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ハグレモノ・ダンジョンキット  作者: ルフ
二章 探究は崩落の迷宮編
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第37話「開かれし活路へ」

「うわー、何の準備もしてない――――なーんてね」


 ゴーレムがオピニアを掴もうと一歩踏み込んだ瞬間――


 ――バシャン


 という音と共に、その巨体は地面へと落ちて行った。

 オピニアは得意げにビンを顔の横にかざし、よくわからない決めポーズを取る。


「これぞ、ジグソー流――対巨兵専用水牢の大迷宮!」


==============================================

ダンジョン名:水中の迷宮

難易度:D

状態:通常

階層:地下1階

生息:アイズハイ(Boss)

 全てが水のダンジョン。土もなく草もなく階段もない。ただダンジョンボスである魚のアイズハイのみが優雅に泳ぎまわっている。他の魔物もいなく比較的安全な迷宮であるが、ボスが小さく素早いので、それの処理に手間取ると溺れてしまうかもしれない。天井は通常の金属でなく薄い布があるだけである。なので重い物が乗ると突きぬけてしまうので注意しよう。

==============================================


 二人の足元には真円の池が出来上がっている。

 ダンジョンキットの蓋は、通常時は開閉用のハンドルのついた強固な金属である。

 しかし地面に埋めた時の状態でそれは変化する。

 「やすらぎの迷宮」で使った塹壕のように、段差を作りたければ蓋をせず浅めに埋め、また穴を開ければ開放時も同じ位置に穴が来る。

 今回オピニアはビンに水を満たした後に、その上に薄い布を巻き軽く紐で抑えただけだ。

 それを浅く埋めて、巨大化した布の上に軽く土を被せる。

 これがオピニア流落とし穴(水没版)である。

 この罠の優れたところは、水を入れるだけなので何よりも早く出来る点だ。

 サツキが先程逃げ回っていた隙に、予め設置してから屋根に昇っていたのだ。


「ビンに水入れただけで何格好つけてんだ。蓋の裏の名前絶対そんなんじゃないぞ」

「あれって何で名前変えられちゃうんだかねぇ。多分おじいちゃんが自動で名前付くように作ったんだろうけど」

「名前の趣味は爺さんのが上だな」

「まさか。まぁいいわ。とりあえずこれでゴーレムは上がって来れないでしょうから、何とか元に戻すか破壊する方法を考えて――」

「――――っ! 足元見ろっ!」

「え」


 サツキがオピニアに呼びかけた時。

 既に彼女の体は自ら這い出たゴーレムの平手で吹き飛ばされていた。





 ゴーレムは自分が水の中にいると認識した。

 それは意識ではなく、純粋な機械的判断である。

 防水魔法処理の施されていない体は、水の中で徐々に崩れて行っているようだ。

 おまけに地上までの高さは6メートル以上。とても届きそうもない。

 本来人間の指示を待つゴーレムでは、そこからの状況判断は難しい。

 かと言って、この状況に人間がいても溺れる恐怖でまともに考えることは難しいだろう。

 だが今の主はジャック・スライムだ。

 スライムはそう溺れ死ぬこともなければ、混乱とも無縁の魔物である。

 ゴーレムが得た状況は、ジャック・スライムへと伝達される。

 ならば次は現実的にどうやってここを出るかだが……。

 スライムは考える。そしてゴーレムは計算する。

 その間にも体の表面から土は零れ落ちていくが――


 ――――


 二体の魔物はそれを見て思いつく。

 脱出方法さえ思い付けば、後は再び破壊の衝動に身を任せるのみだ。




「――がはッ!」


 オピニアはそのまま倉庫の壁にぶつかる。

 サツキは動揺こそしたものの、しっかりと何が起きたかを確認するのは怠らなかった。


「そうか、自分の体を土台にしやがったな……!」


 ゴーレムは何とか池の淵に捕まっている状態だった。

 その足元には、か細い泥の柱が水底から伸びている。

 ゴーレムの得意魔法は土と水と木がそれぞれ7:2:1くらいの割合だ。

 例え不利な環境であろうと、土と水ならば土台を作る魔法くらいは扱えるのである。


 ――しかし、その代償は大きかった。

 地表に届くのに必要な土を確保するために、体の表面は尚一層ボロボロになり、自重を支える為に無理な魔法を使ったためにジャック・スライム共々その体は生気を失いかけている。

 更には――


「うぅん……」


 壁に叩きつけられたオピニアも何とか起き上がれそうだ。

 本来ならば彼女の体は、とてもじゃないが立ち上がれないほどには破壊されていただろう。

 しかし、今回はゴーレムが力を失っていた上に、淵に捕まりながらの攻撃と体勢も悪かった。

 その為怪我はしているものの大事には至らなかったのだろう。


(これなら後少しで倒しきることが出来る……だが)


 ようやく見えた勝利だったが、サツキの顔に余裕はない。

 それも仕方のない事だ。

 彼らの予定では、この池のダンジョンに沈めた段階で勝てるはずだったのだ。

 そこから這い上がってくることまでは想定していない。

 もう事前に仕掛けた罠は何一つなかった。


 ――――


 サツキは一呼吸し覚悟を決める。

 このまま黙ってやられる覚悟? 勿論違う。

 彼は先程倉庫で見つけたものの、小さすぎて投げても意味がないだろうと持ってきたハンマーを握りしめた。


「ゴーレムが体張ってんのに、俺だけ逃げてても仕方ねえな」


 ゴーレムは既に完全に地上へと上がって来ていた。

 しかしその足は崩れかけで歩くのですら難しいだろう。

 サツキは身を低くして足元へと潜りこみ――


「ふんっ!!」


 壊す――いや体表を削るようにハンマーを振るった。


「――――!」


 削られた足の一部がただの泥となり飛んでいく。

 ゴーレムはまだその動きには付いて来れてないようで、反撃らしい反撃もない。

 ならば――とサツキは2撃目を撃ちこんだ。


 ガスッ


 再び同じくらいの量の泥が飛んでいく。

 これを繰り返せば、そのうち動けるだけの体を維持できなくなるだろう。

 だが、いつまでもゴーレムが無抵抗でいるわけでもない。

 案の定今度はサツキを見て、平手を繰り出してくる。


「くっ……」


 サツキは転がるように逆の足元へと逃げ込み、すんでのところでそれをかわす。

 その時ゴーレムの姿勢が崩れた。

 脆くなった足はすでに自身の攻撃を支えることは難しくなっているのだ。

 本来ならばそれはサツキにとって喜ぶべきことだろう。

 だが、その時は場所が悪く――また運も悪かった。


 体勢を崩した瞬間、それを支えようと逆の足がにわかに跳ねあがったのだ。

 そしてはそれはちょうどサツキが逃げこんだ位置で――


「がッ……!!」


 そのかかとに蹴り上げられたサツキは呻いた。

 もっとも狙った攻撃ではないだけにこれといった怪我は負っていない。

 それでも一瞬足を止めるには十分な一撃で――


 ――バンッ


「――がぁ!!」


 次に抑え付けるように放たれた上からの攻撃。

 サツキはこれをさけることが出来ず、そのまま地に伏せられる。


「ぐぐ……」


(まずい……! 体積が減ってるとは言え、とても抜け出せるようなもんじゃねえ……!)


 ぬるりとしたゴーレムの感触。

 抑えつけられてると言うより、ただ降ってわいた泥に押しつぶされてるかのような感覚。

 そこから逃れるどころか、手足もまともに動かせそうにはない。

 万事休す――サツキの脳裏にそんな、かつてどこかで聞いた懐かしい言い回しが浮かんだ。

 ――その時だった。



 カラカラカラ……



(何かが転がる音……?)



 カラカラ……


 それは少しずつ近づいてきて――


 カラ……コンュ


 ――とゴーレムの足にぶつかった。

 サツキはそれに書いてある文字を読み取る。

 その顔は嬉しそうで――同時に呆れているような表情だ。

 だが、転がってきたそれを地面に埋めることは出来そうもない。

 サツキは指先を動かすだけでも精一杯の状態なのだ。

 そう思っていると――


 ズズズ……


 その下の地面が妙な動き方をしている。

 それは不自然で、そして不器用な動きだ。

 しかしサツキはその不器用な動きを見たことがあった。

 それはフローンを連れて帰ってきた夜のあれと似ているのだ。


「……まぁ、初めてにしては上出来だな」


 サツキがニヤッと笑った先。

 土魔術を使い、地面を必死に掘り下げるオピニアはそれに応えた。


先生(ゴーレム)の教え方が悪いのよ……」


 ゴーレムの土魔術。

 オピニアはそれを受け、僅かながらも何とか再現をしている。

 しかしその体はサツキ以上に重傷でこちらもそれが限界である。

 ――そう、これは託されたのだ。


「サツキ!」

「ちっ……分かったよ!」


 オピニアより転がってきた一つのビン。

 それが土魔術により埋められていく。

 後はその開放を待つのみだ。

 だが、オピニアがそれだけで満足するとは思っていない。

 こういう時の為にビンには()()()()が書いてあるのだ。


 まずはゴーレムに向かい優しく語りかけ――


「おう、オハナちゃんよ。これが最後の戦いだ」


 そしてサツキは大きく叫ぶ。




「崩落の迷宮! 開放!」




 サツキとゴーレム。

 両者の足元に巨大な穴が空いた。

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