13 霧
私の体の周りに霧が集まる。
周囲の霧が急速に集まってくる。
雲の流れ、風の流れが変わる。
私を中心に大気が収束する。
王都中の霧が私に向かってくる。
霧の密度が濃くなり私の体を包み込む。
私の体は真黒に染まっていく。
「な、何よこれ!」
藍花が悲鳴を上げながら私から離れる。
が、離れる藍花を霧が追っていく。
質量を持ったそれは藍花の右足を掴み地面に引き倒す。
藍花は倒れながらも、それから逃れるように真紅の魔法を放つ。
魔法を食らって一瞬霧散する霧だが、すぐに復活する。
藍花は立ち上がり霧から逃げるように走り回る。
真紅の魔法を四方八方に放ち霧を攻撃する。
だが、魔法を食らって霧散した霧はすぐに元通りになる。
「どうなってるのよ?何で効かないのよ!」
半狂乱になった藍花はひたすら魔法を放つ。
私はそんな藍花をぼんやりと眺めていた。
私には霧がさらに集結してきている。
一層強く私は霧に包まれる。
私の失われた左腕が霧で再現される。
凝縮された霧が私の腕となる。
試に動かしてみると、以前の右腕と同じように動く。
いや、以前以上だ。
私の中に霧が入り込んでくる。
力が体中にみなぎってくる。
霧が私の体を動かす。
私は霧と戦っている藍花を見る。
彼女は真紅の魔法を放つが、霧は霧散しすぐに再生する。
それの繰り返し。
彼女はいつのまにか近くにきていた私を見る。
「冬華・・・どうなってるのよ?あんた・・・何者なのよ」
今の目の前にいる藍花に迫力はない。
ゲームのヒロインでもなく、紅の姫でもない。
ただの怯えている少女。
私はただ藍花を眺める。
私は霧でできた左手で杖を持ち、彼女に向ける。
「何する気?悪かったわ。私が悪かったわ。ねぇ、謝るから。それに私達、親友でしょ。色々あったけど、やり直しましょうよ。私、あなたのこと好きよ。本当に」
藍花は私に向けて泣き叫ぶ。
私は彼女に杖を向け、呪文を呟く。
自然と口が動いた。
その瞬間、杖の先から黒い煙が出、黒霧の騎士が生成される。
全身が黒霧で覆われた騎士が6体。
藍花を囲むように生成された騎士。
私が杖を振ると、騎士が全員剣を抜く。
藍花は私を見る。
「ねぇ、冬華やめてよ。ねぇ」
私は何も答えない。
藍花はそんな私を見て説得が効果ないと悟ったのか、真紅の魔法を騎士に放つ。
しかし、炎が霧を焼いた瞬間、すぐに騎士は再生される。
騎士にダメージはみてとれない。
藍花は震えながら私を見る。
騎士は倒せないと思ったのか、藍花は私に杖を向ける。
「今すぐ、こいつらを止めなさい。早く」
だが、私は答えない。
藍花は私に杖を向けて真紅の魔法を放つ。
だが、私の体にあたる前に、周囲の霧が炎を包み込む。
私に届く前に消える藍花の魔法。
「なんで・・・なんでなのよ」
藍花は何度も私に真紅の魔法を放つが、それは悉く私を包む霧に阻まれる。
魔法の連発で息切れを起す藍花。
そんな藍花に、私は杖を向ける。
そして一言告げる。
「藍花」
すると黒霧の騎士が、6方向から藍花に向けて突進する。
藍花は周囲に真紅の炎の壁を展開するが黒霧の騎士はそれを突き抜けて突進する。
そして、藍花の体に霧の剣が突き刺さる。
僅かに時間差で刺さる霧の剣。
剣が刺さるたびに藍花の体が揺れる。
3本目が刺さるころには、彼女の目から光が消えていた。
そんな彼女に突き刺さる残り3本の霧の剣。
ただ、藍花の体は力なく揺れていた。
6本の剣で突き刺され、宙に浮く藍花の体。
私は暫らくその姿を眺めた後、杖を振る、
黒霧の剣が藍花の体から抜かれる。
いくつもの穴が開いた藍花の体。
力を失ってその体が倒れる。
その彼女に霧がまとわりつく。
彼女の体が地面に触れる頃には、藍花の体は霧に包まれて消えていった。
◇
私は霧に動かされるように街を徘徊する。
霧を吸収しながら街を歩く。
殺せ!殺せ!と霧がささやく。
霧を吸収すればするほど、その言葉に支配されていく。
私はその思いに押されるように、杖をふるう。
幾人もの黒霧の騎士を召喚し、街に放つ。
出会った人々を片っ端から襲う。
霧の左手でもった杖の先から黒霧をとばす。
当たった人の目の光は消え、霧につつまれていく。
私は霧に支配されていた。
次話も同時投稿です。




