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イエリア王国物語(仮)  作者: 志染
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「では、学生番号825。レティス・クローゼェル。前へ」

「はい!」


麗らかな日差しに照らしだされた訓練場に、多くの学生が集められていた。

彼らはイエリア王国魔法学校へ入学する、今年14歳になる生徒たちである。

王都に住んでいる者もいれば、違う領地から来る者もいる。


全てが平等となる学び舎で、レティスは最初の試験を受けていた。


魔力球測定装置グールガーウ。


半透明の飴色の球体である。レティスの背丈ほどの大きさがあり、チョコンと台座に乗っていた。内部が向こう側までぼんやりと透けていて、その中には小さな光の粒がポツリポツリと動くのが見えている。


生徒はこれに手を付けて、己の魔力を注ぎこむ。


「はぁっ」


隣の生徒が声をかけて魔力を注ぎこむと、球体の中の光が輝きを増して、次第に形を作っていく……。


ある者は輪っか状に。ある者はモヤモヤとした雲のように。あるものは丸、三角、四角……っぽい何か、生徒の魔力量と魔法属性によって無限大の表示がされていく。


「レティス・クローゼェル。早くやりなさい」

「……あの」


試験官のおば様が、キツイ顔をしてこちらを見ている。

ピッチリとした黒服は、魔法学校の教諭用の制服の一つだ。


「触っているだけじゃ駄目なのよ?ちゃんと魔力を込めなさい」

「すいません。無理です」


レティスが謎の力を体中に込めて送り込んでいるが、グールガーウは何の動きも感じられない。いや、少しは光の粒の速度の不規則さが……増した気がする!


「……真面目にやってくださる?時間がないのよ」

「……」


気がつけば、他の生徒にも見られている。

14歳には思えない幼い容姿の男の子が、必死にウンウンと唸り、後列に渋滞待ちをつくれば当然であろう。ちなみにこの試験は本来10秒ほどで終わる程度のものである。


1分……、2分……、5分……。


皆の視線が、物珍しさから諦めと苛立ちに変わるころ、ようやくレティスは開放された。


「真面目にやらないつもりなら、それで結構です!あなたは0点です!良かったですね。いち早く結果が分かりましたよ」

「……はい」


トボトボと歩くレティスは、最初の一歩にてすでに脱落が決まった。


「流石に凹むよな……」


最期は見世物のように人が集まり、ある者はレティスを不真面目と罵り、ある者は笑い、ある者は哀れみの視線を送ってきていた……。


この日、レティスはイエリア王国魔法学校の入学試験に来ていた。

当初聞いていた通りの三つのテストを行う予定なのである。

その一つ……魔力をみるグールガーウのテストで0点を言い渡され、暫定ドベの称号を手に入れた2次試験は筆記テストであった。


国語、算数、魔理学、社会、生活と言う5項目に、アンケートと呼ばれた白紙が1枚配られた。

広い教室には教壇に黒板があり、規則正しく木製の机と椅子が並べられ、学生達が一心不乱にペンを走らせている……。


「(これで少しは挽回しないと……」」


あっと気がつけば、テストも終わり解答用紙が集められてしまった。


「黒板に書いてあるが、アンケートは自由記載だ。俺たち教師に自分の事を書いてくれてもいいし、チームの要望などでもいい。もっとも、決めるのはお前たちの成績と教師全体の意見となるため、全てが希望に添えるわけではないと最初に言っておく。白紙でも構わんぞ。1時間後に回収するからそのつもりで……今からは休憩時間だ」


まだ年若くみえる教師の男が扉を開いて出て行く。押しでも引きでもない、開き戸という珍しい構造の扉だった。


教師がいなくなって静寂が少し支配したが、そこは年若い若者たちである。次第に互いが話し合い、ざわめきが大きくなっていった。


「……はぁぁ」


そんな中、大きく溜息をついてレティスは突っ伏した。木製の板は滑らかで、ひんやりとしていてどこか独特の匂いがした。


白紙の用紙を前に、考えているのはセシルの事だった。

出来れば……彼女と同じチームになりたい。

だけど、どうかけばいいのかわからなかった……。


悶々と何かを考えて唸っていると、レティスの肩が軽く叩かれた。

ビクリとして起き上がると、一人の男の子が立っていた。


「よう。我らが0!魔法試験見てたぜー」

「ちょっと、いきなりやめなさいよ」


陽気に笑う男の子は、随分と日焼けした男の子だった。見事なまでの白髪に赤黒い瞳をしている。野性的な見た目とがっしりとした体つきをしているが、笑う顔はどこか幼い愛嬌のようなものを感じさせた。

そんな彼を止めたのが、絹色のウェーブの髪に青い瞳をした女の子だった。少しタレ目で背もやや低く、男の子から比べると子供のようだった。最もレティスのほうが背は低いだろうが……。


「ごめんなさいね。私はリンゼ。リンゼ・ミシュラン。こっちのバカはカゼット・ウォールよ。よろしくね」

「レティス・クローゼェルです。よろしく」


互いに握手をする。

レティスが立ち上がろうとすると、やんわりと椅子に戻された。


「まぁまぁ、座っててくれや。試験では笑ってすまんかった。と一言謝りたくてな」

「私もずっと見させて頂きました」


彼らの言葉に反応して、レティスの周りに人が集まってきた。試験で14歳とも思えない子供……しかも魔力試験で前人未到の0点と言い渡された小さな男の子というのは、すでにちょっとした伝説になりかけているらしい。


「色々な奴もいるけどな。でも俺はお前が気に入った。だから声をかけようと思った」

「……何も出来なかった気がしますが?」


値踏みするような視線は、意地が悪そうだった。捕食動物を前にした草食動物……兔のような立場のレティスであるが、こういった経験は人生でも多い。逆にキッチリと見返してやった。


「お前さー。あれだけ集まった奴らに見られて、陰口叩かれてもさ。一切手を抜こうとしなかっただろ?」

「一生懸命やることだけは……諦めたくなかっただけですよ」


ダメと言われても。無駄と言われても。手を抜いた自分だけは認めたくない。


「俺は分かるつもりだ。一生懸命な人間ってやつを。あれは演技じゃなかった。だから、そこがちょっとは尊敬した。ほんのちょっとだけどな。今ここに集まった奴らも、それをちゃんと見てたやつらさ」

「えっ?」


驚きで周りを見れば、いつの間にか人だかりが自然と出来ていた。

自己紹介をする者、ナイスガッツだった!と声をかけてくる者。本当に14歳なのと撫でてくる者まで様々だが……自分の頑張りを見てくれる人がいた。レティスの胸に少しだけ温かい気持ちがこみ上げてきた。


「それでさ?王都でもちょっと話題になってた『ちっこいやつ』ってお前か?」

「……はぁ?」

「ちょっと、カゼット。もうすこし丁寧に説明しないと……」


周りの喧騒が次第に謎の話題で広がっていく……。

首を傾げるレティスには、全く分からない話題だった。


「王都にやってきた小さな男の子の話が、私達の中で話題だったんですよ」


リンゼと言う少女が、説明をしてくれた。


なんでも、田舎から来たその小さな男の子は、魔法学校へと入るまでの暇つぶしに弱小ギルドヘ入り、北エリアで秘密裏に行われた植物の魔物化という、危険極まりない実験を突き止め、それを見事解決!魔法師を拘束したそうだ。


その際にあがいた魔法師が、魔物を解き放ってしまったが、それにも慌てることなくギルドメンバーと共に迅速に対応して、地下水路の奥にまで入りこんだ魔物すら命を賭して戦い、自身は重症を負いながらも生還したというものだった。


「確かにその事件には関わっていますけど……魔法師を捕まえたのは僕ではありませんし。ギルドメンバーの方がいなければ、何も出来ませんよ?魔力0ですからお分かりでしょう?」


無駄に広がる喧騒は、賞賛と懐疑が重なって広がっていく。

こうした尾ひれは、早いうちに修正したほうが良いだろう。やったこと、やってないことを明確に説明し、事の詳細を正しく説明した。


「ふーん。でもさ、そういうのってやろうッて思うやつがいないと、きっと何も起こらなかったんじゃないかな?放って置いたら今頃もっと大事件になった可能性もあるだし……。もっと誇っていいんじゃないのか?」

「結局は運が良かっただけです」


カゼットの賞賛を、レティスは切り捨てた。

事実、あの場にカゼットがいたほうが安全に解決したような気がする。


「実はそれだけじゃないんですよ?これ!」

「あっ」


リンゼが持つプロフと呼ばれる厚手の紙。そこにはヴェルトディア城をバックに、まだこの王都へ訪れて間もない少年が、無邪気な笑みを浮かべている様子が写っていた。


これについては多少知っている……。街の中を歩いていると、突然指さされることがあったからだ。どうやら一等観光地にある、映像記憶魔具装置ポログラムスフィア。通称スフィアの実用例として、レティスのプロムが使われているらしいのだ。


なんだかんだと忙しくて、抗議に行くのをすっかり忘れていたが、レティスの写真は心癒されるということでそこそこの人気があるらしく、こうして持っているものもいるらしい……。


「この無垢な子が、噂の男の子じゃないか?ってそれはもう。気になっておりました。こうして本物に会えて光栄ですわ」

「それはどうも……」


なぜだろう。とても複雑な気分だ。自身が知らないところで、何かが勘違いされているとしか思えない……。


「ちょっと期待はずれだったけどなー」

「黙れカゼット!」

「……あはは……」


あっけらかんと言ってくれるだけありがたいかもしれない。レティスの功績云々は、所詮はメッキなのだ。早めにみんなが正しく理解してくれたほうが、動きやすいというものだろう。


「でさ、最後に質問なんだけど……」


みんなの質問が集まった。周囲の喧騒も……とこかなりを顰める……。


「おまえはセシル・ムーザックと知り合いなのか?」


質問の答えに、レティスは迷わなかった……。


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