11 深夜の結婚式
物語の時間に合わせて投稿です。
◇◆◇
第二王子の結婚式当日。
結婚式は深夜に行われる。
王国の伝統だ。深夜12時ちょうどに婚約の誓いをし、晴れて二人は結ばれる。
なんでも、日の境目で結婚という契約を結ぶことで、過去と未来を超越し、その絆をより強固なものにするとか。
私はロイスと会場の大教会に来ていた。
時間は夜の23時。
第二王子派、第三王子派関係なく、多くの貴族が呼ばれている。
国王陛下もいらしている。
しかし、さすがに第二王子派の貴族が多いようだ。
第三王子夫妻の姿は見えない。
月明かりに照らされた教会。
その教会を包むように渦巻く霧。
霧は日に日に濃くなっており、今では王都全体を覆っている。
深い所になると、1m先も見えない状況だ。
月光や、多くの松明で照らされる協会は闇に浮かぶ光となっていた。
暫らくすると、式は始まった。
様々な人が式辞を述べていく。
魔法による余興も行われる。
そうしていく内に、深夜12時に近づいていく。
気のせいか、霧が濃くなっているようにも感じる。
そうして、紅の姫と第二王子が神父の前に立つ。
時間は12時直前。
神父が結婚の契約を読み上げる。
二人は神妙にそれを聞いている。
神父が声を出すたびに二人は青い光に包まれていく。
結婚も契約魔法の一種だ。
契約の光が二人を包み込んでいく。
お馴染みのセリフが耳に聞こえる。
「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻の身みに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
神父が第二王子を見る。
「誓います」と第二王子。
「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫の身みに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓います」
神父が紅の姫を見る。
「誓います」と紅の姫。
神父は会場を見る。
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた、このお二人を神が慈しく深く守り、助けて下さるように祈りましょう。宇宙万物の作り主である父よ、あなたはご自分にかたどって人を造り、夫婦の愛を祝福してくださいました。今日の結婚の誓いをかわした二人の上に、満ち溢れる祝福を注いでください。二人が愛に生き、健全な家庭を造りますように。喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見いだすことができますように。また多くの共に恵まれ、結婚がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。
私たちの神に祈りましょう」
「もし、異議を唱えるものがいればこの場で申し出て下さい」
神父は会場を右から左にゆっくりと見渡す。
そして再び新郎と新夫を見る。
その瞬間、
「―――その結婚待った! 異議を申し立てる―――」
教会の扉をあけて入ってくる一人の男。
皆、その男に注目する。
すぐに警備の兵がかけよるが、男が杖を出しなにやら呟くと、吹き飛ばされる兵士達。
「何奴?」
対峙する魔法使いが侵入者に問う。
「私はヨーク伯爵の息子、ヨギルム。この結婚に異議を申し立てる」
伯爵という言葉がでたのか、彼を取り囲んでいる兵士や貴族の護衛の者は、攻撃を躊躇する。
「確かに、あれはヨギルム氏」
「辺境の地にとばされたと聞いていましたが・・・」
彼を見た貴族たちが口々に噂する。
ヨギルム氏は、壇上の二人を見つめる。
そして声を張り上げる。
「私、ヨーク・ヨギルムはこの結婚に異議を申し立てる。新婦の紅の姫は、私の婚約者である!」
騒然とする会場。
出席者は壇上の彼女を見る。
彼女は微笑んだまま表情を変えない。
「何のことか分かりませんわ。兵士の皆さん。侵入者を排除してください。伯爵の息子とて、このような妄言は許されません」
そう言い放つ。
だが、ヨギルムは慌てない。
「あなたならそういうと思いましたよ。しかし、これではどうですかな」
ヨギルムの後ろから出てくる男。
その男は見慣れない風貌の男。
「あ、あれは隣国、ドーラ王国の第二王子様」
「なぜ、他国の王子がここに」
ドーラ王国の王子が口を開く。
「私は紅の姫の婚約者です。彼女のためにいくつもの援助をしてきました。彼女は私と約束をしました。一生よりそうと」
二人の男の告白。
会場は騒然とする。
皆、紅の姫と二人の侵入者を交互に見る。
「どうなってる?」
真っ青な顔をした第二王子が紅の姫に問う。
彼女は表情がこわばっている。
国王陛下が立ち上がり彼女に近づく。
「説明してもらおうか?伯爵の息子に、隣国の王子。無下にはできん」
「彼らの妄想です。私は知りません」
彼女は口を閉ざす。
だが、陛下も会場の誰もが、彼女の言葉に納得していない雰囲気だ。
「私は、彼女の体にあるほくろの位置をすべて覚えている。ここでその位置をすべて話してもいい。誰か女性の方に確認して頂ければ、私の言葉の正しさが分かるだろう」
ヨギルムの声が響く。
彼女の顔がますます険しくなる。
藍花は下を向く。
国王陛下がさらに彼女に近づく。
「と申しておる。確認してもかまわないな。ヨギルム氏の告白が嘘ならばなんの問題もない。彼には罰が落ちるだろう。しかし、それが真実であるならば・・・」
紅の姫は一歩さがる。
そして顔を上げる。
その表情は普段の微笑に戻っている。
「しかたがありませんわ。言い逃れはできそうにありませんね。そう。彼らは私の元婚約者です」
「認めたな。今日の結婚は破棄だ。お前のような女を王家に迎えることは無い」
陛下は言い放つ。
藍花は笑う。
「別に問題ないわ。私は私の力で国を貰うから」
彼女は杖を取り出し、国王陛下に向かって魔法を唱える。
真紅の炎が高速で繰り出される。
護衛の魔術師が陛下を庇う。
だが、魔術師はその場で溶けて死に絶える。
「お前、気は確かか」
第二王子が紅の姫につめよる。
「確かよ。もう少しで私の王国になるところだったのに。それにいずれ国王陛下には死んでもらうつもりだったの。それが少し早まっただけよ。それに、こうなってはあなたもいらないわ」
彼女は第二王子に向かって杖を向ける。
そして真紅の魔法を放つ。
王子は必死によけるが、魔法が当たった右足は完全に溶けている。
「ぐあああああ」
苦悶の表情を浮かべる第二王子。
「殿下!」
護衛がすぐに第二王子を囲み、治癒魔法をかける。
同時に、幾人かの魔法使いが藍花に杖を向ける。
藍花は自分の周囲に杖を向け真紅の炎の壁を作る。
藍花に放たれた魔法はその壁にあたり霧散する。
藍花は空に杖を向ける。
彼女の杖の先から放たれる魔法。
すると、彼女の頭上の夜空に、真紅の炎が浮かび上がる。
炎の蝶が夜空を羽ばたく。
会場の皆が、その蝶に一瞬見惚れた瞬間。
教会のステンドグラスをやぶって突入してくる魔法使い達。
飛散した窓ガラスが会場内の人々に突き刺さり悲鳴があがる。
侵入者は次々に魔法を放つ。
「王でも遠慮することないわ。やっておしまい。一人も逃がさないようにね」
藍花の声が会場に響く。
彼女は次々に真紅の魔法を放ち、周囲の者達を溶け殺していく。
明日、連続投稿で2章終了予定です。
ご期待下さい。




