プロローグ 出会ったのは……。
新作です。
「ええい、こんなこともできないのか!?」
「すみません、すみませんっ!!」
――ダンジョンの中階層。
ボクはパーティーリーダーに叱責されていた。
というのも、弱った魔物にトドメを刺すことができずに狼狽えていると、その隙に回復されてしまったのだ。
「うぅ、すみません。可哀想になっちゃって……」
「根本的に、冒険者向いてねぇよ! もうやめちまえ!! ――追放だ!!」
「え、そんな……!!」
必死に頭を下げるが、告げられたのは無慈悲なもの。
その日、ボクはたった一人の冒険者――リドル・ディーアスになった。
◆
「どうしよう、生活費が限界だよ……」
そんなわけで、ボクは一人夜の町を歩いていた。
人気はない。ろくに明かりもなく、閑散とした町なのだ。魔族の住まう領域から最も離れている辺境の土地故に、物流などもなく、真の意味での田舎といえる。
それがボクの育った場所――スタリア。
「そんな町でも、働き口にありつけないなんて。ボクは本当に、なにをやっても駄目だ。孤児院は潰れるし、皿洗いもできない」
そして、最後の希望であった冒険者稼業もダメだった。
何度やっても、弱った魔物が可哀想に見えてきてしまってトドメがさせない。挙句の果てに、言い渡されたのはパーティーからの追放だった。
……いや、うん。
当然といえば、当然なんだけど。
「うーん、でもとりあえず――」
一度、がっくりと肩を落としてから。
ボクはすぐに気持ちを切り替えた。そして、バッグを探って――。
「落ち込んでいても、仕方ないよね! ご飯食べよっと!!」
中から、昼食用のパンの残りを取り出した。
空腹のままでは、良い案も浮かんでこないだろう。元来楽観的な性格というのも、こういう時に限っては役に立った。
そんなわけで、ボクは手頃な場所に腰掛けて大口を開けた。
「いただきま――ん?」
その時だった。
「いま、なにか動いた気がするんだけど?」
建物と建物の間。
そこに、生き物のものと思しき影が動いたのが見えたのは。
ボクはゆっくりと、興味が惹かれるままにそちらへ足を運んだ。ゆっくりと覗き込み、目を凝らす。すると、そこにいたのは――。
「え、魔族!?」
傷だらけの、魔族だった。
雲の切れ間から零れた月明かりが、その美しい顔を照らし出す。
黒の長い髪に血のように真っ赤な瞳、そして普通とは思えないほど端正な目鼻顔立ち。煤けた頬と黒の衣服、羽織っている外套はところどころが焼け焦げていた。
息も絶え絶え。
片腕を押さえつけている姿から、ケガをしているのが分かった。
「…………貴様は、何者だ」
「え……? ボクは――」
その魔族の青年は、掠れた声でそう訊いてきた。
少し考える。そうして出てきた言葉は――。
「そんなことよりも、貴方のケガの方が問題です! ほら、とりあえず水飲めますか!? あと、こっちに予備の回復薬があります!!」
「な、に……?」
ボクが必死にバッグをまさぐると、彼は驚いたように目を丸くした。
呆気にとられたのだろうか。
その青年魔族は、されるがままに治療を受けていた。
「ボクの名前はリドルです、貴方は?」
「…………ギルガド、だ」
「分かりました、ギルガドさん。とりあえず――」
そして、一通りを終えて。
ボクは彼にこう提案するのだった。
「ボクの家、行きましょう!」――と。
これがボクと、ギルガドさんの出会いだった。
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