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魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
第4章 願う未来への第一歩

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第23話 試練の迷宮

 視界を包む光が収まると、トーヤ達の目に映る光景は一変していた。

 先ほどまで見ていた人工の壁面と、同じ作りの通路。光を放つ水晶のような光源が等間隔に配された道は、先の方で枝分かれしているのが見える。

 この場所こそ、リディアが教えてくれた「修練場」なのだろうと、トーヤはあたりをつけた。


「……あのライト、魔力も使わずに光ってる。不思議」


 トーヤの隣に立つアスセナが、興味深そうにそう呟く。


「さすがは古代文明の遺跡、ってところかな。……さてと」


 同調しながら、トーヤは背に吊った愛剣を、静かに抜刀。小さく構えながら、通路の向こうへと注意を向ける。


「セナ。ここから先、どこで何が出てくるかわからない。なるべく警戒しながら進むぞ」

「ん、わかった」


 トーヤの言葉に頷いたアスセナも、その掌中に長槍を携えなおす。

 ここ数日間、アスセナの手によって幾度も振るわれた槍には、エヴァから譲り受けた時に比べて、いくぶんかの傷や摩耗の後が刻まれている。それは紛れもなく、彼女がこの槍を得物とし、習熟を積んできた証でもあった。


「セナも、だいぶそれが馴染んできたな」

「ん。たくさん練習して、使えるようになってきた。その成果を、ここで見せる」

「だな。じゃあ、いっちょやるとするか!」

「おー!」


 共に拳を軽く突き上げると、トーヤとアスセナは、慎重に、しかし確実に、歩みを進めていった。





「やぁっ!!」


 アスセナが携える槍が、魔力を纏い、真っ直ぐに突き込まれる。

 相対するのは、暗い赤で染め抜かれた体毛が特徴的な、狼型の魔物「ブラッドウルフ」。鋭い牙を備え、獰猛な性格で旅人たちを襲うことで有名なその魔物が、トーヤたちの行く手を阻んでいた。

 合計で5匹ほど出現したそれらのうち、2匹は既に仕留められている。しかし、おおよそ半数を減らされたにも関わらず、ブラッドウルフたちは怯むそぶりすら見せず、変わらぬ俊敏さで2人に攻撃を仕掛け続けていた。


 鋭く突き出される槍を、するりと回避したブラッドウルフを追い、魔力の軌跡をたなびかせる穂先が、力任せに空間を薙ぐ。

 野生の感か、済んでのところでブラッドウルフが身を翻す――その直前、アスセナの後方から飛来した電撃により、一瞬だがブラッドウルフの動きが停滞。その首元に、深々と槍の穂先が叩き込まれ、3匹目が沈黙した。


「みっつ――!」


 小さくカウントを呟いたアスセナの背を視界に捉えつつ、トーヤは自身に迫るブラッドウルフをいなす。アスセナ側で対処していた2匹は、今しがた両方とも沈黙。残るは、倒されたもう1匹を除く、トーヤを襲う2匹のみ。


「ガゥッ!!」


 獰猛さをにじませる鳴き声と共に、ブラッドウルフがあぎとを開き、飛びかかってくる。


「く、おっ!」


 対するトーヤは、腕にまとう形で展開した召氷魔法(フェリル)を、わざと噛ませることで防御。ガギンッ! と甲高い音を立て、氷の籠手に牙が食い込む。


「これでも――食らえッ!!」


 確認したトーヤは、すかさず召炎魔法(アータル)で火球を生成。がら空きとなったブラッドウルフの土手っ腹に叩き込み、爆炎と共に1匹を葬った。


「グルァッ!」

「ッ――」


 直後、トーヤの背後を取る形で、残る最後のブラッドウルフが奇襲をかけてくる。

 振り返ったトーヤの視界に映るのは、彼の体を噛みちぎらんと、大きく開かれたあぎと。間近に迫る牙は、流れることを許さず、トーヤへと突き刺さる――


 その寸前、横合いから叩き込まれた一撃が、ブラッドウルフを襲う。

 さながら烈風のように強烈で、しかしトーヤを傷つけないよう狙いすました刺突。それは、今まさにあぎとを閉じんとしたブラッドウルフの頭を吹き飛ばし、一撃のもとに沈黙させた。


「――いつつ。これで、全滅」


 突き出した「槍」を引き戻し、攻撃の主であるアスセナが、淡々と、しかしどこか達成感を滲ませる声で、最後のカウントを口にした。


「助かった。お疲れ、セナ」

「ん。トーヤも、おつかれさま」


 互いの健闘をたたえつつ、トーヤは懐から一枚の紙を引っ張りだす。ここまでに通ってきた道を記した「地図」に、現在地の情報を書き込みながら、トーヤは難しい表情を見せた。


「突破してきた階層は2つ。マップの埋まり具合から考えると、この階層の終わりも近いはずだ」

「ん……まだまだ、続く?」

「どうだろうな。そもそも、この迷宮がどのくらいの深さまで続いてるのかもわからない。最悪、どこか安全そうなところを探して、そこで野宿の可能性もあるな」


 赤のほこらの内部に広がる迷宮は、試練の地というだけあるのか、とても広大だ。全体の規模は今だに把握できておらず、どこまで続いているのか、あとどのくらい潜れば最深部にたどり着けるかも、未だわからずじまいだった。

 幸い、万全を期して準備してきたトーヤたちには、数日分に渡る野営の用意もある。魔物に襲われる危険はあるが、迷宮内部で夜を明かすことは、十分に可能だった。


「来た道を戻ることを考えても、滞在できるのは2日が限界かな。……ともかく、どのみち進んで行かなきゃ対策を練ることもできない。今はとりあえず、体力が続く限り進もうか」

「ん、わかった」


 出発の際、トーヤはちらりとアスセナの顔色を伺ってみるが、相変わらず硬い表情筋には、未だ疲れの色は見られない。トーヤの方もまだまだ余力はあるため、もうしばらくは探索を続けられるだろう。

 そう結論づけて、トーヤは再び、不思議な明かりが薄らと照らす通路を歩き始めた。



***



 それからしばらく、トーヤたちは迷宮をひたすらに攻略する。

 内部に配置された魔物たちは変わらず襲ってくるが、彼我の戦力差は限りなく小さく、油断さえしなければ、問題なく対処できるものが大半だった。


 また1つ階層を下り、複雑に入り組んだ迷宮を歩き、幾度目かの魔物の襲撃を退けたころ、トーヤたちの眼前に、下層へとつながる階段が姿を現わす。

 踏破してきた階層と合わせれば、次は5階層め。区切りのいい数字となったそこには、何かあるかもしれない。

 そう考え、ゆっくりと階段を下りていったトーヤたちの目の前に――



「……扉?」


 それまではなかった、大きな観音開きの扉が姿を現した。


 蝶番の様な装飾と、赤サビにも似た深い真紅。数時間にわたる挑戦の中、一度も登場しなかったそれは、迷宮内に配された照明の光に照らされるまま、不気味にその場に佇んでいた。


「大きい。今まで、こんなのはなかった」

「ああ。終着点か、それとも何かしらの中間地点みたいなものなのか。……どちらにせよ、初めての変化に変わりはない。万全の準備をしてから行こう」

「ん、わかった」


 周囲に襲ってくる魔物たちが居ないことを確認して、トーヤ達はその場で準備、という名の小休憩を取ることを決める。

 背負っていた荷物から2人分の水筒を取り出し、片方をアスセナに渡してから、中身をあおる。道中は襲撃に備え、常に気を張り詰めていたこともあって、喉はからからだった。


「ぷはぁっ……。セナ、そっちは疲れてないか?」

「ん、平気。少し休めば、すぐにでも行ける」

「はは、さすがだな。……一応、槍のメンテもしておこうか。使い手が大丈夫でも、武器が疲労してダメになったら、どうしようもないからな」

「わかった。お願い」


 アスセナから長槍を受け取ると、トーヤはざっくりと状態を確認して、即席のメンテナンスを施していく。

 専用の設備もないため、できることは限られているものの、トーヤには付き合いの長い知己から教わった、本職の知恵がある。汚れをぬぐい、打粉をかけ、目釘を調整。よどみのない動きで、アスセナの槍をできる限り万全の状態に仕上げてみせた。


「よし、と。応急処置だけど、とりあえず支障ないようにはしておいたぞ」

「ん、ありがと。……トーヤは、すごい。いろいろできる」

「まあ、小手先の技術だけは色々身に着けてきたからな」


 アスセナに槍を受け渡しながら、ぽりぽりと頬をかく。

 強くなる術が分からなかった在りし日のトーヤは、とにかくいろいろな技術を吸収することを思いついた。そこで得たものの数々が、今こうして確かな芽になっていることに、トーヤは密かな喜びを感じていた。




「さて、と。セナ、準備はいいか?」


 20分ほどかけ、ゆっくりと身体を休ませてから、トーヤが立ち上がる。


「ん、ばっちり。いつでも行ける」


 対面に座っていたアスセナも立ち上がり、小さな手でぐっと握りこぶしを作ってみせた。


「よし。……何があるかわからない。ここまで以上に、警戒は怠らないで行くぞ」

「わかった。がんばろ、トーヤ」

「あぁ。絶対にクリアしてやるぞ!」


 互いへと発破をかけてから、2人は並び立つ。

 眼前にそびえたつ観音開きの扉を協力して押し開け、トーヤ達は中へと突入した。




 扉の先にあったのは、広い空間。

 迷宮の通路と同じような意匠の壁と、幾本かの柱に支えられている空間は、ここまでの道のりで幾度も見てきた、水晶のようなライトで明るく照らされている。

 入り口から全容をざっくりと把握するだけでも、この空間が、全力で走り回ってもなんら支障がないだろうほどに大きいことは、容易に見て取ることができた。


「トーヤ、あれ」


 アスセナが指さした先――トーヤ達の踏み入ってきた扉の、丁度対面に位置する場所に目を向けると、そこには石造りの祭壇のようなものが鎮座している。

 そして、その祭壇の中央で、ライトの明かりを受けて、何かがきらりと輝いている。真紅の輝きを反射するそれこそが、リディアから聞いていた「証」なのだろう。


「取りに、行く?」

「いや、やめたほうがいい。こんなバカデカい空間を作っておいて、なにも仕掛けが施されてないほうがおかしいだろう」


 背に収めたままの愛剣の柄に手をかけつつ、トーヤは最大限に周囲を警戒する。

 5層にわたって続いた迷宮の最奥部に存在する、巨大な生物でも悠々と動き回れるであろうほどに広大な空間。ここで何も起こらないとは、到底考えづらかった。


《よくぞここまでたどり着いた、挑戦者よ》


 直後、どこからか声が響き渡る。

 低い男性の声にも聞こえるそれは、この迷宮に突入する前、ほこらの外で聞いたものと同じ声だった。


《これより、汝らに最後の試練を課す。汝らの全てを賭して、万難を排する力、此処に証明せよ――》


 虚空からの声が途切れると共に、証の祀られていた祭壇の手前の床面から、眩い光が放たれる。


「魔力の匂い。あそこから、何か来る」


 アスセナの言葉と共に、石造りの床に刻まれた魔法陣の中央で、何かがうごめく。

 光に阻まれ、詳細な外見まではわからないが、それでも、その躯体の大きさ――トーヤたちの数倍はあろうかという、山のような影は確認できた。


 そして、魔法陣が効果を失い、光が魔力の粒子として霧散する。

 光の奥から露わになったのは、隆々とした体躯を誇る、巨大な「熊」だった。


「〈ストレングスベア〉……こいつがこの迷宮の、最後の関門ってことか」


 そして、その巨大な熊は、トーヤの知識の中にある魔物と同じ外見をしていた。

 ストレングスベアと呼称されるその大熊型の魔物は、冒険者の間では「強力な魔物」として広く認知されている。丸太のような前足から繰り出される強烈な一撃と、その巨大に似合わない敏捷性に、数多くの冒険者を苦しめられてきたことで有名なのだ。


「トーヤ。あいつ、私達を狙ってる」

「だろうな。――さっきの声から察するに、コイツを倒すのが最後の試練なんだろう」


 このほこらが司るという、「万難を排する力」。それを証明するための相手として、ストレングスベアはこれ以上ないほどうってつけに思えた。


「やるぞ、セナ。コイツを倒して、この迷宮を攻略してやろう!」

「わかった!」


 立ちはだかるのは、赤のほこら最後の関門。

 それを下し、この迷宮を踏破するため、トーヤとアスセナは並び立ち、互いの得物を、音高く抜きはなった。

 本編中に登場する魔物の設定を纏めた記事を更新し、第2章分を追加しました。

 作者の活動報告にリンクを掲載しておりますので、興味がある方はぜひお読みください。

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