表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣の騎士と白竜姫〈ドラグニア〉 ~平凡な冒険者ですが、伝説の生物と一緒に「最強」を目指すことになりました~  作者: 矢代大介
第3章 最強への道標

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/34

第16話 一悶着な朝

「……う、ぅん…………」


 瞼越しに差し込む光で、トーヤは目を覚ます。

 視界を焼いた光の正体が、窓越しに部屋へ差し込む太陽の光だということを認識して、トーヤはゆっくりと意識を覚醒させていった。


(朝、か。起きないと……)


 そう考えつつも、トーヤは眩しい光を避けるように寝返りを打つ。

 起きないと、とはいっても、今日はさして急ぐ用事があるわけでもない。多少起きるのが遅くなったとしても、本日の活動に支障はきたさないだろう。

 どうせ、同室に泊まっている「彼女」も、まだ起きてはいない。ならば、もう少しゆっくりと眠っても、罰は当たらないはずだ。


 ――そう考えたトーヤの手が、掛け布団とは違う「何か」に触れた。


「んぉ……?」


 感触の正体を掴み損ねたトーヤは、触れたモノの正体を確かめようと、いくらか手を動かす。

 触ってみるたびに、それはどうにも好ましい感触を伝えて来る。すべすべで柔らかな手触りはとても不思議で魅力的な感触であり、トーヤは思いがけず不思議な安堵感と、いつまでも撫で繰り回して痛いような感覚を覚えていた。




「ん……」

「ッ?!」


 ――直後、至近距離から耳を震わせたごくか細い声で、トーヤの眠気が一瞬で吹き飛ぶ。

 慌ててガバッと上体を起こし、かぶっていた掛け布団を引っぺがせば、そこに在ったのは、本来そこに在ることのあり得ない、もう一つの人影の姿。


 無防備に肌を晒し、とてもとても安らかな表情で寝入っている、まばゆい白髪の少女――こと、アスセナの姿が、そこに在った。


「なっ、なっ、なっ……??!」


 驚きと混乱、そして警戒を解いているが故の無防備で可憐な寝姿に見とれてしまったことで、トーヤは硬直してしまう。

 居るはずのない人物がベッドの中に潜り込んでいたこともさることながら、当の彼女はどういうわけか、寝巻の上の部分(・・・・・・・)を喪失している(・・・・・・・)のが、トーヤの混乱に拍車をかける。透明感すら感じる白磁の肌は、窓越しに差し込む朝日に照らされ、艶めかしさと共に、ある種の神々しさすら醸し出していた。


(――なんで? なんでこの子上着て無いの? 上の寝間着どこに落っことしてきたの? いやそもそもなんでセナが俺の使ってるベッドに?! 二人部屋を取って別々のベッドで寝てたはずだろ!? っていうか、この状況普通にヤバいよな、俺社会的に死ぬよな?! でもなんだろ、セナの寝顔めっちゃかわいいし、めっちゃ綺麗……)


 混乱の余り、トーヤの思考があさっての方向にダッシュしていく中、掛け布団を喪失したせいか、それとも(色んな意味で)尋常ではない緊張感を感じ取ったのか、アスセナが小さく身じろぎする。


「ん、ぅ……?」


 あ、マズい――とトーヤガ動き出すよりも一瞬早く、ふるふると震えたアスセナの瞼が開いて。


 動き出そうとしたトーヤの目線と、ぱっちり開かれた金色の瞳が、真正面からぶつかり合った。


「……」


 外から聞こえる雑踏の音すら聞こえないほどに、静かで、痛々しい沈黙。

 ぱちくり、と瞬く金の瞳に射竦められて、トーヤは身じろぎ一つ取ることができなかった。




 そのまま、時間にして数十秒。体感にして、永遠の時が過ぎた時。



「…………ん。とーや。おはよう」


 起き抜けの間延びした挨拶が、トーヤの耳を通り過ぎていった。


「あ、はい。おはようございます――――じゃなくって!!!」


 ついつい真顔でいつも通りに挨拶を返してから、トーヤは勢い良くかぶりを振る。その様子を見て、あんまりにも平常運転な少女、ことアスセナは、ベッドに身を横たえたまま、不思議そうにトーヤのことを見つめていた。


「……あの、セナさん。何故にこちらで眠ってらっしゃるのでしょうか?」


 思わず敬語で質問するが、返ってきたのは寝転がったまま首をかしげるという、無駄に器用なしぐさだけ。

 どうやら、寝起きということもあるのか、アスセナ自身、現在の状況を把握できていないらしかった。


「……えっと、ここ、俺の使ってたベッドなんだけど」

「…………んぇ?」


 続く一言で、ようやくアスセナも完全覚醒に至ったらしい。

 ゆっくりと身を起こした少女は、きょろきょろと周囲を見回す。やがて、隣に鎮座している「自分が使っていたはずのベッド」を見つけると、はてと首を傾げた。

 ……相変わらず上を羽織っていないため、少し動くたびに、長い髪で隠れた部分が見えてしまいそうになる。戦々恐々すると同時に、寒くないのだろうか? と見当違いな不安が、トーヤの脳裏をよぎっていた。


「……ん、ごめんなさい。よなかにおきたとき、まちがえたみたい」


 ゆるゆるとトーヤに向き直ったアスセナは、寝ぼけ眼のまま、ぺこりと頭を下げる。


「いや、まぁ、それは別にいいんだけどさ。……なんで上着て無いの?」

「ぇ?」


 微妙に顔をそらすトーヤだけが感じる痛ましい空気の中、そう指摘されたアスセナは自分を見下ろし、またしても首をかしげた。


「ほんとだ。……どこ行ったの?」

「そこで俺に聞くのか……向こうに転がってるよ」

「ん。ほんとだ、あった。ありがと、トーヤ」


 アスセナ側のベッドに転がっている、脱ぎ捨てられっぱなしと思しき布きれを指さしながら、トーヤは盛大なため息と共に頭を抱える。驚きやら羞恥心やらで、トーヤの頭はキャパオーバー寸前だった。


「……えぇと、その。なんというか、ごめんな」

「? どうして、トーヤが謝ってるの?」


 なんともいたたまれない空気に耐え兼ね、トーヤは思わず謝罪を口にする。直後、その言葉が墓穴だと気づいたトーヤは、アスセナの返答に「う゛っ」と声を詰まらせた。


「や、えっと、その…………寝ぼけて、どこか、触っちゃったから、さ」


 逃げ道を求めて視線をさまよわせるが、自分で掘った墓穴は埋まらない。どうにか上手い言い訳を模索するものの、真っ直ぐに自分を射抜いてくる、純粋な疑問に満ちた金色の瞳に耐えられなくなったトーヤは、懺悔するようにそれだけを絞り出した。


「? ……触っただけで、どうして、謝るの?」


 どんな叱責でも甘んじて受け止めよう。そう考えて腹をくくったトーヤは、続くアスセナの言葉に「えっ?」と間抜けな声を漏らす。


「私、別に気にしてない。触られただけで、怒ったりしない」

「え……でも、嫌じゃないか? 赤の他人にベタベタ触られるなんてさ」

「ん、別に。……あ。でも、知らない人に触られるのは、ちょっと気持ち悪い、かも」


 呆気にとられるトーヤをよそに、アスセナは至極マイペースそうな調子を崩さない。見ず知らずの人に触られるのを想像したのか、むー、と感じ悪そうに唸るその様は、とてもじゃないが素肌を撫で繰り回された少女の反応ではなかった。


「知らない人に、って……俺だとしても、普通嫌じゃないか?」

「別に、平気。それに、トーヤの手は、あったかいから、好き」

「え? あ、おぉ……そ、そっか」


 なんともズレた問答の中、アスセナの口から飛び出した「好き」という褒め言葉の不意打ちを食らったトーヤは、返答に窮して微妙に口ごもってしまう。


(……そういえば、この子って普通の人じゃなくて、ドラゴンなんだったっけ。この見た目だから、油断するとすぐ忘れちゃうんだよなぁ)


 なまじ見た目が人間と変わらないせいで、頭では理解していても、ついつい普通の人間のように接してしまうのだ。それが良いことなのか、悪いことなのかは分からないが、一つ確実なのは、トーヤの自爆は完全な無駄足だった、ということだけだった。


「トーヤ、私のこと、触りたいの? ……なら、触る?」

「い、いやっ、遠慮する!」


 とりあえず今後、人間の常識に関しては、もう少ししっかりと教えることにしよう。

 羽織り直した寝間着を再びはだけようとするアスセナを全力で制止しながら、トーヤはそう心に誓った。



***




「トーヤ、大丈夫? なんだか、元気なさそう」

「だ、大丈夫。……なんていうか、朝から無駄に疲れただけだから、気にしないで」


 宿泊している宿を出て、トーヤとアスセナはエレヴィアの町のメインストリートを歩く。道中、首を傾げたアスセナの質問には、あいまいな返事を返すだけに留めておいた。



 ――トーヤ達がエレヴィアの町に滞在することを決めてから、早いもので一週間ほどが経過している。その間、路銀稼ぎとアスセナの慣熟訓練もかねて、二人は毎日依頼の消化を行っていた。

 二人がかりでそこそこのペースで依頼をこなしていることもあってか、アスセナも仕事にはだいぶ慣れてきている。そのせいか、最近は魔物の討伐以外にも、強くなるための一環として、いろいろな仕事を進んでこなすようになっていた。


「トーヤ、今日の依頼は決まってるの?」

「いや、まだだよ。昨日のうちにキープできる依頼が無かったから、今日はまず依頼を探さないとな」


 受注できる依頼の中には期限の長いものもあり、そういった依頼は仕事が回ってこない日にこなす、と言ったこともできる。今回はそういう依頼もなかったので、二人はまず新しい依頼を探すことにした。



***




「次の方、お待たせしました。本日はどういったご用件でしょうか?」

「えっと、依頼を探しに。なんでもいいんで、俺たちで受けれそうな依頼をお願いします」

「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 トーヤの要請を受けた受付嬢が、にこりと微笑んでカウンターの奥へと引っ込んでいく。それを見届けたアスセナが、ちらりとトーヤの横顔を覗き込んだ。


「トーヤ、今日は何をするの?」

「そうだなぁ。ここ数日は採集とか手伝い系の仕事ばかりだったから、たまには魔物と戦っても良いかもしれないな」

「ん、賛成。腕がなる」


 依頼の選別を待つ間、二人は軽く今日の方針を話し合う。強くなるための修行をしたいアスセナは、久しぶりに魔物と戦えるということもあってか、どこかワクワクとした様子だった。


「お待たせしました。……すみませんが、お客様はトーヤ様とアスセナ様で間違いありませんか?」

「え? あぁ、はい。間違いないですけど」


 そんな二人をしり目に、戻ってきた受付嬢はそんなことを確認する。怪訝な表情のままトーヤが返事をすると、受付嬢は納得した様子で、一つ咳ばらいを挟んで。



「――実は、お二人に依頼の指名が来ているのです。依頼者が応接室でお待ちらしいので、ご同行をお願いできますでしょうか?」 


 そうして続いた受付嬢の言葉に、トーヤとアスセナは揃ってお互いの顔を見合わせることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ