表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハグレモノ・ダンジョンキット  作者: ルフ
二章 探究は崩落の迷宮編
43/172

第41話「オハナちゃん」

「ついに買ってしまったなぁ」

「買ってしまいましたねぇ」


そう話すのは一組の夫婦――旦那のジョーキンズと妻のリドナだ。

彼らが押す台車の上には、座り込むように巨大な土塊が乗っている。

農作業用自動土人形(ゴーレム)

二人の人生で最大の買い物であった。

家に着くとジョーキンズは休止呪符を探す。

ゴーレムは売買される時には一度休止させて引き渡し時の事故を防ぐほか、買い手に休止を解除させることによって所有者としての登録も兼ねているのだ。


「お、あったあった。これかな」


 首の後ろに呪符を見付けたジョーキンズはそれを剥がそうとする。

 すると横見ていた夫人のリドナが薄らと微笑んだ。


「どうかしたか?」

「ふふっ……ほら、ここ見て下さいな」


 彼女が指した先を見てジョーキンズも「あぁ」と笑った。

 使い古された中古のゴーレム。整備も不完全だったその体にはツタが絡まっていたのだが、その先端――丁度頭の付近に一輪の小さな花が咲いていた。


「さて、じゃあこのお洒落さんを起こしてやるかね」


 それはリンカー家に新たな家族が増えた瞬間である。

 また、同時にゴーレムのハナにとっての最初の記憶でもあり――――





 スライム・ジャックを倒したサツキ。

 しかし一度は活動を止めたかのように見えたゴーレムコアは再び動き出そうとしていた。


「なんだなんだぁ!?」


 最初はカタカタと動いていただけだったコアだが、やがて辺りに砂塵を巻き上げ、周囲の土を削りながら回転を始める。

 サツキはその現象を知っていた。

 だが、それが起きることは完全に想定外だったのだ。

 身動きの取れぬ洞窟の行き止まりで、ただただ驚きの声を上げることしか出来ずにいた。


(何でゴーレムの自己修復機能が働くんだ!?)


 本来それは人に使役されていない"魔物のゴーレム"のみが使える、ゴーレムのBランクたらしめる土人形故の特性だった。





 ――その時サツキは知る由もないが、コアの内部ではある意味で彼以上の混乱が起きていた。




 ゴーレムの自己修復機能は、それが帰属するダンジョンとの間で行われる能力だ。

 つまり初めに傷ついたゴーレムがその部位修繕の要請を出す。

 それにダンジョンが応えることによって、そのゴーレムはダンジョンから"資源"を自分の体に利用する権利を得て初めて実行に移せるのだ。

 ダンジョンにとって生み出した魔物は"資源"の一部なのだ。

 その為自身の生まれたダンジョンから外に出たゴーレムは、修復要請を出すもそれを受け入れてくれる対象が存在せず、結果として自己の修復は叶わなくなってしまうのである。


 この壊れかけたゴーレムも通常と同様に普段は微量ながらもその信号を出していた。

 だがスライム・ジャックに乗っ取られたことにより一時的に信号を停止していたのである。

 それが今、スライムの討伐と共に解き放たれ再び修繕要請を発する。

 それも普段とは違う――コアが完全に露出した際にだけ出す"緊急修繕要請"だ。

 通常の信号よりも一段階緊急性が高く、他より優先してダンジョンからの加護が与えられるその信号。

 強力ではあるが本来ならば出身のダンジョンを離れたゴーレムには何の意味もない応援である。

 本来ならば――だ。


「ちっ……どんどん元に戻っていきやがる」


 実際その要請は()()()受諾され、コアを中心に再生が始まった。

 ゴーレムに感情があったならば、当人が一番これに驚いているだろう。

 つまり「このゴーレムはこのダンジョン内で生まれた」と判定されたのである。

 何故このようなことが起きたのか。

 それはオピニアが仕込んだ()()()()()()が想定外の働きをした結果だったのだが、その場にいた誰もが知りえぬことであった。

 ただ今はこの現象にサツキは困惑し、そして身構える。


 やがてゴーレムは元の――いや、リンカー夫妻ですら見たことのない新品の状態まで修復を終えた。


「くそっ、もうこんなんとやり合う力残ってねえぞ……!」


 サツキは半ば諦めたかのように警戒するが、その予想は良い方向で裏切られた。


「…………」

「……? なんだ、攻撃して来ないのか……?」


 見た目は完全に復活し、自立しているところを見ると動けないわけではないだろう。

 しかし少し待てど一向に危害を加えてくる様子はない。


「確かにお前が暴れてたのはスライムのせいだもんな…………もしかして正気――と言うのもおかしいが元に戻ったのか?」

「…………」

「……味方なのか?」

「…………」


 ゴーレムは勿論答えない。

 だが――


 (コクッ)


 ――と僅かにだが頷いたようにサツキには見えた。




「――――で、こいつが帰り道乗せて行ってくれるっぽかったんで、こうして帰ってきたってわけだ」

「自己修復機能……」


 サツキが洞窟内でのあらましを話すと、途中オピニアはハッとしたような顔をして考える素振りを見せた。


「もしかして、何か心当たりあるのか?」

「……あ、あー……うん、まぁちょっとだけ」


 実は――とオピニアは話し出す。


「さっきサツキにダンジョン渡す時にさ、ボスのコア何入れようか考えたんだよね。最初は無害な魔物にしようと思ったんだけど折角だから何か保険でも入れられないかなーって。例えばすごい強い魔物を入れておけばゴーレム倒してくれるかも知れないし。でもゴーレムと打ち合えるほどの強い魔物なんて持ってなくて、どうしようって思ってたらさっきサツキがゴーレムを叩いたときの破片が転がってて……」


「……それ入れたのか?」

「最悪相打ちには持っていけるかもって。多分ダンジョンがボスゴーレムが傷ついたのと勘違いして修復しちゃったのかな? 一応同じ個体でもあるわけだし」

「……なるほど。つまりあの洞窟にはもう一体ゴーレムいたってことか」

「うん、行き止まりの奥に閉じ込めてあって、時間が経つと掘り出てきて襲うようにしたんだけど、ちょっと奥に入れすぎちゃったみたいね。出て来るのが間に合わなかったっぽい」

「……その場合俺はゴーレムに挟まれることになるんだが」

「サツキなら何とかなるかなって」

「死ぬわ!」



 二人のやり取りをゴーレムは無感情に眺めている。

 何はともあれ彼らは無事、危機を乗り越えたのだ。





 その後、ボスのゴーレムは改めてダンジョンごと土へと埋められた。



==============================================

ダンジョン名:天地挟撃の迷宮

難易度:C

状態:コア破壊済み

階層:地下3階

生息:イートリーフ、ゴーレム(Boss)

 地下2層をただ通り抜けるだけの迷宮。だが天井はイートリーフが敵を感知すると、その動きで1層に仕掛けられた岩が落ちてくる仕掛けが。また床には3層へと繋がる落とし穴が空いており、魔物は少ないものの一瞬の気の緩みが死を招く危険なダンジョンである。ボス部屋は行き止まりから土壁で隔離されているが、ボスであるゴーレムの力を持ってすれば、やがてはあちらから通路まで姿を見せるだろう。

==============================================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ