3 桶と杖
私はロイスととある店に来ていた。
店の中に入ると、壁一面に様々な杖が置かれている。
この世界の魔法使いは杖を使用して魔法を行使する。
偶に、雑貨屋での私の様に杖なしで魔法を行使する者もいるが、杖が合った方が効率が良いそうだ。そのため、魔法使いは必ず杖を携帯する。
「いらっしゃいませ」
「彼女に杖を一つ頼む」
ロイスの言葉を受け、店主のお爺さんは水が入った桶を持ってくる。
「では、お嬢さん、こちらの中に手を入れて下さい」
桶の中の水は不思議な色をしている。
赤、青、黄と常に色が変化している。又、水面に映像が浮かんでは消える。
私はロイスを見る。
ロイスは桶に顔を向ける。
私は再び桶を見、手を入れる。
まず驚いたのは、感触がないこと。
霧のようになにもない。
「そのままですよ、そのまま」
お爺さんはそういうと桶の中を眺める。
数秒たつと、私の手の中にいつのまにか何かが握られていた。
「あれ、何か手の中にある」
「お嬢さん、もういいですよ。そのまま手を引いてください」
私は手を引くと、手の中には杖が一つ。
黒色の杖。いくつもの模様が杖の中に描かれている。
「それがお嬢さんの杖ですな。珍しい杖です。私もこの商売長いですが、初めて見ましたよ」
「そうなんですか」
私は杖を様々な角度から見る。
これが私の杖。
お爺さんは別の桶を取り出す。
中には先程と違い、無色の普通の水のようだ。
そして、
「試にこちらの桶の中に杖を向けて、何色かを思い浮かべて下さいな」
私は杖を桶に向けて「赤色」をイメージしてみた。
すると、桶の中の水の糸が赤色に変化する。
「動作に問題はないようですな」
私の魔法で変化したのだろうか?
多分そうだろう。
私は僅かに興奮していた。
杖を小さく降ったり、眺める。
その横でロイスが店主にお金を払い、店を後にした。
◆◇◆
魔法修行の日々はすぐにすぎて行った。
かなり地味だった。
ロイスは赤い花を持ってきた。
「え?ロイスどうしたの?まさか・・・」と思ったが、私の勘違いだった。
鉢植えごと持ってきた赤い花。
これで私は修行する。
赤い花の葉を一枚採る。
植物に杖を向け、治癒魔法をかけて葉を再生させる。
それの繰り返し。
花に魔力を送り込む。
これが難しかった。
葉が生えるイメージをし、「葉を生えよ、葉を生えよ」と黙々と念じる。
それだけだった。
ロイスの魔法訓練と同時に、セバスの貴族令嬢としての訓練も行われる。
私はセバスの訓練中も念じていた。
セバスの講義に飽きてくると、髪の毛が薄いセバスの頭皮に対して杖を向けて念じてみた。
「毛を生えよ」「毛を生えよ」と。
心なしか、効果があったように思えた。
家の洗面所で、セバスが髪の毛を気にする時間が増えた。
◆◇◆
「アリス、これも頼む」
私は薬草に念じる。魔力を込める。
ふわっと体の中の何かが薬草に向かって移動していく気がする。
私は次々と薬草に魔力を込めていく。
この薬草はロイスの知り合いの店で売るらしい。
雑貨屋の噂を検証したくて試に薬草に魔力をこめると、特別な薬草が出来た。
回復量が通常の薬草より大きく、+αで幸福感を感じられる。
試に店で売ったところよく売れたとのことで、こうして定期的に私が量産することになった。私も家計に貢献できてなによりだ。
私はひたすら魔力を込める。
魔力を込めると僅かに薬草の色が変わる。
ほんの少し緑色が濃くなる。
その事をロイス言ってみたが、よく分からないとのことだった。
セバスにも聞いてみたが同じだった。
どうやら私しか分からないらしい。
「アリス、セバスの訓練はどうだ?」
セバスの貴族令嬢訓練はそこそこ進んでいる。
厳しいセバスの指導あってか、自分でも動きが優雅になったと思う。
「順調よ」
「そうか、セバスは中々進まないと言っていたが」
「それは多分セバスの勘違いよ」
「それならいいが・・・まぁ、最低限度頼む。直に必要になる」
「分かってるわ」
本日、もう一話投稿予定です。