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魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
第3章 最強への道標

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第17話 指名依頼

 冒険者組合に持ちこまれる依頼には、いくつかの種類が存在する。


 まず一つが、「常設依頼(じょうせついらい)」。これは、市民の生活に役立つような物資の調達や、田畑を荒らす害獣などの対処など、継続的な問題への対処を行うために、組合から張り出される依頼だ。

 報酬はさほど美味しいという物ではないが、名の通り、受けようと思えばいつでも受けられるため、これを稼ぎ頭としている冒険者も、少数だが存在しているらしい。


 二つ目は、「受注依頼(じゅちゅういらい)」。こちらは常設依頼とは対照的に、依頼人によって持ち込まれて初めて組合側で提供される依頼だ。

 依頼の数や内容は多岐にわたり、中には高ランクの冒険者にしか許されないような依頼もあるが、その分報酬にも期待ができるため、「冒険者の主な仕事」として広く認知されている。


 そして三つ目が、「指名依頼(しめいいらい)」。

 前者二つが「不特定の多数に対して提供される依頼」なのに対して、この指名依頼は文字通り「依頼人が特定の個人に対して発注する依頼」という形を取っている。

 それ故、舞い込む個人依頼の多くは「腕利きの冒険者に対して国が依頼したもの」であったり、あるいは「特定の条件を満たした者に対して特別に依頼されるもの」として処理される。


 ――要するに指名依頼とは、「特別な事情で発注された依頼」。

 そして、トーヤ達のような駆け出しに向けて発注されることはそうそうない、特別な仕事なのだ。



「ん、納得。……でも、どうして私たちに?」


 トーヤの説明を聞いて、アスセナは首をかしげる。問われたトーヤ当人も、できることと言えば首をひねることだけだった。


「それが、俺にもさっぱりなんだよ。もっと上のランクに居る冒険者だったり、お得意様を作ってる冒険者に舞い込んでくるならともかく、俺たちみたいなみそっかすに指名依頼が舞い込んでくるなんて、普通あり得ないからなぁ……」


 頭を掻きながら考えてみるが、脳みそをひねっても答えは出ない。そうこうしているうちに、トーヤとアスセナは受付嬢に指定された応接室の前に到着した。


「……ま、分からないことを下手に勘ぐっても仕方ない。詳しいことは、依頼人に聞くとしようか」

「ん、わかった」


 二人でそう示し合わせてから、トーヤは扉を数度ノックして扉を開く。

 古めかしい木と蝶番(ちょうつがい)の軋む音を立てて開かれた扉の先、座り心地の良さそうなソファに腰かける形で、一つの人影がトーヤ達を出迎えた。


「――おっ、来た来た。待ってたよ」


 そのまま立ち上がり、トーヤ達に向き直ったのは、女性。

 しっとりしたダークブラウンの髪をサイドテールに結いあげ、活動的な印象と落ち着いた佇まいを絶妙に同居させたその人物は、トーヤ達の顔を見て、どこか温かみのある微笑みを浮かべた。


「こんにちは。あなたが指名依頼を発注した人ですか?」

「うん、そうだよ。――っと、自己紹介が遅れたね。ワタシは「リディア・エストレム」。好きに呼んでおくれ」

「あ、ご丁寧にどうも。トーヤ・ストラヴィアです」

「私はアスセナ。よろしくおねがいします」


 お互いに自己紹介を交え、友好の握手を交わす。しなやかな指を持つ手のひらはとても滑らかで、まるで彼女の人柄を象徴するかのような、不思議なぬくもりが伝わってきた。


「はい、よろしく。……さて、さっそくで悪いんだけど、君たちに依頼をしたいんだ。話だけでもいいから、聞いてくれないかい?」

「わかりました。……どうして俺たちみたいな駆け出しに依頼を頼むのかも、できれば聞かせてもらえるとありがたいです」

「勿論。……まぁとりあえずは、依頼の概略から話そうか」


 ひとしきりの挨拶を終えてから、トーヤたちと依頼人、ことリディアは、連れ立ってソファへと腰かける。

 据え付けられたローテーブルの上に置かれたティーカップを手に取ったリディアは、少しだけその中身をあおってから、改めて口を開いた。


「君たちは、このエレヴィアの郊外にある、小さな洞穴を知ってるかい?」

「洞穴……いえ、知らないです」

「だろうね。なにせ、件の洞穴はただそこにあるだけの、何もないただの洞穴だ。この町の市民でさえ、その存在を認知している人間は半分も居ないだろうね」


 そう言って、リディアは苦笑する。トーヤが目線で続きを促そうとするその前に、リディアは先読みするかのように続きを口にした。


「で、ここからが本題。……実はね、その洞穴の内部に、魔物が住み着いたんだ」


 直後、リディアの瞳が引き締まり、真剣なまなざしに変わる。それに伴い、応接室に満ちる空気も変わったことを、トーヤは肌で感じ取ることができた。


「魔物、ですか?」

「そう、魔物だ。――発見したのはこのワタシ。数日前、ワタシは野暮用があって、その洞穴に足を踏み入れることになってね。その時偶然にも、魔物が巣を作っているのを確認することができたんだけど……あいにくワタシは、戦う力を持ってない。だから、もしかすると将来的な脅威になるかもしれないそれを、ワタシは見過ごして逃げることしかできなかったんだ」


 どこか沈痛な面持ちで、リディアは言葉を続ける。その表情はわずかに伏せられており、伺うことができなかった。


「ただ、魔物が住み着いたと言っても、所詮あの洞穴はただの洞穴であって、重要度はかなり低い。加えて、ワタシ個人の目撃証言だけが情報源だから、組合としてもどう判断を下すか、決めあぐねちゃったみたいなんだ」

「……まぁ、言わんとすることは分かります。でも、それがどうして俺たちに指名依頼を出すことになるですか?」


 浮かび上がった疑問をぶつけてみると、リディアは申し訳なさそうな困り笑いを返してくる。


「組合としては、不確定な情報で実力者を動かすわけにはいかないらしい。だから、「そこそこの実力がある新人に偵察を行ってもらおう」っていう話になったんだ。そこで白羽の矢が立ったのが――」

「俺たちだった、ってわけですね」


 要するに、リディアの話を総括すると、トーヤ達を情報の真偽を確かめるための先遣隊として、件の洞窟に派遣したい……ということらしい。リディアの言わんとすることを察すると、リディアもまた我が意を得たりと言わんばかりに頷いてみせた。


「そういうこと。……ただこの依頼は、さっきも言った通り重要度の高いものではないし、必ず君たちにやってもらいたいっていうわけでもない。それに、指名依頼っていう体裁を取っているけど、支払える報酬もあんまり多くはないんだ」

「最悪、俺たちが断っても大丈夫、ってことですね」

「そうだね。本音を言えば受けてほしいところではあるけど、依頼者として無理強いはできない。だから、君たち二人で考えたうえで、結論を出してほしいな」

「……なるほど、わかりました」


 リディアの言葉に、トーヤはひとまず納得の首肯を返す。そのまま彼が隣を見やると、丁度同じタイミングでアスセナもトーヤの顔に視線を向けていた。


「……というわけだ。セナはどうしたい?」

「ん。……魔物と戦える?」

「かもしれない、くらいの可能性はあるな。正確な情報を得るための依頼だから、現状では何とも言えないけど……リディアさんの話が本当なら、確率は高いと思うな」


 冒険者が家業を続けていくうえで大事にするべきなのは、ひとえに情報だ。

 魔物の強さを知っていれば、自分が渡り合えるかを知ることができるし、高値で売れる素材を知っていれば、路銀を稼ぎやすくなる。道を知っていれば安全な進路を取ることができるし、食べられるものを知っていれば飢えて倒れる確率も減る。

 だからこそ、冒険者は情報を欲するし、組合側でも情報を積極的に提供するのだ。今回トーヤ達に提供された依頼は、そんな情報を得るためのものなのである。


「ん……トーヤ。私、やってみたい。指名依頼を受けられるのは、とても貴重な機会、だから」


 しばらく考え込んだ後、アスセナは毅然とした面持ちで、トーヤにそう告げる。その言い分は至極もっともな物であり、トーヤの考えていたことと、全く同じものだった。


「それに、私は強くなりたい。強くなれるなら、私を脅かすものに抗う力になるなら、私は何でもやってみたい。――だから私は、この依頼、受けてみたい」


 そう締めくくられたアスセナの言葉に、数瞬呆気にとられた後、トーヤは思わず口元をゆがめ、小さな笑いをもらしてしまった。

 

「……どうして笑うの?」

「や、ごめん。バカにしてるとかそういうわけじゃないんだ。……セナはブレないなって、ちょっとうらやましく思っただけだよ」


 不思議そうに首をかしげるアスセナに、トーヤは慌てて弁明する。

 アスセナにとっては、冒険者としての仕事は「生きていくための仕事」ではなく、「強くなるための修行」なのだ。どんな依頼を任されたとしても、きっとその考えが揺らぐようなことはないのだろう。


「……そうだな、何ごともチャレンジだ。最強を目指すんなら、どんな状況にだって対応できるようにならないとな」 


 数拍を置いて、トーヤはアスセナの言葉に力強い首肯を返す。



「――リディアさん。その依頼、俺たちが引き受けます」


 そうして、改めて向き直ったトーヤは、依頼主であるリディアの目を見て、確たる意思を込めた声で、そう答えて見せた。

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