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ハグレモノ・ダンジョンキット  作者: ルフ
二章 探究は崩落の迷宮編
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第31話「ダンジョン講座 帰りの部」

 キャノンバームを倒した一同だったがその顔はすぐれない。

 洞窟全体から何か不穏な気配が漂っている気がするのだ。

 サツキはそのことをオピニアに伝えた。


「これは早くここを出たほうが良いな……」

「そうね……」


 オピニアも同じことを考えていたようですぐに同意する。

 現在の戦力は、剣のないフローン、唯一まだ戦えるもののやはり疲労の色が濃いボイズ、既に戦える状態ではないボイズのパーティメンバー1人、そして非戦闘員のオピニアとサツキだ。

 普通のダンジョンならば壊滅状態ではある。しかしここはEランクダンジョン。いつもであればそれでもまだ余力があるのだが……。


「キャノンバーム。異物があいつだけとは思えないな」

「……最近ダンジョンで適性ランクとは思えない魔物が出没してるみたいですけど、もしかしてこれも同じですかね……」

「こんな低ランクダンジョンまでか?」

「うーん……」


 このダンジョンに入り慣れたボイズとフローンもよくわからないらしい。

 再びあのランクの魔物と出会えば、今度こそ全滅は避けられないだろう。

 その事実が彼らの足取りを重くしていた。

 サツキは最初はあまり話に加わらず黙っていたが――


(こんな状況じゃ仕方ねえか……)


 やれやれといった風に不安げな彼らの前に出た。


「はっ! Bランクだとか何だとか言うが、ようするにどの魔物にも遭遇しないで出口まで行けばいいんだろ?」


 ここにきて当たり前すぎることを言うサツキにフローンが渋い顔をした。


「その通りですけど、1層分の帰り道――それで一度も出会わずに行くなんて無理ですよ……」

「……サツキ。そう言うからにはちゃんと策があるんでしょ?」


 サツキは基本的には人前に出たがらないし、自分の考えを話そうとはしない。

 ましてや今はパーティメンバー以外の人もいるのだ。

 そこでこの提案はつまりそれが出来るだけのあるのだろう。

 ならばオピニアの判断は早い。


「任せるわ」

「任せろ。ついでに続きをしてやるよ――ダンジョン講習その2だ」




 ダンジョンとは本来入り組んだ迷宮である。

 例え1層だけとは言え、その道は幾つにも枝分かれし行き止まりも多い。

 行き止まりには大抵の場合宝箱があるか、あるいは罠があるかだ。

 しかしここはギルドが管理しているダンジョンでも、特に管理が行き届いている低級ダンジョン。

 目的地である2層への階段までも近く、また地形的にも通り易い道が予め用意されており、そこを道なりに進んで行くのが当たり前となっている。

 行き止まりであったり、遠回りになるルートは封鎖こそされていないものの、決して進みやすくはなく罠が残されている場合もある。

 人の手が加えられることにより冒険者から忘れられた道。

 そんな道をサツキたちは通っていた。


「うぅ……歩きづらい。やっぱりサツキに任せるんじゃなかった」

「後悔早いな。大丈夫だ、お前が一番根性あるから」

「進むのは平気だけど、帰り道に苦労するのは嫌なのよ」

「変に我儘なところあるよなぁ……」


 オピニアは苦言を吐きつつも、それほど悪路を苦にしている様子はなさそうだ。


(単に暇だから文句言ってるなこいつ……)


 確かにその道はただ歩きづらいだけで何もないつまらない道だった。

 魔物に出会っていないのでそれで良いのだが、実際遠回りになっているので時間的にも行きより大分かかってしまうかも知れない。


「それにしても本当に魔物に出会いませんね」


 フローンがようやくサツキが求めていた疑問を口にしてくれた。


「運が良いんじゃない?」

「違うわ。それは俺がそういう風に道を選んでるからだ」


 オピニアの楽天的な考えを一蹴する。

 ただそれに反論したのはボイズだった。


「そんなこと出来んのかよ? 魔物なんてのは好き勝手ダンジョンの中を歩き回ってるだけなんだぜ? そんなん予測しようがないだろ」

「そう思ってる冒険者は多いが、別にそんなことない。むしろダンジョン内の魔物の行動なんてのは地上の動物よりも分かり易いんだよ。例えばそっちの道を見てみろ」


 サツキが指差したのは、ちょうど今道が分かれていたのだが、その曲がらなかった方の通路――その壁際に生えた何でもない草である。


「あれはボールラットが好きな雑草だ」

「ボールラットって言うと、人は食うことはないが中型の魔物が良く食べてるネズミだな」

「別に食べなくは……まぁいいか。この植物の特徴で特定の通路に密集して生えることが多い。当然それを餌にするボールラットも集まる。するとどうなる?」

「それを食いに中型以上の魔物も集まって来るのか……」

「そしてそれを食いに来る更にでかい魔物もな」


 魔物だって生物である以上は食い物が必要だ。

 食い物の更に食い物まで考えていくと、段々とそのダンジョンでの生き物の"たまり場"みたいなものが見えてくることは多い。

 ボールラットはその一例で、サツキは他にも虫や池などの状態を見て、より魔物が集まり辛い道を選んでいるのだ。


「そんなこと考えたこともなかったです……」

「フローン、お前はダンジョン慣れしてなさすぎだ。別に俺でなくても、ベテランのBランク冒険者以上なんかならこのくらいは知ってるぞ」

「うっ……すみません」

「ぐっ…………」


 フローンの横でボイズもさり気なくダメージを受けている。


「後は基本だが、風上に行く――それでなくとも風下にはいかないのが鉄則だな。臭いや音で魔物が寄ってくる場合が多いし、こっちも発見が遅れることになる」


 サツキはここまで特に変わった技術は用いていない。

 野生動物と出会わないための知識や方法。

 それを丁寧に積み重ねているのだ。


 彼がこの状況で慌てていないのは当然のことであった。

 何十年とやってきた、彼にとっての日常と何ら変わりはないのだから。

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