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魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
エピローグ 旅立ちの序曲

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第30話 リディアの贈り物

「さて、挨拶しようにもまずはリディアさんを探さなきゃいけないんだけども……」


 先刻立ち去った冒険者ギルドへの道すがら、トーヤは腕を組んで思案する。

 トーヤたちを気にかけてくれていたとはいえ、相手は冒険者の最高戦力ともいえる(アダマント)ランクの人間。コンタクトを取ろうにも忙しい可能性があるし、そもそも今訪ねたところで留守にしている可能性もあるのだ。

 さてどうやって見つけようか――と考え込んでいると、不意にトーヤの服の裾が引っ張られる。


「トーヤ、居る」

「へ?」


 そんなアスセナの言葉に顔を上げてみると――


「やあやあお二人とも、奇遇だね。それとも、ひょっとしてワタシをお探しだったかい?」


 ダークブラウンのサイドテールを風に揺らし、からからと笑う目的の女性が、そこに立っていた。


「リディアさん?! ど、どうしてここに」

「いやぁ、なんとなく君たちが訪ねて来るんじゃないかって予感がしてね。組合支部で待つのも退屈だし、暇つぶしにこっちから探してみようと思ったら……どうやら大当たりだったみたいだね?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべ、リディアがしてやったりといった表情を見せる。まさかの邂逅に面食らうトーヤだったが、この状況が好都合だということを思い出して、改めて口を開いた。


「そう、リディアさんを探してたんです。近々この街を発つつもりだったんで、その挨拶に行こうと思って」

「おや、そうなのかい? となると、いよいよほこら巡りの旅に?」

「そう。リディアが教えてくれたところ、全部行ってみるつもり」

「そっかそっか。いやぁー、若い子の行動力にはいつも驚かされちゃうよ」


 冗談なのか本気なのか、そんなことを口走ったリディアが、今度は自分から口を開く。


「ま、実を言うとワタシも、近いうちにこの街を離れるんだけどね。そういう意味でも、ここで遭えたのは幸運だったかもね」

「え――リディアさんも?」

「うん。(アダマント)ランクっていっても、要するに組合の幹部であって、ワタシの上にはさらに人がいるからね。面倒なお仕事を押し付けられることだって、珍しくないのさ」


 たはは、と笑うリディアの言葉尻から察するに、彼女は冒険者としての仕事をこなしに行くのだろう。周囲からの羨望の的になるほどの実力を持つだけで、彼女もまた、一介の冒険者に変わり無いのだ……ということを考えれば、リディアの言葉はじつにすんなりと腑に落ちた。


「リディア、お仕事は大変?」

「まぁねー。他の人に任せられないような大役ばっかり回されるから、気疲れしたり酷い怪我を負うことだって珍しくないよ。ま、それも含めて楽しい仕事だよ」


 気遣いありがとね、と口にしながら、リディアがアスセナの頭を撫でる。

 どこかで見たような光景を経て、リディアがこほんと咳ばらいを挟んだ。


「そんなわけで、2人とはいったんお別れになるけど……そうだね。もしも君たちが道に行き詰まったり、とんでもない敵とでくわすようなことがあったら、ワタシは必ず君たちの元に駆けつける。それを覚えておいてくれると、嬉しいな」


 発言の意図はやや漠然としたものだったが、要するにリディアは、トーヤ達が危機に陥った時には味方になってくれる、ということだろう。彼女の実力は今だ未知数だが、社会的にも実力的にも、心強い味方であることには間違いはなかった。


「ありがとうございます。必ず、リディアさんの示してくれた道の先にたどり着いて見せます!」

「うん、その意気だよ。頑張ってね、トーヤくん、アスセナちゃん」


 小難しい単語を挟まない、ただひたすらに真っ直ぐな激励を受けて、トーヤ達は今一度、力強く頷いた。


「――さて、と。お別れの前に、君たちに餞別をプレゼントしようじゃないか」


 と、真面目くさった表情をくるりと入れ替えて、リディアは懐から一枚の紙きれを手渡してくる。

 訝しみながらもそれを受け取り、折りたたまれたそれを開いてみれば、そこに描かれているのはエレヴィアの町の地図。地図の一角には星をかたどったマークがつけられており、ここに向かえ、という目印だということは自然と理解できた。


「詳しくは行ってみればわかるよ。じゃ、ワタシはこの辺で!」


 言うが先か、リディアは踵を返して雑踏に紛れ込んでしまう。

 ちょっと待って、と思わず手を伸ばすトーヤだったが、リディアの姿を見つけることはできなかった。


「……行っちゃった。お別れの雰囲気じゃない」

「だなぁ……まぁ、湿っぽい別れはあの人も好きじゃないだろうし、こんな別れ方でも良いと思うな。エヴァ姉と一緒で、リディアさんとももう会えないわけじゃないんだしさ」

「ん、確かに。……じゃあトーヤ、この地図の場所、行ってみたい」

「そうだな。贈り物ってのも気になるし、せっかくの贈り物を受け取らないのは、用意してくれたリディアさんに失礼だからな」


 お互いに示し合わせてから、二人は一路、地図が示す場所を目指して歩き始めた。







「やぁ、いらっしゃい。君たちがトーヤ君にアスセナ君だね? 歓迎させてもらうよ」


 リディアに渡された地図に従ってたどり着いた先。町の一角に構えられた「店舗」の前で、トーヤたちは壮年の男性からそう告げられ、店の中へと案内される。

 扉を開ければ、そこには衣服や鎧といった、多種多様な冒険者装束が所狭しと並ぶ光景が広がっていた。


「ここは?」

「見ての通り、冒険者用の装備を仕立てる店だよ。私はここのオーナーを務めていてね。以後お見知り置きを」


 優雅に一礼するオーナーを名乗る男性に合わせて、トーヤ達も会釈する。


「えっと、俺たちリディアさんにここに行けって言われてやってきたんですけども」

「ああ、本人から話は聞いているよ。将来有望な子たちをもてなしてやってくれと、妙に浮ついた顔をしていたよ」


 リディアのことを思い出してか、オーナーが忍び笑いを漏らす。将来有望、という評価はともかくとして、彼に話をしているリディアの様がありありと想像できて、トーヤ達も思わず苦笑を漏らした。


「さて、それじゃあさっそく調整をしようか。二人とも、奥に来てくれたまえ」

「調整?」

「ああ。冒険者のための装備を仕立てる店な以上、やることと言えば決まっているだろう?」

「……装備。服、くれる?」

「その通り。あぁ、心配せずとも、製作のための代金は、リディアから余るほど貰っているからね。彼女の余計なおせっかいに付き合うくらいのつもりで受け取ってやってくれたまえ」

「……そういうことなら、じゃあ。行ってみよう、セナ」

「ん。リディアの贈り物、楽しみ」


 顔を見合わせた二人は、それぞれ別の店員に案内され、衣装合わせのために試着室へと入っていった。






「――はい、これで寸法合わせは完了です。お疲れ様でした」


 そんな店員の声に促されて、トーヤは試着室を出て、目前にあった鏡へと目を通す。


 トーヤに用意された衣装は、動きやすさとある程度の防御力を両立した布鎧(クロースメイル)だ。

 魔物の攻撃や、ある程度の魔力的な攻撃にも耐性を持つ布で織られた簡素な上下に、丈夫な川のうーつと、滑り止めとして用意された指ぬき(フィンガレス)グローブ。その上からは、防御力に比重を置いた頑丈な素材製の上着を羽織っており、そこに多様なアイテムを取り付けられるベルトを通して、様々な環境での行動に適応できる旅装束としてあつらえられていた。


「おぉ、戻ったか。どうかね、着心地の方は」

「凄く良いです。しっかり頑丈なのに、すごく動きやすくて……こんな良い物をありがとうございます」


 オーナーに礼を述べつつ、軽く体を動かして可動域を確認していると、すぐ近くにあったもう一つの試着室――アスセナが入っていった部屋の扉が開く。


 扉の奥から出てきたアスセナを見て、トーヤは思わず「おぉ……」という唸り声を漏らした。


 アスセナに用意された衣装は、以前エヴァに選んでもらったものとよく似た、ワンピーススタイルの冒険者装束だった。

 柔らかく翻るワンピースの上から厚手のボレロを羽織り、足元にはトーヤの物と同じ素材を使っていると思しき、厚底のブーツ。やや控えめにあしらわれた胸元のリボンも相まって、旅に適した構造を持ちながらも、可憐で優雅な印象を与えるその衣装は、アスセナにこれ以上ないほど似合っていた。


「うむ、そちらも問題ないようだね。着心地の方は大丈夫かな?」

「ん、大丈夫。……分厚くて、ひらひらしてるけど、ぜんぜん動きにくくない。ふしぎ」


 自分の全身をきょろきょろと見渡しながら、アスセナが意外そうな表情を見せる。


「そうかそうか。君はアグレッシブな戦いをすると聞いたから、動きやすさに比重を置いた装いにしたのだが……その分だと、気に入ってくれたようだね」

「ん、すごく気に入った。オーナー、ありがとう」

「礼には及ばないよ。私は仕事をこなしただけだからね」


 オーナーへ謝礼を伝えたアスセナは、トーヤの方へと歩いてくる。


「トーヤ、どう? 私、強そうになった?」

「強そう……かどうかはわからないけど、すごく似合ってる。まぁ、どっちかって言ったら可愛いって言う方が先に来るかもだけど」

「かわいい……ん、それでも良い。嬉しい」


 中身は違えど褒め言葉には違いなかったようで、アスセナは上機嫌そうにくるくるとその場でターンする。ワンピースの裾を軽やかに花開かせる様子に微笑ましいものを感じながら、トーヤは改めてオーナーへと向き直った。


「何から何まで、ありがとうございます。この服、大事に使わせてもらいますね」

「あぁ、そうしてくれると嬉しいよ。君たちがその服で、華々しく活躍してくれることを期待しているよ」

「はい、必ず!」


 にこやかに笑うオーナーにもう一度一礼してから、トーヤとアスセナは連れ立って店を後にして行った。

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