新世界の誕生経緯
新世界、VRMMO。
アニメや小説によくでてくる、仮想世界。VR技術。
これは、簡単に言えば視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を直接脳に送り込む
技術だ。仮想世界では、現実と同じように見て、聞いて、話して、呼吸して。
実際に体験しているかのような感覚をまとうことができる。
アイデア自体は軍事用シミュレートから始まった。各国はこぞって、開発に力を
注いだ。娯楽用ゲームも開発しろと多くの声が上がったが、軍事用シミュレートで
すらまだ開発段階。娯楽用ゲームとして実用化されるのは近未来・・・おそらく、
少なくとも半世紀は先であろうかと思われた。
しかし、西暦2062年――一人の科学者と大勢の名のない子共達の‘協力’に
よって、その近未来は唐突に訪れる。
科学者の名前は、アダルバート・アレックス。アメリカ出身。仮想世界開発時は
日本にいた。
通称A、A。
23歳という破格の若さで、仮想世界の発見を成し遂げた彼は、天才というより
も天災。そしてマッドサイエンティストなどという形容はあまりに可愛らしい気質。
まさに悪魔だった。
様々な理由で家を失い名を失った子どもを、甘い言葉で騙し、連れ去る。騙され
ていることを知らない子ども達は、どこかに連れて行かれて、さぁどんなご馳走が
待っているかと建物に入ると・・・
そこは、地獄絵図。
子ども達は脱出を試みる。が、当然失敗。A、Aにモルモットの如く使われ、崩
壊してゆく。もっとも、実験場はA、Aが買い取った日本の無人島にあったので、
脱出など出来ようもないことだったのだが。
A、Aは子ども達のことを隠し通すため人工衛星までも乗っ取り、世界から隠れ、
実験を行っていた。
しかし、いつまでも隠し通せるわけはなく、国は異変に気づく。‘協力者’を使
った、非人道的な実験が繰り返されていることを国と警察は知る。直ちに特殊急襲
部隊、SATをA、Aの実験場に派遣。抵抗したA、Aとその他数人をやむなく射
殺し、子ども達を救出。
だが、中にいた46名の子ども達は2人の男児を除き死亡していた。
そして生き残った2人も、実験のことを話したあと、病院で死亡が確認される。
そう、今まで開発されてきた、ただのVRシミュレーションではない。
仮想‘世界’はこの事件・・・通称A、A事件の後、A、Aの実験室で発見され
たのだ。
当時、人類にとって地球はもはや狭すぎた。しかし、地球の外への進出は、もう
望みは潰えたといっても過言ではない。
そんな中に、地球の外ではなく地球の内側に進出できる場所・・・つまり仮想世
界というアイデアが提示されたのだ。当然国の偉い人達は歓喜した。
それがたとえ、悪魔A、Aのものであったとしても。
一応、A、Aが開発していたものであるから、危険がないかを検査した後、国が
バックアップにつく極秘研究室・・・VR技術開発研究室にまわされ、研究された。
まずVRMMOというゲームの形で開発された。なぜゲームかというと、試験運
用として運営し、問題点をすべてクリアーし、「二つ目の現実」として生活出来る
よう世界規模でプロジェクトを進めていくためである。
ちなみに、仮想世界の発見がA、Aの開発によるものだなどとは未来永劫一般市
民の知ることではない。あんな悪魔が作ったものを、誰も使いたくはないだろう。
そして、通称A、A事件から3年後・・・ついにVRMMOという新ジャンルの
ファンタジーゲーム、「NEW WORLD」が発売された。といっても、購入す
るためには1万人限定の抽選に当たらなければならない。しかも、新ジャンルであ
るバーチャルのため、当然高額だ。
自然、抽選で当たる人達は、富裕層が多くの割合を占める。文句の多い彼らを満
足させることは当初困難かと思われたが、美しすぎる仮想世界のおかげか、運営の
尽力かにより、たった1つの問題を除いておおむねプレイヤーは満足した。
そう、たった1つの問題を除いては。
その問題とは何か。――NPCがつまらない、である。