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ハグレモノ・ダンジョンキット  作者: ルフ
二章 探究は崩落の迷宮編
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番外編5「オハナ=リンカー、平和に暮らす」

「うーん……」


 ジョーキンズ=リンカーは考え込んでいた。

 目の前には大分ガタが来ているゴーレム、ハナが座り込んで彼の命令を待っている。

 だが今日は既にやるべき仕事はない。

 ドイルヴァノンにも冬が訪れ、今は農閑期に当たる。

 農具の手入れや家の修理などはあるものの、そう毎日一日中やることがあるわけでもなかった。

 彼が悩んでいるのは次の仕事の事ではなく、正にゴーレムそれ自体についてだった。


「やっぱりもう寿命が近いよなぁ……」


 所々内部が剥き出しになったオハナちゃん。

 買った当時からそんなに綺麗でもなかったので、今更痛々しいなどとは思わないが、単純にこのままいくと10年……いや、5年持つかどうかも怪しいほどの劣化具合であった。

 修復したいところだが、ゴーレムの単純な修復は素人にはなかなか難しい。

 傷を埋め合わせてもそれは見せかけだけで、結局ゴーレムコア自体を弄らなければ根本的な修復とはならないからだ。

 仮にオハナちゃんが動かなくなってしまったら、新しいゴーレムを買うことも検討するか。などとジョーキンズ氏が項垂(うなだ )れていると――――


「こんにちはー! 遊びに来たよ!」


 元気よくそこに現れたのは、確か今年で10歳だったか……まだまだ遊び盛りの隣家の一人娘であった。


「オピー、よく来たね」

「あ、今子供は遊んでばかりで羨ましいとか思ったでしょ?」

「そ、そんなことは思ってないよ?」

「残念。最近は私も店を手伝ってるから、結構忙しいんだよねぇー。お爺ちゃんは相変わらず変な発明ばっかだし、お父さんもお母さんも『冒険者目指す!』とか夢見始めててさ。うちの人なんて全員戦闘力5もないのにねー」

「あぁ、苦労してるんだねオピーも」


 ジョーキンズはそれに関しては心から同情した。

 悪い人たちではないのだが、いまいち生活力がないのだ。昔から。

 まぁ、困ったらいつでも助けてあげよう。

 一家総出で転がり込んで来ても迎え入れる覚悟は……さすがにきついか。

 その表情を察してかオピーことオピニア=ジグソーは「安心しなよ」と言う。


「私がそこまで落ちぶれる前に何とかしてみせるからさ。今はジャム作りに凝ってるんだよね。お爺ちゃんが何に使うんだかビンいっぱい仕入れててさ。近々商品化もする予定だから楽しみにしててね!」

「まったく、このままだと本当にオピーが稼ぎ頭になりそうだ」


 ジグソー商店を切り盛りするオピニア。

 想像したその姿はあまりにも似合い過ぎていて冗談にもならないな、と思った。

 オピニアはそこでようやくオハナちゃんの存在に気付く。


「オハナちゃんもこんにちは。今日は二人で向かい合って何してんの?」

「あ、あぁ……そうだった。実はな――」


 別にオピニアに話したからどうなるとは思っていなかったが、彼女の発想はたまに予想もつかないことを思いつく。

 だから情けないとは若干思いつつも、一応意見を聞いてみたかったのだ。


「なるほどねぇ。もうゴーレムのゾンビみたいかー」

「いや、そこまでは言ってないよ」

「でも、直せないってだけなら簡単じゃない」

「へ?」


 そんなすぐに思いついてしまったのか?


()()()()修復以上に使い勝手を良くすればいいんだよね」

「えぇ……」


 あまり成功するとは思えなかった。




「まずは機動力から。やっぱり足が崩れちゃったりすると危険じゃない?」

「それはまぁ……」


 ゴーレムは川に落ちたら水魔法で上がって来るし、穴に落ちたら土魔法で昇って来れる。

 だが落下の衝撃は殺せないし、規模によっては限度だってあるのだ。


「そこでこれ! 簡易版の風魔法発生器!」

「あ、もうあまり良い予感がしない……」

「お爺ちゃんの発明に私がちょっと手を加えて、ゴーレムの足に取りつける追加装置(ガジェット)に仕上げました! 飛べばそれこそ足だってなくても大丈夫」

「あ、ちょっと待っ……」

「飛べ! オハナちゃん!」


 複数枚の羽が回転して更にそこに魔素が宿る。

 羽は本来微量な簡易風魔法を巻き込んで増幅され、そこを中心に土ぼこりが舞い上がった。

 そして――――


 ――ババババババ


「う……浮いた……」


 ゴーレムの足はついに地面を離れた。



 そしてオハナちゃんはそのままバランスを取れずにひっくり返り、地面へと頭をぶつける。

 装置は方向が安定しなくなり、ゴーレムを引き摺ったまま遠くへ飛んで行った。


 ……………


「ハ、ハナァァアアアアアーー!!」

「やば……」





「結局の所ゴーレムの長所と言えば腕力! 人間に出来ない力仕事が出来れば何の問題もないと思うの」

「…………あぁ」


 飛んでいったゴーレムを捕まえる為に、二人とも早くもボロボロであったがオピニアはめげない。

 次は筒のような装置を持ってやってきた。


「これは完全に私制作なんだけど、えーとね。中に火魔法と水魔法の術式が貼り付けてあるの。市販のだからそんな強力でもないんだけど、火のやつは何重にも貼ってあって、中で水を蒸発させる。それでその蒸発した水の爆発力を推進力に変えられるの」

「それをどうするのかな?」

「もちろん、オハナちゃんの腕に取りつける!」

「オピー、それだけはやめて!」


 それはどうなるか、もう結果分かるから。

 間違いなく爆発して腕ごと吹っ飛ぶから。


 オピニアは「えー」と渋ったが、ジョーキンズの必至の説得で何とか止めることに成功する。

 彼女の発想は凄いと言うより、単純に危険(デンジャラス)だった。


「はぁ……ごめんね、力になれなくて」

「いや、いいんだよ。オハナはこのままで十分なことが良く分かった。そのままの姿が一番だ」

「……本当にそう思ってる?」

「うーん……それは――――」


 ――トントンッ


 ジョーキンズが煮え切らない返事をしていると、珍しいことに扉が叩かれた(オピニアはノックしない)。

 彼が「はいはい」と言って扉を開くと、そこに現れたのは見知らぬ一人の男――それと布に包まれた大きな機械だ。


「えーと、どちらさまで」


 男がニチャっと嫌な笑顔を向ける。


「この度はワタクシ、ポエニマールから農家の方に新商品をご紹介したく遥々参りました」

「は、はぁ……」


 そう言うとズカズカと家の中に上がり込み、弁舌を続ける。


「実はほんのちょっと前から、お話がこの耳に届いておりまして。何でもゴーレムが壊れそうだとか?」

「えぇ、まぁ……」

「ならば丁度良い! 今回ワタクシが売っている商品を思えば、これは運命と言っても過言ではないでしょう。勿体ぶるなって? 分かってますとも。そう、今日紹介する物はこちら!」


 背後にあった巨大な()()の布を取る。

 現れたのはピカピカに磨かれた鉄の肉体。

 鈍く赤く光る一つ目(モノアイ)が全員を見下ろしていた。


「最新の多目的自律機械人形――"オートマター"です!」


 機械人形(オートマター)は魔物から作るゴーレムとは根本的に違う、一から人間が作り出した鉄の人形だ。

 動力炉と魔術式の組合せが難しく、少なくともドイルヴァノンにおいては実用化はされていない。

 しかし隣国であるポエニマールなどでは、独自に研究が進められているとは風の噂で聞いたことはあったが……。


「オピー……これはあんまり……」

「そうだね……あんまり良い感じしないね……」


 そこにあるのはただただ禍々しい雰囲気……と何かを必死に抑え込もうとギシギシ揺れる巨人の姿だった。

 商人の男は二人の反応があまり良くないのを見て訝しげな顔をする。


「どうしたんですか? ほら見て下さいよこの光沢! そこに転がってる土人形とは雲泥の差でしょう? あ、泥とか今ワタクシ上手い事言いましたね」

「ふーん、本当にちゃんと動くのそのお人形さん? ってか安全なの?」

「何を仰いますかお嬢ちゃん! 安全は保障されてますとも! ほら、こうやって触ると……」


 男が機械人形(オートマター)に触るとキュイーンといった起動音がして――


 ――ゴキン


 金属音と共に男は吹っ飛び視界から消えた。

 命令を待たずして動き出した機械人形の拳から、シュウとにわかに白い煙があがっている。


「ガ……ガガ………ピ」

「ほーら、言わんこっちゃない! ジョーキンズさん逃げよう!」

「あ……あ……」


 ジョーキンズは既にそこで腰を抜かしていた。

 彼はこういった暴力事に弱いのだ。

 オピニアは「ハァ……」とため息をつくとオハナちゃんに近付く。


「じゃあ、私たちで片付けちゃいますか。この邪魔な鉄塊を!」


 そう言ってまずはハナが突撃する。


 ――ガンッ


 と拳が機械人形(オートマター)を直撃するが、それ自体で傷はついていないようだ。

 頑強さも、そして微動だにせぬ足腰の強さも脅威と言える。

 だがその動き自体は滅茶苦茶で、早さもゴーレム以下。

 どうやら根本的に欠陥品であったようだ。


「よっと」


 オピニアはその隙に足元へと潜りこむ。

 機械人形(オートマター)はそれを払いのけようとするが――


「もう遅いかな」


 その拳は空を切り、機械人形の天地は逆転した。

 ジョーキンズはその様子を座りながらも眺め呟く。


「あ……さっきの風車……」

「ちゃんと使い道あったでしょ?」

「そ、そうだな――――あ……危ないっ!」

「え?」


 彼女が少し目を話した隙に機械人形(オートマター)は僅かながら姿勢を戻していた。

 元々が上手く出来ていなかっただけに、宙づりになってもあまり影響がなかったのだろう。


 機械人形は無防備なゴーレムの胴体目がけて殴りかかる――


 ――スポッ


 ――が聴こえたのは破壊音とはほど遠い間の抜けた音だった。


「自分から受け取ってくれるなんて、もしかしてジョーキンズさんより物分かり良い? じゃあそのまま――」


 気付けば機械人形(オートマター)の腕には筒が嵌っていた。

 それから多くの術式が流れる音がし、それは赤く染まっていく。


「――実験台になりなさい」



 機械人形(オートマター)の腕を中心に爆発が広がった。




「ありがとうオピー」

「別に楽しかったからいいよ」


 商人の男はテロ紛いのことをしたという事で王国の騎士が連れて行った。

 機械人形もあの爆発で完全に壊れてしまったようだ。

 残骸は証拠物件として王国へと引き取られて行く。

 オピニアはそれを見送るジョーキンズに話しかける。


「実は結構残念だった? 持って行かれて」

「う……別にそんなことは」

「私は残念だったよ。色々参考に見たかったのに……」

「正直だなオピーは……」


 確かにそれは少し思う。

 機械人形(オートマター)は一つの夢の形なのだ。

 彼だってそういう物に憧れる気持ちはある。

 ――――だが。


「本当に別にいいんだ。我が家には空も飛べないし、見た目だって新品とは程遠い。それでも普通に――そして平和に働いてくれるハナがいるからな」

「――じゃあ、ハナちゃんが綺麗になったら私にくれる?」

「あげないよ!?」


「冗談だよー」と言うオピニアを、ジョーキンズは笑いながらちょんと小突く。




 そもそも彼は、仮に新しいゴーレムを買ったとしても、オハナちゃんを手放すつもりは初めからなかった。


 彼女は仕事仲間であり――家族でもあるのだから。

二章番外編これにて終了。

そして二章自体もこれで完全に完結です。

長くお付き合いいただきありがとうございました。


明日はこのまま三章に突入予定です。

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