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イエリア王国物語(仮)  作者: 志染
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レティスはジートに案内されて、王都バルディウスの南エリアを歩いていた。


南エリアは主に荒くれ者の多い、冒険者と交易の街である。

エリア中央には大きな空き地、大市場があり、それを起点街が作られている。


基本的に街の中の道路は、灰色の石レンガを敷き詰めて作られており、東西南北。どこの街でも道は同じような作りであるようだ。だが、建物の雰囲気については違いがあるらしい。


冒険者の多い南エリアでは、どこか統一性もなく雑然とした感じの建物が多いそうだ。石造りの重厚なものもあれば、木と布で作っただけの簡素なものもあり、山賊のアジトのような小煩い迷路のような場所があるかと思えば、区画整理された高級住宅のような、閑静な場所もあったりする。


総じて場所によりけりの治安と喧騒があるそうだが、多く場合は冒険者ギルドの縄張りによって、街のカラーが変わる場合が多いそうだ。


ジートの家に向かって歩くこと30分。蜘蛛の巣のようにクネクネと彷徨いながら、ようやく目的地にたどり着いた。

南エリアの主要な大通りから幾つか折れ曲がり、それなりに広い通りへ出たところで、そこから直角に規則正しく伸びたとある道の中ほどにある家だった。


白砂を押し固めたような塀に囲まれた立派な一軒家で、周囲の家も趣きに違いがあるが、みなどれも高級そうな建物が並んでいた。


ジートの家の入り口は、玄関が精緻な花の意匠があしらわれた鉄柵になっており、歩いて近づくと、仕組みは分からないが、それが音もなくゆっくりと内側へ開いていった。庭の奥行きはレティスの家が二つならんで入るほど広く、門から玄関まで中央に伸びる道の左右には、広場のような青々とした芝生が広がっていた。


オシャレなアーチ型の玄関から家の内部へ入ると、ふわりと天然樹木の良い香りがした。部屋全体は白を基調としながらも、床は滑らかな天然の木が敷き詰められている。白い壁は外の塀に使われていた白砂ではなく、どうやら結晶のような光沢と独特の文様を有した石のようなもので出来ており、窓側に置かれた植物プランターの緑との対比が美しかった。


「……びっくりしました」


道中ポカンとしていたレティスがようやく感想を述べたのは、二階まで吹き抜けになっている居間まで案内されて、ふわりとした横に長い白いイス、ソファーと呼ばれるものに座り、天井を見上げたところだった。部屋が白っぽいので、天窓からの太陽光がよく広がるのだろうか、部屋全体が驚くほど明るい。


レティスとジート。向かい合うように座った二人の間には、茶黒のテーブルがあり、中央にちょこんと小さな赤い花が入れられたガラスコップが置かれていた。テーブルの材質も鉱石のようだが、とても不思議だ。ただのテーブルなのに、周囲の余分な光を吸収しているような落ち着きを感じさせてくれる。


レティスの記憶にあるかぎり、このような豪華な家と部屋と言って思い出すのは、ノルマン領のフォント侯爵の屋敷ぐらいだろうか。あちらはあちらで、要塞のような灰褐色の重厚な石作りで、調度品も多くもう少し重苦しい場所だったと記憶している。こちらはそれに比べて簡素で明るいので、どうにも比べにくいところであるのだが……。


驚いていたレティスに、誇るでもなくジートが説明してくれた。


「俺の両親は元々冒険者だったんだよ。赤き不死鳥と呼ばれるギルドで、隆盛時にはそれなりの規模だったらしい。この国には元々傭兵としてやってきていて、父は剣術、母は魔法が得意だった。そしてちょうどその頃も国にスカウトされて、二人は中央エリアで教師として働き始めたそうだ。まぁ、今は引退して二人でのんびり外国を旅行中で家にはいないが……。この家はその遺産という訳だ」

「はー、お金持ちだったんですね」

「まぁ、南エリアならそれほどでも無いさ」


田舎から来たレティスに豪邸にしか見えないが、ある程度稼ぎのいい冒険者や商人であればこの程度は普通と言えるらしい。南エリアは金回りが最も良い場所であり、比較的良い物件が安値で手に入ることもある。ここはそういう場所の一つだそうだ。


「という訳で、ここには俺と妹のセシルが二人で暮らしている。俺のお気に入りは庭だな。これだけ広いと鍛錬がしやすいと思うぞ?ちなみにセシルは風呂が気に入っている。確かに無駄に広い」

「なんともですね」


野生に憧れ、なんちゃってサバイバル生活を楽しんでいたジートからは、全く想像出来ない物件だった。見た目だけならかっこいいので、この家が似合わなくも無いとも思うのだが……、先ほどの南門の喧騒からすればここは別世界と言っていいだろう。


「セシルも出掛けているみたいだし、紹介はあとだな。居間がここで、そこがキッチン、トイレとお風呂はあっちのほうで、そこにある階段から二階に行ける。二階に空きがあるから、そこをレティスにしばらく使ってもらうつもりだ」

「はい。分かりました……」


さすが王都と言うべきだろうか、この家は居間にいながら部屋の説明が出来るほど、見通しが良い作りになっているようだった。田舎育ちのレティスにとっては、なんとも落ち着かいない。お風呂とトイレが一つ屋根の下にあるだけで、高級宿のようなものなのだ。


「家では特にルールもないから好きにしてくれ」


と言われてもすぐにくつろげるはずもない。


「ジートさん。んーと、あの。お金とかは……?」


それより心配になるのはお金だった。自給自足の村であったので、特に根が貧乏性なのだ。

道中仕入れたお金はジートと山分けしていて、大体手持ちが8万エルほどある。だが、10日以上も街で生活していくとなると、少々心許無い気がする。


レティスの持ち物はせいぜい替えの服と小さなナイフ、簡易食料程度である。

ここが森の近くなら、すぐにでも食料や売れるものを探してこれるが、街の中だと話は別だ。稼ぐ手段がすぐにないのである。


「ああ。宿泊や食事は気にしなくていい。他に滞在しているやつらも、基本的に無料だしな。それに、レティスにはここでやってもらいたい事があるから、俺から給料を払ってもいいぞ」

「給料ですか?一体なにを……」

「レティスの特技を活かしたものだな」


森の中でのギブアンドテイクの続きだろうか?


「という訳で、レティスには初めてのお使いに行ってもらう」


要は小間使いということらしい。こちらの返事も待たず、一度キッチンへ姿を消したジートが、紙と羽ペンを持ってきた。スラスラをインク付けて、綺麗な文字を書いていく。


「レティス。アノースカードを出してくれ」

「あ、はい」


首紐から茶巾袋を取り出し、半透明青色のカードを取り出した。


「ここでの生活はアノースカードが大切になってくる」


ジートがカードに触れて、「地図・現在地」と言った。

カードから王都の全体図が目の前に浮かび上がり、現在地と思わる場所が点滅した。


「今のが音声認識だ。アノースカードの使い方は魔法を使うのによく似ている。やってみろ」


ジートがカードから手を外すと、映像も消えた。

今度はレティスが触れてみるが、同じように言ってもうんともすんとも言わない。振っても揺すっても、謎の力を込めてみても画面すら出てこない……。


「アノースカードは体内の魔力で起動する。普通は触っただけで画面が出るはずなんだが……」

「……何も起きません」

「うむ。たまにどうしてもダメな奴もいるらしい」

「ええー」


ガーンという効果音が体から出るほど、レティスはショックを受けていた。

魔法に魔力。レティスにとってはどこまで行ってもつきまとう問題であるようだ……。


「言っただろ?便利なものは頼りになるが、その程度でしかない。アノースカードが使えないならば、それ以外で補えばいいだけだ。考える事をすぐ放棄していては、同じことを繰り返すぞ」

「そ、そうでした」


現在地程度なら、地図を覚えればいいだけの話だ。アノースカードが生活に大切と言っていた気がしたが、今は聞くのをやめておこう。


「まずは服だな。運動がしやすい、旅服でもいい。丈夫なやつを数枚。勉強用の紙とペン、学校ヘ持って行くための鞄があっても良さそうだ。あとはそうだな……、今夜の食事はレティスに任せよう。セシルとの自己紹介も兼ねてな。どうだ?」

「それはもちろん構いませんが、出来れば食事の好みとか教えてもらえると」

「うーん。鶏肉を使った料理がいいかな。野菜スープみたいな?」

「セシルさんの好みですよ」

「多分同じだ。兄妹だしな」

「……分かりました」


ジートがご所望なのは、おそらく野菜と鳥のハーブ焼きだろう。道中にすごく気に入っていた料理の一つだ。となると、荷馬車と共に鍋を売ってしまったのが少々悔やまれる。ここはジートの家なので、あとでキッチンを少し漁らせてもらおう。


買うものリストを預かり、レティスはジートの家を後にした。

出掛けにキッチンを見せてもらったが、予想以上に道具は揃っていた。なんでも妹のセシルさんも料理をするらしい。下手なものを出して、残念に思われたくはない。料理の難易度がちょっと上がったが、よろしい。ここはひとつ、森の子レティスの本気を見せてさし上げるとしよう。


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