エピローグ 始まり
「――よし、こっちは準備完了っと」
エヴァとリディアへの挨拶を済ませ、新しい冒険者装束を受け取った日から、数日ほどが経ったある日の朝。
窓の外から、爽やかな朝の陽ざしが差し込む宿の一室で、トーヤは粛々と準備を進めていた。
先日リディアからの贈り物として受け取った、新たな冒険者装束を身に纏い、その上からエヴァの手で万全のコンディションに整えられた愛用の剣を、腰に佩く。最後に今一度忘れ物が無いかを確認して、「よし」と頷いた。
「セナ、そっちはどうだ?」
「ん、大丈夫。忘れ物なし」
くるりと振り向けば、そこにはトーヤと同様、出立の支度を済ませたアスセナが立っている。
トーヤと同じく、新しく誂えられた冒険者装束を身に纏っており、背中にはエヴァから受け取ったパルチザン。相変わらずの鉄面皮には一目見てわかるほどに気合いが満ちており、準備は万端、という雰囲気がありありと伝わってきた。
「よし。……いよいよだな」
「ん。ほこらに挑むための旅」
お互いの顔を見合わせて、強く頷きあった二人は、連れ立って部屋を出る。
エレヴィアの町に着いたその日からお世話になった宿にほんの少しの郷愁を覚えながら、二人は宿を後にした。
大通りへと顔を出せば、雲一つない青空がトーヤ達を出迎える。
「すごい、良い天気」
「あぁ。旅を始めるには絶好の日だ」
幸先の良い光景を目にして、二人は顔を見合わせて笑いあう。抜けるような青と、さんさんと降り注ぐ太陽の光をいっぱいに浴びて、トーヤは「よしっ」と気合を入れ直した。
「トーヤ、行き先は決まってる?」
アスセナの言葉に頷いて、トーヤは懐から地図を取り出す。
「ここから一番近いのは青のほこらだから、まずはそこに近い『アルナム』って街を目指すことになるかな。まぁ、近いって言ってもいくつかの町や村を経由することになるから、到着にはしばらくかかると思うけど」
「ん。……私が竜に戻って飛べば、早いと思う」
「うーん、それは最終手段……俺たちが出会った時みたいなヤバい状況の時限定だな。セナも消耗するだろうし、何より旅の間で人の戦い方が教えられないからな」
「あ、それはダメ。じゃあ、普通に旅する。……どうやってアルナムまで行くの?」
「手段は色々あるけど、ここは冒険者らしく、組合に張り出された依頼を利用させてもらおう。アルナムや、その道中にある街まで行く馬車の護衛依頼を受けて、一緒の馬車に乗せてもらうんだ」
「一緒に。いいの?」
「もちろん。向こうは旅道中を守ってくれる人が欲しい、こっちは別の町までの移動手段が欲しい。お互いが得できるから問題なしってわけさ」
「ん、納得。こういうのもヒトの知恵。凄い」
無表情なりに感動した様子を見せるアスセナに苦笑しつつ、トーヤは「さて」と空気を切り替える。
「そんなわけで、まずはアルナムを目指して行動開始だ!」
「ん、ほこらを巡って、私たちは強くなる!」
トーヤに呼応するように、アスセナもまた、普段よりも声を張ってみせる。ちらりと表情を見やれば、アスセナの顔には、確かな期待と決意がにじんでいた。
「目指すは『最強』! ――行こう、セナ!!」
「おー!!」
この先で待ち受ける出会いと冒険に向けた、いっぱいの期待。
そして、それぞれの胸の内に抱えた夢を叶えたいという決意。
たくさんの思いを込めた拳を、二人は強く、高く、空へ向けて突き上げてみせた。
*
こうして幕を開けた彼らの旅路は、後の世で一冊の本としてしたためられ、人々の間で知られる冒険譚として知られるようになる。
一人と一匹が織りなすその物語は、知る人ぞ知る「御伽話」として、長きに渡って語り継がれていった。
その物語の名は「魔剣の騎士と白竜姫」。
彼らの旅の結末の果ては、彼らのみぞ知る――。
ここまでの読了、ありがとうございます。
誠に勝手ながら、本作は今回をもって中途完結という形を取らせていただくこととなりました。
本作に目を通していただいた皆様、感想等々を寄せて頂いた皆様に、深くお礼を申し上げるとともに、ご期待に沿えない結末となってしまったことに、心よりの謝罪をさせて頂きます。
あとがきという名の言い訳&謝罪大会は、次話に記載という形にさせていただきます。長めの記事となる予定ですので、閲覧して頂ける方は予めご了承ください。