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魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
第4章 願う未来への第一歩

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第28話 深まりゆく

2019/03/02…サブタイトルを変更し、本編に一部改稿を行いました。

 内容の変更はありませんので、ご理解とご了承をお願いします。

 それから、トーヤたちは洞穴を脱し、エレヴィアの町へと無事に帰りつくことができた。

 久しぶりの空を拝んだ頃にはすっかり日も暮れており、道中で魔獣に襲われる可能性も懸念されたが、幸いにもそういったアクシデントは起きなかった。もっとも、同伴していたリディアが「もしも襲われても守ってあげるからね」と宣言しており、2人としては紫ランクの実力の片鱗を見ることが叶わなかったので、その点においては不幸だったのかもしれない……という本音は、そっと心のうちに閉まっておくことにした。



 その後、リディアから踏破祝いとしてご馳走すると提案されたのだが、ギリギリの戦いをくぐり抜けてきた2人は、極度の疲労状態だった。心身が早急な休息を求めている状態で、とても食事という気分にはなれなかったため、やや心苦しいながらも、リディアの提案は断っていた。

 もっとも、リディア本人もある程度は事情を察しており、断られることも算段のうちだったらしい。拗れるような事態にならなかったことに安堵しつつ、2人は宿へと戻っていくのだった。






「はぁっ……やっと帰ってこれたぁ」


 宿の一室に帰り着いたトーヤは、着替えもそこそこにベッドへ撃沈する。


「ん。トーヤ、お疲れ様。……私も、疲れた」


 隣では、アスセナも鉄面皮に色濃い疲労の色を滲ませながら、ベッドに力なく腰を落としている。お互いにほうほうの体なのがどこかおかしくて、2人はベッドの上で顔を見合わせ、どちらからともなく笑いあった。



「……なぁ、セナ。ちょっと、独り言に付き合ってくれるか?」


 やがて、いくらか時間が経った頃、トーヤがポツリと漏らす。

 アスセナの方をちらりと見やれば、特に言葉はなかったものの、小さく首肯しているのが見て取れた。


「ここだけの話、なんだけどさ。……ずっと、不安だったんだ」

「不安?」

「ああ。ストレングスベア(あんなやつ)を倒せるのか、自分なんかがほこらの踏破なんてできるのか、本当に〈最強〉なんて目指せるのか……今日の今になるまで、ずっと悩んでたんだ」


 苦笑まじりに、偽りのない本音を吐露する。


「たしかに、俺には父さんと母さんから受け継いだ夢があるし、それを叶えたいって思う気持ちも本物だ。……でも、そうやって強く願うことと、俺自身のポテンシャルは別の問題であって。だから、夢を叶えたいって気持ちとは別に、心のどこかではずっと『俺にできるのか』っていう考えがあったんだ」


 そこで一度言葉を切り、「けど」と一呼吸置く。


「セナと一緒に赤のほこらに挑んで、戦って、勝って。そうして初めて、自信が付いた気がするんだ」

「それは、夢を叶えられるかも、っていう自信?」

「うん。――まぁぶっちゃけた話、俺一人の力は大したことじゃない。だけど、それはあくまでも俺が一人だった場合の話だ」

「ん。私も、いっしょにいる」

「そういうことだ。前にセナが言ってくれた通り。『一人でできないなら、2人で乗り越えればいい』。今日のこの戦いで、それを改めて実感できたような、そんな気がするんだ」


 ぎゅっと拳を握り、小さく笑う。手の内に生まれた不可視の、しかし確かな手ごたえとも呼べる何かを逃さないようにしながら、トーヤは再び口を開いた。


「だから、さ。こんなタイミングで言うのも変かもしれないけど――俺は、これからもセナと一緒に強くなっていきたいって、そう思ってる。だから、また改めて、よろしくな」


 そんな言葉と共に、アスセナへ向けて、手を差し伸べる。

 と、それをまるで見越していたかのように、アスセナの手がトーヤの手に重ねられる。顔を見やれば、アスセナはやや眉尻を下げ、苦笑にも似た表情を湛えていた。


「きっと、それは私の台詞、だと思う」

「って、いうと?」


 言葉の意味を図りかねて首を傾げれば、アスセナがぽつりと続きを漏らす。


「あの時、ストレングスベアと戦ってた時。私は、焦ってた。あの敵を倒せば強くなれる、目指してた目的に近づけるような気がする。そう思って、早く倒さなきゃって、焦って。そうして、トーヤの足を引っ張った」


 重ね合わせた手を離し、アスセナは自分の手を、自身の身体にそっと這わせる。場所から類推すれば、そこがストレングスベアとの戦いで負傷した場所であろうことは、すぐに察しがついた。


「……きっと私は、自分ならやれるって考えてた。いろいろなことを学べば、トーヤなんていなくたってできる。心のどこかで、そう考えてたんだと思う」


 次いでアスセナの口を吐いて出たのは、意外な一言だった。


「あ、えっと。トーヤのことを信頼してないわけじゃない。その、これはそういう意味じゃなくって」

「あぁ、うん。言ってることは何となくわかるから大丈夫だよ」


 その言葉が本心からのものではない、ということを懸命に伝えようとするアスセナを宥め、続きを促す。言わんとすることが伝わったことに安堵の表情を見せてから、アスセナは再びとつとつと語り始めた。


「きっと、私は勘違いしてた。トーヤと一緒に取ってきた勝ちを、自分の物だって思い込んでた。……でも、あの時の戦いで、それが間違いだってことが、痛いくらいに分かった」


 どこか無念さを孕んだような語調で語るアスセナは、しかし言葉とは裏腹に、落胆したようなそぶりをみせることはない。それはどちらかといえば、決意を新たにしたような、そんな口ぶりだった。


「私は、一人の力で強くなることはできない。私がもっと強くなるには、きっと、トーヤが居てくれないとダメ、なんだと思う」


 その言葉と共に、どこか遠くを見るようだった瞳が、再びトーヤを捉える。


「だから、さっきのトーヤの言葉は、私の言葉。――トーヤさえよければ、これからも、一緒に居させてほしい」


 先刻のトーヤが告げた言葉をそっくりそのままに繰り返して、アスセナは口を閉じた。


「……はは、なんだ。考えてることはどっちもおんなじだったんだな」

「ん。一緒に学んで、一緒に強くなる。その思いは、ずっと変わってない」

「あぁ、俺も同じだ。――たぶん、それが俺たちらしいやり方なんだろうな」


 初めて出会った夜、アスセナが語っていた言葉を改めて口にして、また二人は笑いあう。


「そういうことなら、俺からもよろしく頼むよ。――俺もきっと、一人で強くなることはできない。だからセナと一緒に強くなっていきたいって、そう思うよ」

「ん、私も。――じゃあ、改めて、よろしく、トーヤ」

「あぁ、こちらこそ」


 そんな会話を交わした直後、不意にトーヤの口から大あくびが漏れる。


「そろそろ寝ようか。今日はお疲れ、セナ」

「ん……」


 照明を落とそうとしたトーヤはふと、何かを逡巡しているようなそぶりを見せるアスセナに気が付いた。


「どした、セナ?」

「あ、えっと。……ん、なんでもない」


 誤魔化すようにかぶりを振るアスセナだったが、その様子はどう見ても、なにか言いたいことがある者のそれだ。それほどに明確な意思表示に、気づくなという方が無理な話だった。


「なんでもなくないだろ。……まぁ、言いたくないことなら無理に聞かないけどさ」

「ん、ちがうの。……ちょっと、お願いがあった、の」

「お願い?」


 おうむ返しに聞き返すと、普段は実直な物言いをするアスセナが、珍しく言いよどむ。

 追及するのも野暮だろうと考えて、アスセナから切り出してくるのを待つこと、おおよそ十数秒後。


「――えっと。……私と、一緒に寝てほしい」

「…………へ?」


 紡ぎ出された一言に、今度はトーヤが唖然とした。


「……そ、それは、どういう?」

「ん……なんとなく。今日はいろいろあったから、眠れる気がしない。それで、トーヤの近くにいると、よく眠れる。だから、今日だけでいいから」

「きょ、今日だけって言われても……え、えぇー……??」


 返答に窮して絶句するトーヤは、内心で大混乱の最中にあった。


(いや、いやいやいや一緒に寝るのはヤバいだろ! 恋人とか夫婦でもないのに同じベッドってのはあれだ、論理的に問題ある! 前回のあれはセナが潜り込んできたから不可抗力として、っていうかこのベッドそもそも一人用だし狭いし寝れないって俺が! 一緒に入ったら絶対ダメなことになる!! ……でも、それでセナがよく眠れるっていうなら協力してあげたいし、さっきあんなこと言った手前断るのもちょっと……でもなぁあぁ……!!!)


 まとまらない思考(主に自分の保身に関するもの)に翻弄され、内心でトーヤは頭を抱える。

 そんなトーヤの葛藤とは裏腹に、当のアスセナは申し訳なさそうな表情で、トーヤのことを見つめていた。


「……やっぱり、だめ?」

「ぬ……っぐ…………」


 不可視で、なんの圧力もない、しかし強烈な一撃が、トーヤの心に突き刺さる。

 なおも逡巡するトーヤだったが、どうやら逃げ場がないらしいことを察して、観念したかのような――あるいは覚悟を決めたかのような、大きなため息をついた。


「……わかっ、た。いいよ、一緒に寝よう」

「! ありがと、トーヤ!!」


 しょんぼりとした表情が一転、ぱっと晴れやかな表情を浮かべたアスセナを見て、トーヤは微妙な心境のまま苦笑を漏らす。


(……どうかさっさと眠りに就けますように……)


 無邪気で愛ラシイ笑みを浮かべる少女とは裏腹に、トーヤの心境は色んな意味で晴れなかった。





***






「――なるほど。順調に戦ってたみたいだね」


 オレンジ色に燃えるランプの光だけを光源とする、手広い部屋のソファの上。

 ゆったりと背もたれに身体を預け、手元の金属板に視線を落とす人影は、ひとりごちりながら、愉快そうに笑みを浮かべていた。


 人影が手にする板切れの上には、まるで額に収められた写真がひとりでに動いているかのような、不思議な光景が映し出されている。そこに映り込むのは、大きな熊型の魔獣――ストレングスベアと、二人の人影――トーヤとアスセナがぶつかり合う、赤のほこら最奥部での戦いの一部始終だった。


 やがて、ストレングスベアの最大級の一撃が放たれ、アスセナが倒れる。

 そうして、倒れたアスセナと会話したトーヤが再び立ち上がったところで、人影は少し驚いたように眉を吊り上げた。


「ん……今のは、魔力譲渡? へぇ、セナちゃんはずいぶん器用なことができるんだね」


 そのまま、トーヤがストレングスベアと相対する。

 ギリギリの状態で攻撃をかわし続け、猛然と食らいついていたトーヤが、やがてストレングスベアの肩に突き刺さった槍を掴み、電撃魔法を叩き込む。それを見て、人影は口元の笑みをますます深め、愉快そうに膝を叩いた。


「あはは、やるね。一人で背後に回り込んで、あげく武器として使えなくなった槍まで利用する。それでこそ、ワタシが見込んだ――」


 そこで、人影は言葉を詰まらせる。

 板切れの中で動くトーヤが、ストレングスベアの喉笛を切り裂いたその光景を見て、人影は目を見開いた。


「……まさか」


 驚く人影が金属板に触れると、写真の中の時が巻き戻って、トーヤが大熊にとどめを刺す寸前へと回帰する。

 そのまま、何度か同じように写真を巻き戻しては、トーヤがとどめを刺す一連の動きを観察して――


「見つけた」


 不気味なほど釣り上がった口角もそのままに、一言を漏らした。


「……は、ははは。まさか、まさかだ。こうも都合よく見つけられるなんて。自分の慧眼を本物だと疑いたくなっちゃうじゃないか」


 そのままクツクツと笑い、そして目元を抑えて声も出さずに笑い続ける。

 やがて、一通り笑い終えた人影は、乱れてしまったダークブラウンのサイドテールを、やや雑に整えた。


「感謝するよ、トーヤくん、これで、やっとワタシの野望に一歩近づくことができる」


 音もなくソファを立ち、窓際へと歩みよる。夜の帳に包まれたエレヴィアの町並み、その一点――トーヤ達が宿泊している宿の方面を見やって。


「ま、なんにせよ、まだまだワタシの計画に組み込むには遠い。だから、キミの成長を楽しみにしているよ。トーヤ・ストラヴィアくん」


 人影――リディア・エストレムは、静かに笑っていた。

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