7 嵐
本日も投稿です。
「どうだい、久々の再開は?」
ロイスが傍に来た。あいさつ回りを終わらせてきたらしい。
「別に何も・・・彼女たち、私に気付かなかった・・」
「良い事じゃないか。悲しいのか?」
ロイスはグラスに注がれているシャンパン?のようなものを飲み干しながら私を見る。
私は悲しいのか?
自分でも分からない。
藍花と一色君を見た時、憎悪が湧き上がってきた。
でも、それを私は心の内に抑えた。
彼女たちは私に気づくことなく好意を向けてきた。
彼氏と親友だった頃の様に。
一瞬蘇ったあの感覚。それを一瞬心地よいと思ってしまった。
それが腹立たしい。
そして私のことが気付かれなかったことが悲しい。
彼女たちにとっては取るに足らない者だったようで。
でも、そんな弱い心とはもう決別した。
私は王都に残ると決めた日に決意したのだ、絶対に負けないと。
「別に悲しくないわ。ただ懐かしくかっただけ」
「そうか・・・・」
私はグラスのシャンパン?を飲む。
そこで、ふと思い出した。
藍花が何かいっていたことを。
確か、今日は早く帰った方がいいと・・・
それを思い出し、ロイスに話しかけようとした瞬間、
怒号が鳴りホールの入り口が爆発する。
爆風がホールを突き抜ける。
私のドレスがパタパタと揺れる。
「アリス」
ロイスが私を抱えて地面に伏せる。
土煙が舞う。
石つぶてのような何かが顔にあたる。
ホール内から悲鳴が聞こえる。
あわただしく蠢く人々。
色とりどりの光が煙の中を舞う。
「敵襲だああああ!!!」
何者かの声が聞こえる・
あたりから火の手が上がる。
黒煙が場を包み込む。
誰かが火を放ったのだろう。
叫ぶ声、罵る声が聞こえる。
人々が走る足音。
「アリス、避難しよう。ここには貴族の護衛も多くいるが、もしものことがある。それに狙いは私達じゃないだろう。第二王子派、第三王子派の争いだろう。くれぐれも魔法は使わないように。君の能力は秘匿しておきたい」
「分かったわ」
ロイスに手を引かれて会場を後にする。
廊下に出ると、そこは火の海。
私はロイスに引かれて廊下を走る。
ふと、血を流して倒れているメイドの姿。
僅かに息があるように見える。
ロイスはその少女を無視して進む。
「待って、この人怪我している」
「ほっておけ、この家のメイドだ。俺達には関係ない」
「怪我人はほっておけないわ。あなたは先に逃げて」
「馬鹿いうな」
私は強引にロイスの手を離し、懐から杖を取り出しメイドに回復魔法をかける。
「ちっ」っとロイスは舌打ちしながらも、辺りを警戒する。
「早くしろよ。俺も目立ちたくない」
「ええ、後少し」
見る見るうちに傷が回復していく彼女。
「終わったわ」
「ならいくぞ」
ロイスはメイドを抱え、走り出す。
私たちは怒号飛び交う屋敷の中を走り抜ける。
そうして屋敷の外に止めてあった馬車にたどり着く。
夜霧がたちこめ、辺りを包もうとしているが、燃えている屋敷がそれを阻む。
煌々とした光と炎の圧力が屋敷の外にいる人々を照らす。
ロイスが馬車のセバスと何やら話している。
「すぐに出れるか」という声が断片的に聞こえる。
周囲を見渡すと、幾人かの貴族も同じようなやりとりをしている。
既に屋敷から遠ざかっていく馬車もある。
その中に、真紅の女性の姿を見つめる。
彼女は大勢の者に囲まれ、燃える屋敷を見ている。
中には笑顔の者もいる。
そして、私に気づくとこちらによってくる。
彼女は私のドレスと顔を見る。
私の顔は煤で汚れ、ドレスも所々焦げている。
「あらアリス様。私の忠告お聞きになられなかったんですか?せっかく教えて差し上げたのに」
彼女の真紅のドレスには、汚れ一つない。
騒動が始まる前に会場を抜け出したのであろう。
「聞いていましたよ」
私は彼女を見返した。
それを受け止め、微笑みながら私を見る藍花。
「そうですか。アリス様。今日は不幸でしたね。せっかくのドレスが大変なことになっていますわ。これからは友人の言葉をよく聞いた方が宜しくてよ」
「分かっています。友人の言葉なら信じます」
私は藍花から目を逸らさない。
彼女は私を見て、そして燃え盛る屋敷を見る。
「そうですか。それにしてもよく燃えていますね、この屋敷。綺麗だとは思いませんか?」
私も彼女につられて屋敷を見る。
すると、あの雑貨屋の夜の出来事が蘇ってくる。
燃えていく家。くずれおちる亀。炭になった私の宝物。
私はその記憶を振り切り。
「いいえ。思いません。人の財産が燃えていることのどこが綺麗なのですか?」
彼女は私に視線を戻す。
そして笑い。
「冗談ですよ。私も悲しんでいます。つい先日、私の知人の家も燃やされましたの。大変ショックでした。とある雑貨屋なんですけど、ご存知ですか?」
彼女は私を顔を覗き込む。
何か私の顔に変化が出ないか探るように。
仮面をしていなかったら危なかったかもしれない。
私は内心ドキドキしていた。
それが表情にでていたと思う。
まさか、彼女私の正体に・・・
そんなことないはず。
「ええ、知っています。街で噂になっていましたから」
「そうですか。その家の娘が火事で死んだのですよ。実は私、彼女と仲が良かったのです。親しい人の死はつらいものです。彼女はどういう気持ちで死んでいったんでしょうね?」
藍花は自分の赤髪をもてあそびながら私を見る。
「私には分かりませんが、良い気分ではないでしょうね」
藍花は私を見、視線を燃える屋敷に戻す。
「今夜も人が燃え死ぬのでしょうね。あなた達にとっては嬉しい事かもしれませんけど」
そういって話は終わったと言わんばかりに元の場所に戻っていく。
そちらでは、何人もの貴族がこちらを見ていた。
彼女の取り巻きであろう。
「アリス。あの女と何を話していた?」
気付くとロイスとセバスが傍にいた。
ロイスは苦しげな表情をしていた。表情が険しい。
隣にいるセバスが心配そうにロイスを見る。
「ロイス様。ここはよろしくありません。今すぐ退去を」
「分かっている。何を話していたアリス?」
「ただの世間話よ。特に意味はないわ」
「そうか。気持ちは分かるがあの女にはまだ手を出すな。見て分かると思うが、奴には協力者が多い」
ロイスが彼女を方を見る。
大勢の取り巻きと共に燃える屋敷を眺めている。
「ええ、まだ何もしないわ」
私は燃え盛る屋敷を見ながら、手を強く握った。
爪が掌にめり込み、血が出た。




