第1話
手野武装警備、その本社があるのは小笠原諸島の孤島である手野島だ。
そこには手野武装警備の頂点にいる武装社長をはじめとして、重要人物がずらりといる。
しかし、その中でもごくごく一握りしかその実在を知らない組織がある。
それが第零部隊だ。
武装社長直属で、彼からの命令しか聞かない、たった5人の精鋭中の精鋭。
手野武装警備の階級で、陸上少佐がリーダーとして1人、陸上大尉が4人いる。
今日も、いつものように武装社長の社長室へと彼らが集うところから話が始まる。
「諸君、前回はよく仕事を果たしてくれた。まさか米国も自らの鼻先であのようなことが行われているとは到底思わないだろう」
武装社長は相変わらずの格好だ。
年齢は不詳、それどころか来歴だってわからない。
アロハシャツを着てサングラスをかけた格好に、机の上に盛られたちくわを無造作に1本つかんでは、近くに備え付けてあるワサビ醤油をちょいちょいとつけてはモシャリと食べる。
「社長のおかげです。テック・カバナー財閥も我々に感謝するでしょうし、Win-Winの関係となりましょう」
「手野財閥は閨閥としてテック・カバナー財閥と関係が強い。今後もこの関係が途切れることはないだろうな。先の戦争でも切れなかったのだから」
ちくわいるか、と部隊長に武装社長が進めるが、部隊長は固辞した。
「そうか、美味いんだがな」
さらにちくわをもう一口、武装社長は食べた。
しばらく雑談が続いたところで、武装社長は第零部隊の部隊員にB5紙とコップを渡していく。
「さて、今日の本題だ」
紙に書かれているのは文字情報だけだ。
しかし、それでも十分な情報が記されている。
「ラングマン大公殿下が来日なされるのですね」
少佐が武装社長へと聞いた。
「そうだ。もっとも非公式だ。派手なイベントの類は行われる計画はない」
「我々は何を」
「殿下が来ている間、その警護を行う。警護対象は大公殿下、大公妃殿下、そしてご子息が御二方、ご息女。合わせて5名だ。予定では1週間後に来日、6泊7日を予定している。飛行機が着陸してから離陸するまでの間が、君らの任務の期間となる。ちょうど5人なので、それぞれ1対1に対応するように配置を決める。配置は中家少佐に一任する。あとはいつものように」
「どこに来られるのでしょうか」
「随行員が詳しく知っている。手野産業から何人かついていくようだな。それと向こうからも数人。彼らと詰めの打ち合わせをするといい。ああそうだ、言い忘れていたが、到着は関西空港、そこから入国審査を済ませてからチャーター機で手野空港へ来る。君らは手野空港に到着した時点から関空から出発するまでが任務の期間だということになるな」
「了解しました、ではすぐに連絡を入れましょう」
中家少佐が紙に書かれている連絡先を確認する。
手野産業はどうやら儀典長のようなところが担当し、大公方はchief Of ProtocolことCoPという肩書の人が担当するようだ。
彼らがそれぞれのカウンターパートとなるらしい。
「みんな、よろしく頼んだ」
武装社長が言うと、小隊の面々は一斉にコップに紙を入れる。
そして軽くゆするとみるみる紙はコップの水に溶けていった。
「……無事の成功を祈り、乾杯」
中家少佐が音頭をとると、そのコップの水を一気に飲み干した。