2.薬を売りに行こう。
「リドル。これから、どこに行くんだ」
「当面の生活費が必要になったので、余った薬を売りに行くんです! ――とはいっても、ボクの薬なんて二束三文にもならない感じですけど」
「…………む?」
翌日、元気になったギルガドさんと一緒に町に出ることになった。
魔族であるという素性を隠すために、彼は瞳の色を魔法で変えている。そこまでして、ボクと一緒に行きたいと言った理由は分からないけれど、ひとまず元気ならよかった。
さて、少し考え込んでいる彼をよそに歩くこと数十分。
目的の薬屋が見えてきた。
「ここですよ」
「ずいぶんと寂れた外装をしているんだな」
「あはは。でも、ボクの薬を買ってくれる良い店主さんですから」
そう返事をして、入店。
すると、気だるげな顔をした男性がこちらを見た。
ボクの顔を見るや否や、その人はニッと口角を吊り上げる。
「よお、リドル。今日も不良在庫を売りにきたのか?」
「すみません、デビスさん。お願いしてもよろしいでしょうか」
店主――デビスさんにそう言うと、彼は小さく頷いた。
そして、ちらりとギルガドさんを見て首を傾げる。
「なんだ、この兄ちゃん」
「ギルガドさんです! ちょっと訳ありで……」
「ほほー? なるほどな」
ボクが答えると、デビスさんはすぐに興味を失ったらしい。
こちらに薬を出すよう手招きをしてきた。
「えっと、これですね」
「ふむふむ」
そして、差し出された薬を品定め。
数秒の沈黙の後に、ため息をついて言うのだった。
「…………銀貨十枚、だな」
「え、いつもの半分ですか!?」
その言葉にボクは驚く。
いつもなら、三日分の食費となる銀貨二十枚は貰えるはずだった。それなのに、今日に限ってはその半分。
こちらの反応を見て、デビスさんは申し訳なさそうに言った。
「悪いが、在庫があり余っているんだよ。そうなると、な……」
「……そう、ですか」
それを聞いて、納得する。
たしかに不良在庫を毎回購入していたら、デビスさんも困ってしまう。そういうことなら、文句は言えなかった。
だから、ボクはその条件を飲むことにして対価を受け取る。
「へへ、悪いなリドル」
「いえいえ。こちらこそ、すみません」
「………………」
そんなやり取りを、ギルガドさんは無言で見つめていた。
そして店を出てしばらく歩くと、不意にこう言う。
「先に帰っていると良い。用事ができた」――と。
こちらが首を傾げていると、返事も訊かずに彼は行ってしまった。
いったい、どうしたというのだろうか……?
◆
リドルたちが去って、数十分。
デビスは頬が緩むのを堪え切れないでいた。
「へっへっへ。本当にバカなガキだ。こんな上物の薬をはした金で仕入れられるんだったら、しばらくは安泰だな!」
それもそのはず。
リドルの持ってくる薬はどれも一級品。
それなのに少年は、その価値に気付いていない。デビスはそこにつけ込み、粗悪品だと嘘を言って安価で購入していたのだった。
手に入れた薬は、裏でより高価に売り払っている。
主に犯罪組織に対してだ。
「さてさて、これで当分は美味い酒を飲めるぜ」
さっそく、取引相手への書状をしたためようとした。
しかしその時だった。
「あぁ、すまない。忘れ物をしてしまったらしい」
「あん……?」
一人の青年が、店にやってきたのは。
「悪いな。今日はもう店じまいだ」
「あぁ、それはすまない。言った通り、忘れ物だ」
デビスの言葉に、黒髪の彼は淡々と言った。
そして、次の瞬間――。
「へ……?」
デビスは目を疑った。
直後、店には……。
「あぎゃああああああああああああ!?」
なんとも情けない叫びが響くのだった。
◆
「え、このお金どうしたんですか?」
「気にするな。少なくとも、リドルが受け取るべき正当な報酬だ」
「は、はぁ……」
帰ってきたギルガドさんは、なぜかたくさんの金貨を持っていた。
そして、有無も言わさずにボクに渡してきたのである。
「まぁ、いっか……!」
しかしボクは、深く考えないことにするのだった。