表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
エピローグ 旅立ちの序曲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/34

第29話 目指す道に向けて

 一陣の風が、草原を駆け抜ける。

 青々と茂る草を撫で、遠い山の向こうまで吹き抜けていく。


「――はああぁぁッ!!」


 そんな、さわやかな風が吹きすさぶ平原の片隅で、一人の少年――トーヤが、力強く雄叫びを上げた。


 黒髪を風に揺らしながら、トーヤはその手に握りしめた愛剣を、袈裟懸けに一閃。

 繰り出された鈍色の剣戟は、彼の眼前に居た、白い体躯の魔獣に吸い込まれ、快音を響かせた。


「ブモオォォォ!?」


 トーヤの眼前で、白い魔獣――乳白色の体色と、頭部から伸びる鋭利な角が特徴的なウシ型の魔獣「ラッシュオックス」が、切り付けられた痛みに耐え兼ね、悲鳴を上げる。

 そのまま、半狂乱になりながら逃走を図るラッシュオックスだったが、直後、トーヤの背後から、一つの人影が躍り出た。


「トーヤ、後は私が」


 眩い光を糸として編んだような、眩い銀白色の髪をなびかせ、ラッシュオックスを追撃する少女、ことアスセナは、その手に携えた槍をくるりと持ち替える。

 そのまま後方へ回した腕を、ぎりりと弓のように引き絞り――


「やッ!!」


 一拍の間を置いて、掌中の槍を鋭く投擲した。


 風を切って飛翔した槍は、地面と水平の軌道を描いて、ラッシュオックスへと着弾。

 ズドンッ! という鈍い音を響かせて、魔獣のどてっぱらに致命の一撃を叩き込んだ。


「!!!」


 音もなく悲鳴を上げて、ラッシュオックスがその場に倒れ伏す。

 僅かにもがき、それきり動かなくなったのを確認して、トーヤはふぅと細く息を吐き出した。


「お疲れ、セナ。今の槍投げ、良い感じだったぞ」

「ん、ありがと。トーヤも、お疲れさま」


 並び立った二人は、ぱちんと軽くハイタッチを交わす。


「この調子だと、お互いに身体も大丈夫そうだな」

「ん、私はもう大丈夫。竜は、もともと傷が早く治るから。……トーヤも、もう平気?」

「あぁ、問題なしだ。むしろ、元気すぎて自分でも不思議なくらいさ。なんか、魔力と一緒にセナの生命力まで分けてもらったような気分だよ」

「なら、よかった」


 いくらかの雑談を交わして、二人はお互いの顔を見合わせて、小さく笑いあう。

 それから、二人はエレヴィアの町へと戻るため、討伐したラッシュオックスの解体に取り掛かった。







 トーヤとアスセナが赤のほこらを攻略してから、五日の時が過ぎていた。


 その間、2人は激選で疲弊した心身を癒すために静養を取っていた。そうして今日、再び万全のコンディションが整ったことで、肩慣らしと金策をかねて、2人は魔獣討伐の依頼を遂行。標的であったラッシュオックスの討伐を無事成功させたことで、完全復活を確信するに至るのであった。




「トーヤ、今日はこれからどうするの? まだ、日は高いけど」


 換金を終え、冒険者組合の支部を後にしたところで、アスセナがトーヤに問いかける。


「とりあえず、まずはエヴァ姉に挨拶かな。向こうも近々この町を出るって言ってたし、行くなら早い方が良いと思ってさ」

「ん、異論なし」


 次の行き先を決めた二人は、一路町の外れにある露店区画へと足を運ぼうと踵を返し――



「あれ、トーヤ? 奇遇だね、こんなところで」


 通りの一角に建つ店から出てきた、目的の人物――ことエヴァとばったり鉢合わせることになった。


「エヴァ姉! ……もしかして、材料の買い出し?」

「そうだよー。セナちゃんも、久しぶりだね」

「ん、久しぶり、エヴァ」


 思わぬ再開に双方驚きつつも、三人は互いに会釈を交わす。


「そういうそっちは、依頼帰り?」

「そうそう。で、今からエヴァ姉の店に寄ろうと思ってたんだ」

「っていうと、もしかして依頼かな? 今日は仕事も入ってないから、修理や改造なら喜んで請け負うよ」

「あぁ、えっと。それもあるんだけど、色々と話したいこともあるからさ」

「ふぅん? ま、とにかく積もる話は店で聞かせてもらおうかな。一緒に行こうよ」


 やや腑に落ちていない様子ながらも、いつも通りの快活な笑みを見せる知己にちょっとした安堵を浮かべながら、トーヤはアスセナを連れて、改めてエヴァの店へと向かっていった。






「さて、じゃあ仕事ついでに話を聞こうかな。2人とも、武器ちょーだい」


 エヴァの露店に到着すると、店主は抱えていた買い物袋の中身を片付け、すぐさまトーヤたちの前に戻ってくる。

 促されるまま剣と槍を差し出せば、流れるように検品し、てきぱきとメンテナンスの準備を進めていった。


「……エヴァ、忙しそう。話しても、大丈夫?」

「あぁ。エヴァ姉は仕事しながらでもしっかり話が聞けるから、大丈夫だよ」


 邪魔になることを懸念するアスセナだったが、トーヤからすればいつもの光景だ。特に気をかける必要はないだろうと考え、トーヤはひとつ咳払いを挟んでから口を開いた。


「まぁ、話って言っても大したことじゃないんだけどさ。近いうちにこの町を出て、別の町に行くことになると思うから、挨拶しとこうと思ってさ」

「ああ、そういうことか。んで、次はどこに行くの?」

「まだ大雑把にしか決めてないけど、当面の目的地はアルナムってところになると思うかな。そこにある施設……どっちかって言ったら遺跡って言うべきかもだけど、そこに用事があるんだ」

「なるほどね。じゃあ、アタシとは別の方向に行くわけだ」


 得心した様子のエヴァは、かすかに寂しげな表情を見せる。


「いつぶりだっけ? トーヤと別行動になるのは。かわいい弟分が居ないと寂しくなりそうだなぁ」

「一緒に行動しはじめたのは、俺が冒険者を始めてちょっとしたあたりだったから……だいたい半年ぶりくらいになるのかな。武器に関してはずっとエヴァ姉の腕に頼ってたから、自力で何とかできるかちょっと不安かも」

「アタシが教えた通りにやれば大丈夫だよ。……というか、困ったならそれこそ町の鍛冶屋さんに頼めばいいじゃん。鍛冶屋さんはウチだけじゃないんだよ?」

「あ、それもそうか。エヴァ姉のところ以外ロクに利用してなかったから忘れてた」


 うっかりを恥じるトーヤを見て、エヴァがいつも通りの調査で朗らかに笑い飛ばす。

 と、頬を掻くトーヤの服の裾が、小さく引っ張られる。顔を向けば、2人の会話を傍聴していたアスセナが、不思議そうな顔をしていた。


「トーヤ。エヴァはどうして驚かないの? この町でお別れになるのに」


 アスセナの言う通り、側から聞けば、トーヤとエヴァの会話は、とても行き先を違える者たちの会話には聞こえないことだろう。長らく道を共にしてきて、その上で別々の地に旅立つというのだから、その疑問はなおさらなはずだ。


「それはね、セナちゃん。どこかでまた会えるからだよ」


 トーヤが答えるよりも早く、エヴァがにこりと笑う。


「アタシもトーヤも、流れ者として色々な場所を旅する人間だからね。今この地で別れたとしても、旅を続けていれば、別の場所、別の町でもう一度会うなんてことも、珍しくはないんだよ」

「ん、それは、わかる。……でも、この広い世界で、また会える可能性は、すごく低いはず」

「まぁ、たしかにね。この世界はとっても広いし、アタシたちの旅の行き先が交わることなんて、滅多にないかもしれない。――でもね、セナちゃん。同じ空の下にいる限り、二度と会えない、なんてことはないんだよ」


 そう諭されると、アスセナはわずかばかり目を見開いて、それから得心したように小さく首肯する。

 アスセナの反応を見たエヴァは、満足そうに目を細め、空けた手でアスセナの頭をくしゃりと撫でた。


「ありがとね、心配してくれて」

「ん……大丈夫。私こそ、ありがと」


 言葉は少なかったが、2人の間でお互いの気持ちはしっかりと通じたらしい。やや蚊帳の外に置かれた感はあったが、アスセナの心配事が減ったであろうことを感じて、トーヤもわずかばかり胸をなでおろした。


「まあともかく、そういうことなら、いつも以上に万全のメンテを施しておこうかな。アルナムっていうとそこそこ長旅になると思うし、この際だからへたった部分は徹底的に直してあげようじゃない」

「うん、助かるよエヴァ姉。……となると、一回出直した方が良いかな?」

「そうだねー、夕方までには終わらせるつもりだから、その時にまた受け取りに来てよ」

「了解。じゃあセナ、一度離れようか」

「ん。なら、リディアにも会いに行く」


 アスセナの口から出た名前は、まさしくトーヤも出そうと思っていたものだ。この街を離れるなら、くだんの人物にも挨拶しないわけにはいかないだろう。


「そうしようか。じゃあエヴァ姉、また後で」

「あいよ。二人ともまたね〜」


 ひらりと手を振るエヴァに見送られながら、トーヤたちはエヴァの店を後にしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ