11
「あー、いざって時に洞窟探検とか。絶対分かってやってるわー」
「間違いなく、ハウルの差金だな」
「俺らもいきゃーよかったすね。チョー後悔っすよ」
「……後悔噬臍」
いつもの四人だった。
弱小ギルド叢雲のメンバー、ウロイティル、ギリ、センス、ホワインルーガー。
頭を抱えるウロイティルの表情は苦悶そのもので、ギリもセンスも、ホワインルーガーも渋い顔をしていた。
「ギルド会議とか、本当に行くの?」
「知らんよ。行ったことねーもん」
「バックレやすか?自由に暮らしたいっす」
「……悠々自適」
ギルドに入っているものは、大元締めのギルド組合に加入している。
ギルド間のお役所のような場所であり、逆らうことはまず出来ない。
ギルマスが不在でしたーという言い訳も出来ないのである。
誰か一人行けばいいものだが、誰もギルド会議なんて出たことがない。
そういう仕事はいつもハウルが請け負っていた。
そんなハウルは、ギルマスのロイド、レイチェル、チェイスと四人で、洞窟に住み着いた魔物退治という、ポピュラーな仕事に都合よく出掛けている。
洞窟の難易度が高いことから、若輩パーティーである彼らは置いて行かれた。ギルドホールでのんびりくつろいでいたところへ、今回の招集命令でる。
「あ、あれ?どっかで見た子じゃない?」
「あーあの時の」
「仲間じゃないっすか」
「……安心立命」
レティスは彼らに捕まってしまった!
ギルドむらくもがあらわれた!
ウロイティルのこうげき
「ちょうどいいところに!」
レティスに100ポイントのダメージ
ギリはおいうちをとなえた!
「たのみたいことがあるんだが……」
しかしレティスはかるくうけながす
センスはおいうちをとなえた!
「きっときちょうなたいけんっすよ」
しかしレティスはかるくうけながす
レティスはなかまをよんだ!
「これからセシルとかいものなのでむりです」
セシルがやってきた!
「だれだ?このものたちは……」
ギリとセンスに500のダメージ!
ギリとセンスはしんでしまった!
ウロイティルはセシルをしらべた!
なんとか!むねはかっているとあんどする
ウロイティルはなけなしのプライドをてにいれた!
魅力が15あがった!
ウロイティルのこうげき!
ウロイティルはおとなのいろかをつかった!
「あのときのやくそくわすれちゃったの?」
レティスはだきつかれた
レティスはにげることができない
セシルはこんらんした
セシルのこうげき!
かいしんのいちげき!
レティスに1500のダメージ
レティスはしんでしまった
ウロイティルはザリオクをとなえた!
ギリがふっかつした
ギリはザリオクをとなえた!
センスがふっかつした
ホワインルーガーはちからをためている
ウロイティルのこうげき!
「かれはむらくものメンバーなのよ?」
ギリのこうげき!
「ギルドかいぎのつうたつがきてたからわたそうとおもってな」
センスのこうげき!
「なかまにこうげきとかありえないっすよ」
ホワインルーガーのこうげき!
「……龍探求風」
セシルに400のダメージ!
セシルはもうしわけなさそうにあいてをみている
セシルはギルドかいぎの紙をてにいれた!
セシルはむらくものギルドバッジをてにいれた!
レティスはむらくものギルドバッジをてにいれた!
………………
…………
……
「ねぇ、セシル?」
「うむ。なんだ?」
「僕から言うことでもないけどさ……。責任はとってね」
「……了解した」
レティスとセシルはギルド会本部へ向かうことにした。
南エリアは冒険者の街として知られている。
街道を渡る商隊の護衛任務や洞窟や森などの魔物討伐任務など、戦闘華々しいものから始まり、各種鉱物、生物、薬草などの採取、街の修繕修復や地下排水口の清掃まで……すべて行う何でも屋が冒険者という仕事なのである。
そんな冒険者達はギルド組合によって管理されており、仕事技術力と信頼によって、事細かなランク分けがされている。
コミュニティとしてのギルドランク。
個人に分かれての冒険者ランク。
評価項目は組合の機密になるため省略するが、ギルド組合から発行されるギルド情報や冒険者カードを見れば、ギルドや冒険者の特性、レベルを知ることが出来るようになっている。
戦闘技術、魔法技術、探索技術、素材加工技術……etc。
上位ギルドになると職員から見たギルドの雰囲気や冒険者の一言も完全掲載されている。
冒険者にとって、ギルド組合は自らの信頼を保証してくれる機関であり仕事を探す場だ。ギルドからすれば何でも仕事をこなしてくれる人材の確保と、互いにwinwinな関係を築いていた。
だが、王都バルディウスでは人口が多く、日常の生活においてギルド組合を通した依頼だけでも日々数千単位で舞い込んでくる。その中には、人気のある仕事もあればない仕事も当然含まれてくる。それが組合の悩みの種であった。
冒険者という人間は、特に自由な気質を持つ人材が多いのが特徴だ。命の危険を犯すような冒険は好むくせに、地味な街の仕事は拒むことが多いのだ。街の人間も嫌な仕事を押し付けているので仕方がないのかも知れないが、板挟みになる組合は堪ったものではない。
それでも仕方なく重い腰を挙げなければ行けない場面が出てくる。
それが今日だった。
小銭を稼いで暇をしている冒険者は、実のところ数が多い。主に弱小ギルドになるが、ギルドや冒険者ランクをチラつかせて、半ば脅すように仕事を押し付けるのである。むろん、今まで受け手がなかった依頼であるので、依頼者にも多少の金銭的な増額は要求しているし、ギルド組合からも色をつけている。
「街の運営に関わることなら、仕方ないことかもしれませんね」
アルメニアはこれから集まる冒険者達を思い、小さくため息を付いた。
小さな丸メガネが似合う美麗な受付嬢で、褐色の肌に金色の長い髪を後ろに束ねていた。
歩きながら軽く資料に目を通していく。コツコツと歩くその姿は、敏腕秘書のような迫力を持っていた。
アルメニアも気合を入れていた。
嫌な仕事を相手に押し付けるのは、強者から弱者への押し付けである。だからこそ、相手の反発を上手く受け止めつつ、相手の納得させる……。それは意外と難しいのだ。ゴネ得と脅迫の攻防。これから向かう先は、彼女にとって戦場であった。
「……?」
いつものは聞こえる会議室の喧騒が、今日は静かだった。
アルメニアは扉の前で思案する。こんなことは初めてだった。
恐る恐る扉を開けると、中にいたのは男女の子供……。
入ることもなくパタンと扉を占めた。
「あれ……。場所と時間を間違えたっけ」
巨大なギルド組合の建物であるが、会議室といえば数は多くない。一番広い場所は確実にここだ。間違うくらいなら受付嬢などやれはしない……。
アルメニアは会議室へ何事もないように入った。
一番前にある説明ボードの教壇に立つと、魔法学校で教師をしているような感覚に陥った。……生徒は二人だけだが。
男の子は10歳くらいの小さな男の子だ。ふわっとしたくせっけに、薄茶色の髪に茶色の瞳。必死にこちらを見ている姿はアルメニアの母性をくすぐってくる。彼が男の子と判断したのは、動きやすそうな冒険者の男の子の服装だったからだ。実は女の子と言われても、驚きはしないだろう。
女の子は魔法学校生徒くらいの歳だろうか。羨むほど美しい白銀の髪、白雪のような肌。魅惑的なサファイヤのごとく青い瞳は、少し冷淡でありながらも確かな知性を発散している。体つきはまだ子供のそれだが、将来を考えれば、世の男性が……尻込みして近寄れないほどの女性になる予感がする。彼女も冒険者らしい動きやすそうな服装をしていた。
アルメニアにしては珍しく、紙面で顔を隠すほど動揺していた。
本来であれば、ここには招集をかけた、荒くれ者の冒険者がいなければならないのだ。
その気迫が子供の前で空回りである。とりあえず職務を全うしようと思い直し、アルメニアは営業スマイルを浮かべていった。
「はじめまして、今回案内担当を致します。アルメニアと申します。よろしくお願いいたします」
「ギルド叢雲のレティスです。よろしくお願いします」「同じくセシルです。よろしくお願いします」
そう、事務モードになれば良いだけの話だ。
受付嬢と言う仕事が、彼女の平静を取り戻した。
叢雲……と探して、二枚目の資料にギルドを見つけた。
人数10数人規模の小さなギルドだ。実績は……可もなく不可もなく、仕事の内容から、典型的な自由ギルドと判断した。個人別の冒険者の情報は、今、手元にはない。
「ギルド叢雲。確認しました。本来であれば、ここに22のギルドの代表がいなければなりませんが……」
時間にルーズなのか、はたまたサボリか……。ランクを下げるという組合の力を行使することに躊躇いはないが、自暴自棄になって治安悪化しても考えものなのである。今は様子見がいいだろうか……。
「時間になりましたので説明を開始いたします」
ギルドにおいて、子供というのはそれほど珍しいことではない。
それは、冒険者の子供が冒険者になることが多いからだ。
ギルド組合からの仕事は、年齢制限があることが多いが、実際は、冒険者と依頼主でやり取りされる個人依頼という形態がある。子供であっても仕事を請け負うことができ、その場合の見守り人はギルドが担う事になっている。
こうして、ギルド組合の説明などを経験として積ませようと、子供を送り出す冒険者の親は多いのだ。その実、面倒という気持ちが伝わってきて、アルメニアはどうも好きになれないのだが……。
「今回集まっていただいたのは、未達成依頼の中で、緊急性と公益性が高いものをしていただくことになります。半ば仕事を押し付けることになり申し訳ありませんが、主に私達の生活に密接するものになります。よろしくお願いいたします。では、人も少ないので、ギルド叢雲にやっていただく依頼だけご説明しますね」
アルメニアはパラパラと資料をめくっていく。
主に街の修繕雑用であるが、割り振りが難しい。
「叢雲のギルド員で、動ける人材は何名になりますか?」
「えーっと、四人とぼくたちかな?」
「私は知らないな」
たぶん6人くらいと返ってきた。
せっかく来てくれたのに申し訳ないが、リストにある仕事は過酷なものばかりだ。子供の彼らも手伝うとなれば、アルメニアとしても仕事は選んであげたいところだが……良い物はない。
「仕事のリストを見て決めていただきましょうか」
今なら選びたい放題である。
・ウォンウォンボマロの捜索……くしゃみ被害拡大中 捕獲完了するまで
・ゲルマントの倒壊家屋の片付け……内部圧死家畜あり至急応援求む
・地下水路配管点検……発見・修復確認でプラス料金 5名~
・速度超過荷馬車摘発……兵士と連携 戦闘有り 30名以上
・新薬開発被験者……成功報酬制 詳細は現地にて
男の子は一通りみると、首をかしげた。
「ウォンウォンボマロってなんですか?」
「魔薬生研究所から逃げ出した生物らしいです。なんでも、全身に白いトゲのようなものが生えた生物で、あらゆるところを這いずり回るように逃げるらしく、その際、白い花粉を振りまくのですが、これを受けると鼻水とくしゃみが止まらなくなります」
「セシルは見たことある?」
「いや、見たことも聞いたこともない」
「北エリアからの依頼ですからね。あそこは建物が密集しているので、おそらく恰好の住処なのでしょう。繁殖能力は無く一代限りということですが、騒音と猛威に耐えかねた市民からの苦情が多数ギルドにも来ています」
アルメニアは心の中で嘆息する。実際は、植物の人工的な魔物化という、あまりに世間一般には言いがたい実験が行われていた研究所である。アルノードからきた魔法師が住み着いていた場所であり、表向きは閉鎖したが、腹いせに実験の成果である植物がばらまかれたのだ。大体は秘密裏に駆除したが、ウォンウォンボマロだけは捕まっていない。ギルド組合としても、速やかに片付けたい案件だった。
「となると、優先順位をつけるとしたら……ゲルマントだね。急がないと疫病の可能性もある」
「確かに。あの四人も暇をしていたから、ぜひ働いてもらおう」
「……あななたち……」
アルメニアの心に芽生えたのは感動である。
普通であれば、どれが楽かを考えるだろう……この場面。子供たちはあろうことか、どれを優先してこなすべきかを考えてくれたのだ。
人の役に立つ仕事がしたい……子供の頃の夢は叶えたはずだった。
それは日々、心をすり減らす、自由勝手な冒険者によって押し殺された思いだった。
なんと純真な心であろうか。お金などの損得ではなく、誰かのために仕事を考える……。
感動で涙を流しているお姉さんをみて、レティスはぎょっとした。
セシルもである。何か失礼をしてしまったのだろうか……?と。
二人で視線を交差させたが、思い当たる節は全く無い。
お姉さん。アルメニアは言った。
「私に出来ることならば、どのようなことでも対応いたします。もし必要なものがあれば、ギルド組合へ遠慮なく言って下さい!」
レティスとセシルは笑顔のアルメニアに見送られて、初のギルドの仕事へ出掛けた。