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魔法の少女 カヤ   作者: ひなつ
3/22

始まり

あの日、俺は………。


ジリリリ━━━━━━━!!。

朝だ!と、けたたましく鳴る、目覚まし時計。

『仕事!』と思い飛び起きるが、もうその必要は無いのだと思い、目覚ましを止める。


『そうか、昨日で辞めたんだっけ』

俺は起きようか、二度寝でもしようか、どうしようかと迷ったが、夏用の薄いカーテンを透して入ってくる初夏の陽射は暖かく、こんなにも陽射しが暖かいものだったのかと、今更ながらに思った。


起きてカーテンを開け窓を開けると外は良い天気だった。

小鳥のさえずりと朝靄が、出迎えてくれた。

何だか外へ出たくなり、住宅地の南にある公園にでも行ってみるかと思い、外へ出た。

こんな気持ちになったのは、何年ぶりだろうか。


俺はこの町へ来て5年になるが、まだ公園には行ったことがなかった。

毎日毎日、仕事に追われ、自宅と会社の往復だけで、休みの日にはコンビニで買ってきたビールを片手にテレビを観ながらゴロゴロしている、毎日だった。

長期休暇でも、朝こうして、のんびりと自分がすんでいる町を歩いたことはなかった。こういうのも悪くは、ないなと思った。


二度寝をしていれば、運命も、だいぶ変わっていたかもしれない。

でも、その事が早かれ遅かれ起きるのであれば、早く起きたほうが良いのかもしれない。


住宅地の南にある公園へはのんびり歩いても、15分程で付いてしまった。


元々ここは、山の中だった。

在来線が1両編成で走っている田舎だった。そこへ高速鉄道を走らせる計画がでて、駅を造る事になり、あれよあれよというまに、周りは宅地化され住宅街ができ、ショッピングモールもでき、IT関連の企業や工場などが住宅街の東側にでき、一つの町が出来上がった。

俺が住んでいるこの街はそういうふうにして、できた街だ。


公園の中に入ると、人は誰も居なかった。来る途中には犬の散歩をしている人を見たが、ここの公園は犬や猫、動物を連れて入る事はできない。動物の糞等が子供の衛生上良くないと云うのが理由だ。その分こんなに朝早く人が居るとは思えない。


俺はベンチに座ると、何となく空を見上げた。

晴れ渡った青空に、雲が一つ、浮かんでいた。

はぐれ雲か、今の俺みたいだな。

生きる為に、お金の為に、働いてきた。そうする事が当たり前の様に。でも、今、俺は公園のベンチに座っている。一生懸命働いてきたはずなのに、何処で、何処から間違えたのか、俺には分からないが………。なんだか少し哀しくなる。俺の人生、これで良かったのかと………。

もの思いに耽っていると、人の声が聞こえてきた。

子供を連れた住宅地の奥様方だった。

旦那を送り出して、家事を済ませて出てきたのであろう。


それらを漫然と見ていたら、目の前を、まるで絵本の中に出てきそうな妖精の姿をした生き物が、大人の人の頭ぐらいの高さの所を、フワフワと飛んでいた。

そこに居る大人も子供も、全く気付いてる様子はなかった。目の前を飛んでいても、そこには、あたかも何も居ないかのように、振る舞っていたからだ。


『と云うことは、俺にしか見えていないということか』

妖精はそのままフワフワと、公園の外へ出ていってしまった。

俺はとっさに、後を追いかけた。

後を追いかけたのは、追いかけなければ、いけない様な気がしたからだ。


だいたい妖精とかは、子供が見るものであって、中年のオヤジが見るものではないと思う。


後を追いかけ行くと、住宅地をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと、あてもなく飛んでいるようにも思えた。


気付かれないように後を追いかけていたが、不意に左へ曲がった。俺は『気付かれたと』思って走って角を曲がった。そこには妖精の姿は無かった。

「見失なったか、まあいいか」

俺は仕方なく帰ろうとすると、

「ちょっと待って! なんで私の後を付けてきたの!」

と、後ろから声が訊こえた。

「うわっ!」

後ろを振り向くと、妖精が目の前にいた。数センチ先にいるとは思わず、つい退けぞってしまった。

「なにをそんなに、驚いているの。私の後を追いかけきたくせに」

俺はまじまじと妖精の姿を見てしまった。

「何、見ているのよ! そんなにジロジロみないでよ、貴方失礼じゃないの」

「あっ、ごめん、つい」

俺は何故か謝っていた。

「ところで、貴方!」

妖精はキッ! と睨んで、云った。

「なんでしょうか?」

「貴方には私が、見えるの?」

「見えます、はっきりと」

「おかしいわね、私が見える訳ないのに。それも、こんな、おじさんに」

「おじさんにって」

俺は少し腹が立った。別に見たくって見ているのではない、たまたま見えてしまっただけで、それが気になった、だから後を付けた、それだけの事だ。それを、おかしいだのおじいさんだのと、云われる筋合はない。

「で、どおするの?」

「どうするのって?」

俺は何を云われたのか分からなかった。

「鈍いわね、私は魔法のアイテムを渡す事が出来るし、そして、貴方はその力を使って魔法使いになって、自分の願いを叶える事も出来るのよ」

あっ! そうか、そうだよな。俺は何をしているのだ。それが、お決まりなのに。

俺はアニメの魔女っ子ものが大好きだった。だから、魔法使いには憧れていた。それが、現実の物として今、俺の目の前にある。感動というか、何と云うか。

「よし、分かった。その魔法(チカラ)を下さい。お願いします」

俺は迷う事なく返事をした。

俺は今感動で胸がいっぱいだった。

「分かったわ、では魔法か授けます。心して使う様に」

その妖精は何やら呪文を唱えると、赤い光の珠が現れた。

「これを掴んで」

掴んでと、云われても。

それは宙に浮いている赤い光の珠、掴めるのだろうか? 俺は疑問に思いながらもその光の珠を掴んだ。

「うおっ!」

掴めずにスカッと手が宙を舞うのかと思ったが、 何故か掴めた。物体としての、感触があった。光の珠は掴むと同時に細長い棒えと変化した。

これが魔法少女に変身出来るアイテム、魔法のステッキか。

俺は凄く感動した。

長さは1メートル位の長さで、片方の先端は尖っていて、もう片方はピンク色の、拳位の宝石の形をした物が付いていた。

「変だなー。何でピンク色なんだろう?」

妖精は不思議がっていた。

「何か、おかしいのか?」

俺は妖精に訊いてみた。

「おかしいわよ、だって私は赤い色を貴方に渡したのよ。何でピンクなのよ! ますますもって貴方って人は不思議な人よね。絶対貴方には何かがあるわよ。その何かは分からないわよ、私にわ。でも、これで契約は成立ね、あと忘れないでね、契約期間は一年ですからね!」

「分かった! でも、なんかイメージが違うな、俺はもっと、こう、何て云うか……」

「まあ、現実なんてこんなものよ。それに、私には貴方を監督する義務があるの。魔法を変な事に使わないでね、特に貴方は子供てはなくて大人なんだから。悪事に使ったら、即刻取り上げて、貴方は私の犬になるのよ。いい、分かった! これは、約束よ」

「それくらいは、分かるよ。でも、どうやって変身するんだ!」

「ホントにやりずらいわね。何で貴方なのかしら、絶対におかしいわよ!」

「おかしいのは分かったから、変身の呪文を教えてよ」

「仕方ないわね約束だし。いい、いくわよ」

「いつでも、オーケー」

「そのタクトを持って、あっそうだ、このタクトのだしか教えてなかったわね。タクトの形を思い浮かべてタクトって云うの、そうすれば出てくるから。」

俺は妖精がやるように、そのタクトを右手で持ち上へ掲げた。

「それで、貴方が変身した後の姿を想い浮かべながら、こう唱えるの

『メタモリューション』

そうすると、そのピンク色の石から光のシャワーが出てきて、貴方の身体をその光が包みこんでくれるわ。それで光のシャワーが終れば貴方は魔法少女に変身しているの、分かったわね。これで、説明は終わり。で、分からない事はある?」

「何だか、嫌々云っているみたいだな」

「あたりまえじゃない。何で私の相手がおじさんなのよ。訳わからないわよ」

妖精は不満そうに云った。

「悪かったな! おじさんで。俺だって、何で見えるのか不思議だよ。俺が思っていた妖精と、だいぶかけ離れているしな。幻滅したよ」

「私だって、他の妖精と同じように女の子が良かったわよ。それに、初めてなのよ魔法の力を誰かに与えるのって」

「そうなのか?」

俺は凄く申し訳ない悪い気持ちになった。

でも、後々よく考えたら、人間よりも長生きしているのだろうから、初めてって事はないだろうと、何か騙された気分になった。

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