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狂殺のメニーナ  作者: あけみん☆
第1章 動いていた針
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第1章7話 =月宮弥生 前編=

 魔法大戦後、民間の権力層は一層強くなった。



 独自の軍を持ち魔法の研究に人生のすべてを賭ける研究家、

 研究家の器具、食料、資金を流し研究利益を貰う資産家、

 軍の力で自分らの領地を守り一般層の税で生きる軍層、

 食料を得るために畑を耕し、一定の税を軍に収める一般層。


 この4つから成り立ちその8割が一般層と傾いた社会で生活していた。


 月宮家はその最高層の研究家で3大研究一家の一つである。


 月宮弥生はその次期研究リーダーという重い運命を背負わされる子として生まれた。



************************

 「弥生!ご飯をこぼさない!」

 「……ご、ごめんなさい」


 泣きそうな顔でご飯を食べる弥生は小学2年生だ。


 「全く……月宮家にこんなにも出来が悪い子が生まれるなんて……」

 「ごめんなさい、……ママ……」

 「あんた、もう今日の朝ごはんは終わり。速く勉強しなさい」

 「……はい」


 ほとんどご飯に手を付けられなかった弥生はおぼつかない足取りで机へ向かう。


 机に並んでいるのは数Ⅰだ。


 本来なら高校生で習うはずの物を小学生が勉強している。


 それもそのはずだ。


 ご飯を朝夜の2回しか与えてもらえずあとは睡眠と勉強だけなのだから。


 この生活をしてもう5年になる。


 最初、弥生は地獄のような生活に泣く毎日だった。しかし、成績を上げないと母親に殴られることから毎日のように耐え集中して勉強しなければならないのだ。


 そしてこの生活に慣れ始めてしまった。


 「えっと……だめだ……頭に入ってこない……」


 弥生がため息をこぼすと申し訳なさそうに和風のふすまが開く。


 かさねがひょこっと顔を出すと親に見つからないようにそっと入り、弥生の方へ寄ってきた。


 「お姉ちゃん、これ」


 小さな手に余る大きさのおにぎりを弥生に渡したのだ。


 「かさね……これ誰の?」

 「私の朝ごはん」


 弥生が少し息をこぼした。


 「あなたのなんだからちゃんと食べないと。大きくならないよ」

 「大丈夫だよ。それに、お姉ちゃんに食べてほしい」


 かさねが胸を張ってそう答える。


 かさねにとって弥生の生活は一部始終しか見てないのに加え、小学1年生だ。


 勉強熱心なお姉ちゃんにしかかさねの目には映っていない。


 「分かった。ありがとね」

 「うん!」


 名残惜しいのか部屋にい続けようとするかさねだが知識を大量に詰め込んでいる弥生にとって精神年齢も異常な速さで成長していた。


 なので、次に自分が何をやらなければならないのか理解している。


 「ほら、かさね。お母さんに見つかったら怒られちゃうよ。早く戻って」

 「でも……」


 だが、まだ小学1年生であるかさねはそう言ってもお姉ちゃんと一緒にいたいという欲望の方が強いのだ。


 だが、かさねはそれに見合った理由がなく口籠もっている。


 弥生もそれを悟り少し話してもいいんじゃないかと思ってしまう。


 「今日も研究所に行くの?」

 「うん。今日は大きいところにいくの!」


 元気に光る声は社会の穢れを知らない純粋な声だった。


 だが、弥生は知っている。


 だから聞いてしまう。


 「何をしに行くの?」

 「お薬の研究ってパパが言ってた」

 「ふうん。昨日は何してたの?」


 かさねは毎日のように研究所に向かっていた。


 だが、


 「ええっと……あれ、なんだっけ?」


 弥生は知っている。かさねが覚えてない理由を。


 「私に聞かれても」


 だが、その答えは弥生本人の口からは言えない。


 だから毎日のようにくるかさねに昨日の出来事を思い出させようとする。


 「あれ……何やったんだっけ?……」


 今日も駄目だったらしい。


 毎日のように発している言葉を弥生は口にする。


 「もう、かさねはお馬鹿なんだから」

 「えへへ」


 しかし、かさねにとっては弥生から毎日のように言われている事には気づいていない。


 否、気づけない。



 かさねは研究所で何らかの研究で実験体にされた後、記憶を消されているのだ。


 故に昨日の事を忘れ精神年齢だけが大人になってゆく。


 だから、かさねは頭が悪い。


 「13……?何て読むの、これ」


 広がっていた数Ⅰの教科書の数字に目が留まったらしい。


 「じゅうさんって読むんだよ。1が13個あるの」

 「じゅうさん?じゅうさん、じゅうさんじゅうさんじゅうさん」


 新しい知識を忘れないように目を尖らせて呪文のように唱えていた。


 明日には忘れてるが。


 「ほら、かさね。そろそろ行くぞ」


 いつの間にふすまの前に立っていた弥生たちの父を見てかさねが走り出す。


 「うん、行こう!」


 かさねは父の手を握りその場から出ようとする。


 父は月宮研究所の研究リーダーでこの大陸では最も権力の持っているクラスの人間だ。


 しかし、母とは対照的な穏和な性格は周辺の地域で有名なほどである。


 跡取りは長男、長女の順と決められていて弥生がそれに当てはまる。




 だが、生活の指導、教育はすべて母が担当していて弥生が父と喋ることなんて滅多になかった。


 だから、父からの愛情を受けているかさねに弥生は嫉妬する。


 その光景は弥生にとって首を絞められているに等しいものだった。


 「かさね、少し痩せた気がするぞ」

 「ええ、本当~?ちゃんとご飯食べているのに~!」


 かさねは幸せそうに頬を膨らませていた。


 「お前小食だからな~。あとで研究所でなんか食え」

 「は~い」


 弥生は孤独と重圧に耐えているがこうも当たり前のような生活を見せられると恨みが積もってくる。


 だが、恨みは姿を隠し蓄積される。


 そのことに弥生は気づいていないようだった。




 最後に部屋を出るときかさねが振り返る。


 「あ、お姉ちゃん勉強頑張って!」

 「うん、ありがとね」


 弥生はそう言って笑顔をかさねに向けるが手に持っていた貰ったおにぎりを握りつぶしていた。



************

 時は6年間を流れさせた。


 弥生は中学2年生になりかさねは中学1年生になった。


 弥生は相変わらず勉強の日々が続き、かさねは中学校に通っている。


 もちろん弥生は小学校の時点で中学の学習過程を終わらせていたために通う必要は全くない。


 だが、机にずっと向かっているわけではない。



 「クローン体のマナ抽出完了しました」


 弥生が一人の研究員に話しかけた。


 「お疲れ様。死体は焼却炉によろしく」

 「はい」


 と、人体からマナを吸い上げる実験をしていた。


 マナは人間の生命線であり体から8割抜けると気絶しすべて抜けると死んでしまう。


 いったい何の研究をしているのかが分かるのはもう少し先の事になるだろう。




 天に向かい紅に染まった火が茫然と壁のように燃えている。


 「死体はよく燃えるわね……」


 弥生は実験で何人ものクローンを殺していた。


 だが、弥生にはもうしれに対する罪悪感は一切抱いていない。


 彼女にとってクローンは人の形をした人形と母に叩き込まれたからだ。




 最初は魔術を使ったナイフでたくさん殺させられた。


 クローンといっても人の感情はちゃんとある。


 痛ければ逃げたり泣いたりする。だから弥生にとってその反応は恐怖でしかなかった。




 弥生は殺戮を拒否した。親に殴られ背中がナイフで切り裂かれた。


 弥生は殺戮から逃げた。親は檻に閉じ込めて栄養失調寸前まで追いやられた。


 弥生は助けを求めた。親は泣いている彼女の顔を便器に突っ込んだ。


 弥生は弥生は弥生は……




 そんなことをやっているうちに弥生は殺戮を受け止てしまった。日常の一部として。


 今弥生の手には首輪につながった一人の少年がいる。


 「あなたを殺すのももう何度目かしらね……」

 「え、殺す……?」


 少年は驚いた顔をするが弥生は答えもせず少年の腹を切り裂く。


 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 「そして痛いよと言う」

 「……痛いよ……」

 「あとはもう何も言わないのよね、あなたは」


 少年は一回叫び散らすとその声と共に意識を吹き飛ばしてしまう。


 そして最後に意識がもうろうとする中最後に放った言葉が弥生の口と一致した。


 「クローンはオリジナルと同じ反応だなんて誰が信じるのかしらね」


 そういって焼却炉を後にするのだった。







 「弥生さん、お客さんがお見えだそうです。3階の東棟3号ルームへお願いします」

 「そう、お母様ね。ありがとう」


 弥生の表情が一気に変わる。


 彼女はもう研究班のリーダーを任されていて自分より歳が上の人が研究員として働いてた。


 なので、弥生は月宮家の誇りのためにも喋り方を変え凛としている。


 だが、親には相変わらずしっぽを巻いて震える子犬に過ぎないのだ。


 「……」


 弥生は恐怖と緊張で何もできないまま操り人形のようにエレベーターに乗り目的の部屋まで到達した。


 「月宮弥生、入ります」


 返事がないが無言の肯定と受け止め彼女はゆっくりと部屋へ入って行く。


 そこで弥生が目にしたものは手錠を付けられた本物の「人間」だった。


 ずっとクローンを見てきた弥生にとってクローンと人間の区別は一目瞭然なのだ。


 「久しぶり、弥生」


 弥生の母、月江つきえは無機質な声を口から出す。


 「はい、お久しぶりです」


 弥生は恐怖と緊張を冷静で覆って喋った。


 「研究は順調?」

 「はい。プラン通りに成果が出ています」

 「は?プラン通りじゃだめなのよ?」

 「……申し訳ありません」


 弥生の手は既に震えている。


 「クローンばっか使ってるから悪いんじゃないの?」

 「お言葉ですが人の命は尊いものです。この手で殺めることは出来ません」


 弥生は生まれつき優しすぎた。


 だから、人の命を殺めることは彼女にとって禁忌領域だ。




 だから、弥生はやられると分かっていても全力で拒否をする。


 しかし、


 「そんな理由で認めてあげる時間はもうないの」

 「……」


 月江は弥生の無言を肯定と受け止め話し続ける。


 「ここに、3人の人間がいるわ。とりあえず絞殺から始めなさい」

 「首を……絞める……?」

 「そう」


 弥生はゆっくりと相手に近づくが吐き気がこみあげてくる。


 「お、お願いします!やめてください!」


 クローンの反応と人間とではやはり若干であるが反応の極度が違うらしい。


 そして弥生は簡単にその区別がついてしまう。


 弥生は何も考えずに相手の首を握った。


 「あ!ああああ!……ッ!」


 弥生はかなり力のある方だ。


 だが、精神的な強さは全くない。


 だから……


 「ああ!やっぱり無理!」


 そう叫び散らすと弥生の手が相手の首から逃げるように離れた。


 「弥生!り続けなさい!」

 「無理!人は……殺せない……」

 「殴られたいの?」

 「やだ……」

 「どっちなの?」


 一問一答のようにどんどん会話が進行していく。


 だが、それも最後の弥生の言葉で終止符を打った。


 「……殺せないよ……」


 さっきまで使っていた敬語は恐怖によって完全に消滅している。


 そこまで、弥生は痛めつけられるのが怖かった。しかし、殺すほどではないが。


 「そう、それなら仕方ないわね……」


 そう月江は言い放った。


 月江は弥生を殴りはしなかった。


 だが、…………




************


 研究所の廊下で両手両足を縛られて貼り付けにされている少女がいる。


 少女は泣いていた。


 まだ、ただ縛られているだけだったなら全然いいだろう。


 事態はもっと残酷だった。


 「おい、あれって……」

 「月宮弥生先生だよな」

 「研究班のリーダーの人だよな」

 「何であんな目に合っているんだ」


 いろんな人が少女を見て目を丸くする。


 少女は泣きながら呪文のように訴えていた。



 「お願い見ないで。助けて。見ないで助けてよ。見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで……」


 少女の顔は涙でつぶれていた。


 もう、少女に凛とした形はどこにも存在してない。


 「でも、ああいうのが出来るのって……」

 「月江様くらいね」

 「見ないふりだ、見ないふり」


 だが、男はほとんどちゃんと見てから立ち去る。


 「見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで……いや……」


 それも、そのはずだった。





 少女、いや、弥生は裸で張り付けられていたのだから。





 寒い?そんなことはもう気にしてられないほど弥生の精神状態はおかしくなっていた。



 弥生は泣いていた。


 ずっと、ずっと、ずっと、ずっと。


 すべてをさらけ出されている弥生にとって泣いているからこそ意識があるのも同然だった。


 時々、誰かが弥生を触りその事実から逃げるように泣いた。


 「お姉ちゃん……?」


 そんな時、都合のいいヒーローのように弥生の前にかさねが現れるのだった。


=================

キャラクターデータ(当時のデータ *レポートより)


名前:月宮弥生

外見:赤い短い髪に黄色い目

体形:スタイルが良く体重は平均以下

学年:①小学2年生 ②中学2年生

魔法属性:①②純粋型雷魔法

魔法能力:①3エナジー ②5エナジー

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