疑惑
コン! コン!
出版社の編集長の部屋のドアにノックの音がした。
「失礼します。編集長、お呼びですか?」
ひとりの男が入って来た。
「アイドルのカヤを知っておるかね」
「ハイ。自分ファンなんです」
「そうか。君が適任だろうと思って、呼んだわけだ」
編集長は納得したように、云った。
「何の事ですか?」
男は不思議な顔をして、云った。
「秘密を探って欲しい」
「秘密、ですか?」
「そうだ。普段のあの娘を誰も知らない。これだけ有名なのにだ。コンサート会場以外で見た人がまったくいない、君は見たことがあるのかね」
「いえ。確かに自分も見たことがありません。コンサートが終わったあと、出口で待っていたことが、ありましたが。一回も出てくるのを見たことがありません」
「そこでだ、君に秘密を探って欲しいのだ。普段はどこで何をしているのか」
「自分にですか?」
「もちろんだ、君なら普通にコンサート会場に入れると、思ってのことだ。それに、これは仕事だ。コンサートのチケット代など、経費として会社が負担をする。どうだ、やってくれるか。君に断る理由はないと思うが」
確かに断る理由はない。ここで断ったらこの先こんなにも良い仕事が来ないかもしれない。いや、絶対にこない。なら、やるしかない。
「編集長、喜んでやらせて頂きます」
「そうか、引き受けてくれるか。では頼みましたよ。あと、これは仕事だから、内密にな。他の人に知れたら、分かっているな」
「ハイ。分かっています」
「詳しい事は、後ほど、甘木が行くから、聴いてほしい。頑張ってくれたまえ」
「頑張ります」
男は編集長室から出ていった。