7 ウィンドウショッピング
変わらない日常が過ぎていく。
店番をし、藍花がお土産を持ってき、ロイスが猿の置物を買っていく日々。
藍花の来る日はだんだん少なくなり、逆にロイスが来る日が増えてくる。
そのため、私はお父さんにお願いして置物を大量入荷してもらった。
お父さんは猿の置物が売れる事に驚いていたようだったけど、利益率が高い商品であるためか、すぐに入荷しようとした。
しかし、猿の置物の在庫はないとのことで、店には新しく亀の置物が置かれた。
新しく置かれた亀の置物を見たロイスは、珍しく驚いた表情をしていたけど、すぐに亀の置物をさんざん眺めた挙句、「猿じゃないのか?」と当たり前の質問した。
私は、「いいえ、それは亀です」と、英語の構文のようなセリフを口にした。まさか、このようなセリフを口にする日がくるとは。
亀でもお気に召したのか、ロイスは今度はそれを買って帰るようになった。
そんなやりとりとしている内に、私はロイスと打ち解けてきた。
泣いているところを見られたためか、私は始めからロイスに対する壁が薄かった。ロイスがイケメンであることの緊張感も徐々に和らいできて、気軽に話せるようになった。
そのためか、最近はロイスの来訪の日を心待ちにしていた。
ある日私が、「ロイスって貴族なの?」と常々思っていた疑問を口に出した。なんか聞いちゃいけないことなのかと思って、暫らくは心に留めていた。
すると、「あぁ、貴族だ」っとあっさりと答えた。
私の心の中の葛藤はなんだったのかと思ったが、同時に「やっぱり」という思いだった。置物を買う資金力もそうだし、所々仕草が上品であり、気品があふれ出ている。藍花と似たような雰囲気を感じていた。
それから、絵の事も聞いてみた。私はあの祭りの日に貰った絵を何度も見返している。すると彼は、「あれはただの趣味だ」と答えた。気が向くと描いているとか。
私がもう一枚絵が欲しいというと、彼は次の日持ってきてくれた。
それは店番をしている私の姿だった。何故か背景に猿の置物がある。そして、前の絵と同じように実際の私より美形な気がする。
「私を見て書いたの?」と聞くと、「いいや家で描いた。君の姿は覚えやすいから」と。私はそれを貰い、私の宝箱の中にしまった。箱の中に宝石ではなく、ロイスの絵が二枚あるだけだった。
私はそうして日々を過ごしていくうちに、いつしか祭りの日のショックが薄らぎ、こちらの世界での楽しみを見出すようになっていた。店の売り上げも確実に上がっていた。
◇◆◇
そんなある日、私は街の中心街に出かけた。
今日は休日で、食糧を買いだめするために。家では買い物と料理は私の役目です。
それと私用のウィンドウショッピング。
この世界は魔法があることもあり、珍しいものがたくさんある。
王都を散歩しているだけでも十分娯楽になります。
又、店のお客さんから聞いた面白そうな店にも行きたいと思っていました。
店が繁盛して働きずめなことも有り、あまり街をぶらつく暇がありませんでした。
そうして街をぶらついていると、とある暗がりの路地で見知った姿を見かけます。
ロイスです。
話しかけようとした瞬間、私はさっと身を物陰に隠します。
ロイスは一人ではありませんでした。
もう一人います。
それは女性で、良く見ると・・・・藍花でした。
トレードマークでもある真紅のドレスを着ていなかったので一瞬分かりませんでした。
ロイスは藍花と何やら話しています。
いや、話しているというのは適切な表現ではありません。
藍花は親しげにロイスに言い寄っています。
手慣れたようにロイスの腕を触り、何事かを耳元で呟いています。
妖艶な雰囲気を醸し出す藍花。
美貌も相まってか、遠目からでもそのオーラを感じ取ることができます。
私はそんな彼女の姿を初めて見ました。
現実でも、この世界でも彼女の女の姿を見たのは初めてでした。
藍花の意外な面と同時に、その洗練された動きに私は衝撃をうけました。
目の前では藍花がさらにロイスに迫ります。
唇同士が触れ合うぐらい近づく藍花。
が、それをはねのけるロイス。
声は聞こえませんが険呑な雰囲気。
藍花は笑顔ですが、ロイスの表情はこちらから見えません。
二人はそれからも二言三言話し、別れました。
私はどちらの後を追おうか迷いましたが、ロイスにしました。
彼の後を追い、路地から暫らく離れた場所で、何事もなかったように話しかけます。
「ロイスも買い物?」
私の顔を驚いたように見るロイス。
亀の置物を見つけた時以来の表情です。
「・・・そうだ」
「そう、何買いきたの?それとも誰かときたの?」
「一人で来た。食料を買いに」
「そうなんだ」
私たちは連れ添いながら市場にいき、買い物をします。
果物を袋に入れながら、私は気になっていることを聞きます。
「ロイスって、紅の姫と知り合いなの?」
「あぁ、知り合いだ。貴族同士に付き合いだ。どうした急に?」
「べつに何でもない」
知り合い。貴族同士なら会う機会もあるから不思議ではない。
でも、私は先ほどの光景から知り合い以上の何かではないかと疑っていた。
藍花と一色君のキスシーンが思い起こされる。
ああいう経験は二度度したくない。
私は意を決し、もう少し踏み込むことにする。
「ねぇ、ロイス、さっき紅の姫と何話してたの?」
硬直した表情で私を見るロイス。
ロイスは探るように私の顔をまじまじと見る。
「聞いていたのか?」
「ううん、遠くから見てたけど、すぐに二人が分かれちゃったから」
「そうか・・・・」
と安心するロイス。
ロイスは歩きながら果物を袋にいれる。
「ただの世間話だ」
「それにしては、変な雰囲気だったけど」
「気のせいだ」
結局、私はこれ以上の事を聞くことができなかった。