終わりの始まり。あるいは始まりの始まり。
――白衣を着た女と男達が、俺を囲んで立っている。
――その部屋は白く、白く、透明で。何の感情も見いだせそうにない。
――視界は確保されているにしても、よくわからない機械に目以外の体全て
をおおわれ、ベッドに転がされて。うんざりする程のチューブとコードが
俺の体をのたうち回っているというのに。
――これから俺は死ぬっていうのに。
「君は死ぬ。いや、正確には君の情報はアレとして生き続けるが、君という
一個人は数分後、約99.842パーセントの確率で永遠に消滅する。と
いっても‘君達’が、生き残ろうと死のうと、計画には大差ない。
まぁ、私は死ぬ方をおすすめするけどね。
――とにかく、君は地獄行きの列車に乗ったんだ。」
――この一年で聞き慣れた女の声が、やけにクリアに頭に響く。
――そんなことは、わかっている。
「これから死ぬ君に、私達は同情しないし、ましてや可哀想だなどとは絶対
思わない。前々から思っていたが、こんなことに志願した‘君達’は、
そうとうの大馬鹿者だ。」
――ハッ
――声を出すことが許されない俺は、やっと生まれた感情・・・しかしどん
な感情か言語化できないソレを、精一杯目に込めた。
「そんな目をするなよ。ーそろそろだな。始めろ」
――女が周りの白衣の男達に命令する。
――俺を囲む機械が、うなりをあげ始めた。
――あぁ、死ぬのか。俺には、たいした悲しみも、未練も、後悔も、ない。
―――遠ざかる意識の中で―――
「同情などしないが・・・――私は、‘君達’を尊敬する。」
――そんなものはいらない。
――なら、頬を伝う液体の意味は――
――そんな思考を最後に、俺・・・神崎 零は生を絶った。