表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂殺のメニーナ  作者: あけみん☆
第1章 動いていた針
3/14

第1章3話 変わり始める時間

百合表現が含まれています。

あらかじめご了承ください。

 習得の授業が終わり鐘の音が生徒たちに解放宣言を告げると一目散に男子たちは購買へ走って行く。


 女子たちは教室で友達と輪を作ってお弁当を開けているが当然私にはグループに誘われることはなく。一人で教室を出ると屋上まで足を運ぶ。


 生徒会長であるお姉ちゃんは鍵の管理を任されていてその中の屋上の鍵を私に貸してくれていた。お姉ちゃんが自分の時間を作るためにと渡してくれたそれは今では唯一、心が温まる場所だった。


 「はぁ、こんな事いつまで続くのか……」


 お弁当を食べ終わると暑いはずの太陽も今は優しく抱いてくれて睡魔が隣に座ってきた。


 心地良い暖かさを感じながら重い瞼をゆっくりと閉じていった。しかし、この睡眠も5分程度で引き戻されるようになる。


 「うん……うにゃ…」


 私の鼻に甘い薔薇の香りがくすぐってきて目を覚ますと赤い髪を風に躍らせて隣で本を読んでいるお姉ちゃんの姿があった。


 「あら起こしちゃった?ごめんなさいね」


 柔らかい笑顔を私に向けてくる。


 「あ……お姉ちゃん?」


 一瞬屋上には誰も来ないと分かっていても周囲を確認してしまう。クラスや学校の人には私がお姉ちゃんと血が繋がっていることが知られてなくいじめられてから隠し通してきた。


 生徒会長で頑張っているお姉ちゃんの名誉を傷つけたくなかったからだ。


 私にとって彼女は太陽のように輝いているが見えているのに決して届かない存在だからだった。


 「最近外では治安が悪くなってるみたいでさ……生徒会も屋上とか校門とかで見張ってないといけないのよね」


 唐突に切り出された話に一瞬困惑するが直ぐに重要な話だと気づき寝起きの頭を無理矢理回す。


 「治安……いつかここにも来るのかな……?」

 「反魔法軍?」

 「うん……」


 反魔法軍とはいつの間にかに出現した武力行使軍隊で私たちが住んでるような田舎を狙っては土地や食料を占領してゆく。


 「来るかもね……。けれど絶対に皆で協力し合って倒して見せるわ。私たちはあんな奴らなんかの奴隷ではないのだから」


 お姉ちゃんの発言に息をのむ。


志だけの人が言えばそれはただ単に表面上の戯言にしか過ぎないだろう。しかし、学校のトップが言うとやはり威圧そのものが根本的違うようにも見える。


 私はそんなお姉ちゃんの顔を逸らせないまま、けれど現実的な事を口にする。


 「けどあの人たちってもうレベルが違うって言ってたよ。私……はっきり言って植民地になって永遠に働かなきゃいけないのが怖いよ……」


 客観的に見てただの臆病にしか聞こえなかったかもしれない。


けど、私がクラスの人たちにいじめられても学校に来れるのはもっと大きな恐怖が目の前で起きる可能性があったからかもしれないのだ。だから、私は長くてまっすぐな足を延ばすお姉ちゃんにすがるような気持ちで心情を吐露した。


 「あなたは心配しなくても大丈夫よ……命を尽くしてでも私はあなたの事だけは絶対に守るわ」


 すんなりと入ってくる言葉の数々が体の中で溶けてゆく。


いつの間にかに肩が触れ合う距離まで来ていたお姉ちゃんは遠くを見ながらまるで前に誰かが立っているようにもう一度呟く。


 「かさねの事は私が守る。絶対に……いえ、私しかそれをすることは出来ないのよ……」

 「お姉ちゃん?」


 私が顔を持ち上げると一気に視界が暗くなり胸から上が柔らかいものに包まれる。


お姉ちゃんに抱きしめられたと気づいたとき、体が芯から熱くなった。


 「え?え!?……お姉ちゃん??その……」

 「うふふ……可愛いわね。けどかさね。もし反魔法軍にここが襲われたとしても私はあなたの事をこうやって絶対に守って見せるわ」


 かろうじてうんと頷くとそっと体が離されるが今度は顔同士が息がかかるほど近い。もう何が何だか訳が分かず、脳は訳の分からない事例だとパニックに陥っていた。


 「お姉ちゃん……?えっと……」

 「ごめんなさいね。訳が分からないわよね。……けどもう時間がないのよ」


 黄色く稲妻のようにまっすぐな視線が私の次の言葉を促している。


 「時間って……どういうこと?」

 「今は分からないわ……けどあなたはいつか自分と世界のすべてを知ると思う」


 薔薇の香りが体を覆う。


 「もしあなたがそれを知って絶望したとしても私は必ずあなたを支えてあげる」

 「私の……世界のすべて?」

 「それは私にしかできない事。誰にも邪魔させない……」


 どういうことと、言おうとしたが視線も表情も何も言わせないような顔をしていた。


返す言葉が見つからず無言でいると沈黙の肯定とお姉ちゃんは受け取ったらしかった。


 せめて、もっと顔が離れてれば多少は言葉が浮かんできただろうに。


 お姉ちゃんは少しの笑みと本気の視線を合わせ言い放った。優しく、綺麗な声で。


 「かさね……。私はあなたの事が好きよ……」

 「--ッ!」


 唇に柔らかい感触が当たる。


お姉ちゃんの唇が私のと柔らかく当たり離れてまた優しく当たり。


 足を動かそうとするが脳は完全にいうことを聞かず力すら入ろうとしない。


 お姉ちゃんの体重に負けて地面に倒れて仰向けになる。しかし、お姉ちゃんはキスを辞めず私の手足は押さえつけられて上に乗っかられている形になっている。


 「--ッ……お姉ちゃん……もう……」


この状況に耐えられなくなってどうにか息のタイミングで言葉を吐き出した。


 お姉ちゃんは顔を上げると手足が解放される。しかし、体を起き上がらせる事が出来ないくらい精神的に疲労している。


 「かさねは私が守るわ……。うふふ……早く起きなさい」


 手を借りてどうにか起き上がる。しかし、私はお姉ちゃんをもう見れなくなっていた。


 (違う違う違う!お姉ちゃんはこんな人じゃ!)


 まるで見ていたかのようにチャイムが予鈴を告げる。


普段ならぎりぎりまでここにいるが今は明らかにクラスにいた方が気分が楽なような気がした。


 「あ、んじゃ私……次ぎ体育館だから。その……先行くね」

 「あらそうなの?頑張ってきてね」

 「うん……」


 自分の弁当も忘れて直ぐに屋上を出る。早くトイレに行きたいと胃が訴え叫んでいる。


 その原因はキスもそうだが一番大きいにはその時とその後のお姉ちゃんの表情だった。


 あの表情は明らかに私を独占している所有欲から生まれる悪魔のような笑みだったから。


 「うふふ……あの子もまだ子供ね……」


 ドアを閉めるときそんなような言葉が聞こえたような気がした。






 昼のご飯をトイレで盛大に吐き出して体力がほとんど残っておらずふらふらと足を動かして体育館へと向かう。


 かろうじて残っていた購買のパンに感謝しつつ空の胃に運んだ。


 「はぁ……疲れた。帰りたい……」


 言葉が空気に流され霧散する。


夏の暑さは学校にとどまっていて蒸されているみたいだった。


 「おお、かさねじゃん。あんた結局ペアどうなったの?」


 遼河の隣にいた雪菜の声が私の耳に届いてくる。はぁ、今日は災難な日だ。


 「いないよ……」

 「んあ?おめぇ、なんか今日元気ねぇな」

 「いろいろあってね」


 もう彼女たちに構っていられなくなり適当に返事を返す。返事を返された遼河は何か言いたそうな顔をしていた。


 「ペアいないならもう確定ってことでいいよね?」


 だが、私の状況など空気を読んでくれる事もなく雪菜が小悪魔のような笑顔で話しかける。


 「だから、前も言った通り先生とやってよ。私と雪菜だと2エナジーも離れているじゃん」


 エナジーとは自分たちが出す魔法のパワーのランクだ。0~10まであり私は3エナジーなのに対して雪菜は6エナジーだ。1エナジー上がるのに平均8年かかるので1エナジー違っただけでも勝率は10%くらいだろう。


 まぁ、最初に決まるレベルは素質と魔法の適正だが。


 「いい年こいたジジイとやりたくねぇんだよ、気持ち悪い……。別に死ぬわけじゃないんだから大丈夫でしょ?」


 唾を吐くように言い放つと遼河が雪菜が可愛そうだから付き合ってやれよと促す。


しかし彼女のことをいたわってあげえれるほど私は優しくないしただ単に雪菜は私を傷物にしてストレスを解消したいだけなのだから。


 何度も起こった戦争、紛争で生きるための食料を作るための農業の手伝いに学校、そして反魔法軍による身を守るための魔法練習と睡眠だけを繰り返す日々は水槽で飼われている生き物同然だった。


 そんなストレスに耐えきれなくなって最近は自殺にとどまらず殺人や反魔法軍に入会し機能していない政府や研究家一族を攻撃するようになっていた。


私に対するいじめもそれと同類であると思う。


 「てか、そこにいられると邪魔なんだけど……。体育館の入口のど真ん中に立つのやめてくれない」

 「あ……。ごめん……」


 いつの間にかにさっきの吐き気や疲労感が自分の妄想であったかのように欠片も残っていなかった。


 体育館に入ると迎えに来てくれたようにチャイムが鳴る。


 「かさね~!速くこっちに来いよ~。実戦するぞ~」

 「だから、一人でやるって!」


 さすがに何度も言われるとイラッとくる。お姉ちゃんには私は結構精神が太く強いと言われるがこういう時になると負けると分かっていても言い返してしまうところを見ると自分自身でも頷けてしまう。


 --お姉ちゃんなんて今は考えたくない単語なので意識的に頭の隅に押しやる。最後に見た笑みが頭の中から消えていなかったが。


 「舐めやがって……」


 雪菜の呟きが私の耳にたまたま届く。


その瞬間、彼女が持っているナイフが水晶のように純粋な光が輝き始める。氷の刃が私の肉を引き裂こうと追いかけてくる。


 反射的に体を仰け反って回避するとポケットに入っているナイフを手に取るが手から逃げるように滑り落ちる。


私は内心舌打ちをしながら第二波の氷のナイフをいつの間にかに柔らかくなった体で回避して地面に転がっている鈍く光っているナイフを拾おうとすると足元が青く光った。


 「ッ!範囲攻撃!」


 言葉に出した瞬間衝撃波に飲まれていく。固い地面が私を容赦なく殴ってくるが今はそんなことに構っていられない。


 仕組まれた物語のように隣に存在する自分のナイフを持ち上げ手先に意識を集中させると、それに答えるように血の色に輝き始める。


 「速まれッ!」


 体から流れる空気が一気に鈍くなるのを感じる。


 「推定4倍速。魔力消耗による負担は皆無!」


 走りながら見えない何かに報告するように走り抜ける。


これは私にとって暗示みたいなもので自分の置かれている状況を喋ることで魔力の維持ができるような気がするのだ。気がするだけだが。


 刃を雪菜に向け別種の力を集中させる。


ナイフに埋め込まれた稜威が今度は青色に光り始めた。空気がよどみ、微妙にオレンジ色に染まる私だけの世界で青が綺麗に発光する。


 「切り裂けッ!」


 空気の刃が雪菜目掛けて一直線に駆け通る。と、体感速度が4倍の影響下にある私は確実に当たると確信して速度を元に戻すと体に一気に酸素が駆け巡った。


 「これだから甘いんだよぉ!かさね!」


 一瞬にして発生した氷の壁は放った無属性の風を受け止てしまう。


 「そんな……」


 思わず零してしまった言葉を雪菜は聞き逃さない。氷越しでも彼女がにやけ、大声で叫ぶ。


 「残念かさねぇ!」

 「なんで倍速の風が見えるの!?雪菜の見ている方向とは正反対に……」

 「あんた加速する前に到着目的地を見すぎなんだよ!」

 「くそっ!」


 思わず言葉が漏れてしまう。


いじめられてからの約2年間、技術ではペアもいず久しぶりの戦闘でやってはならない戦術が頭から抜けている。それに対してその空白の時間を雪菜は実戦に近い形でずっと経験してきたわけだ。


勝てる気がしない。


 「くらぇ!」


 雪菜の声を筆頭に、無数の氷の旋律が一直線に走り貫こうとする。


私はもう一回無機質に冷たいナイフを握り加速させる。


 しかし、この加速には限界がある。


体感速度を上げるということはその分、常に激しく動く{空気の流れ}が遅くなり、明らかに呼吸できる時間が短くなるのだ。つまり加速すればするほど息を止めた状態が長くなり、心臓や筋肉の動きが弱くなる。


 だが、衝撃波を食らうよりは楽と判断してエナを込めた。


 「3倍速……。まだ、大丈夫……」


 自分にそう暗示をかけて氷の刃を回避する。迫ってくるスピードが3分の1も遅くなればよけるのは簡単な事だ。


 しかし、次の瞬間加速中ながらも魔法の干渉を受けない衝撃波が私の体を貫いた。


息を止めているような状態に下からくる強い力と淀んだ空気の抵抗が重なって圧迫される。


 慌てて速度を元に戻したが、喉の奥から鉄臭いものがこみあげてくるのを感じた途端、また背中に衝撃が走って衝撃波で浮いたからだが落下した。


 「あんた、足元見とけよ。予備に張った範囲罠にまんまとはまるとか家畜の豚以下じゃん」


 いつの間にかにクラスの視線が集まっていてへらへらと笑っている。


 しかし、そんな事には気にしていられず、血が口の中から滝のように零れ落ちる。


加速によってきつく締められていた心臓に強い衝撃が走って体内の血管が何本か破裂したのだろう。


 「ぐはッ!……げほっ、ゲホッ」

 「かさね……あんた……」


 雪菜が吐いた血を見て戸惑っている。しかし、一瞬何処かの方を見ると表情が元に戻っていた。


 「立てよ……。かさね」

 「はぁ、はぁ……。ちょっと……きゅうけ……い……させて……」


 舌や唇に絡みついた血と酸素を無理に取り込もうとする肺のせいでうまく言葉が出ない。


胸は張り裂けそうなくらいの激痛を表現していた。


 「立てねぇと、またさっきみたいに無様に転がりつ続けるぞ」

 

 雪菜の声が冷酷に体育館の隅々まで走り抜ける。


 「いや……。けど……いまはもう……たてない」

 「これだからかさねは見限られんだよ」


 そう、告げた瞬間大量の氷の刃が突進してきて当たった!と、思った瞬間衝撃波が体を飲み込んでいった。


 (痛い……怖いよぉ……。助けて………お姉ちゃん……)


 聞こえるはずのないさっきまで頭隅にやっていたお姉ちゃんに存在にしがみつきながら軋む体を雪菜に向ける。


 足のいたるところに激痛が走り吐きそうになるのを何とか抑え、ナイフを右手に握らせる。


 雪菜が氷の雨を降らせて私は加速でしか回避不可能と判断した。


再びマナを稜威に送り込む。


 「推定4倍速……。まだ、いける……?」


 その時だった。胸を苦しめていた痛みが一気に引いて何も感じなくなったのだ。


 しかし、


 「心臓が……。破裂した……?」


 頭ではなく本能が理解した言葉を口に出した瞬間、あばら骨を直接手で折られたような痛み、肺を刃物で傷つけられたような痛みなどたくさんの痛みが一気に襲ってくる。


さっきは痛みが強すぎて脳の処理が遅れて痛みが一瞬消えたのだろう。


しかし、今は数えきれないほどの痛みの情報が脳を焼き尽くす。


 「!!……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」


 体にある胃液や血などあらゆる液体をすべて外に排出するして激痛を紛らわせようとするがあざ笑うかのように痛みが私を苦しめている。


 「かさね!!」


 雪菜の声がはっきりと聞こえて意識が飛んでないことに愕然とする。


 「ああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 静まり返った体育館で私の声かと確認したくなるほどの発狂とあばらがゆっくり折られていくような激痛だけがデュエットを奏でていた。


=================

キャラクターデータ


名前:藍川雪菜

外見:ポニーテイルで水色の髪と青色の目

体形:身長はやや高め。最近ダイエットに専念してるとか(遼河情報)

学年:1年生7組

魔法属性:純粋型氷魔法

魔法能力:6エナジー

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ