第19話「中年男性の忙しない休日」
オピニアが退屈な午前を過ごしている一方。
サツキは既に城下町まで戻ってきていた。
(えーと、冒険者ギルドは久しく用なかったからな。こっちのほうで合ってるんだっけ?)
数年ぶりの冒険者ギルドと言うことでやや道に迷ってしまったが、冒険者の後に付いていけば良いと気付けば、後は簡単な道程だった。
(着いたか……相変わらず不細工なでかさだな)
ドイルヴァノン王国冒険者ギルド。
『この国の発展はダンジョン、そして冒険者と共にある』
見付かる新たなダンジョン、それに伴う冒険者の増加によって、80年の間に都合7度の増築をしてきたギルドの建物は、正にそれを象徴しているかのようなちぐはぐな見た目であった。
時代ごとの建物が無計画にくっつき、また資金の差もあるせいで、あたかも合成獣のような出で立ちだ。
もっとも古い建物に至っては、老朽化のために今は立ち入り禁止になっているのだが。
サツキは他の冒険者と同じように、その中でも一番新しく小綺麗で、そして面白味のない中央棟から入っていった。
受付の窓口は部門ごとに分かれている。
サツキが昔利用していた頃は、一つの受付で全てやっていたので、何とも新鮮だった。
『新規冒険者登録窓口』、『パーティ申請窓口』などがあるが、サツキが用があるのは、中でも一番の長蛇の列が出来ている『ギルド管理下ダンジョン入場許可証発行窓口』と言う列に負けず劣らず長い名前の受付だ。
何故これほどの人が並ぶほどに人気があるのか。
理由はいくつかある。
まず町の外れ、または近辺にあるダンジョンなので、短い期間で行って帰ってこれると言うこと。
副業として冒険者をしている者にとって、長期の休暇を取る必要がないのは重要なことだ。
次に総じて難易度が低いと言うこと。ドイルヴァノン山のダンジョンは大体が中ランク以上だ。いりなりそこに挑む冒険者も多いが、やはり危険は大きい。それに比べると町近くのダンジョンはEランク~Dランク程度が殆どであり、新米冒険者はここで経験値――あるいは経験を積むのだ。
最後に一番大きな理由としては、単純な話安全なのだ。
内部はギルドによって整備され、また職員冒険者による見廻りもいる。冒険者自体も多いので助けを求めれば危険に晒されることはそうない。
今回サツキがギルドダンジョンを選んだのも安全さを優先してだ。オピニアは新米どころか冒険者ですらない。いずれはもっと難易度の高いダンジョンに入れれば便利だが、今はまだその段階ではない。
(それに目的のアレは難易度関係なく手にはいるしな)
結局一時間近く待ってようやく窓口まで辿り着いた。
あまり愛想のよくない女性の受付に声をかける。
「17番のダンジョンの許可証を頼む」
「はい、わかりました。代表者の名前と人数をこちらの欄に書き込んでください」
サツキ。そして3名と大人しく書き込む。
「はい、サツキ様ですね。それでは許可証が出来ましたらお呼び致します。数時間かかる可能性も御座いますので、あちらで座ってお待ちください」
受付嬢はにこりともせずに機械的にサツキを見送った。
横をふと見ると、冒険者申請受付、パーティ受付、そしてここと順に受付の人の顔から生気がなくなっていくようだ。
まぁ単純に人数が違いすぎるので、仕方ないのだろう。新規冒険者受付の女の子のように、いちいち「登録お疲れ様ですっ! これから大変でしょうが頑張って下さいね!」みたいにここで言っていたら、精神が持たないだろう。
始めからそういう人選なのか、それとも自然と摩りきれてしまうのかサツキには判断がつかなかったが――
(がんばれよ)
無愛想な受付に何となく視線でエールを送ると
「チッ……ッ!」
と小さく聴こえたのは多分気のせいだろう。
◆
「ふぅ……」
ひとまず用事は一つ片付いた。
サツキは無数の冒険者たちが待機する待合室の椅子に座る。綺麗なギルドの待合室と言えど、やはり冒険者である。皆下品に騒いだり、床に座ったりと自由な場所だ。音声拡大呪文を使ったギルド職員の呼び出しの声がまた喧騒に拍車を駆ける。
サツキは座ったものの、別にこのままただ待つ予定はなかった。もう一つやらなくてはいけないことがあるのだが――
(そっちがどうにも俺は苦手なんだよなぁ……)
先程は用紙に人数は3人と書いた。
つまり彼はここで1人だけ、冒険者をスカウトするつもりなのである。
どうせ入るのはEランクダンジョンなので、冒険者もそれ相応の人で良い。実際そのくらいはサツキは別にどうということはない難易度なのだが、諸事情により何度も入る可能性のあるダンジョンでは自分であまり戦いたくないのだ。
人付き合いの嫌いなサツキは嫌々ながらも、独りで行動している――そして契約賃の安そうな冒険者を探すが――
(み、見付からねえ……)
既に数時間探しているのだが、なかなか思うように条件に合う人がいない。そもそもパーティを組み済みの冒険者ばかりだった。
(サツキが話しかけられず、まごついている間にパーティを組まれてしまう場合も何件かあったのだが)
そんな時近くで下品な声が聞こえてきた。
「おい、お前まだ冒険者やってたのかよ」
サツキは一瞬ドキリとしたが、その下品な声の主が話しかけていたのは、いかにも新米と言う感じの防具を、華奢な体に纏った男だった。
そしてサツキの直感が働く。
――あ、これ面倒ごとが起きそうだ、と。




