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 深い海のように、冷たい青空だった。そこを猛スピードで泳いでいた。真っ暗な深海に落ちていく。


 目を覚ますと、少し濁った白い天上がみえた。それはまるで水に溶かした粉薬のようで自分の体はどこかに仰向けになっていた。


「今のは夢?」

 起き上がり、周りを見回すブロンズグレイの銀髪の少女。白いベッドに白い部屋。

「ここは……病院?」


 一体何があったのか。辺りを見回した志乃宮若葉しのみや わかば

「女の子?」

 もう一つの少し横のベッドに同じく病院の薄い水色の服を着たルカが寝ていた。


 その時、タイミングよく看護師の女の人がドアを開けて病室に入ってきた。


「あら、気が付いた? いつもの先生呼んでくるわね」

 優しい声でそういった看護師の人がすぐにまた部屋から出て行った。


「とてもキレイな子……」

 若葉は、寝ているルカを観察する。ふと、そんな声が口から漏れた。彼女は誰だろう?


 そう考えていると、若葉の顔なじみの医者が部屋にやってきた。


「まったく、君は無茶ばかりするね」

 その医者は三十代後半のメガネをかけた男性。優しそうな顔で若葉に微笑む。


「先生、久しぶりです」

「久しぶりじゃないよ。冬の時は大怪我で病院に運ばれてきたと思ったら、今度は死んでいたかもしれないんだよ?」


 よくわからない。何があったのか。そう思いながら若葉は医者を見つめる。


「あの時は、お世話になりました。私どうしたんですか?」

「建物の高いところから落ちたんだよ」

「そんな、いくらなんでも間抜けすぎます。それにそんなこと記憶にないし」


「運が悪かったね。例の次元震動の波に巻き込まれたんだ」


「次元震動の波って、例の最近頻繁に起こっている怪現象ですよね……」


 若葉は頭を働かせて思いだす。最近世界各地で頻繁に起こっている怪現象。それが次元震動。原因は不明で、急に周りの景色が揺れて空間が不安定になる現象。規模は約二十メートル圏内のものが多い。


「そう、どこまで憶えている? 君はあそこで何をしていたの?」

「そういえば私……。何をやっていたんだろう? 気が付いたら病院で、思い出せない……」


「やっぱりね。僕は専門家じゃないから、よく知らないけど、かなり強力なのに巻き込まれたらしい。前後の記憶が飛んだと思う。それか死にかけたからか。体の異常は全くなく健康だから安心していいよ」


「そんな、それよりこの女の子は? この子も次元震動に巻き込まれて?」


 若葉は横のベッドで寝ている。不思議な色の髪の少女を見つめる。年齢は自分と同じくらいだろう。


「ああ、大した女の子だよ。治癒系の能力者らしい。君が地面に叩きつけられて、死にかけている所を必死で助けたらしい。目撃者の人達がそう言っていた」


「じゃあ、能力の使いすぎで寝ているんだ」

 女の子は、すぅすぅ寝息を立てて穏やかな顔で寝ていた。


「本当に彼女に感謝するんだよ。また騒がしくなるよ。君は母親とは別の意味で騒ぎを起こす」


「あれの話はしないでください。聞きたくない」

 窓の方から外の景色を見つめる若葉。医者はその寂しそうな悲しそうな顔を見てため息を吐く。


「ごめん、でも無茶ばかりしてはいけないよ。僕や他の親しい人達を心配させることになる」


「はい!」

そういって、ほほ笑む若葉。


「んんっ」

 その時となりで寝ていた女の子が目を覚ました。起き上がり寝ぼけたまなざしで、若葉と医者を見る。


「ここは? どこだ?」


「気が付いたかい? 君はこの銀髪の女の子を能力を使って助けたんだ。あまりに無茶やったせいで君も倒れて一緒に病院に運ばれてきたんだよ」


「そうか」

 女の子はそう言って、どこかをぼんやり見つめている。


「君の名前は? 身分を証明できる物もなにも持ってないし、困っていたんだが」


「ルカ、ルカだ。それ以外はわからない」


「えっ!」

 若葉は思わず、素っ頓狂な声を上げた。ルカと名乗った子は桃の様な黄色とピンクの混じった髪を手でかき上げ困った風にしている。


「君も次元震動に巻き込まれたのかい?」

 医者が尋ねる。


「次元……震動? なんだそれは? わからないんだ。気が付いたらあそこで目を覚まして。そこの彼女が上から落ちてきた、死にそうになっているのを助けた」


「まいったね? どうやら若葉より大変そうだ」

 医者は深刻な顔でそう言って困って頭を抱えた。


「医者の先生、ここは病院。どうやら日常生活の事は憶えている。自分の能力のこととか。ただ、どこの誰なのかがわからない」


 若葉はそう言った彼女を見つめる。とてもきれいで、どこか不思議な感じがする子。


「あの、なんで私のこと助けてくれたの?」

 問われたルカは若葉を見つめる。


「助けるのに理由がいるのか? 私はただ出来ることやっただけだ」


「そっか、ありがとう」

 なんだか恥ずかしくて目を反らして、お礼を言った若葉。悪い人ではないようだ。それに命の恩人。


「しかしまいったね。体の方は大丈夫だけど、記憶が無いなんて。二人ともすぐに退院できるし問題解決と思ったのに」


「先生だったら、私が。私が彼女を連れていきます」


「ええっ! また君は無茶を言う」


「だって命の恩人だし。いいじゃない。お金なら困らないし」

 この子は言いだしたら聞かないからなぁ。そう思いながら、若葉と親しい医者は考える。


「そういう問題じゃないんだけどね。君はどうなんだ? ルカさん? 別に病院に居てくれてもいいけど記憶となると治療するのは難しいが」


「私は……」

 ルカは若葉を見つめる。自分が助けた少女。ベッドから身を乗り出し、少し心配そうに両方の黒い目がルカをじっと見つめていた。それはまるで不思議な物でも見つけた赤ちゃんの様にキレイで真っ直ぐな視線。


「私はいいぞ」


「ええっ!」

 今度は医者が素っ頓狂な声を上げた。


「やった! 私、若葉。志乃宮若葉だよ」

 若葉はベッドから飛び降りて、隣のベッドに座るルカに手を差し伸べる。


「ああ、私はルカ。名字は忘れた」

「変な紹介、ああ先生! 事故のことはいつものようにもみ消しておいてね。マスコミが騒ぐの嫌いだから」


「はぁ、全く。僕が君の恩師の娘でよかったね。わかったよ。後、寝ている間に君の友達が病室に来ていたけど事情を説明したら帰ったから」


「うん、ありがとう先生。だから好き」

 ルカはそのやり取りを見つめていた。志乃宮若葉。彼女を見ていると、何か懐かしいものを感じる。


 こうしてルカは若葉と暮らすことになった。



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