優しさをお分け下さる。さぁ、寛大な“青の殿下”に乾杯!!」


 マティアスは浮かれきってジョッキ高く掲げてあおった。

 私はイライラしながも、エードルフとコイツがかち合わなくて良かったと心から思った。

 こんな言葉は(エードルフ)の耳に入れたくないものだ。

 だが、私がたまたま残って話を聞けたのは行幸としか言いようがない。

 女狐共々まとめて始末できる機会ではないか。

 連れが席を離れてマティアスが一人になったのを見計らい、私は席を立ってマティアスのテーブルへ向かった。


「エードルフは優しいが、私はそう優しくはないぞ!!」


 マティアスは突然話しかけた私に不審そうな顔を向け、

「あんた誰? 見覚えないけど」

 とぬかした。


「本当に感の鈍い男だな。エードルフを名で呼べる者はそう多くないというのに」


 私がぱちんと指をはじき、マティアスのめくらましだけを解いてやると、表情は驚愕に変わった。

 奴の目には私の青色の髪と瞳が見えているだろう。青色を持つ者は王族のみだからな。


「レ…レオンハルト、殿…下……。そ、そのう。あれは決して本意ではなく……」


 もごもごと言い訳を重ねようとするマティアスに、私は胸倉を引き寄せ、耳元ではっきりと言ってやる。


「話はすべて聞いた。リーフェンシュタールの護衛騎士はヒマで退屈しておるようだが、しばらくは退屈せぬ任務を与えてやろう。存分に楽しむがよい」


 マティアスは私の怒気に蒼白のまま、ひきつった表情で答える。


「は……はい。承知致しました……。そ、そのぉ……。この件、リーフェンシュタール家にはどうかご内密に……」


 私は上目遣いで媚を売る間男をすっぱりと切り捨て、にんまりと笑う。


「構わぬ。私も優しいから、お前の最後の望みくらいは聞いてやろう。だが先の失言は兄として見過ごせぬ。何、次の職は心配いらぬぞ、感謝するがよい!」


 私が言い終えるとちょうど連れの友人も戻ってきた。


「あっれぇ? もしかして、レオンさんですか!!」

「え……お前。この方知ってるの!?」

「知ってるも何も。城下町じゃ有名人さ。スリやかっぱらい、殺人がらみのヤバい強盗までサクッと捕まえる腕っぷしと、風みたいな気っぷのいい金の使いっぷりが有名な“つむじ風のレオン”って」


 ですよねー、と友人の男は気安く私に同意を求め、その姿にマティアスは焦って馴れ馴れしい態度を止めさせようとした。


「お……おい。この方は……」


 おっと。話されては困るのだ。

 殊更大きな声でマティアスに被せてやる。


「いやはや、なんともこそばゆいの! そこまで言われたら奢らぬ訳にはいかぬではないか!」


 私は先ほどのウーラを呼び止め、私は店内の食事代のすべてを支払うと告げ、金貨の詰まった袋を渡し、釣りは心付けや孤児院や養老院の差し入れに使ってくれとウーラに預けた。

 店内はあっという間にざわめき立つ。これ以上は騒ぎの元になるからお暇するとしよう。


「すまないが先を急ぐのでな。皆はゆっくりするが良い。ああ、この男は借りていくぞ」


 私はマティアスの首根っこをつかんで引きずるように店の外へ出て、路地裏に連れ込んだ。

 人目がないのを確認し、マティアスの足元に転移陣を展開し、クラウスが直接指揮を取る影達の元に送り込んだ。

 影達はとても優秀で使い勝手がいいが、教育も環境も厳しいからの。腐った性根を叩き直すにはちょうど良い。


「最低3年は友とも会えぬが、王家に楯突いて死なぬだけマシであろう」


 使える男になって戻れば良い。戻れれば、の話だかな。

 いささかすっきりした気分で、私はまたエードルフ達の後を追った。

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script?guid=onりすこ様ご提供!

右がレオンハルト、左がエードルフ
いただいて大分経過しましたが、ようやく使えました!!
ありがとうございました!!

― 新着の感想 ―
[気になる点] 普通は貴族令嬢が平民と肉体関係あったら大問題になるんでしょうが、この世界では婚姻の石という仕様があるからこれ使って子供さえ作らなければ肉体関係あってもそこまで重要ではないという事なんで…
[良い点] ここまで一気に読みました。 面白いです!(≧∇≦)
[一言] お兄ちゃん怖い! しかし、その場で葬ったり、一族みな罰を与えないだけ優しいのかも? あと、お兄ちゃん、暴れん坊将軍みたいなことしてるんですね(笑)
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