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第19話 謎の襲撃者

 燃える炎の明かりに照らされた洞穴の中を、トーヤとアスセナが疾駆する。

 彼らの見据えるその先には、ローブの下から一振りの剣を覗かせる、正体不明の襲撃者の姿。


「はあぁぁッ!!」


 襲撃者めがけて真っ直ぐに切り込んだトーヤは、咆哮と共に握りしめた剣を振るう。しかし、対する襲撃者はわずかに身をひねり、半歩ずれるだけで、迫る切っ先を紙一重で回避して見せた。

 構うものかと畳みかけるが、襲撃者の行動は変わらない。アトランダムに襲撃者を襲う剣戟はしかし、風に舞う木の葉を相手にするがごとく、空しく空を切り続けた。


「やっ!」


 なおも振るわれる剣を回避した襲撃者の横合いから、アスセナが長槍を突き込む。ちらり、とそちらを見やるそぶりを見せた襲撃者は、大きく後ろへ飛び退ることで、二つの攻撃から同時に逃れてみせた。


「……避けられた。あのヒト、強い」

「らしいな。峰打(みねう)ちなしの本気で振ってたってのに、まるで遊ばれてるみたいだ」


 再び並び立ちながら、トーヤ達は同時に構え直す。

 ほんのわずかな応酬だったが、トーヤは全力で攻撃を浴びせ続けた。それを事もなげに、しかも反撃のそぶりすら見せずに、全てを回避してのけられたとなれば、遊ばれているように感じるのも無理からぬことだった。


「――けど、それなら!」


 一息の間を置いて、トーヤは再び、襲撃者めがけて突撃する。


「――()(つらぬ)け、召氷魔法(フェリル)ッ!!」


 疾駆しながら、トーヤはその口で、魔法を紡ぐ。

 直後、トーヤの眼前で、淡く輝く魔力の光が集束。瞬く間に五つの氷の礫が生み出され高と思うと、襲撃者めがけて一斉に射出された。


「……召炎魔法(アータル)


 横への退路を潰すように放たれた五発の氷弾を前にして、なおも襲撃者は動じるそぶりを見せない。

 淡々と行使された炎の魔法は、まるでトーヤのそれを真似るかのように五つの矢じりとして射出。寸分の狂いもなくトーヤの氷弾へと叩き込まれ、そのことごとくを相殺して見せた。


(……完全におちょくられてるな)


 先刻、トーヤ達が隠れていた場所を吹き飛ばした召炎魔法の威力を鑑みれば、トーヤの繰り出した氷弾程度、意に介することもないはずだ。だというのに、件の襲撃者はわざわざトーヤの放った魔法に合わせた攻撃を、わざわざ相殺されるレベルでぶつけてきたのである。これをおちょくられていると取らずに、どう取るべきだろうか。


「――炎撃魔法(メル・アータル)

「ッ?!」


 その直後、ローブの隙間から覗いた手の内から、迸る火炎の奔流が吹き上がる。

 さながらドラゴンの放つ吐息(ブレス)のようなそれは、先刻の召炎魔法とはけた外れの規模をもって、トーヤ達めがけて殺到。アイコンタクトの暇もなく、2人は別々の方向に跳躍して、回避を余儀なくされた。


「――しまった、分断か!」


 その直後、トーヤは自身の犯した過ちに気付く。

 体勢を立て直して振り返れば、そこにあったのは赤々と燃える炎の壁。並び立っていたはずのアスセナの姿は、燃え盛る炎の向こう側へと消えてしまっていたのだ。


「セナ、大丈夫か!」

「平気! でも、さっきのヒト、トーヤの方に居る!!」


 炎の壁の向こうから届いた声で振り返れば、そこには件の襲撃者。

 静かに剣を構え直しながら、悠然と歩み寄ってるその姿を見て、トーヤは小さく毒づきつつ、再び構え直した。


「ちっ……上等だ!」


 どうやら件の襲撃者は、少女の風体を持つアスセナよりも、積極的に切りかかってきたトーヤの方を、先に始末しようと判断したらしい。

 アスセナに目立った危害が及んでいないことに安堵しつつも、トーヤは内心で歯噛みする。かの襲撃者を打ち負かせるビジョンが見えないことに、静かな焦燥感が募っていた。


(ただの剣術でも、ただの魔法でも太刀打ちはできない。――全力を出さなきゃ勝てない、か)


 先刻の応酬を脳裏で反芻して、トーヤは行動方針を切り替える。

 普通に攻撃したところで、かの襲撃者には及ばない。持てる全てをフルに活用しなければ、抗することは敵わないと、トーヤは判断した。


「――迸れ、召雷魔法(タラニス)ッ!!」

「!」


 電撃の魔法を放つと、そこで初めて襲撃者が大きく反応を見せる。

 襲撃者めがけて飛来した雷は、襲撃者が大きく身を反らしたことであえなく不発に終わった。


「らあぁぁっ!!」


 しかし、大きく回避したということは、とどのつまり相手の耐性が崩れているということ。そこを狙いすまして、トーヤは矢のように切り込んだ。

 相手の胴を薙ぐような形で、トーヤの剣が振り抜かれる。鋭く繰り出された一閃はしかし、襲撃者が体勢を崩した勢いを利用して後退したことで、あと一歩届かなかった。


召炎魔法(アータル)

「ッ、くそ!!」


 間髪入れずに撃ちこまれる反撃の炎魔法を、トーヤは後ろへ倒れ込むように回避する。炎弾が鼻先を掠めたのを感じた直後、トーヤの身体はゴロゴロと洞窟の地面を転がった。


(魔法を牽制にしても躱される――どうにかして不意を突くしかない!)


 そのままの勢いで距離を取り、体勢を立て直しながら、トーヤは思案する。

 ここまでの戦いで分かったのは、敵がトーヤを軽くしのぐ実力者であるということと、理由は不明ながら、かなり手心を加えた状態で戦っているということだ。後者に関しては、携えた剣を一度も振るっていないことから見ても、ほぼ確定と言っていいだろう。

 こと、回避能力に関しては、頭一つ抜けていると言っても良い。ここまでトーヤが繰り出した攻撃のことごとくが、まるで予測されているかのように回避されるのである。いくら苛烈な攻撃を仕掛けようと、その全てを看破されてしまっては意味がないのだ。


「――召炎魔法(アータル)

「ッ?!」


 思考の深みにはまった、その一瞬のスキを縫うように、襲撃者が再び炎を撃ち放つ。不意打ちで放たれた炎弾の軌道はかすかに下へと逸れ、トーヤの眼前すぐの地面を抉り――


 次の瞬間、巻き起こった強烈な爆発を至近で浴びたトーヤは、成すすべなく吹き飛ばされた。


「ぅ、ぐぁッ……!?」


 予想をはるかに上回る威力の余波(・・)を食らい、呻くトーヤは、そのまま壁際付近へと叩き付けられる。

 吹き飛ばされた場所の真下には、小さな池ほどに溜まった湧水。そこに落ちたトーヤは、バシャン! と盛大な水しぶきを上げた。


(なんて威力だ……! ただの召炎魔法、しかも当たったわけでもないのにここまで吹き飛ばされるなんて、聞いたことないぞ?!)


 上位の魔法でもなければ、長い溜めを経て繰り出されたわけでもない、ただの召炎魔法。それが、余波だけで軽々と人を吹き飛ばすほどの威力を発揮したことに、トーヤは驚愕する。

 もしあの破壊力を持つ炎弾を、まともに食らっていれば。そう考えると、トーヤの背筋には濡れ鼠にされた所為ではない、嫌な悪寒が走っていた。


「……」

「くっ……!」


 そうこう考えるうちに、襲撃者は一歩ずつ、確実に距離を詰め始める。

 先ほどの動きや、いましがたの魔法の威力から鑑みるに、トーヤを軽く叩きのめせるだけの実力を持つことは間違いない。それをしないということはつまり、相手は今だに本気を出していないらしい。


(……魔力はある。押し合いはしてないから、体力もそれほど削られてない。さて、どう出るか――)


 ゆっくりと近づく襲撃者が、いつ攻撃に転じてもいなせるように、トーヤは湧き水の池から脱し、濡れた身体もそのままに構え直す。


(正攻法でアイツの隙を突くのは難しい。かといって魔法で不意打ちしようにも、こっちとアイツじゃ地力が違い過ぎる。剣と魔法で同時攻撃を仕掛けようにも、一度失敗すれば無意味に手札をさらすだけだ)


 確実に追い詰められている状況を打開するべく、トーヤは策を巡らせる。


(地形を利用するにしても、ここには何もない。岩だけじゃ出来ることもたかが知れてるし、下手に崩せば崩落だ。後利用できるものと言ったら、この水たまりの水くらいしか――?)


 残された手札をどう使い、どう切り抜けるべきか。未だに燃える炎たちが火花を爆ぜさせる中、水滴が滴る音と、襲撃者の足音だけがこだまする広間の中、ふとトーヤはハッとした表情を作り――



「やぁッ!!」


 直後、涼やかで、しかし勇ましい叫びをこだまさせて、一つの影が飛来した。


「!」

「えっ――?」


 斜め後方という、完全に死角となった位置からの奇襲。それを受けた襲撃者は驚いたように振り向き、回転の勢いを利用して身をひねり、回避する。

 渾身の一撃をいなされ、風切り音を鳴らした「槍」はしかし、突きだされた状態のまま横なぎに振るわれ、さらなる追撃を放った。

 胴体付近を切り裂くように繰り出された一閃を、しかし襲撃者は大きく跳躍して回避。

 中空に身を躍らせ、無防備となった襲撃者めがけて更なる刺突が放たれるが、軽業のように身をひねる襲撃者はそのことごとくを回避し、悠然と着地して見せた。



「――――セナ!?」


 そこでようやく、襲撃者の影という障害がなくなったトーヤの視界に、飛来した影の正体が映り込む。

 襲撃者を襲撃したのは、今だトーヤの側で燃えている炎の壁に阻まれ、身動きが取れないはずの仲間――アスセナだった。


「……避けられた。不意を突いたはずなのに」


 まさかの乱入に思わず声を張り上げるトーヤをよそに、当のアスセナ本人はぽかんとした様子で、攻撃の悉くを躱されたことを驚く。が、すぐさま反撃が飛んでくるのを警戒して、背後に注意を払いつつ、トーヤの元へと駆け寄ってきた。


「セナ、どうしてここに?! あの炎の壁はどうしたんだ!?」

「ん、くぐってきた。……けっこう、熱かった」


 慌ててアスセナのもとに駆け寄ったトーヤは、ようやく彼女の状態に気づく。

 見れば、いつもの艶やかな白髪は、炎に巻かれて無残に煤けてボサボサ。一張羅であった白のワンピースも煤に(まみ)れてしまっており、露出していた腕には、赤らんだやけどの跡。頭からつま先まで、アスセナは全身くまなく見るも無残な有様になっていた。


「な、なんて無茶な……」

「だって、トーヤだけ戦うの、ずるい。強い相手なら、私も戦いたい」


 どうやらアスセナは、単に強敵と戦ってみたいという一心だけで、炎の中を突っ切ってくるという無茶をやらかしたらしい。驚きと呆れの入り混じった複雑な面持ちのトーヤをよそに、アスセナはぐしゃぐしゃになった髪を直そうともせず、襲撃者に向けて向き直った。


「待て待て待て、せめてそのヤケドを治しなさい」

「? 大丈夫。少し痛むけど、慣れるから」

「慣れるとかそういう問題じゃないっての……ったく、治癒魔法(パナケア)!」


 ……心なしか、襲撃者の方も呆れたようなそぶりを見せた気がしたのは、きっと気のせいだろう。

 かぶりを振って思い直すと、トーヤはアスセナの肩を掴んで引き留め、彼女に治癒の魔法を施した。


「ありがと」

「はい、どういたしまして。……今のセナの身体は人と同じなんだろ? 頼むから、無茶はしないでくれよ」

「ん……わかった。気を付ける」


 アスセナが無茶苦茶な行動をしたのはおそらく、元来ドラゴンであるアスセナにとって、炎というものがさしたる脅威ではない……というのが、大きな要因だろう。

 炎の中を潜り抜け、少なくない傷を負ったことは、きっとアスセナに人と竜の勝手の違いを実感させてくれるだろう……という期待を込めつつ釘を刺すと、アスセナは素直にそれを受け入れた。


「よろしい。……ま、ともかくはアイツだ」


 治療を終えたトーヤが向き直ると、そこには先ほどまでと同様、悠然とたたずむローブの襲撃者の姿。どうやら、律儀にトーヤ達が体勢を立て直すのを待っていたらしい。


「……正直、アイツの目的が分からない。けど、本気でかからないと倒せない相手なのも確かだ」

「ん。炎の隙間から見えてた。あのヒト、すごく強い」


 こちらの攻撃を全て躱して、しかし晒した隙を突くこともほとんどなく、目立った攻撃すら数えるほどしか行ってこない。傍から見ればまるで稽古でもつけているかのような、風貌に似合わない行動を繰り返す襲撃者の目的がつかめずに、トーヤは辟易としていた。



「――けど、アイツの隙を突く方法は考え着いた。セナ、俺の作戦通りに戦ってくれ」


 しかし、トーヤの口元には、不敵な笑みが浮かんでいる。ここまでの戦いを振り返ったことで、トーヤは打開策を見つけたのだ。


「ん、わかった。勝てる?」

「上手くいけば、だけどな。確率はそれほど高いわけじゃないけど、決まれば勝てる戦法だ」


 何かしらの思惑があるのか、襲撃者はいまだに本気を見せようとしていない。不可解極まりない状況ではあったが、それでもそれは立派な付け入る隙だ。ならば、利用しない手はないだろう。

 襲撃者を警戒しながら、トーヤはアスセナへと耳打ちする。ひとしきりの作戦プランを伝えると、アスセナは感心したような表情を見せた。


「……というわけだ。行けるか?」

「ん、大丈夫。……トーヤ、すごい。私だけなら、そんな戦法思いつかない」

「あはは……褒められて悪い気はしないけど、ぶっちゃけ小手先だけの狡い搦め手だからな。――まぁ、それはともかく」


 なんともむずがゆい賞賛に思わず自嘲しながら、トーヤは改めて構える。隣では、アスセナがパルチザンを構え直し、突撃の構えを取っていた。


「頼んだぞ、セナ!」

「わかった!」


 数拍ほどの後、トーヤの指示を受け、アスセナが地を蹴る。振りかぶった槍で鈍色の軌跡を描きながら、アスセナは真っ直ぐに襲撃者めがけて突撃した。


「氷よ集え――召氷魔法(フェリル)!!」


 その後ろで、トーヤが魔法の準備を始める。

 先刻落とされた湧水の池の淵でかがみこみ、池の中めがけて召氷魔法を発動。ぱきり、ぱきりと形成されていく氷は丸く形作られ、その内側に残された水を抱えたまま、いくつもの球となって完成していった。


「はっ!」


 一方のアスセナは、襲撃者めがけて握りしめたパルチザンを振り下ろす。

 少し大振りな軌跡は鋭くも単調であり、襲撃者にとっては非常に御しやすい攻撃だったらしい。ひらりひらりと躱して見せるが、それでもアスセナはさらに追いすがった。


「やっ!」


 続けて放たれた渾身の一突きを、襲撃者は大きく飛び退って回避する。トーヤ達が作戦を立てていることを承知の上で、しかしそれでもなお襲撃者は攻撃のそぶりを見せなかった。


「――そこだぁッ!!」


 直後、準備を完了させたトーヤの叫び声に呼応して、生み出されたいくつもの氷球が一斉に放たれる。

 たっぷりの水をその中に抱えた、人の頭ほどもある氷球は、トーヤの命令を受け、バラバラの軌道を描きながら、襲撃者めがけて殺到した。


「――炎撃魔法(メル・アータル)!」


 トーヤの目論見に気付いたのか、襲撃者は再び中位の炎魔法を行使する。トーヤ達を分断するために使った炎魔法を、今度はカーテンのように自身の周囲へと展開した。

 炎の壁に阻まれた氷球は、その熱で溶けると同時に、内包していた水を一気にぶちまける。バシャバシャと音を立てて降り注ぐ水は、展開された炎のカーテンを強く揺さぶるが、しかしその炎を完全に消すには至らなかった。


「まだまだっ!」


 その光景をしかと見据えながら、トーヤはさらに氷球を放つ。

 絶え間なく飛来する、水を抱えた氷の砲弾は、炎の壁にぶち当たるたびに水を振りまき、岩肌もむき出しな洞穴の床を水浸しにしながら、炎の勢いを弱めていく。やがて、撃ち放った何発かは、炎のカーテンを潜り抜け、襲撃者を襲うようになった。


「こっちも!」


 さらに、弱まった炎のカーテン越しに、アスセナの槍が襲撃者を襲う。

 防御のために展開していた炎のカーテンは小規模。内側に残された空間は恐らく少なく、アスセナの攻撃を回避するのが難しいのは、想像に難くなかった。


「――!」

「っ!」


 襲撃者も、同じことを思ったのだろう。防御のために展開していた炎を操り、アスセナへと向けた攻撃に変換して、襲撃者はその場から動くことなく攻撃を退けた。


「そこだッ!!」


 炎が拡散し、その密度を減らした隙を見計らい、トーヤがさらなる攻撃を仕掛ける。炎魔法対策を兼ねていた先ほどまでのものとは違い、新たに生み出された水入りの氷球は、明確に襲撃者を見計らう砲弾として撃ち放たれた。


「っ――召炎魔法(アータル)!」


 迫り来る氷塊を前にして、しかし襲撃者は動かず、炎の魔法で撃ち落としにかかる。投槍のような形状を象って生み出された、さながら炎の擲槍(てきそう)とでも言うべきそれは、放たれると同時にトーヤの氷塊へと着弾。爆発かと見紛うほどの水蒸気をまき散らして、氷塊を相殺して見せた。


(――よし、これで充分だ)


 自らの攻撃を無効化されたのを見て、しかしトーヤは口元だけで笑う。――トーヤ達の作戦を知ってか知らずか、相手がもくろみ通りに動いてくれたのだ。


「まだっ!」


 体勢を立て直し、再び襲撃者へと撃ちかかるアスセナの後姿を見ながら、トーヤは襲撃者の周囲を見渡して、頷く。


 ――果たしてその場に、トーヤの思い描いた通りの戦局が、整っていた。



「セナ、下がれ! 後は俺が!!」


 小さく頷いて飛び退るアスセナと入れ替わりに、トーヤが切り込む。間髪入れない追撃を前にした襲撃者はしかし、やはり華麗な足さばきを以って回避してみせた。


「はああぁぁッ!!」


 先ほどまでの攻撃でずぶ濡れになった地面を蹴り、水しぶきを蹴立てながら、トーヤは猛然と襲撃者めがけて撃ちかかる。対する襲撃者の対応は全く変わらず、揺れ踊る木の葉のように、ひらりひらりとトーヤの剣戟を躱し続けていた。


「ハァッ!!」

「!」


 構わず、トーヤはひと際強く剣を振るう。横なぎに撃ちこまれたそれはしかし、軽業師のように大きく飛び退った襲撃者を捉えることはなかった。


「――かかった!」

「!」


 ばしゃり、と水しぶきを上げて着地する襲撃者を見て、しかしトーヤは笑う。

 驚く襲撃者の視線が注目しているであろう先、振りかぶった左の手のひらにはすでに、魔法を放つための魔力が渦巻いていた。



「迸れ――召雷魔法(タラニス)!!」


 トーヤの口から、理を生み出す詠が紡がれる。

 直後、地面に向けて(・・・・・・)突き出された(・・・・・・)左腕から、眩い紫電が迸って。


 まるで蛇が地を這うかの如き挙動をもって、紫電が襲撃者を貫いた。


「な――ッあ――――!?」



 通常ならばまるであり得ない挙動で攻撃を食らったのと、電撃による体の芯を貫くダメージで、襲撃者が短く悲鳴を上げながら硬直する。


「終わりだぁぁぁッ!!」


 その隙を狙いすまし、トーヤは襲撃者めがけて、渾身の一撃を叩き込んだ。

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