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挨拶
楽屋へ入ると林原さんは台本を見ていた。
「始めましてカヤと云います。今日はよろしくお願い致します!」
私は深々とお辞儀をした。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」
顔を上げると目と目が合った。
私が固まっていると「どうしたの?」と、不思議そうな顔をして云った。
「何でもありません。失礼します!」
そう云うと、私は楽屋を出た。
私のドキドキは、なかなかおさまらなかった。あの時の『貴女の秘密、知っているわよ』と云う、言葉が頭に残っているせいで、顔を合わせるのが怖かった。できれば逢いたくはなかった。
決定的な事、後には戻れない事を云われるのではないかと、恐れていた。
でも、今の林原さんは、あの時の事など、何事も無かったかの様に振る舞っていた。別人のように。
でも、これでは私が何で逢わない様にしていたのか、分からなくなってしまう。
それとも、本当に秘密にしておきたい、公にしたくはないのかもしれない。
魔法にかかわる大事なこと。
その事を、林原さんはわかっている。だからこそ、簡単には口には出さないのかもしれない。
それを、私は避けてとうれないかも………。