箱入り○○の成長録(?)
初めまして。お久しぶりです。おはようで、こんにちはで、こんばんわです(礼)
引っ越し準備しなければならないのに、書きたいストレスに負けて、少し前に浮かんだワンシーンを何とか形にしてみました。
時間潰しに使って頂けましたら幸いです…(深々一礼)
夏の暑さも失せ、秋の涼しさを肌で感じる事に慣れた頃。
本来であれば、この場―生徒会室―に居るはずの彼こと、会長補佐であり俺の従者が不在の中、その当人が人気のない所で強硬に走っているという一般生徒からの報せを聴き、その衝撃にペンを走らす動きを止めた。
たったその一言で、『彼が、“誰”に何を』と言う世間的には下世話な発想が生まれ、目の前が真っ赤に染まる。
ソレは、ほんの一瞬で浮かんだ物だった。
直ぐさま作業中の手を止め、いざと言う時の対処の為に同室にいた仲間二人を連れて、報せてきた相手を伴い現場へと向かう。
向かう先は、自分たちが居た部屋から10分弱な場所に設けられている、別棟。
多種の実技を含む教鞭を取れるよう、個々に応じた専用の教室で構築された建物だ。
その一角、さまざまな分野の資料が保管された、第二資料庫へと向かう。
分野問わず普段使わない物や、保管の重要度が低めな物を一つに纏めた場所で、空間はそこそこ広く、それ故に、簡易的な書庫や図書室としても利用出来るように、両手分程度の人数であれば、読書や学習出来る場所も作られていた。
『――っ、めて、くだ………!』
「?!」
あと少しで辿り着くと言う瞬間、目の前の扉から聞こえた悲鳴じみた物に、平静と言う二文字が脳裏から消える。
――例え、昔から共に苦楽を共にしたお前と言えども、彼女に何かしたら容赦はしない…!
手を使う余裕もなく、横へ開閉する扉を軽く身を翻し、回し蹴りの要領で蹴破り中へと踏み込んでみれば――。
「――――」
「……っ…。で、殿……下」
想定外だったのだろうか、呆然と茫然。
更には驚きを隠せない表情で、彼が着るシャツを腹まで肌蹴させる程に掴む彼女と、触れて良いのか判らず―多分、前に彼女に触れるなと自分が注意したからかもしれないが…―、彼女の手首付近で空を切る手と、自分を見て青褪める彼の姿が最初に見た光景だった。
――彼女の様子が、自分の想像と異なるが無事である事に安堵するも、強硬に出た彼を叱責するために視線を向けようとして、表情よりも素肌にハッキリと浮き彫りされている影に、目が釘付けになってしまった自分が居た。
彼の首から下――精確には、厚手の布か何かが巻かれた胸の上から映る、くっきりとした円やかな曲線と胸の谷間に映える濃淡の影が、頭の中に淀むモヤを驚愕という思考で払い落としていく。
―――この日、この数分前まで乳兄弟だと、大切な弟分だと思っていた従者が、現時刻をもって、“女性”である事を知った。
彼こと、ヴァリィ・マーリスは、父の側近であるマーリス公爵の一子だ。
とは言え、生まれは次男。
上には兄と姉が居るため、末子でもある。
そして、私の父はこの土地を統べる王であり、彼の父は宰相を受け持っている。
――この時点で、私の立場がどんな物か想像しやすいと思うのだが…どうだろう?
肩書としては、第一王子を担っている。
第一がつくならば、第二も居るの?と訊かれれば、答えはイエスだ。
九歳離れた可愛い天使が、二人居る。
片や第二王子で、片や第一王女。
会えば、天上の物と思える微笑みと声で『にーさま!』と呼んでくれる。
ご褒美でしかない!
え…?そこまでは訊いてない…?
ああ。すまない。
最近、すっかり彼女の事で頭が一杯だったようで、久し振りに弟や妹たちの事を想い出したら、止められなかったんだ。
え…?“彼女”は誰かって?
誰か……と言われると、一学年に復学してきた、子爵家のご令嬢と説明しか出来ないな…。
余り身体が丈夫ではないらしく、入学式も体調を崩して参加出来なかったようで、このまま無理に通うのはどうかと暫く休学をし、夏の暑さも静まりを見せた頃には、長時間の外出が出るまで回復した事もあり、様子見を兼ねて復学してきたそうだ。
――ソレが、約4ヶ月ほど前。
冬と言う寒い季節ではあるが、南に置かれたこの国は、暑さが強い代わりに寒さが穏やかである事で有名だ。
“冬”と銘打っても、雪は降らず、木々を凍えさせる木枯らしもなく。
寧ろ、その冬にのみ生き生きと咲かす花々や、食用の実をつける木々たちが我が国を潤してくれていた。
彼女が復学した頃は、面識を持つことなど特に無かったが……側近候補の一人で幼馴染かつ同級であるジェストから紹介された事で、顔を知る事となった。
その際、自分の他に、残る側近候補ニ名にも紹介していた。
――知り合って一月程は何も無かったと思う。
だが、冬の長期休暇の際、何故か城外に出る度にほぼほぼ会うことが多く、大抵が自分の側近候補の誰かと同行して、少なからず会話をするようになっていた。
彼女の故郷は、我が国の北寄りらしく。首都である王都よりも寒さが明確に判るようで、時折“雪”も目にすると言う言葉に、知らず心惹かれる自分が居た。
絵や書物では知るのみである、冬の季節を示す天候―雪―に、知らず彼女の言葉に耳を傾けるようになっていた。
――それからだろうか。
徐々に彼女の一挙手一投足に目が行くようになったのは…。
始めは、そんな気は無かった。
ただ、この歳―成人の儀は19歳で行われ、来年は自分もその年を迎える―で夏の暑さとは真逆である冬の寒さを知らず、まるで四季折々の事を知ったように話すのは、夢見る子供や虚言者のようで憚れると……そんな幼稚な虚栄心なる物を満たすために行っていた結果――――。
現在、僕は…私は、清掃のプロ達にピカピカに磨かれた床に、足場の緩和用に敷かれた絨毯もないフローリングの上で正座をさせられている。
……かれこれ、約二時間だろうか。
この正座なる物は、説教を受ける際の礼儀作法として幼い時に教えられていたが……この歳で、もう少しで成人と言う今になって体験するとは思わなかった…。
「……あの、殿下…」
「ヴァレッタ」
「……。ハイ…」
不安げに自分へと声を掛ける存在に視線を上げた先には、感情の機微を見せぬように普段は穏やかな表情を崩さずにいる乳兄弟が、あからさまに心配だと言う表情をして応接室のソファーに座っていた。
だが、その隣に存在する笑顔一つで数多の外交官すら威圧する事を実現させた男―ヴァリィの実兄―が、優雅に足を組み、その足に頬杖をついた格好で微笑んでいた。
――そう、“微笑んでいた”のである…。
五歳ほど年上の彼は、ヴァルナ。ヴァルナ・マーリス。
乳兄弟の彼…いや、彼女の兄であり、私の臨時側近であり、自分にとっても兄のような存在だ。
臨時なのは、彼の本職が外交官だから。
緊急時や必要時は、側近としての職を兼任で担ってくれているが、それ以外では我が国の憂いを少なくするように、逆に潤す為に尽力を捧げてくれる貴重な存在だ。
その彼の最大の武器に、博識であり卓越な言葉の駆け引きの他に、絶やさぬ微笑みと言う物がある。
笑みに免疫を持っていれば、少なからず効果は半減されるのだが………どうやら、後ろで同じく正座させられている側近候補の彼等には効果は絶大だったらしい…。
ガタガタと地震でも起きているかのように震える者や、神に助けを乞うようにひたすら祈りを紡ぐ者、正座したまま気だけ天上に捧げてしまった者など、三者三様な反応。
そんな中、子爵令嬢だけは例外なのか、頬を赤らめて魅入っている。猛者が居た…。
と、そこまでの実況説明を誰に向けてか無意識に行ってから、ふと気付く。
「……ヴァレッタ?」
「ッ…!」
「――殿下。その名を口にする赦しを、オレは許可していないよ?」
見知らぬ名前を口にすれば、乳兄弟がピクリと肩を揺らしてから、どう反応すれば良いのかと不安げに隣に座る兄へと顔を向けている。
ソレに気付いてか、更に深まる笑みを見せる兄代わりに、あ。コレはアレだ。と、五感全てが警鐘を鳴らす事案に、コクコクと無言で頭を縦に振って回避する。
許可がおりるまでは、彼女は“ヴァリィ”なのだろう。
「――さて。ソコにいる子爵令嬢がキミに関与するようになってからの情報は、第三者視点でしかないが把握している。内容はココに記載している事で間違いないかな?」
バサリと、目前の床に置かれた束の書類とヴァルナを交互に目をやり、手にする許可があるかを目だけで確認する。
話すのが億劫なのか、それとも話すにも値しないのか……多分、後者なのだろう。
軽く伏せる眼差しに許可を得たと解釈し、書類の束を手に取り、一枚一枚足の痺れや痛みを誤魔化す為に一字一句確認する。
その内容は、概ね三つの内容に分かれており、重要なのは一つ目と三つ目だろう。
――けれど、二つ目の内容は、目を逸らしたくても逸らせられる物ではなかった。
「私達は、周りにこのように見られていたと…?」
「まあ、殿下はこの二週間程度で、その後ろのは三ヶ月前からそう見えていたようですよ?」
「……何て…」
何て、滑稽で無様な。その一言に尽きた。
書類の内容は、彼女―子爵令嬢―を調査した結果と、彼女が側近候補と縁を持ち始めた頃から昨日までの事が箇条書きで書かれていた。
令嬢の個人情報はこの際省くとして、時系列ごとに纏められたここ数ヶ月の報告書に頭を抱えたくなった。
始めは知人・友人関係だと思える内容だったが、次第にソレは男女間の関係を示す物に近付いており、背筋にゾッとする物を感じた。
……確かに、つい数刻前の自分の思考なんて、ソレそのものではないか…。
自分自身の事なはずなのに、未知な何かが我が身を襲ったように感じ、小さな震えを覚えた。
今回、自分の側近候補が縁を持つことで、調査する者―影―が動いたのだろう。
まだ候補と言う事もあり、本人たちにはその旨は告げず“友人”として接し続けていたが、今回はソレが功を奏したらしい。
最後の一枚―三つ目の内容―には、彼らの処罰についてが簡潔に纏められていた。
側近候補から外すことで特に重い罰則は免れるとの事だった。
あくまで、友人関係によって齎された罰―休学と言う名の謹慎に、その間の課題追加―だけで済んでいた。
婚約者や許嫁と言う女性が居なかったのも幸運だっただろう。
もし、居たら………考えるのは止めておこう。
書類を読み終え、第三者から見た現実を受け止めてから、ハッと気付く。
「ヴァリィっ」
「っ、ハイ」
「……ヴァリィも、そう見えていた、のか…?」
「………」
咄嗟に、普段のように気安く“お前”と呼びそうになって躊躇した。
彼は、今は俺の知る彼ではないと知ったから。
名を呼ぶ事で、彼が女性だとしても変わらず乳兄弟である事は変わりないと意識して、話を進めた。
――ヴァリィと出会ったのは紹介されたのは、お互いに歳が一桁の頃だった。
あの頃の彼は体が弱く、体も小さくて、触れただけで壊れそうな存在に見えた。
一つ下の彼を、弟だと、私が兄だから守ってやると何度か交流した頃には決意していた。
…だが、生徒会室に居たときの自分はどうだ…?
ヴァリィが、子爵令嬢に手酷い事をすると考え、出てきた時の自分は。
令嬢に手を出せば、ヴァリィだとしても手を下すと、ヴァリィの考えも知ろうとはせずに敵として見なした自分は……。
これ程までに、愚かな自分が居るだろうか…?
私の問いに、どう答えるのが正解なのかと迷う様が眉や揺れる眼差しに見て取れ、当否など始めから決まっていたのだと知る。
ヴァリィに、守ると誓ったはずなのに。
兄代わりのヴァルナの前で誓ったはずなのに。
清も濁も受け止め、ソレでも律することが王族としての心構えだと教わったはずなのに。
「……私は、“弟”すら、守れなかった……ッ」
自分の愚かさに、一人懺悔の言葉を地面へと向けて告げていたから気付けなかった。
私の“弟”と言う言葉に、悲しげに瞳を揺らす存在に。
他者には、威圧を帯びた笑みでしかないソレに、仕方が無いとダメな弟を見るような眼差しを帯びた存在に。
――コレは、不甲斐ないと打ちひしがれている彼が、何事にも実直が取り柄で、家族愛(マーリス一家含め)が第一で、本当の初恋もまだな第一王子の彼が、“箱入り”から片足のつま先程度だが、やっと出る事に成功し始めたお話。
コレは、続いたら恋愛に行く予感…?(訊くな)
久しぶりに話を書くので、読み難い&誤字脱字、あるやもしれません。
それなのに、ここまで読んで頂き有難うございました…っ(平伏)
女主人公より男主人公書くのが楽なのは、やはりビーでエルな二次のお話ばかり書いていたからか…(二次はそうなのに、一次だとNLしか書けない変人)