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イエリア王国物語(仮)  作者: 志染
13/19

13

「ひぃぃいいいい」

「まるで成長していないじゃないか!」


朝日が登る前に起床し、朝のランニングが5km、腕立て、腹筋、背筋、スクワットが200回……筋肉痛があまりないのは若いからだ!たぶん。


「セシルの料理の腕だって、一日じゃ成長しないだろ?」

「……ほぅ」

「あっ」


ついつい出てしまった本音が、セシルの琴線に触れてしまったようだ。


「料理では世話になったな!ならば実践訓練も入れてやる。ありがたく思ええええ!」

「死ぬ。今その攻撃は死ぬ」


上下左右、繰り出されるパンチとキックを必死に避ける、というか後ろへひたすら下がっているだけである。必死なガードも虚しく、派手にふっとばされたのは、体が軽いからで、別に威力軽減のために飛ぶとか特別なことをしたわけじゃない。


ゴロゴロトスン……。もう嫌だ。料理も優しく教えないでスパルタにしてやる。

やられたらやり返す。密かな決意を胸に、レティスの朝は始まるのだった。


「はぁ、死ぬかと思った……」

「ふん。まだ鍛錬にすら入っていないというのに」


早朝鍛錬が終わったら日課となりつつあるシャワーを浴びる。

レティスの体には、無数の生傷が刻まれている。全てセシルのせいである。


「鞭とかは絶対やめてよ。やったら次は本当に怒るからね」

「……それは反省している」


初日の鞭は、軽く肌を切り裂いていた。今も傷跡が残っている。

とまぁ、一度お風呂に入ったら、二度も三度も同じなのか、一緒にシャワーをあびている。

もちろん全裸だ。


「そういえば?昨日、最後に明日もよろしくと言っていなかったか?」

「セシルもそう聞こえた?やっぱりか……暇だし行ってみる?」

「うむ。ギルドの仕事というのも、悪くないものだ」

「じゃぁ、ご飯食べたら行ってみよう」

「うん、分かった」


二人で着替えて食事をし、一緒に出かける。


ギルド叢雲のギルドホールは、家から歩いて15分程度のところにある。

南門の近くにある場所であり、そこは弱小ギルドと呼ばれる少人数のギルドが、群れるように集まって生活していた。


基本的に自由奔放な彼らは、のらりくらりのその日暮らし。


ギルドランクは大体が最低ランクのE、もしくはひとつ上のDであり、冒険者ランクも同じくD以下となる。討伐任務等を請け負う、叢雲のギルドリーダーロイドやレイチェル、ハウルにチェイスは個人的な冒険者ランクでいえばCランクとなるが、それはここにおいて稀なランクであり、エリートと言っていい。


「「「それ、かんぱ~い」あはは」っす」

「……美酒佳肴」


まだ日も昇って間もない時間である。

レティスとセシルが目にしたのは、昨日の稼いだお金を散財し、お酒を酌み交わすバカ四天王。酔いが分解出来る奇跡の薬。ハット特製アロアロの粉を片手に、酒盛りをしていた……。


「おはようございます。みなさん」

「まさか……こんなバカなことを……」


入り口から、黒きオーラと白銀のオーラが場を侵食していく。四バカの体を舐めるように、侵すように、今、セシルは怒りのあまり水魔法を発動させて、体からはじけさせていた。レティスも今なら何かの魔法が使えそうなほど、怒りに肩を震わせていた。


「違うの、夜通しじゃないの。だってお祝いなのよ。ね?」

「そ、そうだ。Eだった俺らが昇格したんだ」

「Dっすよ!気分はオールッス」

「……心願成就」


総じてある程度の実力はあるものの、どこかダメな人達なのだ。

それが愛嬌ある人間味といえば、頼もしくもあるわけだが……。


四バカの口にアロアロの粉を突っ込み、ギルドホールの建物前に正座させた。

掃除が終わるまでの反省の時間である。子供に手伝いをお願いしておきながら、自らは朝から酒盛りとは、ありえない愚行である。

朝っぱらから何事か?と、物見の人達が出てきていたが、少しはこれに懲りて反省してほしいものだ。


レティスとセシルは酒瓶や食事を手際よく片付けて、簡単なお弁当に仕立て上げた。捨てるのも勿体無かったからである。

片付けが終わると、足が痺れたという四人に縄を括りつけて引きずる気持ちで、キルド組合まで連行していった。


ギルド組合は南門からみて西側に位置している。

中央大通から少し入ったところにあり、歴史を感じさせる重厚石造りの威厳ある建物である。大きなアーチ扉から入るとすぐに広いホールになっており、各種依頼票が貼り付けられたボードや待機ソファー、受付カウンターなどがズラリと並んでいる。


ここは多くの冒険者が出入りする場所であり、早朝にも関わらず人は多かった。

そんな人混みの中から、顔見知りであるアルメニアを見つけ、レティスとセシルは彼女の下へ向かった。


「おはようございます。レティスさん、セシルさん」

「「おはようございます。アルメニアさん」」


ギルド組合につくと比較的シャッキリとしていたので、四バカは自由に行動させた。さすが腐っても冒険者、こういう場に来ると情報が気になるらしく、掲示板などを見て回っている。その姿は本当の冒険者のようだった。


「昨日はお疲れ様でした。一つでも大変な依頼を三つも。これには職員も驚いておりました」

「たまたま上手く歯車が重なったといいうか……」

「うーむ。難しいところだな……」


レティスもセシルも考えこんだ。

その姿が面白かったのか、アルメニアもクスクスと笑っていた。


「そうそう。お二人の冒険者カードも正式にこちらで作らせていただきました」


赤い半透明のカードだった。聞けば、学生用の青いアノースカードと同じような機能があるらしい。


「冒険者専用端末。フォースカードと我々は区分して呼んでいます。機能はアノースカードに近いですが、冒険者専用掲示板や専用情報へのアクセスが可能です。思考結晶技術はイエリア王国独自のものであるので、効果範囲は領土内と限られますが、イエリア王国を拠点にされるならば非常に便利なツールになるでしょう」


それぞれカードを受け取った。案の定というべきか……、レティスでは全く反応を示さない……。


「ふむ。私が触れておこう」

「ありがとう。セシル」


アノースカードもフォースカードも、魔力によって起動する。魔力がほとんど感じられないレティスは、魔力がほぼ無いということだろう。カードを起動させることが出来なかった。


逆に言えば、誰かに触ってもらえさえすれば使えるということで、よくセシルに手をそえてもらっていた。彼女のさり気ない優しさを感じる瞬間である。

そんな二人の雰囲気に瞳の奥を輝かせたアルメニアであったが、持ち前の営業スマイルで押し込めた。


「コホン。冒険者カードの項目で、ギルドランク、冒険者ランクの項目を見て下さい」


レティスとセシルは言われるままに操作した。

文字は全て立体表記であり、手で触れる仕草をすれば反応してくれる。


レティス・クローゼェル

ギルド 叢雲 ランクD

冒険者ランク E

詳細


セシル・ムーザック

ギルド 叢雲 ランクD

冒険者ランク E

詳細


「ぼくたち名前言いましたっけ?」

「冒険者ギルドの情報網は、ほぼ王都であれば網羅しておりますので。オホホホ」

「きっと私達のような魔法学校ヘ入る者は無条件でチェックされているのだろう」

「さすが未来の人材!ご明察です!」


セシルの指摘に、悪びれることなくアルメニアは頷いた。

詳細を押すと更に細かい項目が出現し、戦闘技術だけでも体術から各種武器まで、更に闘うロケーション、平地、水上、山岳、雪上、熔岩……etc。本当に細かな分類がされていた。全部Eとなっている……。


「コンプリート目的で頑張る冒険者さんもいるんですよ?一度あがったランクは滅多に下がりません。年老いたり、ケガをしたりすると、自動的に下がる場合もあります。その場合は最高ランクを戦闘技術B(max A)と表記されるように配慮されています」

「……誰がそんな詳しくランクを測定しているのですか?」

「機密事項です」


ニッコリ笑うアルメニア。よほどこの答えを言い続けてきたのだろう慣れを感じる。


「最高はSランクになりますが、功績に応じてSS、SSSという物もあります。もっとも、国を滅ぼす邪龍退治や戦争の大英雄。歴史に残る偉業を残した場合だけなので、普通の冒険者として目指すのはAランクでしょう。Aランクとなれば、国外からも声がかかります。イエリア王国ならば自らのギルドを作り、大ギルドの仲間入りすることも夢ではありません」

「ふむふむ」

「ちなみに私の両親が入っていた赤き不死鳥はAランクだったぞ!」


得意満面の笑みを浮かべて胸を張るセシル。普段は謙虚な彼女が誇らしげに語るのは、非常に珍しく、アルメニアの方は何やら感動しているようだ。


「赤き不死鳥!?懐かしい大ギルドですね。ご両親が……なるほど、素晴らしい」


カウンター越しに掴みかからん勢いで興奮していた。

それほど有名なギルドだったのだろうか……?


「赤き不死鳥は冒険書になるほど、有名なギルドです。小さなギルドメンバーが、偏屈なお金だけに興味ある女の子と出会ったことから始まって、冒険を通して人として成長し、そして、仲間が仲間を呼び、更に成長していく……。ダメになっても、ケンカしても、何度でも蘇るのです。そして栄光の隆盛を築き上げました。おっと、自然と涙が……」


感動的に話すアルメニアに、近くの冒険者も頷いていた。そんな有名な話なら、いつか読んでみてもいいかもしれない。暇だったらだけど……。


「よく、両親からも聞かされていた……」

「ごめん。話が長いから家で聞くよ」

「……むぅ」


ホッペを引っ張られてもしょうがない。目的は依頼を受けに来たのだ。


「荷馬車の摘発依頼についてはお話したとおり、他のギルドをすでに派遣しています。よって、残りは地下水路配管点検となるわけですが……これも厳しい仕事になりますが?よろしいですか?」

「具体的な仕事内容はどうなりますか?」

「それについてはこちらの資料になります」


アルメニアから資料を受け取った。


「地下水路は王都の下から支える大動脈です。この平原一帯には、北西にある山脈の雪解け水、その伏流水となる地下水が流れています。飲料となるものは、基本的に魔法で作るのが一般的ですが、魔法が苦手な市民や家畜などは、この地下水が利用されています」


王都の図と、大体の地下水の通り道が書かれてあった。

この図によると、中央エリアを囲んでいた水路やエリアを分ける水路なども地下水を利用しているらしい。


「雨水や生活排水、特にこの場合は汚水になるのですが、これらが地下水に入らないよう、王都の地下には専用の地下水路と排水管が設置されています。これらは王都から抜けて、遥か東、ウォンド平原で灌漑として農耕に利用されています」


図を見るとかなりの距離があるように感じる。


「この排水管に老朽化や整備不良により漏れが生じると、地下水を汚染してしまいます。汚物が混ざった地下水が、病気の原因になるのはよくご想像出来ると思います」


レティスもセシルも頷いた。普段は見えない場所に、このような地盤があったことが驚きでもある。この王都住むには便利な場所だった。キッチンもお風呂もトイレも水で流して終わりだ。


村では汲み取って作物に使用していたが、レティスの疑問が一つ解決された思いであった。


「しかし……今回の依頼は、業者以外にも二重チェックを目的とする依頼です。簡単な補修指示も入っていることから……、おそらくですが、どこか破損している可能性が高いでしょう。そういった汚い、もしくは難しい案件が、ギルドに投げ出されることは多いのです……」


アルメニアの表情はすぐれない。

見えないところだから、誰も気付かない。業者も手を抜く……。

結果起きた軋轢が、無視できないところまで来てしまったのだろう。


「うちには土に強いスペシャリストも細工も得意な人もいます。何とかやれるだけやってきますよ」

「うむ。修繕雑用を通じて、王都を学べる機会はなかなか無い。是非ともやろう」

「うう。お姉さんを泣かせないで下さいよぅ」


アルメニアは涙もろいのだろうか、感動の涙を白いハンカチで拭っていた。


「ですが、汚水漏れの可能性があるとすれば……素人だけの集団では危険があります。こちらでも専門の知識を有した人員を用意させていただききますね」

「分かりました」


レティスとセシルがギルド組合のホールで待つこと1時間ほど。

例の四天王へも仕事の内容を説明し、段取りを皆で話していた頃だった。


「おう。てめーらか、俺を呼びやがったのは……」


黒い鱗鎧を纏った、歴戦の戦士のような風体をした男が声をかけてきた。

身長はそれほど高くない。セシルより少し高い程度だ。隆々とした筋肉は、背中に背負う大ぶりの両手斧を見れば納得してしまう。黒ずんだ肌に、張り付くような茶色の髪、左目は眼帯をしており、縦に走る大きな傷がその原因なのだろう。残った赤黒い右目でこちらを睨んでいた。


「すいません。ガンテツさん。お忙しいところ……」


アルメニアが小走り気味に来て、深く頭を下げた。


「嬢ちゃんの頼みできたつもりだがよぉ。こいつらか?勘弁してくれ」

「彼らはきっと最後までやり遂げてくれます!」

「……ふんっ」


自信のままに見つめるアルメニアに、男は嫌な態度を隠そうともしない。

小馬鹿に笑うと、レティスたちに向かって言った。


「じゃぁ、ついて来いよ」


返事も待たずに男は歩いて行ってしまった。


「なんなのだ。あの者は……!」

「まぁまぁ。セシル落ち着いて」

「ガンテツさんはちょっと職人肌なので。ごめんなさい。でも腕は私が保証します。しっかり学んで、成長して下さい」


怒るセシル。宥めるレティス。苦笑いのアルメニア。

ポカンとした四天王を連れて、いざ、決戦ヘ向かった……!


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