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第3話「戸惑いは狸の大好物」

嘘……だろ……?


私はしばらく石のように固まっていた。


フランドール「妹紅、どうしたの?知り合い?」

妹紅「……知り合い?……そんなもんじゃない。」


私の視線の先には、明らかな敵意を持った目つきで私を睨んでいる、私にとって「親友」とでも言うべき奴が、そこにいた。


妹紅「……あいつの名は上白沢(かみしらさわ)慧音(けいね)。私の数少ない理解者だ。」

フランドール「ふぅん。」


慧音には幾度も助けられて来た。

感謝の数は計り知れない。

なのに、慧音は私達を攻撃して来た。

どうしたんだ……慧音……!


私は非常に混乱した。

思考が出来なくなって来た。

思わず頭を抱える。

私の息はどんどん荒くなる。


藍「妹紅。彼女は良き友なのだろう?ならば本心からお前を攻撃している訳ではないだろう。」

藍のその言葉を聞いて、私はハッとした。


……そうだよな。

慧音が突然私に敵対するなんて有り得ない。

きっとあの氷の女が操っているんだ。

よりによって慧音を操るなんて……

……許せない。


私は顔を上げ、慧音を見つめた。

それを待っていたかのように、慧音はようやく口を開いた。


「……覚悟を決めたか?では、行くぞい!」



…………


……



妹紅「……フッ。」


私は思わず笑みがこぼれた。

謎が解け、緊張がほぐれて全身が弛緩した。

同時に、私の体は自ずと慧音へ向かっていた。

……いや、こいつは慧音じゃない。



妹紅「何だ、そういう事か。やってくれるじゃないか!なぁ、旦那!」


私は慧音……いや、慧音に化けた狸の旦那、そう、「(ふた)(いわ)マミゾウ」に向かって右ストレートパンチを繰り出した。

しかし、その拳は片手で止められてしまった。

私は左手で旦那の肩を掴み、その肩を引っ張りながら顔を近づけ詰め寄った。


妹紅「旦那、一体どういう真似だ!とりあえず変化を解け!」


私はそう旦那に促した。


「……ふぉっふぉっふぉっ。……儂が二ッ岩マミゾウだと言うのか。」

旦那は突然そんな事を言う。

私は少し困惑したが、それが狙いだろう。


妹紅「何だ?ここまでしておいて、しかも旦那の口調ですっとぼけるのか。さては随分と舐めているな?」

残念だが、それには騙されないぞ。

ついさっき騙されたばかりだしな。


「……ふうむ、儂が嘘を吐いていると。」

妹紅「当たり前だろ。そんな見え見えの嘘を吐くなんて、からかい過ぎにも程がある。」


すると、旦那は私の右手を離し、半身を引いた。


妹紅「何だ、逃げるのか?らしくないな!」

「逃げるじゃと?違うな。準備が出来たんじゃよ。」

妹紅「準備……だと?」

「そうじゃ。じゃから、儂は時間を稼がせて貰った。ご苦労なこった。」


旦那はその言葉を後に、私の左手を払い、この場を去ろうとした。

妹紅「なっ……!逃すもんか!」

私は勿論逃すまいと、旦那を追おうとした。


その時だった。


「じゃっ、後は任せたよ!マミゾウ!」


……は?


マミゾウ「ご苦労さん!たくさん拵えて来たぞい!」


急に旦那の口調が変わったと思ったら、後ろの方から旦那の声が聞こえた。


まさか、本当に旦那じゃなかったとは……!

……やられた。

……そうだ、2人は!?


私は背後を向く。

そこに見えたのは、フランと藍、そして通路を埋め尽くす大量の浮遊した氷だった。

旦那は恐らくその後ろだろう。

私は咄嗟にフラン達の元へ走っていった。


フランドール「わあ、たくさんの氷ね。」

妹紅「2人共!無事か!?」

藍「問題ない、今はな!妹紅、手伝えるか!?」

妹紅「当たり前だ!」


然程広くもないこの通路に、あれだけの浮遊氷。

どれだけ奥に展開されているかも分かりにくい。

能力さえあれば炎を纏ってぶっ飛ばしてやるんだけどな……。



藍「妹紅。提案がある。」

ふいに横から藍の声がした。

妹紅「何だ?」

藍「まず聞きたい事がある。お前の能力……失われていない物で何がある?」

妹紅「炎。」

私は手から小さな炎を出してみせる。

藍「結構だ。その炎であの氷どもを焼き尽くして欲しい。」

妹紅「構わないが……出力は控えめになるぞ。あまりに出力を上げすぎると私が燃え死んでしまう。」

藍「そこは私の術でサポートする。それと……フラン。」

フランドール「なぁに?」

藍「貴方には特攻を頼みたい。可能ならば奥に潜む敵の動きを止めてくれ。」

フランドール「可能ならば?何言ってるのよ、可能よ。か・の・う。フフ……」

フランは氷の大群の方を向いて微笑んだ。

藍「っ!?……そうか、なら、良いんだ。」


その藍の声は微かに震えていた。

私からはフランの顔は見えなくなったが、藍の位置からは顔が良く見えるはずだ。

……さては私にもしたあの表情か?

目から光が消えたあの表情……

あの目は全てを破壊し尽くさんとする目だ。

大の妖怪が震えるのも頷ける。


フランドール「さてと……やっちゃって良いのよね?」

フランは軽く伸びをし、そう言う。

藍「あ、ああ、よろしく。氷は私達が……」


そう藍が言い切る前に、フランの体は前傾していた。

……そして。


フランドール「みーんな、壊れちゃいなさい!」

ドガガガガガッ!


急にフランが消えたと思ったら、その場から紅い閃光が走り氷に直進する。氷は閃光に貫かれ、閃光は瞬く間に別の氷を貫いている。

みるみる内に大量の氷はバラバラになっていき、それを私と藍はただ眺めているだけだった。


妹紅「何だあの速さは……!?」

藍「私達が手を貸す必要も無いレベルで……」

私達は数秒間前を見つめて固まっていた。

あんなの敵に回してみろ。

即死だ。


フランドール「おーい!みんなー!」

氷を砕き終わったフランの呼び掛けで私達はハッとし、氷の欠片を踏み越えながらフランの元へ駆けつけた。



妹紅「ふぅ……お前速すぎだよ……。私達の出番無かったぞ……。」

フランドール「あのくらい当然よ、吸血鬼だもん。フフッ。」

フランは自慢げに笑う。


藍「ところで……居ないな。」

藍は周りを見渡してそう言う。

フランドール「私が奥に辿り着く頃にはもう居なかったわ。逃げ足は速いようね。」

藍「おおよそ勝ち目が無いと判断して退散したのだろう。狸は臆病だからな。」

妹紅「気付いていたのか。」

藍「さっきお前達がしていた会話で二ッ岩と聞こえた。私がその名前を知らないはずが無い。」

妹紅「狐と狸は因縁の仲だもんな。色々あったんだったか?」

藍「話すと長くなるがまあ色々と。狸の小馬鹿にする態度がどうも許せなくてな。」

妹紅「化かしのスペシャリストだからなぁ。ついさっきも見事にしてやられたしな。……いや、あいつは旦那じゃない別のやつだったか。」

藍「今度見つけたら鬱憤をまるごと晴らしたいものだ。」

藍は拳を固く握りしめながらそう言った。


フランドール「……お話は終わった?」

藍「あっ……つい熱くなってしまったな、済まない。もう終わったよ。」

フランドール「追いかけないの?狸さん。」

妹紅「そうだな、追いかけよう。何故幻想郷を脅かす奴らに味方するのか問いたださないとな。」


……確か元々旦那は外の世界の住人だ。

まさか幻想郷を滅ぼす為に進入して来た……?

いや、考え過ぎか……。

この心配が杞憂に終わるのなら良いんだが……。

旦那の事だ、きっと何か考えがあるに違いない。

そうであってくれ……。


フランドール「もしもーし。」

妹紅「っと悪い、考え込んでた。行こうか。」

私達は旦那が逃げたであろう方向へと歩き出した。


そのすぐ後のことだった。


フランドール「待って!」

突然フランが呼び止める。

妹紅「うん?どうした?」

フランはさっき私達が居た、慧音に化けていた奴が逃げた方へ指を指した。

妹紅「あっちは……私達が居たとこだな。」

藍「あそこがどうかしたのか?」

フランドール「今ふと後ろを見たら、青い触手のようなものが背中に生えた妖怪が隠れて様子を伺っていたの!きっとさっき化けてた奴よ!」

藍「何?それは倒しておかないといけないな。フラン、頼めるか?」

フランドール「勿論、すぐに仕留めて来るわ!」

フランはそう言い、さっきの様に閃光を迸らせながら妖怪が隠れていたという所に一直線で飛んで行った。


ドゴォン!

そして大きな衝撃。恐らく仕留めたのだろう。



…………


……あれ?

フランが戻って来ない……?


妹紅「……大丈夫なのか?これ……。」

藍「……嫌な予感がする。妹紅、行くぞ。」

妹紅「ああ。」


私と藍は、行ったっきり戻って来ないフランの状態を確認しに向かった。


するとそこには……


妹紅「なっ!?」

藍「フラン!?」

フランが氷の瓦礫の上にボロボロになってうつ伏せに横たわっていた。

一体何が……!?


ドゴッドゴッ!



妹紅「ぐはっ!?」

藍「がっ!?」


急に背中に激痛が走る。

私達は勢い良く吹っ飛び、私の意識も吹っ飛んだ。



続く

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