とあるAV男優への出演依頼
日本人AV男優の岡島は事務所のテレビ電話を通して、異星人AV監督のギロッドと直接交渉を行うことになった……。
「言うなれば葛飾北斎のオマージュなのです」
出演を渋る岡島に向けてギロッドは熱い気持ちをぶつける。
「人間の女性がタコとまぐわう。そういうエロティシズムの美学が貴方の国にはあるのでしょう」
「いやぁ……ちょっと違うような」
「もちろん破格の条件を用意しております。出演料として200万$です」
「はぁ……」
両者の間にある溝は大きく、交渉は難航していた。
◆◆◆
地球外生命体であるプロキシマ・ケンタウリ系のリトリナーゼ人と、NASAが初めて交信したのは2156年の秋のことであった。
それ以来、地球とリトリナーゼとの間には友好的な関係が構築されていた。今や互いに異性人という感覚すら薄らいでいる。言うなれば尾張人と三河人ぐらいの関係であろう。
リトリナーゼのネット番組に人類が出演したり、そのまた逆も普通に起こっている。
そんな中、日本のAV男優であるポメラニアン岡島に、リトリナーゼのAV監督のギロッドから直接、作品への出演オファーが届いたのだ。
まず出演者として、リトリナーゼの超人気AV女優のクジロス。そして日本人AV男優のポメラニアン岡島が予定されている。作品の内容は以下のようなものだった。
『クジロスが地球旅行に行った際、人気の少ない公園で岡島扮する不審者に襲われ、唇を奪われて、そこから異星人間性交渉がはじまる』
岡島は首を傾げる。
「これ無理だよ。だってクジロスさんの方が僕の10倍は大きいですし。体重650キロあるでしょ」
「そこに興奮がある。もし重量が問題であれば舞台を宇宙ステーションに変えても構わない」
「そもそもクジロスさんの唇奪うって、頭から齧られて死んじゃう。だいたい貴方達の構造は地球で言うところのタコに近いので、体勢的に無理と言いますか……」
「それは差別発言だぞ岡島」
葛飾北斎の春画で言うところのタコ役を岡島は期待されているわけだ。
タコ役の岡島に(地球人から見えればタコのような姿の)美女クジロスが襲われるというアブノーマルな展開に、リトリナーゼ人の雄が興奮する……という狙いらしい。
◆◆◆
撮影は冬の港区で行われた。
「おお?可愛いネーちゃんが公園にいるなぁ」
象のように巨大な軟体生物……いやリトリナーゼの美人AV女優に、岡島は絡んでいく。
「○✕△□!」
よく分からない言語でクジロスは拒絶している。
「ぐだぐだ言ってんじゃねえ!こっちこい」
強引に岡島はクジロスの腕を掴む。その丸太のように巨大で、ヌメヌメした吸盤のある足を。
「○✕△□!」
よく分からない言語で怒っているクジロスは岡島の胴体を腕でグルリと巻いて、投げ飛ばす。岡島は10メートルは投げ飛ばされブランコに激突した。
「や……やさしくしてりゃ調子に乗りやがって」
岡島は服を脱いで全裸になる。なんだか自分がとてつもなく馬鹿な男のような気がしてきた。
「おらおら、地球の男を舐めるんじゃねえぞ」
強引にクジロスの下に潜り込み、粘液塗れになって彼女の唇を探す。どうにか唇を見つけたが、刃物のように恐ろしい歯が円上に並んでいた。
──こ……これはぁあぁぁぁ!
なんとか口づけをしようとするが、歯が閉じたり開いたりするのが恐ろしい。少しでもミスれば、頭を挟まれて砕かれてしまうだろう。
それでもどうにかこうにか口づけをすると、クジロスの力が抜ける。すると650キロの全体重が岡島にのしかかった。
「ぐぎゃあああああああああああ」
「カーット!駄目駄目、クジロスちゃん!岡島が死んじゃう」
※ここからはリトリナーゼ語を日本語にします。
「でも監督。台本には熱い接吻で力が抜けるって書いてありますけど」
「そこは上手くやらなきゃ。地球人の体は脆いから」
救急隊員に囲まれていた岡島だったが、10分後には立ち上がった。周りのギャラリーから拍手が起きる。
「がんばれ〜岡島〜」
──500人ぐらい見てるぞ!とんだ辱めだよ。
ギロッド監督は頭を下げた。
「申し訳ない岡島君。異星人間トラブルが起きないよう都に申請を出したら、メディアに嗅ぎつけられちゃってね」
「よく都が許可したよな、この撮影」
「じゃあ次は、言葉責めのシーンだ。スタート!」
息も絶え絶えの岡島は粘液塗れで、どうにかセリフを発する。
「あー、この腕の吸盤はいやらしいなー。これはエロいことが好きそうな吸盤だなー」
「○✕△□!(誰か助けてぇぇ)」
「ぎゃあああ吸盤に吸い殺されるっ!救けてくれぇ!」
岡島が命の危険に晒されながらも出来上がったAVは、無事に惑星リトリナーゼで大ヒットしたという。