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不純な動機で部活に入ると苦労する。

 

「外見だけでなめてると痛い目見るよ?」

 足元に転がって来たボールを拾い上げ、美少女は唇を吊り上げる。

 が、目が笑ってナイ。

 ぼーぜんと見送った小さな背は、そのまま散らばったボールを集め出す。ちょこまかした動きがふわふわして小柄な外見とあいまって小動物みたいで愛らしい。

 可愛い。可愛いのに!

 ……オレは負けた。

 今日は仮入部で一年でもボールに触れた。いくつかのチームに分かれ、簡単なゲームとシュート練習。オレ達を見てくれたのは綿菓子みたいなマネージャー。

 綿菓子みたいにふわふわしたマネージャーが「ボールの角度が甘い」と説明しだした。残念ながら真面目なしかめっ面で。

「先輩、せっかく可愛いんだから笑えばいいのに。そんなしかめっ面ばっかとかもったいなさすぎ」

 すうっとマネージャーの表情が消える。ピリッと空気が張り詰めて、地雷ふんだかもと思ったら、ワン・オン・ワンを挑まれた。

 いいっすよ、とほっとして軽く引き受ける。

 女の子だし、何か地雷ふんじゃったみたいだし、手加減して負けよう。

 そのつもりで構えたのに。

 微動だに出来なかった。

 見えなかったわけじゃない。右から来て、左に抜けた。抜けた、と思ったのに、彼女はフェイクで右に抜け、そのままレイアップでボールがゴールに綺麗に吸い込まれる。

「立花の見た目にだまされると痛い目見るぞ」

 床にうずくまって頭の中で反芻(はんすう)していたら、他の新入生を相手していた先輩にわしわし頭をかき混ぜられた。首折れそうっす手加減して下さい。

「先輩、さっきのシュート目に焼き付いて離れないんすけど。これ何すかね。恋? ギャップ萌え?」

 先輩は遠い目をした。

「立花はみてくれはああだが、真面目で全力のバスケバカだぞ?」

「何で女バス行かなかったんすかね」

「身長がな……」

 苦笑いする先輩の先、マネージャーと新入生達の身長差は子供と大人の様だ。

「後はあのけしからんバスト様がだな……」

 それバスケ関係ないっす。でも激しく同意っす。

「立花は小柄で女バスに弾かれたんだ。で、あの通りの負けず嫌いで女バスの主将とサシでゲームして、悪いことに勝っちまってな。喧嘩別れして男バスのマネしてる」

 声をひそめて先輩がポツリと言った。

 ああ、ものすごく地雷だ、それは。怒るはずだ。

「だから、真面目じゃない部員には厳しいぞ」

 デスヨネー。それ、も少し前に知りたかったっす。

「で、真面目で一生懸命な部員にはあんな感じ」

 先輩の指差した方を見ると、マネージャーが床にへたり込んだ新入生の頭を撫でてるとこだった。

「って、山田じゃねぇか! その場所オレと代われ下さい!」

 バスケ部見に行こうって誘ったのが山田だ。

 人気アニメでバスケに興味持ったにわかなオレと違い、ちょっと運動神経は悪いが中学でもバスケ部だった山田は、バスケバカで情熱は人一倍だろう。

 体力も無いからヘタってるけど。

 山田がオレの声に気付いて近寄って来ると、マネージャーがこちらに温度の無い目を一度向け、それから体育用具室にボールでいっぱいのカゴを押して行った。

「よう、一年坊主。楽しんでるか?」

 先輩は山田の頭もガシガシとかき混ぜる。や、頭もげるンで加減しましょうよ。

「で、腹は決まったか? やるならウチはとことんだから厳しいぞ~?」

「お手柔らかにお願いします」

 大型犬みたいに大人しく穏やかな山田は微笑んでていねいに先輩に頭を下げた。オレも慌ててその隣で頭を下げる。

「よろしくお願いします!」

「おう! 頑張れよ~? 先は険しいぞ~?」

 先輩はにやっと笑ってオレの頭もつかむ。ちょ、マジでパネェ! 首もげる! 先輩辞書で加減って引いて下さい!

 オレらの頭はボールじゃないっす!

「特に不純な動機のお前。立花は一筋縄じゃ行かないぞ。覚悟して挑めよ?」

 デスヨネ。敵認定頂いてるみたいなんで、相当道は険しいっす。

 事情がよくわかってない山田がキョトンとして、うなだれるオレと、泣き言ぐらいいつでも聞いてやるぜ、と遠い目をする先輩を見比べ首を傾げる。

 オレが顔を上げると、マネージャーが入部届けを配っているところだった。

 もらって鞄に入れる者、その場で書き出す者、入部届けを手にだべる者、先輩方と話している者。

 マネージャーに熱い視線を向ける者も多い。前途多難だ。

 こちらにもやって来た彼女は山田にそれを手渡し、隣に居るオレに、あのピリッと来る視線を当てた。

「ウチは厳しいわよ? 半端な気持ちならやめた方がいい」

 先輩、いきなり超ピンチっす。

 山田の逆隣に立つ先輩を見上げると、背中をバシッと叩かれ、ガンバ、とイイ笑顔でサムズアップされた。……この人の辞書に加減ってコトバ無いらしい。覚えとこ。

「全力で頑張るんで、よろしくお願いします!」

 頭を下げてからチラリとうかがうと、マネージャーは不敵な笑みを浮かべていた。

「そう。全力で叩き潰すつもりでメニュー組むから」

 ちょ、潰す……今潰すって……!?

 山田がキョトンと入部届けを手に固まるオレと立ち去るマネージャーとを見る。

 ポンとオレの肩に先輩の手が乗る。

「ドンマイ」

 イイ笑顔でサムズアップすんの止めて下さい~!


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