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6 ブレスレット

私は、一色君と藍花のことで心を痛めていました。

忘れようとしてもキスシーンが何度も蘇ってきます。その映像が私の心を痛めます。

そういう時、私はロイスから貰った似顔絵を見ます。

不思議とその絵を見ると元気が出ました。絵の中の私は笑っています。その笑顔に私は癒されていました。

そうして日々を過ごします。

元気はありませんが、仕事を休むことはできません。

男手一つで私を育ててくれるお父さんに迷惑をかけられません。

ぼーっとしながらも店番をこなします。


そんな中、藍花が訪れました。

藍花はいつものように、笑顔で私に話しかけます。

「紅の姫」として有名な藍花。

現実でも美人でしたが、ヒロインのためか、この世界では美貌は群を抜いています。

彼女を彩る真紅のドレスと、首や手首に身に着けている宝石類が彼女の美貌をさらに押し上げます。

私は何事も無かったように応対します。

祭りで何も見ていなかったかのように。以前と同じように親友として。

あの後、次藍花に合ったらどうしようかとずっと考えていました。

藍花をひっぱたくか、無視するか、それとも許すか。

私はずっと迷っていました。

藍花はこの世界で数少ない前の世界の知り合いです。それに親友です。

簡単に関係を切ろうとは思っていませんでした。

でも、藍花のことを憎んでもいました。

それに反して、何かの間違いかも、何か理由があるのかもと思っていました。

そして、藍花の方から訳を話してくれると。


約束通り、私は藍花から祭りのお土産を貰いました。

青い宝石のブレスレット。

とても高そうな物でした。出店で売っているような物ではありません。

専門店で売っているようなそれ。貴族令嬢向けの装飾具。

雑貨屋の私には縁がない物。

「こんな高い物もらえないよ」と遠慮しましたが、藍花は頑なにそれを私に渡そうとします。「私だけ良い身分なのは悪いから」「私達親友でしょ」っと、藍花は言葉を繰り返します。結局私は、押し切られる形でそれを貰いました。

藍花が私の右腕にブレスレットをはめてくれました。


「とっても似合ってる」

「うん、ありがと」

「これ、冬華にはずっとしててほしいの。ほら、親友の証として」

「でも、私には似合わないよ。それに市民がこんな物していたら変な疑いもたれちゃうよ」

「なら、目立たない服の下に着ければいいわ。ねぇ、お願い」

「・・・うん」


腕に装着されたそれに、私は目を奪われました。

なんともいえない高揚感が心の中に浮かびあがります。

自分の価値が少し上がったように感じます。

そして同時に、疑問を湧き上がります。

何故、藍花は私にこんな高そうな物をくれるのか。もしかしたら一色君との罪悪感からかもしれないと思いました。

私は始終、「いつ、一色君のことを話してくれるんだろう?」と内心びくびくしていました。同時に、「何も話さないでほしい」とも思っていました。あの時の光景は夢か何かに違いないと。

そんな心配をよそに、藍花は一通り雑談すると帰っていきました。

一色君のことを話さずに。



◇◆◇



そんな中、あの青年が店を訪れました。

祭りの日に私が出会っ青年ロイス。

あの日と変わらず、どこか暗さを感じさせるイケメン。

私はロイスの姿を再び見れたことが嬉しく、

「いらっしゃい」っと、いつもよりちょっと高い声で挨拶しました。

自然と表情も緩んでいました。

彼は店内をざっと見渡すしてから、「よう」っと、ぶっきらぼうに返します。

そして、店内の猿の置物を触りながら、


「さっきの奴、知り合いか?」


どうやら、少し前に藍花と私が話していたのを見ていたようです。

藍花は私にブレスレットをくれた日以降も頻繁に訪れます。

最初はブレスレットを外していたのですが、何度も藍花がくるので今ではずっとブレスレットを身に着けている状態です。一度ブレスレットをしていない日があった時、藍花が悲しそうな顔をしていたので。それに、手にも馴染んできました。


「うん。知り合い」

「そうか・・・」


ロイスは猿の置物をあらゆる角度から眺めています。

その置物は店ではあまり売れない商品です。一か月に一つでも売れれば奇跡です。

置物以外の使い道がない割には、結構なお値段がします。

雑貨屋に売っているのは変ですが、お父さんの昔の知り合い(冒険者)が彫刻家のような仕事をしているそうで、その関係で店で売っています。


「紅の姫とミリーが知り合いなのか。接点などなさそうだが」

「えっと・・・・うん、偶々店に買い物にきて、仲良くなったの」

「あの女がね~」


ロイスが意味深な表情を浮かべます。

私はそれが気になりました。

藍花こと紅の姫は、今、王都の市民の間では一番人気の女性です。

田舎からの立身出世物語は王都で語り継がれています。

そんな彼女を嫌うような人に合ったことがありません。

しかし、多分ロイスは貴族だから市民とは違う感情があるのかもしれません。


「どうしたの、ロイス。何かあるの?」

「いいや。何もない。でも、あの女は信用しない方がいい」

「え・・・・どうして?」

「君のためにならないからだ」

「よく意味が分からないんだけど・・・」

「別に深い意味はない」

「そう・・・」


それからロイスは、猿の置物をもう一周程深く観察した後、それを2つ買って店を後にした。

私は置物が売れたことよりも、ロイスの言葉が胸に残った。

藍花は変わらず親友として現実の時のように接してくれる。

そのため、現実を思い出して楽しく会話できる。

それに、来るたびに何かお土産を持ってきてくれる。

一色君のことは今だに話してくれないけど、私の中で藍花を疑う心がどこか薄れてきたこのタイミングで、彼はその疑念を呼び起こした。



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