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1 赤い薔薇

第二章開始。

本日最終投稿になります。

目覚めると、見知らぬ天井だった。

しかも、視界が狭い。

顔を触ると、何かが触れる。

鉄のような材質。つるつるする。

私は何度も触る。だが私の皮膚を触ることはできない。

起き上がり、手元の鏡を見る。

そこに映る私は白い仮面をしていた。

赤い薔薇が刺繍されている白い仮面。

金色だった髪の毛は黒くなっている。

肌は白いままだ。

手も足も問題ない。

仮面を取ろうとすると・・・・


「目覚めたか?」


聞きなれた声がしてその方向を見ると・・・

ロイスがいた。

どうなってるの?

私は店を焼かれてあのまま死んだはず。

何故この世界にいるのか。


「ねぇ、どうなってるの?それにこの仮面」


私は声をだして気づいた。

あれ?

私の声じゃない?

私の声に似ているけど、違う声。


「あれ、私、声が・・・」


私は喉をを触る。


「落ち着いて、1つづつ説明するよ。俺は君を燃えている店の中から救った。でも、それはギリギリだった。ミリーの体はひどい状態だった。魔法でなんとか回復させた。声は後遺症だと思う。顔の損傷は上手く直らなかった。深い思いが入っている呪いだと思う。多分術者を倒さない限り消えない。だから仮面をつけている。それに、ミリーが生きていると分かったらまた狙われる」


一度に多くの情報が私の中に入ってくる。

私はゆっくりと1つづつ、頭の中で理解していく。

雑貨屋は燃やされた。

私も燃やされた。

だが、ロイスに救われて治療された。

色々私の姿がおかしいのはそのせい・・・

私は頭の中で情報を1つづつ飲み込んでいく。

私は仮面を触りながら全身を確認する。


「それと、君は死んだことになっている」


え?私が死んだ?

お父さんは?


「雑貨屋は野党に襲われ放火されたという話になっている。犯人も逮捕されて即日処刑された。君の父親には、結構な額の援助金がお金が払われているから生活に問題はない。犯人の逮捕も、援助金も紅の姫持ちだ」


紅の姫。

藍花の顔が浮かぶ。

彼女が犯人を捕まえた?


「誰が捕まったの?」

「ただのごろつきだ。詳しい事は分からないが、君のブレスレットを持っていたことが証拠となったらしい。そしてスピード処刑だ。君は看板娘として人気があったから、犯人を逮捕し、援助金まで出した紅の姫は、ますます人気者になったよ」

「違うの、私を襲ったのは」

「分かってる、紅の姫だろ」

「あの女が君を狙っていた事はなんとなく感じていた。でも、迂闊だった。まさか直接殺しにくるとは思わんなかった。君には悪いことをした」

「別にあなたは・・・・」

「いいんだ。謝らせてくれ。それより、君はまだ寝ていた方がいい。ゆっくり回復していけばいい。何かあったら執事のセバスを呼べば大抵のことはしてくれる。そこの鈴をならすと飛んでくるから」


そうしてロイスは出て行った。



◇◆◇



私は白い石で囲まれた部屋の中にいる。

ロイスの屋敷の中にある一室。

治療のためだ。

ロイスは言っていた。

私の傷は深く、こうして一日数時間この部屋にこもる必要が有ると。この部屋には多くの魔法が付与されており、その力が私を癒すと。

その言葉のとおり、部屋の中にはいくつもの魔法陣のようなものがみてとれる。

複雑な模様のため、私にはよく意味が分からない。

雑貨屋で暮らしている時も、いくつか魔法陣を見たことはあるが、こんなに複雑な物を見たのは初めてだ。床と壁、そして天井に魔法陣が描かれている。魔法陣同士が複雑に重なり合い、互いに影響し合っているようだ。

だが、その魔法陣の複雑さとは裏腹に、この部屋にいると私の心は澄んでいく。

疲れがとれ、心地よい気分になる。

怪我明けのためか、最近の私は疲れやすかった。

どこか神秘的な雰囲気があるこの白い部屋の中で私は横になり、心を鎮める。

時間がゆっくり流れる。

部屋の外とは別の時間が流れているようだ。

こうしていると、現実の昼下がりに、日光が当たる部屋で本を読みながらうとうとと眠りこけていた日々を思い出す。

私は、そんな思い出に浸りながら、眠りに落ちていく。



◇◆◇



私は馬車に揺られていた。

室内ににはロイスと執事のセバス。

私たちは今、私、いや、以前の私の告別式に向かっている。

ロイスは行かない方がいいと言ったが、私は見てみたかった。

私の雑貨屋がどうなっているのか。

私が数か月暮らした場所だ、どうなったか一目見たかった。


「もうすぐ着く、決して馬車からでるなよ」

「分かってる」


私は馬車の窓から告別式を観覧する。

私は死んだことになっている。その当人が自分の告別式に現れたら大変なことになる。

それに今の私は常時仮面をしている。

それだけで人目を引く。


「ついた。ちょうど式がはじまるようだ」


ロイスの声につられ、私は窓から馬車の外を見る。

私たちの馬車の他にも、いくつかの馬車が見て取れる。

そして、壇上には私のよく知っている人がいる。

紅の姫こと藍花と第二王子こと一色君。

大勢の兵士に囲まれている二人。

その他にも、ローブ姿の者が何人かいる。魔法使いだろうか。

第二王子がよく通る声で話す。


「皆さん。つい先日起こった悲劇。その出来事に私は深く心を痛めました。雑貨屋のミリー。愛らしく、天使のような彼女が何者かに殺されたのです。毎日健気に働く彼女の姿に、私たちは勇気づけられたでしょう。私はそんな非道を働いた者を断じて許せません」


王子は舞台役者のような大げさな演技で感情を表している。

その姿に集まった市民は見入っている。


「幸い、ここにいる紅の姫のおかげで、犯人を捕まえ報いを受けさせることが出来ました」


王子は紅の姫に注意を向ける。会釈する紅の姫こと藍花。

藍花は悲しみに顔を歪め、涙を流している。

大した役者だ。本当に悲しんでいるように見える。


「しかし、これで終わりではありません。王都には、世界には、数々の悲劇が残っています。私は毎日胸を痛めています。そして、少しでも悲劇を減らすために、この国の第二王子として皆様に貢献していきたいと思っています。さしあたり、その象徴とし、ここに雑貨屋ミリー像を作らせて頂きました。これを機に、私は不正、この世界にあるあらゆる悲劇の救済に邁進するつもりです」


王子が礼をすると、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

集まった群衆は王子を支持する声を上げる。

すると、王子の部下が出てきて、


「皆様、こころばかりか、いくらか食料を用意致しました。こちらで配給しますので、列に並んでどうぞ」


群衆が列に並び、食糧を受け取っていく。

その風景を眺める私。


「もうそろそろ離れる。長居は危険だ。変に注目されたくない」

「うん」


そうして馬車が動き出す。

私は今の式を振りかえっていた。

私を殺したのに、まるで他人事のようにふるまっていた二人。

藍花は涙まで流していた。

前までの私だったら二人の演技に当てられていたかもしれない。

二人には、何か理由があったのかもしれないと考えていたかもしれない。

でも今は違う。

私は二人に対して激しい憎悪を抱いていた。

いつのまにか、拳が震えていた。


「君には二つの選択肢がある」


ロイスが私を見る。


「一つは、俺の知り合いを頼って、田舎で暮らす選択肢。平和でのどかな暮らしが送れると思う。もう一つは、俺と一緒に王都で生きていく道。俺はあの女・・・紅の姫を止める。きっとつらい道になると思う。どっちの道をとるかは、君自身が決めてくれ」


私は考えた。

私の未来。

平凡で、心地よい生活と危険な道。

でも、既に私の心は決まっていた。

私は返事をする。


「あなたと王都で暮らすわ」

「分かった。明日から厳しくなる。覚悟してくれ」

「ええ」



明日も投稿予定です。

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