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すぐに若葉は退院し、元の高級マンション暮らしの生活に戻った。わかばの両親はもうこの世にはいない。ルカはそこに居候のような感じで住むことになった。
二人は、すぐに意気投合し問題なく過ごした。
それから数日後の出来事だった。
夕暮れの街を歩く若葉。買い物に『アオン』という大型スーパーに向かっていた。ふと横を向く。
「ねぇ? 今日の夕食は何がいいと思う?」
若葉は自分の横にいる少女、ルカに向かって尋ねた。
その容姿はきれいで、スラッと伸びた手足、クリームチーズのような白くてスッキリしたふともも、ぱっちりしていてどこか品のある目、少し完熟する前の桃のような、モモ色と黄色の混じった髪の毛。
黒いワンピースを着ている。上半身は肌の露出が多く、肩の部分は黒いひもで、つながっているだけなので、肌がむき出しで、熱を持った太陽のような鎖骨や健康的な肩が丸見えだ。
下半身のスカート部分は、波打つ水のように、しわが縦にひらひらになっている。
「なんでもいいさ、バランス良く栄養のあるもの」
私はこれでいいのだろうか? ルカはそう思いため息をつく。わかばはニッコリ彼女に微笑む。
ルカは日常生活のことは問題なくこなせていた。その後、普通に二人で暮らしていた。
今は丁度春休み明けで学校が始まり、若葉は高校二年生になっていた。
明日はルカを連れて学校に行こうなどと、二人で話し合って決めた。
そのスーパーからの帰り道。わかばは手に食材やらお菓子の入った袋を持ちながら歩いていた。
まんまるのエネルギーの塊が、世界を橙色に染め始めた中、若葉は今日の『いきなり銀色伝説』は、また食べ物食いまくる企画だろうな。
昔みたいな、せんべい生活一週間とか、ぶっ飛んだ企画をまたやって欲しいな。などと帰ったら適当にみるかもしれない、テレビ番組のことを考えながらふらふら歩く。
通りかかった犬も散歩しなさそうなさびれた公園で、二人組の変なのに少年がからまれていた。
その光景を見た若葉は、助走をつけて加速。スカートをなびかせながら、持っていた袋を地面に置き、そいつらの一人の頭部を蹴り飛ばした。
そのまま、グラついた男のアゴのあたりを裏拳で殴りとばす。
そいつらの一人は地面にぶっ倒れた。
「おい、君はいきなり何をしている?」
追いかけてきたルカが不安げに言った。
「なんだぁ、お前。いきなりなにしやがる」
ゴリラみたいなもう一人の男が言った。
「うるさいの」
思い立ったらすぐに行動。それが若葉だった。悩むくらいならやってから考える。
「関係ない奴がシャシャリでてくるな!」
ゴリラ男が右手を振りあげ、若葉に殴りかかってきた。
若葉はそのこぶしを右手で受け流す、、そして、そいつの顎めがけて足を蹴り上げる。
「ぐっ」
若葉の蹴りを受けたゴリラ男がぐらつく。
「この野郎」
分が悪いと感じたのか、そう言って若葉の後ろの方にいたルカに向かって突進していく。
「あっ」
若葉がしまったと思った瞬間。
少し面倒そうにため息を吐いたルカが、殴りかかってきた男の拳を片手で受け止め、そのままゴミをポイ捨てするように軽く投げ飛ばした。男は地面に尻もちを付いて座り込む。
「ひぃ。なんだこの女、フルーフか。しかもかなりやばい」
怯えながらゴリラ男は気絶したもう一人を抱えて逃げて行った。
「少しは考えて動け」
「すごい。そっか。ルカは能力者だったね。でも、身体強化能力もかなり強いんじゃないの? 片手で投げ飛ばすなんて」
フルーフ、それは超能力、魔法、奇跡。そのようなもので、この世界には様々な能力を持った人間が存在する。もっとも誰もがフルーフを持っているというわけではない。
「まぁ隠す必要もないし、ばらすが私の固有能力は『エンチャント』人や生き物の精神、体に入り込み強化したり、操ったりする能力だ」
「それ、かなりヤバイ能力じゃないの? 体を乗っ取れるってことでしょ?」
「だがデメリットが大きすぎる。相手に入っている間に、そいつが死んだら自分も死ぬことになる。さらに簡単に体を操られるわけでもない。強い精神力で抵抗されたら弾き出される。相手に入り込んでいる間は、その生物の身体能力を限界以上に引きだせること。あとは外から治癒させる力もある」
あまり良い能力じゃない。ルカがブツブツと最後に呟くように言った。
能力者の能力は、本人の性格や精神に影響を受けると言われている。
例えば、心を読む能力はとてつもなくレア、貴重な能力であり、嘘が吐けない、純粋な人に宿ると言われている。
そして固有の能力とは別に、皆、体の一部を、全体を強化できる力を持っている。
基本的に、この二つの力は使い続けると、本人の許容量、スタミナなどにもよるが、精神的に消耗し、疲れて能力が使えなくなる。休めばまた元通りと言うわけだ。
「あの、お姉ちゃん達。ありがとう」
しばらく様子を見ていた少年はどこか納得のいかなそうな顔でお礼を言った。
「勘違いしないで、私はただそうしたかっただけ。それより、なんだか不満そうね」
わかばは少年にデコピンを軽くかました。
「いてっ。だって、なんで全く知らない僕のこと助けたの?」
額を手で押さえ、おどおど言いながら、自分を見つめる少年にわかばはイラッとした。
「あのね、誰かを助けるのに理由がいるの? そんなことに理由なんてないの」
わかばは少年の両手をとり、座り込み目線を合わせて言った。
「ほら、私の手あったかいでしょう? あの時のあなたはとても冷たそうだった。それだけじゃ駄目かな?」
少年は赤面し少し間をおいて、笑顔で恥ずかしそうに、わかばの目を見ていった。
「ありがとう」
そして好きな子に告白して、逃げ去るように去っていった。
わかばも照れて顔が赤くなった。
「なんだか、ずいぶんと君の印象が変わったぞ」
それまで黙っていたルカが微笑しながら言った。
「どういう意味? 別にかんちがいしないでよ。私はただ……その」
自分の顔が赤くなっているのがわかる。それでもわかばは、機嫌が悪そうに弁解しようとした。
「フフッ、それじゃあ帰るか」
誰かを助けるのに理由はいらないか。
彼女を助けてよかった。生意気でバカそうだけど。
ルカは改めてそう思った。