4 祭り
連日投稿です。
祭り当日。
王都は活気に満ち、他の街からも多くの観光客が訪れています。
その影響で、私の雑貨屋にも多くのお客がさんが訪れます。
こんなにお客さんが来たのは初めてです。
狭い店内が、人で埋め尽くされます。
私は倉庫とカウンターと商品棚を行ったり来たりします。
商品を補充し、会計をし、商品補充し、時々店の前で売り子をします。
今日ばかりはお父さんも店番をします。
「薬草はもうないのですか?」
「申し訳ございません。売り切れです。明日には入荷するのですが」
「そうですか~是非欲しかったのですが」
こんなやりとりを何度もします。
何故か薬草が大人気です。
薬草なら他の店で売っているのに。
店では仕入れて売っているだけだから、商品としては同じはず。
特別安いわけでもない。
そんな疑問を持ちながらも働きます。
暫らくすると、急にお客さんが減っていきます。
「ミリー、もうすぐパレードあるらしいぞ。一緒に見に行くか」
「うん。でもいいの?お店は?」
「大丈夫大丈夫。パレードの合間は客も来ない。今から店閉めるぞ」
「分かった」
私はお父さんを手伝い、店を閉めます。
そして、お父さんと街のパレードを見に行きました。
◇◆◇
街の中心部は人であふれ、街頭にはピエロも立っています。
まさにお祭りでした。
私達は出店で食べ物を買い、空いている席に座ります。
パレードの見学のために作られた急造の客席です。
出店で買ったリンゴ飴を舐めながら、兵士たちによって人混みが押しのけられていくのを眺めます。
すぐにパレードの道が出来上がります。
このパレードはゲームでも覚えています。
魔法使いたちが、杖の先から炎や水を出して観客を沸かせます。
炎でできた虎が水でできた龍と戦いながらパレードの道を進んでいき、虎神、龍神と呼ばれた、王国の英雄達の姿を再現します。
早く始まらないかな~とそわそわしていると。
「今日は王族も見に来るらしいぞ」
「そうらしいね~」
「知ってたのか?ついさっき急遽決まったみたいだが」
「わ、私もさっき知ったの」
本当は前から知っていました。
ゲーム知識です。藍花が王子様ルートに入っている以上、第二王子様はこの祭りにくる。
私は、内心興奮していました。
ついにゲームの攻略キャラに合える。
そして何を隠そう、私は第二王子様ルート押しだったのです。
だからそのルートのことはよく覚えています。
あのルートは何度も繰り返しプレイし、私の経験かと錯覚するぐらいやりこみました。
第二王子様に萌え、何度キュンキュンしたことか。
画面の前で「いいなぁ~」と自然と呟いている自分に何度気付いことか。
私は身なりを確認し、髪や服を直します。
無意味な行動かもしれませんが、もしものためです。
雑貨屋の娘の私。モブの私が王子様と結ばれることはないでしょう。
現にこの段階、パレードの時点で個別ルートに入っています。
つまり、ヒロインである私の親友藍花が第二王子様と結ばれるのです。
悔しくないかと言ったら嘘になります。でも、親友の藍花なら許せます。
いや、彼女以外だと許せません。
でも、今はそんなことよりも、私の理想の王子様が気になります。
「早く来ないかな~」っと、期待に胸を膨らませて待ちます。
何故か胸がキュンキュンします。
あれ?でも、パレードじゃなくても、藍花に頼めば王子様と話す機会があるかも?
今度、お願いしてみよ。
すると、ラッパの爆音が聞こえます。
何人かの人が耳を抑えています。
ラッパの近くにいた人は重傷っぽいです。
そんな些細な事は無視され、ラッパの演奏は続きます。
ゲームで何度も聞いたファンファーレが鳴り響き、群衆は静かになります。
王族専用の登場BGMです。
その音楽で、私は胸はさらに高鳴ります、
そして、護衛の兵士に先導され、ついに第二王子様一行があらわれました。
「キャー」
「第二王子様よ」
黄色い声が場を包みます。
王子に近づく群衆を兵士たちが押し返します。
屈強な男達に囲まれている白い衣装の男性。
その衣装を見間違えるはずがありません。
一部の人のみ着ることが許された衣装。
王子専用の衣装。
衣装もそうですが、その人物から放たれる気品溢れるオーラ。
間違えるはずがありません、第二王子様です。
しかし、距離があるためよく顔が見えません。
「ちょっと近くで見てくるね」
「気をつけろよ」
私はお父さんにそう言い、第二王子様を歓迎する沿道に並びます。
近づいてくる第二王子様。
第二王子様は反対方向を見ているため、顔が見えません。
でも、どこかで見た後姿の様な気がします。
何故か私の心が震えます。
何故でしょう。
分かりません。
そして第二王子様がこちらを振り返ります。
私の心は凍りつきました。
その瞬間、時間が止まり、群衆のざわめきが遠くに消えていきました。
私は第二王子様の顔に目が釘付けでした。
それは私の見知ったものでした。
ゲームの第二王子様ではなく、私の彼氏、一色君でした。
私は呆然としました。
声が出ません。
ただぼーっと彼を見ていました。
ふいに、観衆の声が聞こえてきて、現実に戻されます。
私は沿道の中の一人。
私に気づかなかったのか、第二王子様こと一色君は目の前を通り過ぎて行きました。
ただ・・・私はその後ろ姿をずっと眺めていました。
一色君は貴賓席に座ります。
そしてゲーム進行通り、その横に一人の少女が登場します。
さらにざわめく観衆。
「紅の姫様だー」
「光の妖精のようにお美しい」
ヒロインこと、私の親友の藍花が登場します。
ふたりは軽く抱き合い、キスをし、席に座ります。
そう、ゲームの様に。自然に。
この段階、ゲームでは個別のルートの中盤です。
二人は障害を乗り越え、絆は固くなっています。
相思相愛の二人です。
別にキスをしても驚きません。
他のこともしているのですから。
でも、目の前でキスをしているのは、私の親友の藍花と、私の彼氏の一色君です。
不意に私の頭の中に様々な映像が浮かびます。
ゲームでの第二王子様ルートの内容。
胸をキュンキュンさせた数々の名シーン。
現実の彼氏、一色君との帰り道。
親友の藍花との、学校での昼食の日々。
気付くと、私の目から涙がこぼれました。
音を立て、心が砕け散りました。
ただ意識無く、その場につっ立っていました。
視界に入る、二人の仲睦目な姿。
その姿は、私が初めて一色君を見た光景と似ています。
藍花が話しかけ、恥ずかしそうに反応する一色君。
そう、あの時の光景です。
私が初めて一色君に好意を抱いた瞬間。
教室の外から私はその光景を見ていました。
藍花は私に気付くと、一色君を紹介しました。
恥ずかしそうな表情の一色君、私はその瞬間、恋に落ちました。
私が忘れていた一色君の表情。
いいえ、意図的に思い出さないようにしていた表情。
私と付き合っている時には見せたことのない笑顔の一色君。
初めは緊張しているのかと思っていましたが、それは勘違いだったようです。
思えば、最初から分かっていたのかもしれません。
二人はお似合いでした。
私が入る隙間はありませんでした。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。