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狂殺のメニーナ  作者: あけみん☆
第1章 動いていた針
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第1章8話 =月宮弥生 後編=

 「お姉ちゃん……?」


 かさねから出た言葉には驚愕以外に何の感情もこもっていない。


 だが、弥生は今の自分の姿に羞恥を持ち反応はおろか、顔を見る事さえできなかった。


 しかし、次にかさねから出た言葉は弥生の理解を超えてしまう。


 「何見てんだ!?殺すぞッ!!!!」


 弥生は心が跳ね上がると同時に顔を上げる。


 最初は弥生本人の事を指していると思ったが実際はそうではなかった。


 「速くどっか行けよ、おい!」


 しかし、かさねの言葉は弥生の姿を見ていた野次馬たちだった。


 かさねの叫びは弥生にとって一回も聞いたことのない声だ。


 そして、かさねと無縁なはずの「殺す」という単語。



 しかし、弥生が驚いているのはそこではなくかさねが本当にナイフを構え、人を一人切りつけていたという事実だった。


 「これが最後!!もしこれでもいなくならなかったら本当に殺す!!」


 かさねの目には殺意が強い光となって輝いている。


 弥生の視線からはかさねの背中しか見えないため見てはいないが。



 野次馬たちが逃げるように走り去っていく。


 かさねはそれを見るとナイフで弥生をとらえていた鎖を破壊する。


 弥生はそれを見てかさねの異常な力を感じ取った。


 普通、ナイフで鎖は切れないのだから。


 「大丈夫!?お姉ちゃん!」


 さっきの声とは別人のような声で弥生に迫ってくる。


 かさねは自分の着ていた上着を弥生にかぶせた。


 「こんなことになるなんてね……思いもしなかったわ……」


 弥生が苦笑する。


 流石というべきか、彼女は泣きわめくのではなく下を向くだけにとどめた。


 「お姉ちゃん……」


 かさねは自分がどの言葉をかけていいのか分からず目が泳いでいる。


 タイミングよく表れてもこの場面が弱いのはかさねの特徴であることを弥生は知っている。

 だから、


 「もう大丈夫よ。ありがとう、あなたもこの研究所にいたのね」

 「うん、今日も実験があるらしくて。……お姉ちゃんをこんな目に合わせたのはママのせい?」


 かさねは折角弥生が変えた話題を引き戻す。


 そこにかさねが故意的にやったのかどうかは定かではないが。


 しかし、かさねの目は弥生に嘘をつかせないような視線で問いただしていた。


 「何を偉そうな事言っちゃってんの?」


 と、弥生は小さく呟く。


 弥生が生きてきて日が当たるような幸せな時間にはいつも月宮かさねという存在がいた。


 久しぶりに父が話に来てくれたとき、彼の膝にはかさねが乗っていた。


 噂で月江がかさねを連れて遊園地へ行ったという事を聞く。その時弥生は一人で勉強していた。



 かさねがいて、弥生がいなかった。



 だから、弥生は怒りの矛先を恐怖が進路を変えてかさねに向けていた。


 「お姉ちゃん?本当に大丈夫?」


 幸いかさねの耳には届かなかったらしい。


 弥生はそのことにホッとすると彼女の心に小さな悪魔が動き出した。


 弥生がかさねの目を見る。


 「大丈夫よ。……話してもいいかしら?」

 「うん、私でよければ」


 かさねはこの状況からみて隠そうとしているが気分が上がって声のトーンが少し上がっていることを弥生は見抜いてしまう。


 それを聞いて弥生は完全にかさねを少し痛めつけてしまおう、と思ってしまった。


 弥生は今日のクローンではなく人間を殺すという恐ろしさをかさねに語りさっきあったことをすべて話した。


 「そんな……ママがお姉ちゃんにそんなことしたの……?」

 「ええ、信じられないかもしれないから無理に信じなくていいのよ」


 これが月江にしれればその後に弥生がまた痛めつけられることは悟っていた。


 しかし、弥生は零れ落ちるドス黒い感情と共にすべてを吐き出す。


 弥生はかさねが何かアクションを起こせば月江は激怒しかさねにも手を出すと思ったのだ。


 「……お姉ちゃんの言ったこと……信じる」


 少し時間を有したがかさねの目には何の迷いもなかった。


 弥生は悪魔のような笑みを内心にとどめて小さな笑顔を向ける。


 「ありがとう」

 「う、うん。お姉ちゃんもう一人で大丈夫?私、そろそろ実験があるんだけど……」

 「あら、ごめんなさいね。頑張ってきなさい」

 「うん!」


 そういってかさねは少し速いスピードで弥生の前から立ち去った。


 実験をする場所とは真逆の方向に。


 「やっぱり人造人間はクローンとほとんど変わらないようね……オリジナルがいないだけの能無し人形」


 そういって弥生は笑みを浮かべトイレにいって盛大に吐いた。


 「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」


 今日の傷は永遠に癒えることはないだろう。


 弥生は目に涙を浮かべて胃が空になるまでずっと吐き続けた。







 数時間後、弥生は数人の研究員とクローンを使ったマナの研究をしていた。



 そんな時、一人の青年の声が研究室の中を飛び回る。


 「弥生先生!月江様が……月江様が!」

 「お母様どうかしたの?」


 弥生は嫌な予感がして視線を細めた。


 「月江様が殺されました!」


 青年の焦燥にかられた声は顔色が蒼くなっていく弥生を叱りつけるようにも聞こえた。


 「そんな……」


 この時点で弥生の発した本当の言葉の意味は本人しか分からなかった。


*************

 弥生がかさねが本物の人間ではなく作られた人間であることに気付いたのは小学6年生の時だ。


 きっかけは些細な事だった。


 かさねにしつこく頼まれ、親の目を盗み、

嫌々やっていた鬼ごっこでかさねが加速魔法を使っていた時だ。


 「加速魔法は普通の魔法の3倍以上のエナを消費するのに、何でかさねはこんなに魔法が使えるんだろう」


 と、疑問を持ち大量の本と研究材料が使える年齢になっていた(勿論弥生視点だが)弥生は時間を見つけてはかさねの事について調べた。


 そして、一つの計画書を発見してしまう。


 「神干渉計画……?」


 その内容は大胆にも神に干渉して世界を変えてもらおうという方向の計画書だった。


 それに必要な実験体、サーバント。




 ここで、弥生はサーバントの事を知った。


 サーバントの名簿の中では一人だけ知っている人物がいた。


 「サーバント~号、月宮かさね……」


 かさねがサーバントだったのだ。


 しかし、弥生が感じたのは驚きというより合点がいったという方だった。




 弥生がさらに研究所内の資料を探りえた結果、サーバントは研究員の作りだした人造人間であることが分かる

 この人間たちの構成物質の98パーセントはマナで出来ていて、

本物の人間の体内に入っているマナは全体の6パーセントほどだ。


 だから、かさねは大量に加速魔法を使っても底を尽きなかったのだ。



 ほぼ無限にあると思っていいだろう。



 しかし、この後弥生はそれを誰かに言ったりこれ以上調べることはしなくなった。


 弥生にとってあんなに楽しんでいるかさねの弱みが握れた。それだけで十分だったのだから。


***************

 弥生が駆け付けた時にはすでに血の泉になっていた。


 壁が焦げていることから戦闘があったことが分かる。


 そして、月江の腹の中に深々とあいた穴が「死」を決定づけていた。


 「……何でこんなことに」


 弥生が心で発したはずの言葉は知らずのうちに口から漏れ出していた。


 (とにかくかさねに合わないと……)


 弥生はそう思い死体に背を向ける。


 「ごめんなさい。少し空気を吸ってくるわ」

 「はい」


 研究員の返事から逃げるようにその場から立ち去った。




 弥生がかさねを見つけるのは苦労しなかった。


 かさねが実験をする場所は前から限定されていてそれ以外の地域は立ち入る可能性が低いからだ。


 案の定、かさねは返り血を体全体に浴びた状態で隅にうずくまっている。


 弥生は強烈な血と死の臭いを嗅いでむせ返りそうになった。



 「かさね……?あなた、まさか!?」


 弥生もさすがにかさねがここまでやることは予想していない。


 弥生にとってかさねはクローンすら殺すことの出来ない優しい子だとばかり思っていたからだ。


 「お姉ちゃん……?」


 かさねはうつろな目で弥生を眺めるが両手は必死に自分の服をこすっている。


 「お姉ちゃんどうしよう……血が固まっちゃって服にこびりついちゃった。これじゃあ皆にばれちゃうよ……」

 「かさね……?」


 弥生の目の前に移っている妹はもう弥生の知っている子ではない。


 服を濡らし証拠を消そうとしているかさねの姿は悪魔と呼ぶのが正しいであろう。


 そう、弥生の前には悪魔が座っていたのだ。


 「お姉ちゃん……?」


 弥生の嫉妬なんてかさねの腹黒さに比べたら可愛いものだ。


 そして、彼女はまた明日になったら母を殺したという事実を忘れて生活することになる。


 「大丈夫だよ、お姉ちゃん!悪者は私が殺しといてあげた!」


 かさねは血に染まった髪を揺らし笑顔を向けていた。


 そして弥生は何も答えられないまま、かかしのように足を延ばしていた。





 弥生の母が殺されてから4日が去った。


 彼女の生活は一変していた。


 弥生の母がいなくなり恐怖、暴力の手から解放され父と共に研究をしている。


 そして弥生は高校生になる同時に初めての学校へ通う。


 彼女は友達という存在が出来ると胸を躍らせながら一日一日を過ごしていた。




 だが、不安が二つあった。


 一つは血を浴びたかさねを見た父は何も言わず立ち去り犯人は不明という形で幕が閉じられた。


 そしてかさねは記憶を消された。




 二つ目は神干渉計画だ。


 弥生はあまりにも速かった父の対応に不信感を抱いた。


 父には内緒で母の死体を見てみると心臓が消えていた。


 医者と警察は凶悪犯と結論付けたが弥生の考えは違う。




 弥生は神干渉計画についてもっと知るべきだと感じ、数人の信頼する人間を集め時間の隙間に入り込んでは調査、研究を開始した。



 こうして、月宮弥生という小さな、そして天才研究者が誕生した。

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