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「ほっ、ほっ、ほっ」
走るレティスの体調は良かった。
ジートはいなくなってしまったが、レティスの強い男になるぞ大作戦!は継続中で、鍛錬のメニューはすでに決まっている。入学まで、まずはランニングと筋トレで基礎体力の向上を目指し、軽い組手などをやっていく予定だった。
不慮の事故で少々中断されたものの、レティスはさっそくランニングから再開した。
ずっと寝ていて体が弱ったように感じていたが、何やら逆に力が満ち満ちている。
魔術医ロイドウォルター作の精力剤の効果であるが、真実を知らないレティスにとってはどうでもよい話であった。
しばらく適当に走っていると、真っ直ぐな水路が伸びる道幅の広い道へでた。
どうやら水路のある道は東西南北に分かれているエリアの境界線となっているらしい。つまり水路のある道に沿って走れば、エリアを迷うこと無く一周することが出来るのである。
「左が中心部で、右が城壁ってことは、東と南の境界線ってことか。となるとあっち側が東エリアになるわけか。へぇー」
確か東エリアは職人の街と呼ばれているエリアである。
見える限りであるが、全て三階建てくらいの高さになっており、どれもこれもがきっちりとした木の柱に白色の壁、茶色木材の窓枠、濃淡様々な朱色の瓦屋根によって構成されていた。
一軒一軒の特徴は薄いように感じるが、窓枠に下げられた植物プランターの種類や窓枠の色、細かな違いで言えば、天窓の数や煙突の装飾などが違っている。
「たしかに、キッチリしてて職人の街って感じだな」
やはり刀鍛冶でもいるのだろうか?煙突から灰色の煙が幾筋も立っているのが見えた。
「今度時間があるときに行ってみるか」
レティスはそう言うと、水路のある道を今度は中心部へ向かって走り始めた。
水路に沿って王都の中央へ、えっほえっほと走っていく。すると、道の水路が別の水路にぶち当たった。丸い円を描くように伸びている水路……、これはおそらく中央エリアの外縁である。
「ふーむ。聞いてたとおり本当に水路に囲まれてるんだな。中央エリアって」
大きなところだった。10メートル幅ほどある水路の対岸に、芝と緑の木々が見えている。
中央エリアは王都の中央部にある場所で、丸い円形をしており、水路によって囲まれている。王様が住む城や行政機関、兵士の住まう兵舎や魔法学校などが一同に集められている場所で、広い敷地の中には実践的なフィールドとして森なども用意されているらしい。そこで戦いの訓練や魔法などを覚えることが出来るそうだ。
「これは走るにもちょうど良さそうだな。一周はどれくらいあるのかな?」
中央エリアは水路に囲まれているので、迷わずに走るには都合が良さそうだった。
街の中はどうにも走りにくい。大通りを除いてどうも複雑に入り組んでいることが多いし、荷馬車も頻繁に通っているので、うっかりしていると轢かれてしまうのだ。
その点、周回して走ることが出来る中央エリアの水路沿いは、トレーニングに使うとして最適な場所であると言えた。
「次からはここを拠点にして体を鍛えようかな」
今度は中央エリアの水路に沿って、右回りにレティスは再び走り始めた。
「ふっ、け、結構、建物も見え、ないんだな」
走りながら中央エリアを横目に見る。水路によって隔たれているが、基本的に城壁のようなもので囲っているわけでもないらしい。非情に見通しが良い場所である。しかし、随分と走ってきているが、多くが深い木々に覆われており中の様子が全く分からなかった。
「ふー、中が全部森なんじゃないのか?」
そうレティスが愚痴る程度には、退屈な風景が続いた。時折小さな石積みの小屋のようなものがあったが、人影もなくそれきりだ。
「走るのにはすごくいいけど」
水路に沿って歩道が整備されており、荷馬車がここを走ることは出来ないようになっていた。レティスの他にも走っている人や散歩をしている人が多くおり、ここが王都の運動スポットであるということが分かる。時折14歳くらいの子とすれ違うと、もしかしたら魔法学校へ入る子かな?とも思い視線を送ってみたが、特に視線を合わされることもなく、みな挨拶することすらなく通り過ぎた。
「友達って作るの難しいなぁ……」
としょぼくれたレティスであったが、そもそも彼の幼い容姿が問題であり、ましてや相手に14歳だと見られていないということが最大の問題であったと、本人は自覚することはなかった。
「あ、橋がある」
代わり映えしない風景から、ようやく賑やかな広場へ到着した。
大きな荷馬車が通れるほどの大通りが、四方八方から幾本も集約しているような場所だ。
南エリアの中央部にある大市場ほどではないが、その次ぐらいに活気があるといっていいだろう。
「南橋名物、ヴェルトディア城饅頭にヴェルトディア城煎餅はいかがですかー」
「おみやげは紅蘭亭で、健康に良い野草茶入荷してますー」
「おイモバター。おイモバター」
「お母さんお城見たいー」「さすがに橋の近くは混んでるわねぇ」
「そこの奥さん。高見櫓はいかがですか?お昼休憩に良いですよ。今ならお席空いてます」
街の喧騒を縫うように、レティスは南橋と呼ばれるところへ到着した。
南橋は、水路で隔たれた中央エリアへの玄関口であり、幅がゆうに30メートル程もある橋によって南エリアとつながっている。橋の奥にあたる中央エリアは、左右に兵士の詰め所と少々厳つい鉄格子により区切られており、一般人は奥へ入ることが出来ないようになっている。
橋とひっくるめて内門と呼んでも良い場所であるが、城壁にある南門と分けるため、単純に南橋と呼ばれる事が多いそうだ。
南橋のある中央エリアへの玄関口は、ちょうど城の真正面にあたるらしく、橋と鉄格子を挟んだ遥か向こうになるが、王様の住まうヴェルトディア城がポツリと見えていた。
大小様々な尖塔から丸みを帯びた屋根へと繋がり、それらが集まって一つの形となっている。屋根は青色で、壁は白っぽい。見える窓枠は四階層くらいだろうか?アーチ状のものから長四角のものまでバランスよく配置されている。
それなりに大きいとは思うのだが、遠すぎるのでいまいちよく分からない。城というより大きなお屋敷というのが、レティスの印象だった。
中央エリアの建物は他にもあるようで、南橋から城まで真っ直ぐ伸びる道の左側に、黒灰色の石で積み上げられた、少し年季が入った……ストレートに言えばボロい建物がズラリと並んで見えていた。中央エリアと呼ばれるには、少々不釣り合いな建物である。
ちょうどそんな建物の前に、紺色の服を着た人達が、遠目に見えた時だった。
「よう。嬢ちゃん!観光かい?」
軽く肩を叩かれて横を見上げれば、人の良さそうな顔をした、若い男が立っていた。
短い赤栗毛の、茶色の瞳をした男だった。こざっぱりとした旅服で、身も軽そうでもある。驚くレティスに男は軽快な口調で話し始めた。
「ああ、そんな警戒しないでくれよ。これだけ兵士さんたちがいっぱいいるんだ。悪いやつなんていやしない。俺らはここら一体でガイドをしている集まりなんだよ」
この男の言う通り、ここには兵士たちがいっぱいいた。
引き締まった体躯に輝く銀甲冑とロングソードを携帯しており、背には肩間50cm四方の簡素な赤いマントをたなびかせている。門を守る兵士が黄色で、街は赤色となっていることからそれぞれの守る部署によって色を分けているのだろう。赤いマントの兵士は、大体が2~3名くらいの塊を作ってこの付近を巡回していた。
「まぁ、ガイドと言っても、一人二人ってわけじゃない。これから多くの人間にちょちょいと声をかけて話をするから、よかったら聞いていってくれ。話をするのはあそこにいるお姉さんだ。お金は後でのお気持ちだから、こっそりタダで聞いていくといい。こっそりだぞ」
男はそう言って笑うと、さっさと次へ行ってしまった。どうやら話は本当のようで、ガイドの案内をオススメしているだけらしい。少々呆気に取られたが、この辺りは有名な観光地でもあるらしいので、そういう仕事を生業にする人達がいるのだろう。
南橋から少し西には、中央エリアの水路へ凸の形でせり出した木製足場の広場があった。どうらやらここは、公共観光のための特設ステージのような場所で、その中央には古木のような凹凸をした大樹の丸太に、薄青色をした真球の大きな結晶石が嵌めこまれた、変な装置が置いてあった。
通信用の魔具にしては見たこともない形で、新種植物の魔物の一部のようにも見える。丸太の四方には白色の人工物の塔のような突起が生えており、その先端からは光の球が蝶のようにふわりと舞い上がり、妙な光の軌跡を描きながら装置の周りを漂っていた。なんとも神秘的な装置であった。
人々はそれを特に気にする風でもなく、その奥、人だかりの上に顔をだしたお姉さんの話を静かに聞いていた。
「……に作られたヴェルトディア城は、バルトック建築を代表する建築物です。その当時、ラディノにおいて流行した形式が採用されており、王の住まう館を中心として、複数の建築物が隣接しつながっています。王宮は元々、もっと小さなものでしたが、イエリア王国が独自性を保ち続け、交易によって富を得るに至り、基礎をもとにして建て増しがされ、現在の形となりました。内部は王の私室となるため、王の血族と限られた近衛兵しか入ることが出来ません。おそらく豪華なものであるでしょうが、私たちも知らないため、あとはお客様がたのご想像にお任せいたします」
解説をしていたのは柔和な顔の女性だった。肩に掛かる程度の金色の髪に青い瞳をしている。レティスが来た時には話はもう始まっており、お城の簡単な作りと、歴史などが話されていた。
「皆さんもよくご存知ではあると思いますが、王の住まう中央エリアには、王様以外にも行政や兵舎、国が誇る魔法学校が存在しています。……お城に向かって右側。東の尖塔の奥に、ほんのり見える石造りの建物。あれが王に寄り添い、共に国を支える行政と兵舎の建物、フォルティニスと呼ばれているものです。横長の要塞のような建物になっており、周囲が森に囲まれて見えにくくなっています。実はですね……平地からフォルティニスを見ることが出来る唯一の場所が!ここ!南橋のこの場所となっておりますー。豆知識ですよー」
女性の高いテンションに起きる周囲の笑い。ちなみにフォルティニスは、建物の天辺程度であれば城壁や周囲の高い建物からも見ることが出来るらしい。王宮に比べて隠れているのは、軍事力を担っているためだそうだ。
「そして王宮右手に広がる森。そこから飛び出す三角のシルエットは、皆様もお気づきでしょう。あれこそが、全部で四棟となります……イエリア王国が誇る魔法学校!その学び舎になっている、シュールベスタと呼ばれる建物です。こちらは教育を主体に作られたもので、簡素で大きな部屋がいっぱいあると想像していただければ分かりやすいと思います。学生たちは4年間。この学舎で様々なことを勉強し巣立っていきます」
学生の数は毎年1000名程度。4学年あるので、子供だけで4000人くらいが中央エリアにはいることになるらしい。行政や兵舎を含めると、約1万人が中央エリアにいることになるそうだ。
「最後に皆様も不思議に思われている西側の建物です。ここからヴェルトディア城まで続く道の西側に、少し質素な建物が並んでいます。実は、この建物は全て中に住んでいる学生の手により作られたものなのです!」
感嘆の声が周囲から聞こえた。レティスも「おー」と思ったが、実際は少しボロい石造りの建物が並んでいるだけである。最初は王様のお城に配慮して、わざとそうやって作っているのかな?と思っていたのだが、どうも違うらしい。
「イエリア王国魔法学校において、学生による自治独立は校風のようなものとなっています。もちろん、王が定める法には反することはできませんが、学生が住まう西の森は、一種の独立領土と呼んでよいでしょう。学年ごとに西の森を領土として分け与えられており、現在見えている石造りの建物から、西に広がる森の中にまで、学生たちが自ら作り上げたそれぞれの街があります」
学生達は与えられた領土に住まい、学舎で学び、訓練場で汗を流して成長していく……。それがイエリア王国魔法学校というところらしい。そういえば、ジートから否が応でも外に出ないといけなくなる……と言われていた気がするが、関係していたのだろうか?
「年に一度行われる開城祭では、その街へ遊びに行くことも出来ます。皆様ぜひとも、その時には私達一同、ご贔屓に願います」
ガイド案内していた女性の隣に、仲間と思しき人達がズラリと並ぶ。
30名以上はいるだろうか。その中には、レティスに最初に声をかけてくれた赤栗毛の男も入っていた。
本当に最初の案内料はお気持ち程度で、ここから更に分かれてこの付近や街の中をしてくれるプランもあるらしい。さらに集まっているお客を集めて、映像記憶魔具装置ポログラムスフィアで記念撮影も可能……とのこと。
レティスは人混みに紛れようとしていた、赤栗毛のお兄さんを捕まえた。
「すいません。ちょっとお兄さん、お聞きしたいことがあるのですが……!」
「あー、さっきのお嬢さんか」
なんとも人懐っこい笑みを浮かべる人だった。
お姉さんへの解説のお礼とお兄さんへの質問を兼ねて、100エルを手渡しする。
「ありがとう。で、何を聞きたいんだい?」
「あの装置は何ですか?」
レティスは、映像記憶魔具装置ポログラムスフィアと呼ばれた装置を指差した。
「いやぁ、運がいいね。あれは最近仕入れたもので、隣国であるアルノードで開発された装置なんだよ。なんでも、光を纏いし青大玉が埋め込まれた古木の神秘……、という謎のロマンを追い求めたとある魔法師が、偶然開発したものみたいでね。なんだかよく分からないが出来た、的な非常にレアな装置だ」
「アルノードですか……」
アルノードは、イエリア王国からずっと南へ下った場所にある大国である。球の砂漠と呼ばれる乾燥した土地にあり、独自の魔法国家を作り上げ、共和国のような集まりを形成している。
彼らの特徴は金の瞳……と変わり者ということだ。魔法という自由な創造性の爆発か、ときおりこうしてヘンテコな魔具が紛れ込んでいたら、だいたいアルノードから来たものでると思って間違いない。
「俺たちは通称スフィアと呼んでいる。名前の通り、背景をバックに映像記憶を残せる装置だ。ちょうど立体通信魔法の一時停止&背景入り……といったところだな」
「……なるほど」
と言ったものの……少し想像しづらいものである。
「本来は珍しい物好きな王様の私物なのだが、王宮に置いていても宝の持ち腐れ。こうして人々が楽しめるようにと、特設ステージまで作って貸し出してくださっている。まぁ、ステージ自体は盗難防止用の警備と防御魔法のためでもあるが……」
「おー」
レティスの中で王様の評価が一つ上がった。
水路にせり出していたので、いいのかなぁと思っていたわけだが、王様の私物が置いてあると思えば納得できる。ここは王様が用意してくれた映像記録スポットと言って良い場所なのだろう。
「百聞は一見にしかずってやつだ。やってみたほうが早い。スエル嬢―」
男が手を上げると、先ほど解説をしていた女性がやってきた。
美しい人だった。金色の髪に、青色の瞳。先ほどは人混みの先に見えた頭のみで分からなかったが、ひと目で目を奪われるような、理知的で落ち着いているが、どこか魅惑的な姿をしていた。
「呼びましたか?ダスト。おお、これはなるほど……」
「はい。スフィアにちょいと興味を持ってくれたみたいで。一枚たのんますわ」
「うーん。可愛い。ぜひこの子を被写体にプロムを作りましょう」
キラン。と目尻を輝かせて、女性はパンと両手を打ち合わせた。
見惚れるほどニコリとした笑顔のあと、半ば引きずられる勢いで連れて行かれる。
あとからダストと呼ばれた男も付いて来てくれたので、今回はちょっと一安心だ。
「はーい。ここに座ってー、この青い結晶石を見てね」
「は、はーい」
「笑顔で~ニッコリ~。いいわねぇ。もう一枚、今度は角度ちょっとあごを下げて、視線は上向きにー」
「……は~い」
言われるがまま、衆人環視の中、レティスは可愛い笑顔を炸裂させていた。潤んだ子猫のような。ぴくりと怯えた野うさぎのような。時に優しく、時に切なく……はぅ、母性を、そう!刺激する!いいその顔!……途中からどんな顔か想像も付かず困惑したが、レティスは頑張った。
ノリノリで装置を触りだしたら、人格が変わったように要求が止まらなかった。
「スエル嬢―、次のお客さん待ってますから」
「はっ!私としたことが……」
ヨダレでも出ていたんじゃないかと思うほど興奮していたが、ダストのおかげで助かった。
女性は落ち着きを取り戻し、手慣れた様子で不思議な装置を操作していく。球の青色結晶から、強く青い光が伸びて、装置に置かれた小さな白色結晶へと集積していった。全て魔法による制御であろうが、仕組みは全くわからない。
「ほぃ。おつかれさん」
女性から離れた場所で、ダストから手渡されたのは、少し厚手の紙だった。そこには、背景にヴェルトディア城が映った笑顔のレティスが映っていた。目で見たような風景そのまま映っており、絵とは比べ物にならない精巧さがある。
「こうして紙に出力するのを、俺達はプロムと呼んでいる。初めて映像記憶魔具ポログラムスフィアを見る人のための……宣伝用ってかんじかな。これは本来オプションでやるもので、ちょっと高価だ。通常はアノース思考結晶装置を使用して立体表示する」
ダストが取り出したのは、レティスも持っているアノースカードだった。
学生用よりも若干大きいものだが、青半透明のカードであるというのは一緒だ。
そして、もう一つ。小指の爪ほどの、白い半透明の結晶を説明するようにレティスに見せた。
「この結晶を端末に引っ付けて画面を出すと、さっき撮った映像をアノース結晶に移動する事が出来る。で、こいつで立体表示をさせてやると……」
ほら、この通り!と空中にカラーで表示されたのは、先ほどの写真の数々だった。
「便利なものですねー」
「これぞエイリア様の恩恵というやつだな」
どうやらアノースカードは、こういった使い方も出来るらしい。
表示された映像は立体的なので、上下左右ある程度までなら、角度を変えて見ることが出来る。田舎育ちのレティスから見れば、すごすぎてよく分からない技術だ。
「……あの、ダストさんお金は……」
「ははは。子供はタダだよ。……だけどちょいとお願いがあるんだが、嬢ちゃんのプロムを紹介用に使ってもいいかな?他のお客さんに説明するときに、ちょっと見せるだけで」
「それなら別にかまいませんよ」
「そうか、ありがとう。助かるよ」
ダストの人懐っこい笑顔に、レティスも笑顔で頷いた。
内心はお金の心配だけをしていたので、ホッと胸をなで下ろしていた。
タストから白い記憶結晶を受け取り、レティスはお礼を言ってそそくさと立ち去った。
「……ふぅ。まさか自分が14歳って言えないよなぁ」
スフィアの使用料金は一回で2万5000エル……。これは一人だろうが、複数人であろうが、一律料金であるらしい。カップルや家族、自分の一人旅の思い出に……ならばなかなか悪くない気がするが、今のレティスからすれば絶句するほどに高い。
ちなみにプロム一枚が大きさによりけり1万エルからとなっていて、白色結晶である記録結晶はお持ち帰りで3000エルとなっていた。
「まぁ、本来は先払い制だろうな」
これが悪い相手ならば、金銭を要求されても仕方がなかったかもしれない。
流石は王都というべきか、レティスも知らない様々な商売があるものだ。
次からはああいった押し売りにも注意しよう、そう、レティスは心に誓った。
後日、レティスが街を歩いていると見知らぬ人達に「あっ、プロムのあの子だー」と指さされるようになったのは、自業自得であった。