第1章6話 生徒会ー2ー
「ふざけるな……」
私が発した言葉にはナイフのように強く鈍器のように鈍い力を持っていた。
しかし、生徒会委員の全員は感情がないと錯覚してしまうほど冷静としている。
「そういうと思った。じゃあ聞くけど君は僕たちに心配して欲しくてここに来たのかい?」
学級委員長と私だけの空間のようにもう誰も会話に侵入してくる人はいなかった。
「それは違う……。けど私は雪菜がいままでどんな事をしてきて今日に至ったのかをあなたたちに話したかっただけ」
「つまりそれが今日君が藍川を殺そうとした言い訳になるとでも言いたい訳ぇ?」
相変わらず口調がむかつくなぁ。と内心思いながら今まで自分が思っていたことをもう何の躊躇いもなく言う。
「言い訳にするつもりはないよ。けど、確かに最初に仕掛けたのは雪菜の方で加速で逃げるって考えるほどの余裕がなかった。それだけで十分じゃない?」
「いいや、全く。今の話だと誰が聞いても藍川が悪いだろうねぇ」
「じゃあ何が……?」
「高校生にもなって自分の事しか考えられていないってのが問題なんだよ」
何を言ってるのと言おうとしたが、一瞬で息が詰まる。
使い物にならなくなった左手をぶら下げて立つお姉ちゃんを思い出して足が浮くような感覚を覚え吐きそうになった。
「あぁ……お姉ちゃん……」
言葉が見つからない。
浮遊していた言葉は雲のように決して手の届かないところに行ってしまい都合のいい言葉すらも喋る事が出来なくなってしまう。
「えっと……ぁ……ごめ……ごめんなさい……そんなつもりじゃ…」
足にすがるような思いでお姉ちゃんを見るがそうする度に自分のした罪の重さについて理解する。
黄色い視線は全てを麻痺させるように周りを硬直さた。
しかし、
「私の事は大丈夫よ、それよりあなたの怪我の方は大丈夫なの?」
優しく髪を撫でるように響いたその言葉は私に心すべてを駆け巡り振動させた。
「なんで……?」
目が熱い。お姉ちゃんに包まれているようでもう自分が何を言っているのか分からない。
「言ったはずよ、あなたを守るって。今回あなたの命を危うくさせたのは私の責任だもの。もしあなたが許してくれるって言うなら左手一つ落とさされただけなんて安いもんだわ」
お姉ちゃんを見ると優しく微笑んでくれた。
涙で視界が埋もれ足が自然と力を失って倒れる。すると、お姉ちゃんの体温が私の体を優しく抱きしめてくれた。
まるで、都合のいい夢を見てるようだった。
「お姉ちゃんは悪くないよ……ごめんね……私のせいで……」
「うふふ。あなたは考えすぎよ、それだけで権力が揺らぐほど甘く積み立ててはないわ」
「うん……」
久しぶりに流した涙だと思う。
今は柔らかく包んでくれているこの場所で惜しみなく涙を流そうと思ったが、それも副会長の言葉で消えてしまった。
「さっき学級委員長が言ってた通り周りが見えてませんよ。月宮かさねさん」
お姉ちゃんに抱きしめてもらいながら視線を上げる。
その視線を次の言葉を話せと催促していると、とったのか副会長は喋り始めた。
「生徒会長と愛情を確かめ合うのはいいですが、私たちはそれを見るためにここに来た訳ではありません」
「ここで口を挟むあんたらの方が周り見えてない……」
反撃しようと口を開いたが言い終わるとやめなさいとお姉ちゃんに止められた。
副会長は一瞬怒りを視線と共に送ったがすぐに冷静さを取り戻して口を開く。
「それでは、最後に私から質問をします。貴方がいじめを隠している本当の理由はなんですか?」
お姉ちゃんと同じですべてを見透かしたような目をしている。
しかし、こんな近くにお姉ちゃんがいるのに真実話すなんてこと出来はしなかった。
だから、
「それはさっきも言った通り言う勇気がなかったから……」
「本当の事を言ってください」
やっぱりだ。こんな嘘通じるはずがないのだ。
「もうそこらへんでいいでしょ?聞き取り調査はここまでよ」
「無礼をお許しください。生徒会長」
お姉ちゃんの静止を拒否するが、これが初めてであるかのように周りは私の会話より動揺が渦巻いていた。
「生徒会長に迷惑をかけたくなかったから……じゃないですか?」
「--ッ!」
背筋に悪寒が駆け巡り神経が遠のくような感覚に見舞われる。
座っているのに倒れこみそうになり少しお姉ちゃんに体重を預けると当たり前のように支えてくれて勇気が出てきた。
「それは勘違い。お姉ちゃんは関係ない」
「そうですか……それでは。……加速ッ!」
空気の流れがのろくなるのを感じる。
流石は副会長。8倍速くらい出てる気がする。
「同じ加速魔法適正者は相手の加速に巻き込まれますからね。ここでは私が他の人に触れない限り加速は解けません」
「……」
つまり、今この場では私と副会長でしか会話の内容が聞き取れないことになる。
速い加速に慣れていないせいもありちょっと息苦しい。
「それでは答えてください。なぜ、あなたがいじめを隠した理由を」
「……なんでそんなに聞きたがるの?」
「大切な事です。ここははっきりしておきたい」
そんなに大切な事なの?と内心思う。
そんなこと聞いたってさっき学級委員長が言った通り雪菜を殺そうとした事実は動かないのだ。
明らかに不自然なのでやはり本当の事はお姉ちゃんのために言うべきではないと判断する。
「本当も何も勇気がなかった。そのことに変わりはない」
沈黙が生まれる。
この時間の緊張感は周りを震え上がらせるくらいのものだった。
そして、副会長の顔が一変する。悪魔のように。
「……そうですか。それでは、強硬策に移るしかないですね」
「……強硬策?」
聞き返した瞬間、飢えた酸素が体にどんどん入ってきて加速が解除されたことに気づいた。
状況が分からず副会長の方を見ると右手に録音機が握られている。
「いまから、私と月宮かさねさんの加速空間での会話を録音した録音機を流します」
何をやりたいのかいまいち分からない。
だが、録音機に魔法結界の印があったことから魔法干渉を受けない器具だと判断する。
無機質な機械音が流れ自分の声が機械から動き出した。
--「ここなら誰にも聞かれることはありません。貴方がいじめた理由教えて頂けますね」
副会長の声だ。
ん……?さっき言ってた内容と少し違うような?
--「……本当に誰にも言わない?」
(えッ!そんなこと言ったっけ?)
声はそっくりなのにさっきまでの会話内容とは全く違うことに唖然とする。
しかし、そんな私に目もくれず機械は淡々と偽りの会話を流した。
--「ええ。勿論です」
--「……お姉ちゃんに迷惑かけたくなかったから……お姉ちゃんってはっきり言って自分が完璧って思い込んでいたところあったから」
「これが、加速中に話していた内容です」
最初は唖然としていたが、怒りが手に取れるくらい漏れ出してくる。
「なッ!全然違う!こんな事加速中に言ってない!」
体を話してお姉ちゃんの方を見ると考え込んでいる顔をしている。
その顔を見ただけで半信半疑な事が分かってしまった。
「月宮かさねさん。確かに加速空間では言わないと約束しました。しかしこのまま偽りを抱えたままの生活はこれからにも心の負担になると思います」
どうしてあいつはこうも平気に嘘を並べられるのだろうか?
反論を口にしようと言葉を出そうとするがこれも学級委員長に遮られた。
「君さぁ、まさか魔法結界を張った録音機が嘘言ってるなんて言わないよねぇ?」
「……」
確かにそれが気にかかる。
魔法結界を張るという事は魔法干渉を受けない事と同義であると共に録音機などの機械には改ざんを防止する魔法が張られている。
つまり、録音機に流れている声は私が加速空間の中のどこかで喋ったことになる。
しかし、そんなこと喋った記憶なんてもちろん記憶にない。
だが常識的に考えて、いや、誰もが今加速空間で言ったことをばらされている内容に対して必死に逃げているようにしか見えない。
だから、お姉ちゃんは
「……あとはかさねと2人にさせて。これは命令よ」
副会長が立ち上がると生徒会員がぞろぞろ出てゆく。
最後に学級委員長がお手柔らかにしてあげてくださいよ。というと、扉の無機質な音が鳴り響きお姉ちゃんが立ち上がる。
「……お姉ちゃん!私、そんなこと言ってない!」
生徒会室は場の空気に合わせるかのようにひどく静まりかえっている。
お姉ちゃんが振り返ると黄色い目が私の体を貫いてきた。
「かさね……立ちなさい」
「うん」
この場に合わない即答はお姉ちゃんの視線せいだ。
体を震え上がらせるほどに。
「あなた……私にそんなこと思っていたなんてね……正直残念わ」
「違う!私、本当にそんなこと言ってない!」
無の空間に声を張り巡らせる。
そして、前に出た瞬間……
「んッ!!」
……初めて理解する。
これが、一番信頼してた人の分かってもらえなかった虚無感と痛みに。
いや、後者は本当に痛かった。
お姉ちゃんの張りつめた声が爆散した瞬間、固いローファーの先端が私の溝に直撃する。
あばら骨が確実に何本か折れた。
気が付くといつの間にかに足が倒れていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!…………ぁ…ぁぁ……」
胃が締め付けられるような激痛に襲われて声が出なくなる。
胃の中の物が這い出てきて何回も何回も吐く。
胃酸の酸っぱい味が口をくすぐるが、それもだんだん鉄の味に変わる。
「あなたには失望したわ……本当に使えない実験体ね」
「ぁぁ……」
倒れこんだ口の付近には液体が大量に密集していた。
「とりあえず、学校生活での最重要秘密事項はあんたはもう漏らしてしまったのよ。あら、痛すぎて本当に漏らしているみたいだけれども」
根強く張る意識は痛みから解放してくれない。
声には出せないが耳は使える。しかし、お姉ちゃんの言いたいことは全く分からなかった。
「はぁ、こんなゴミを守ろうだなんて私もどうかしてたわ」
お姉ちゃんがよってくる。
今日一日でお姉ちゃんの印象がここまで変わってしまうとは思わなかった。
激痛でうまく息が出来ず喋ることもままならない。
胃の中の物は全て吐き捨ててしまったようだがそれでも血を乗せていろいろな物がまだ出続ける。
……てか、これ女の子の私にとってすごく恥ずかしいんですけど!?
そんな感情も私の心の中を蝕んでいる。
「何よその眼は」
いったいどんな目をしているんだか自分では分からない。
しかし、お姉ちゃんにとって怒りに満ちた目だと捉えたんだと思う。
「昔、私を助けてやったんだからこれくらい見逃せとでも言いたいのかしら?」
一瞬の間が出来て話は続く。
「確かにあなたが助けてくれたことで私は自殺せずにすんだわ。けどね、かさね。それからここまで来たのはあなたにすべて賭けていたからなのよ」
「残念だわ……」
お姉ちゃんがそういい終わると頭に強い衝撃が走り意識がやっと黒い海底へと沈んでいった。
次の日、意識が戻ると視界は真っ暗で手足の自由が利かなかった。
痛みはない。
そして、30秒ほどたって大体理解する。
私は椅子に縛られていて目隠しをされていた。
「お、無様な姿になってんな。月宮!」
お腹に再び激痛が走る。
「ぁぁッ!」
しかし、お姉ちゃんほど痛くなく殴られただけだが、それでも痛いものは痛い。
声で遼河だと判断する。
今度は顔を殴られた。
「ッ!」
歯が抜ける。
目隠しをされていていつ攻撃されるか分からないし体が縛られていて逃げることも反撃も出来ない。
そもそも、何でこんな状況になっているのかを考えていると頭の中で一人の人物がヒットする。
すべての声と怒りのエネルギーをため体を振動させ叫んだ。
「月宮弥生ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」
お姉ちゃんではなく、月宮弥生と。
私は、初めて体の中に生まれた殺意を故意的に体の中に取り込んだ。