第1章2話 クラスの波
日本で稜威と呼ばれる魔法発生装置が開発された。
効果は人間が稜威だけの力で火、水、風など自然の能力を干渉することができるようになった。
魔法を使えるようになったのである。
稜威は人間の生命源である魂と呼ばれる存在、
{マナ}を{エナ}に変換する事ができエナに変換すると人間は超自然的能力を得ることができるようになった。
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「んじゃ、ホームルームは以上。1日がんばってなぁ」
まるで他人事のように怠そうな声がゆっくりと教室に充満する。
私は先生の話をほとんど聞かず、魔法や歴史の勉強をする{習得}の授業のテストでいい点を取るために教科書と睨みあいをしている。
「はぁ、こんな事なら早く寝なきゃよかった……」
誰に聞いてほしいわけでもなく独り言を呟くと声は賑やかな7組の声に押し流されていった。
クラスで一人、穴の開いたように存在している私は居心地が半端なく悪い。
「んなぁ、かさね。あんた今日のペア誰かいんの?」
私にとって一番恐怖な声が背筋を通ると周りのクラスの子の目が一斉に集中するのを感じた。
藍川雪菜が隣までやってきた。あ、詰んだ。と心がこぼす声に自然と肯定してしまう。
「いないけど……なんか用?」
早い鼓動を立てて震えている心臓とは真逆の強いトーンを口から放つ。
「あんたさぁ、折角雪菜が誘ってやってんのにそれはないんじゃないの?」
雪菜の隣にいた子が苛立ちを隠さず口を開いていた。
気づけばクラスの賑やかさは何処かへ消えていきクスクスと小さな笑い声が渦を巻いている。
「まぁまぁ。かさねってそうゆう奴だから。怖いけどあんたと特別にペアやってやろうと思ってさ」
「そんなこと思うんだったら別にやらなくていいんだけど……てか、あんたのペアはどうしたの?」
「いやぁ、それがあいつ休みでさぁ。今日いねぇんだよ」
藍川雪菜は魔法の実戦授業、
{技術}で学年第5位の実力を持つ子で平均以下の私にはとても勝てる相手ではない。
勉強である習得ではまだいいが、エナを使う実戦がある技術ではレベルの違う相手を傷物にする事だって出来てしまう。
私はその事態を避けるべく、どうにか無感情に波がないように言葉を出すが、
心は既に逃げようとしていて足が震えてしまって上手く脳が回らない。
「雪菜と私じゃ全然レベル違うから……先生とやりなよ」
「私はあんたを誘ってやってんだよ。それに人殺しが何言ってんの?」
それを言われた瞬間やってもないのに毎回息が詰まって言葉が出なくなってしまう。
なぜ私が人殺しを否定できないかって?
そんなの夢のせいに決まっている。
何でみんながそんなことを知っているのかはいつか告白する。
何も言えなくなって沈黙が走り抜けようとすると、
「皆座れ~。習得授業始めるぞ~」
と、タイミングを見計らってきたように入ってきた担任は完全にエネルギーの抜けた状態で声を撒き散らしてくれたおかげで我に返った。
「とにかくこれは決定事項だから。あんたに拒否権なんてないんだからな!」
雪菜が言い放つとつまらない舞台を見たようなクラスの目が一瞬向けられる。
くだらない……と心が呟いて手に取っていた教科書を机の上において先生が喋り始めた。
日光の光が私を優しく抱きしめてくれる。窓側で一番奥の席は黒板が見えにくいが心が一番落ち着く最高の席だった。
先生の声がゆらゆらと耳元へとたどり着く。
「てか、お前ら歴史の点数悪すぎなんだよ~。俺の給料下がるからマジやめて」
「教え方が悪いんじゃないっすか?」
頭がおにぎりの形をした男の子が笑いながら返答するが先生は精神的ダメージを受けずに流している。
「そんなお前らに今日はたんまり教えてやるから覚悟しとけ」
先生に指定されたページを見ると大量に並べられた文字が夏の暑さと共に脳の中に侵入してきて一瞬フラっとする感覚を覚えながら前を見た。
「とりあえず要約して説明するな。
今から100年くらい前に始まった食糧難における戦争は、日本の研究機関が開発された稜威っていう魔法システムによって魔法戦争の状態になった。
それにより地球はほとんどが焼け野原になって、いつの間にかに戦争は自然消滅。各国との通信はとぎれて、今も世界がどんな状況かなんて全く分からない。
そして、あの時代は人間の生きるために必要な物をどんどん失っていった。だが、魔法は戦争だけでなく恵みをもたらした。
稜威で水や天候を操ることでだんだん自然が再生し始めている。それで今農業が大ブームって訳だな。
それが70年前~20年前の事。
しかしそんな平和も長くは続かなかった。
反魔法軍と呼ばれる謎の組織が、日本で反乱を起こして何万という人間が死んで今も占領地や奴隷としてたくさんの人が苦しんでいる。
それで、その勢力は今も着々と伸ばされてこっちに近づいていて、それに対抗するために護身という事で午後の技術の授業にはげみなさいって事」
「んで、そんなのはどうでもいいんだけど技術のテストの方が普通にやばいんだけど」
雪菜の彼氏である遼河が気怠そうに言葉を返すと先生はため息をついた。
「はいはい。
稜威ってのは、でかすぎるし重すぎるから人の手で運ぶのは不可能。
それで、魔法戦争中に発展したのが稜威の大きさを大体100分の1にまで小さくして作ったナイフが出てくる。
フォールディングナイフっていう携帯の便利な柄に刃を収納できる種類が主流で、皆の持ってる学校指定のナイフもそれだな。
そこに埋め込まれたミニ稜威にマナを流し込むことで魔法を噴射ようになった。
種類は氷、水、雷、炎、風、闇、光、影、加速、強化の10種類が主で、
タイプが魔法性能が高い純粋型と、2種類の魔法を操れるけどひとつひとつの魔法威力が落ちる混合型、それとまぁいろいろ操れるいわゆる天才達が持ってるチートタイプの雑種型の3種類。
そーれーとー!
最後の行にある攻撃タイプってのが敵単体を狙う直魔法と敵全体を狙う範囲攻撃。
あとは相手の魔法に反応する罠魔法とある物や場所に継続的に効果を発揮し続ける結界魔法の4種類で、これを使い分けるのが重要だな。
まぁ、マナの許す限りだったら打ちまくるのもありだけど」
たくさん並べられた単語を一つ一つ聞き漏らさないように教科書にくらいついていると私の頭に鈍いが衝撃が駆け巡った。
「いったい……誰……?」
皆が先生に聞こえないように抑えられた笑みを睨み返した。
「月宮ごめん。ロッカーに教科書投げようとしたらお前に当たったわ」
一気に笑いがこぼれて教室を満たす。
死ねと心で呟いても波を立てた怒りは静まない。
少し反抗しようと立って前に進もうとするが、その後に振ってきた雪菜の声で拒まれる。
「許してやれよぉ。あいつ微妙に天然入ってるしな」
「…………うん……」
雪菜の目の威圧に蹴落とされ後退してしまうが、普通の人でも向けられたらビビると思う位の力があるので仕方ないのだ。
何とか感情を飼い慣らして自分の方へと戻る。
本当は今にも暴れだしてやりたいところだが、今に始まったことじゃないし何より力も技術もない。
それに、1番の理由として生徒会長であるお姉ちゃんに心配をかけたくなかった。
普段生徒会でかなり重い責務を背負っているのに私の面倒まで見るとなるとかなり大変だと思うから。
「女の子の頭に当てるのは最悪だろ~」
いや、あんた絶対そんな事思ってない!と小さな声で突っ込んどいた。
午前にやる習得は、午前丸々一つ使って毎週のように魔法技術や戦闘、歴史などを勉強しているがどうも最近やる気が入らず、授業中だんだん意識が闇に落ちてゆく。
11時を回る頃既に私の意識はとらわれていた。
「あぁ、つまんねぇな。あのジジイの授業」
薄れていく意識の中で雪菜の彼氏の遼河がため息をついている。
(--次はあいつにしようかな……)
私の口がそんなことを言った気がした。どうゆうこと?と、思っても眠気で思考が空回りしてしまう。
そんなことを思っていると一気に世界が明るくなって視界が反転した。
椅子をひかれたとわかるまで少し時間がかかってしまう。
「おはよう、かさね。何授業中に寝てんの?」
「なんか用?」
腕がちょっと軋むのでさすりながら教卓を見ると前に立っているはずの先生がいない。
あ、コレガチな方でヤバい。と、直ぐに悟る。
先生がいればいじめと受け止める可能性があるので、皆は抑える部分があるが今はそうはいかない。
できるだけ冷静にいることにした。
「あんたさぁ、前々から思っていたんだけど随分私たちに生意気だよねぇ」
「そんなこと思ってるんだったら話しかけないで」
雪菜の声を無機質に感情を抜いて話す。
視線が集まり集団の一つから声が弓のように放た。
「そうゆうのがうざいってことなんだろ。おめぇはクラスに馴染もうとしねぇのかよ」
声のトーンからして遼河だと判別する。
それにつられるように野次馬が飛び込み言葉の波が私を襲い始めた。
私は恐らく聞いてもらえないなと分かっていても飲み込まれないように自分の考えを主張してみる。
「最初に避け始めたのはあんたらでしょ?何をいまさら言ってんの?」
雪菜の表情が今まで舞台を盛り上げる人間から彼氏を攻撃した敵を見るような黒いオーラに包まれた。
さっきの威圧より5倍増し位強くなって思わず足が下がりそうになるのを何とかこらえて雪菜を見ないように遼河を見つめる。
まぁ、5倍増しは言い過ぎだけど。
「わりいけど俺らは殺人者の近くにいるのが嫌なんだよ。せめて、てめえが俺らに歩み寄ってくれないと何にも状況は変わりゃしねぇんだぞ」
「そんなことも分からないとか小学生以下だろ」
「死んどけ、屑」
「見るだけで吐き気するんだけど……消えろよ」
数々の言葉の刃が私の心を抉ってゆく。
喉が苦しくなり目が潤い始めるが、ここで泣いてはいじめとばれたり私にも少しは残っている親から教わった、
月宮家としての誇りをすべて捨ててしまうことになる。
私は何とか耳を塞いで、その場にしゃがみたくなる衝動を抑え込んでもう一度前を向きクラスの皆に言葉に、圧力をかけて喋る。
「そんなの……どうでもいいんだよ!私はあんたらに何も迷惑かけずに生活している……。私なんて存在していないのと同じように扱えばいいじゃん!」
本当は怒鳴り散らしたかったが他のクラスは授業中で聞こえたりしたらまずかったので、最大限抑えた。
皆は数々の言葉を浴びて無事に映る私を見て沈黙が生まれる。
しかし、その空気をやぶるように雪菜の声が耳元まで届いてきた。
「あんたさぁ、根本から勘違いしてるようだから言うけど……立場分かってんのか」
「何が言いたいの……?」
「だからさぁ、一人で騒いだところで誰があんたを助けるんだよ?こうゆう自己中な事言われると腹立つんだよね」
言葉が詰まる。
確かに雪菜の言ったことは正論で私が何を言おうとしたところでいじめられている状況が変化するはずがない。
私は言葉が出てこなくなり口が閉じてしまった。
「黙っているとか……ガチでお前らしいな」
「何か言えよゴミ」
「つっ立ってんじゃねえよ」
胃から食べ物が這い上がってくる間隔を感じ始める。
「まぁ今回の事はそこまでにしてちゃんと制裁しないとねぇ?」
雪菜の言葉に皆が仕組んでいたかのように静かな笑みを浮かべた。
私は(またこれか……)と呟き、あまり感情を出さないように言い返す。
「何する気なの……?」
「とりあえず皆に謝罪と誠意を込めて土下座でもして土舐めろ」
「--っ!」
息が詰まり舌が動かなくなってしまう。
前も黒板消しを投げられたりだの、筆箱を捨てられたりなどはっきりいてくだらないガキがやるような事を、
何度かやられてきたが最近は凄くエスカレートしてきている気がした。
その先の言葉が見つからず沈黙が生まれてしまう。
いや、実際はいやだとバッサリと拒否すればいいのだが、舌が自分の意識から外れるように回らない。
「早くやれよ、待ってんだけど」
雪菜の友達が筆箱を投げて牽制する。
私の肩に当たるとそれを手に入れて、人質的なのにしようと手を伸ばすと不意に誰かの手が視界に侵入してきた。
筆箱を取ろうとすると、胃が背中に押しやられるような衝撃が走る。
それと同時に激痛が走ってお腹に手を当てて思わずしゃがみこんでしまった。
「がっ!……ゲホッゲホッ」
「てめぇ人の筆箱奪おうとしてるんじゃねぇ。殺すぞ……」
衝撃が雪菜に殴られたものだと近くするのに、時間がかかるほど痛みに付きっ切りになってしまう。
「謝れよ屑……。私の友達に触れんなよ。そん時は容赦しねぇぞ」
こんな事になっている原因はあの夢であると内心で呪う。
これ以上の暴力が恐怖でしょうがなくなった私の体は自分の意志関係なく勝手に土下座の体形になる。
「……すみま……すみませんでした……」
いつの間にかに空気は授業を聞いているように冷静だった。
舌を出し夏の日差しで優しく温まった無機質な石の床の感触が伝わってきた。
それをクラスの皆が一斉に笑い始める。
顔を上げると遼河が満足そうな顔で見ており、雪菜が悪魔のような顔で見ていたが瞳は悲しさの色で染まっていた。
しかし、私はそれ以外に人を見る余裕がなく机に頭を伏せ腕のクッションで顔を覆った。
(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)
何度も頭の中でリピートしている単語は、意味を持たずただひたすら泡のように出て一瞬で消えた。
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昼休み職員用の男子トイレで雪菜が感情的を吐き散らす。
「畜生……あんなこといつまでやんねぇといけねぇんだよ!」
「仕方ないだろ……月宮先生直々のお願いだぞ。途中で投げ出すわけにはいかないだろう……」
壁に寄りかかっていた遼河はなだめるように自分の傷ついた気持ちを隠すように表面の言葉を投げかける。
「分かってんだよ、そんくらい!けどこのままじゃかさねの……いいや、5号の心が壊れんぞ?」
半分はかさね自身の事を心配している彼女にとってこの状況は許せないのだ。
しかし、遼河は自分の感情を優先したりはしない。
「んじゃ降りろ……俺はこのまま計画を続ける」
「降りるわけねぇよ……やりゃぁいいんだろ」
雪菜がそういった後沈黙が二人だけの空間を支配した。
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キャラクターデータ
名前:月宮かさね
外見:腰まである紫の混じる黒の髪と青い目
体形:足が長く身長はやや高め
学年:1年生7組
魔法属性:混合型加速魔法(副属性:風)
魔法能力:4エナジー