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覇道戦記 外伝~絶望と欲望~

作者: ガンマニ

少年は自身の目を疑った

いつものように草原で遊んでいた少年

現在、帰路に着いていた時

とてもではないが、想像の付かない事態になっていた

村が・・・燃えている

業火に包まれた村・・・

つい数時間程前に

食事をし家族と時間を共にしている故郷が

無情にも燃え盛る炎と消え去っていく

目を擦っても事実は変わらなかった

このような状況に、少年は無力にも地面に膝を落とす

何故・・・何故・・・

そう頭の中で考える

理由など判らず燃え行く故郷

只一つ、燃える村の上空、宙を移動する二人の影

片方は男、ボサボサとした髪の毛は

だらしないと言うよりは野性的

遠くで見え辛いが、鋭い犬歯を剥き出しにしてこちらを見て笑っている

もう一方は女性、綺麗でありながら妖しさを放つ風貌

右目に眼帯を付け、利き手であろう右手には黒い剣を携えている

女性はの方は少年の存在に気づくと

力無き者をあざ笑うかのように見下す

何も出来なかった・・・

守る事は愚か、一緒に死ぬ事さえ・・・

脳裏にそのような考えが()ぎる

二人はその場から姿を消す

何故こんな事が・・・

少年は・・・叫んだ

自分の無力を・・・家族の死を訴えるかのように

ただ・・・ひたすらに叫び続けた

泣きながらも喉を痛めてでも叫び続けた

そうさせるのは怒りか、はたまた憎しみか

だが、年端(としは)も行かない子供は

溢れ出る感情を抑えきれず

ただ・・・無意味にも無情にも・・・叫び続けた

それが少年、マオ・アマツの呪われた物語の始まり・・・


暗い洞窟の中

マオはその中に居た

叫び続けて気を失い

自分は何処かも分からない場所に拉致されたらしい

現在、マオは暗く水の水滴が落ちる音しかいない洞窟の檻の中にいた

檻の中には固いベッドのような石と

排泄に使うバケツしか無かった

両手首には鋼鉄で黒い手錠が嵌められ

気が付くと、食料をまともに取っていない為

手で触れると顔は痩せこけていた

体には微力も力が出ず、ベッドであろう石に座り

己の無力に絶望するかのように顔を俯かせる

「(・・・母さん、父さん、ユーナ)」

家族の名を頭の中で呟く

余りにも酷い自分の状況に

目から生気は消え、何故か笑い声が掠れながら出る

呪われた自分の運命・・・

もしあの時、村に自分が居れば・・・

そうも考えた・・・が

マオは自分の両手を見つめて涙を零す

「(・・・無理だ、子供の俺が居たって・・・何も)」

余りにも非力だった

当然と言えば当然である

この時のマオは7歳

戦術や魔法などは一切無縁である

稀にこの年でも魔法を使えたりする子供もいるが

マオは魔法には向いておらず、両親からは特に何も教わらなかった

魔法の才の無さに妹にも笑われる日々

今思えば、それすらも掛け替えない物だと

そう思えば思うほど、マオから人としての感情が抜け落ちていく

檻の近くから音が聞こえる

音は段々近付いてゆき、自分の檻の前に一人の鎧を着ている大男が止まる

「食事だ、摂れ」

置かれたのは

色が悪くなったパンとカビの生えた牛乳

「・・・何だよこれ」

意味が分からない

飯など食わさず殺してくれれば楽なのに・・・

マオは頭の中で思う

「貴様には明日実験を行う、ここに来て数日、飯も食わずに死んで貰っては困るのでな」

「は・・・はは、殺せよ。どうせ死ぬんだよ俺、あんたの持ってるその剣で俺の心臓突き刺してくれよ、なあ、俺もう苦しみたくないよ。死んで楽になりたいんだ、母さんや父さん、ユーナの居る場所に行きたいんだよ。なあ、これ以上俺を苦しめないでくれよ!」

笑いながら泣き

泣きながらもその顔には生気が無い

何もかもに絶望し、希望を失った人間とは

こうも滑稽で愚かな物なのか・・・

「どうせ実験に失敗すれば副作用で死ぬ、その時でも遅くは無かろう」

「誰がお前等なんかの言いなりになるか・・・殺せって言ってんだよぉ!早く殺せぇ!」

幼い少年の物とは思えない言葉

だが、鎧の大男は何の反応も無い

恐らく、このような人間を見たのは少なくないからだ

この少年の反応も、彼にとっては最早珍しい光景では無いのであろう

「いいから食え、余り暴れられるのは面倒だ」

「るっせぇ!・・・っ!?ごほっかはっ!」

暴れるマオだったが

栄養が欠乏して口から何かを吐き出す

手に付着した物

それは・・・自分の血であった

「・・・は・・・あ、あぁ」

「・・・・・・・」

人間という生き物は臆病だ

いざ死の局面に立つと恐れを為す

そして、生きる為に全てを捨てて必死になる

それを知っている大男は、マオの檻から離れる

すると・・・

野生の生き物が獲物を喰らうような声

大男は、それを確認すると次の仕事へと向かう


「(・・・何時間経った?)」

地面に倒れて天井を見上げるマオ

食事を取ってすぐ床に倒れて寝入った為

時間間隔が多少麻痺している

檻の外から聞こえる水滴の音に嫌気が刺す

「(・・・はは、何でこうなっちまったんだ)」

かはっ、と

自分の口から吐血する

体力が限界に近く、視力や聴覚が弱くなり

次第に視界が掠れていく

「(目が・・・ボヤボヤしてて・・・何がなんだか)」

さっきまで聞こえていた水滴の音も

まばらにしか聞こえなくなる

「(・・・丁度いいや、こっちの方が考えなくて楽だ)」

何もかも、考える事すら諦めたマオに

数人の訪問者が現れる

白衣を着てガスマスクのような物を着けた者と

昨日来た大男のような鎧を着た連中である

ガチャリと檻の鍵を開け

鎧男達はマオを担いで、白衣の者達と共に場所を移動し始める


連れていかれたのは、白い場所

マオはそこで目を覚ます

気づくと自分は十字架のような物に(はりつけ)にされていた

横ではガラスが挟まれ、ガラスの奥では白衣を着た男たちが話し合っている

一体何をするというのだ・・・

「(実験か、つまり俺は道具として連れてこさせられたのか・・・)」

改めてその認識に嫌になる

最後の最後までこの様だ

神様がいるなら、俺は全力でそいつを八つ裂きにでもして

自分の故郷のように焼き殺してやりたい

そう思うも、非力な自分には何も出来なかった

「(・・・力が・・・力が欲しい)」

何もかもを覆す、絶対の力

マオはそれを強く望んだ

しかし、こんな状況では叶わない

今はただ、この腐食しきった人生の最後を迎えるだけであった

「よし、実験を始める。あれを打て」

すると、部屋の側のドアから一人の男が現れ

手元に持っている注射器の様な物で

マオの鎖骨辺りを刺し、中に入っている液体を注入する

「これで因子は体を巡る、あとはこの者の反応次第だ」

注射器を打ち終わった男は再びガラスの向こうにある部屋に戻り

研究対象の反応を見る

「(一体何を・・・っ!?)」

注射を打って数分後

マオの体に異常が現れる

「が・・・あ・・・ぐあああああああああ!!!」

磔にされても暴れだすマオ

絶叫し狂いだすその様子に

白衣を着た科学者であろう者達が様子を見守る

「ぐあああ!っが!あああ!だあああああああ!」

苦しそうにもがくマオ

目の焦点は定まっておらず

頭の中で何かが強く訴える

そして・・・

「・・・・・・・・かはっ」

急に動きを止めてがくんと項垂れる

「・・・失敗か」

科学者は隣に置いてある心電図の様な物のデータを見る

上下に動きを見せず真っ直ぐ伸びる線

これは、心臓に動きが無いという事を意味していた

「まあいい、実験対象はまだいる。おい、こいつを処分しろ」

二人の科学者はそう話を終わらせると

側にいた鎧の男にマオの処分を命ずる


マオの意識の中

どうしていいか分からなかったマオは

意識の中にいた

そこでは、家族と過ごしてきた思い出があった

微かに残る意識に

マオは異形な形をした影のような存在を見つける

「・・・なんだよ、お前」

「貴様は受け入れるか?」

「何が?何を受け入れろって言うんだよ」

影は坦々とマオに告げ始める

「今ここで死に楽になるか・・・」

それとも、と続けてこう言い放つ

「・・・家族への思い、これを力に変え復讐とするか」

「・・・何が言いたい」

「単刀直入に言おう、今お前が選ぶ選択肢は・・・死か復讐、これのどちらかだ」

「・・・やっぱりな、神様はろくなもんじゃない、俺に負わせる物はいつでもこんな感じだ」

マオは影の言葉を受け、その場にて静かに笑い出す

「ふふふ、はぁ・・・力だ」

「・・・何?」

「力を・・・くれないか?出来れば、俺をこんな目に遭わせた奴等を一人残らず消し炭に出来る程の絶対な力。俺はそれが欲しい」

「・・・その為に、お前は人を捨てられるか?」

影の質問に

今更すぎると考え、マオは笑い出す

答えなど、とうに決まっている

「何言ってるんだ、俺は・・・もう人じゃない」

「・・・良い返事だ」

それだけを言うと

影は収縮、黒い円形のボールのような物になる

そして、それは一気にマオを包み込んでしまう


「・・・・・・」

「っ!馬鹿な!動きを見せただと!?」

マオのを処分しようとしていた男達は

状態の異変を感じ取って警戒する

「何だと?」

白衣の科学者達は立ち去ろうとしたが

その言葉を聞いてガラス腰にマオを凝視する

「・・・・・っけけけけけっけけけっけけけ」

突然笑い出すそれは

人と言える物かも分からなかった

「そんな馬鹿な!?心臓が完全に止まったのだぞ!何もせず再び動き出すなどありえん!」

死んだと思われていた者が動き出す

それは人間ではありえない

つまり・・・

「こいつは・・・成功だ!」

科学者の一人は歓喜した

実験内容の成功に

だが、その表情は一瞬にして打ち砕かれる


「kケhgnキftgvjw殺sjfスcfp」

バキンッ!

言語として見られない奇怪な声を発し

マオは磔にされていた両腕と足の鎖を引きちぎる

「まさか!呪具(カースドギア)の暴走か!?」

鎖を辺り一辺に弾き飛ばし

マオは近くにいた鎧の男に目を付ける

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・ぶっ殺す!」

大男は急な事態に身動きが取れず

その場から動けなかった

それを見計らったマオは、一人の男に飛び移り

そして・・・

「ぐああああああああああああ!!!」

男の喉仏を・・・喰いちぎった

「ぎゃはははははははははは!」

喰いちぎった肉を吐き捨てて

その場で馬鹿笑いを始めるマオ

片方の男は地面に倒れて

口と首から血を吐き出して絶命する

「このぉ!大人しくしろぉ!」

もう片方の鎧の男は

腰に刺してある剣を鞘から引き抜き

力一杯マオの腹部に突き立てる

しかし・・・

「・・・あぎゃ?」

「き・・・効いてない!?ばっ化け物だぁ!」

腹部から血を大量に噴き出す物の

痛みを感じないのだろうか、苦しむ素振りすら見せなかった

「かーっかっかっか!」

それ所か、自ら腹部に突き立てられた剣を引き抜き

両手持ちで大きく振り降ろし、剣を男の頭部を兜ごと突き刺す

「ぎゃああああああ!」

突き刺した頭部から血と得体の知れないグロテスクな物・・・

脳をはみ出しながら、男は死に至る

「逃げろ!奴は私達では手に負えない!」

「牢獄の番人へ誘導するんだ!幾ら奴がアレを使えたとして子供(がき)だ!」

科学者はマオの近くの壁を操作する

すると、壁は左右に別れて隠し通路が現れる

「っかっかっか!」

見る所意識がまともではない

マオは隠し通路へと獣の様に四足走行で走っていく


通っているのは地下の洞窟

微かに感じる風、そこは外へと繋がる道なのであろう

四足走行で走るマオの前に現れる巨大な影

さっきの大男は大体身長が2メートル程度であったが

現れた男は推定でも3メートルはある程の巨体

仮面を付けて、丸太のような両腕に握られた二本の大斧を持つ男

男は呼吸を荒くしてマオへと右腕の斧を振り下ろす

間一髪避けるが、土煙が晴れた斧の跡は大きく地面を(えぐ)っていた

「・・・うあぁ」

「・・・お前が・・・成る程な」

男は地面から斧を引き抜き、肩に斧を置く

「俺はここの番人のダイアンだ。ここのルールはこの俺だ、俺に逆らう奴はこの斧でその首飛ばす事になっている」

「・・・へぇあ?」

「どうやら会話も出来んらしいな。呪具によって一時的な精神崩壊を起こしているのか」

だが、と

ダイアンは両方の斧を振りかぶる

「ここでこいつを消しておくに・・・越した事は無い!」

ズドン!

力強く斧を振り下ろし、辺り一辺に響く轟音

周辺の壁は衝撃で亀裂までも走っている

だが・・・

「・・・まさか」

「・・・ははは、この程度かよ」

煙が晴れるとダイアンは焦り始めた

なんと、振り下ろした斧を受け止めているマオがそこに居た

しかも、両方の腕で片方ずつである

片方であれだけの威力の一撃を

幼い子供がいとも容易く受け止めている

「お前・・・この短時間で」

「ああ、途中までは意識も吹っ飛んでたけどよ。案外この力って慣れるモンだな」

「それでも、今のお前では俺には勝てない」

一旦距離を取る為にダイアンは後方へと跳躍する

跳躍しながら斧を投げ飛ばして攻撃する

それすらも体を捻らせ避けるマオ

「やるな、だがこれで終わりだ」

そう言うと、ダイアンは体の全身に力を入れ始める

筋肉が更に増大し、やがて黒色に染まる

全体が黒に染まると、光沢が走る鎧となっていた

更に、両腕が巨大で無骨な斧へと変わる

「呪具『傍若無人』、威力と力だけならお前のソレすら凌駕するぞ」

「関係無いな、だったら俺も本気を出すだけだ」

「ほざくな、今ここで貴様は朽ち果てるのだ!」

言葉と同時に

大きく力任せに振り下ろされる斧

連続で振り下ろされ、マオはそれをただひたすら避ける

「くそっ!やはりこの状態では速度が落ちるな」

「はっ!この馬鹿が!」

「ふん、だがこうすればいい!」

ダイアンは一旦攻撃を止め

両腕を一気に振り下ろす

すると、斧が振り下ろされた場所からマオに向かって地面に亀裂が走る

「避けれまい!貴様の負けだ!」

「そうやって決め付けるのは・・・まだ早いぞ!」

マオは瞬時に取り出した黒い片手剣で衝撃波を弾き飛ばす

「なんだそれは!一体どうやって!」

「どうやら俺にもこういう武器は使えるらしいな・・・」

「くっ!だがそれでも俺の優位に変わりは・・・」

「馬鹿だなお前、相手の秘策が一つとか決め付けてる間はお前に勝ちは無い」

その言葉に驚くダイアンの目に

翼を生やしたマオの姿があった

「そして、お前にもう人殺しは出来ない」

「貴様・・・何だと言うのだ・・・ありえん・・・こんな事が」

「死ね!」

翼で一気に飛翔し距離を詰める

ダイアンにこれを止める術は無かった

ただ、両腕の無骨で無機質な重斧を振り回して迎撃する

それすらもマオにとっては何の意味も持たない物となる

「その斧いい加減邪魔だな・・・消えろ」

片手剣を振り、斧を粉々に砕く

砕いた瞬間に噴き出す鮮血

変化させたと言っても元は人体

今のダイアンの状態は、両腕を斬り落とされたのと同じ事である

「ぐあああああああああ!!!」

「言ったろ、お前にもう人殺しは出来ない」

「くそっ!こんな事があってたまるかああああ!!!」

胸に突き刺される片手剣

ダイアンは断末魔を挙げる事なく後ろへと倒れる

そして、黒い鎧と化した体は元に戻り

元の肉体へと戻った瞬間、大量の血を流し始めた

最早時間の問題であろう

だが・・・

「・・・おいおい、こんなに呆気なく殺す訳無いだろ?」

「な・・・」

右手に意識を集中させ、ダイアンの体を抉るように貫く

「ついでだ、お前の呪具を吸い出させてもらおう」

「なにを・・・があああああああああああ!!!」

次の瞬間、叫びだしたダイアンの体に異変が生じる

「喰い尽す・・・それが俺の力か、はは、御誂(あつら)え向きじゃねぇか」

「やめろ!これ以上は・・・ぐああああ!!!」

「止めろと言って止める馬鹿がいるか?最後の最後まで愚かだったな」

マオの力によって、少しずつ肉体が消えていくダイアン

「お前等が俺にした事はこんなモンじゃないぞ・・・」

「な・・・が・・・きさ・・・ま」

声を途切れさせながら出すが

喋りきる前にダイアンの姿は消え去っていた

「五月蝿いんだよお前、雑魚は雑魚らしく喰われてろ」


「・・・ふぅ」

洞窟から離れた森の中

マオは木によりかかり腰を降ろしていた

どうにかなったが、力を使った代償か

体に力が入らず、ここに来るまで体がふら付いていた

「(何とかなったが、これからどうする・・・)」

帰る場所を失い、頼る者も無いマオは先の事について悩んでいた

「(奴等を潰すにはまだまだ力が足りない、だが、必ずあいつ等全員を殺すと決めたんだ)」

自分の家族を

故郷を奪った連中を殺す為にも

マオは何とか考えようとする

しかし、激しい戦闘の後、マオの意識は強制的に途絶え

木に寄りかかったまま意識を失う


起きた時は朝だった

場所は何処かも分からない

覚えている範疇では、自分は確か木の側で寝ていた筈・・・

何故か柔らかく暖かいベッドの上で眠っていた

周りを見渡すと、どうやら個室に一人眠っていたらしい

多少の疲労感は残っているから昨日の出来事は確かな物だ

頭を抑えてそれを考えていると

ドアが開いて桶を持った小さな女の子が入ってくる

「あっ!気が付きましたか?心配しましたよ~」

「・・・君は?」

私ですか?、と

おっとりとした雰囲気の喋り方の女の子は自己紹介を始める

「私の名前はシオン・エリュシオン、そういう貴方は?」

「・・・マオ、マオ・アマツ」

「マオ君かぁ、心配したんだよ~大人の人達が村の周りを偵察している時に眠っている君を見つけてね」

「・・・そうだったのか、なあ、ここはどこなんだ?」

「ここはギルドの部屋の一角だよ、私ここでハンターの見習いやってるの」

「シオン、そのハンターって何なんだ?」

シオンの言葉が気になって、咄嗟にそんな質問をするマオ

「あれ?マオ君の村ではハンターって居ないの?」

「・・・ごめん、あんまりそういうの知らなくて」

「はは、まあ最近は猛獣とか魔獣は頻繁に出ないもんね」

「なあ、良かったらハンターについて教えてくれないか?」

「別にいいけど、もしかしてマオ君はアルケミアにハンターになりに来たの?」

シオンの質問にマオは少し考える

自分の事情をここで言うのは少し辛かった

なので、今は適当に誤魔化すことにした

「そっそうなんだ!俺もハンターに憧れてさ」

「だよね~皆の憧れだもんね~」

「(細かく追求されなくて良かった・・・)」

時が来たら喋るつもりではいるが

今はその事は控えたかった

「ハンターはね、生きる為に魔獣や猛獣を狩って、報酬や素材で新しい武器や防具を作り、新たな高みを目指す人達の総称だよ。私の好きな人はハンターでSランクで『聖帝』っていう二つ名もあるんだよ!」

「へっへぇ・・・そりゃ凄いな」

正直何がどう凄いのかは分からないが

変な茶々を入れるのは無粋だと思って

余計な事は言わなかった

「・・・あのさ、ハンターになれば自然と力は付いていく物なのかな?」

「ん?どうしてそんな事聞くの?」

「俺さ、もっと力が欲しいんだ。もう、大切な物を失わないために」

マオの顔を見て

シオンは何かあると察する

「訳ありなんだね。なら私と一緒に頑張ろう!」

「・・・え?」

シオンの言葉に拍子抜けするマオ

「私もハンターとして人の役に立ちたいし、君の瞳は見てて好きになれるから!」

「・・・成る程、君は相当に変な人だね」

「しっ失敬な!これでも褒めたつもりなんだけどな~」

頬を膨らますシオンにマオは「ごめんごめん」と反省気味に謝る

「まあいっか、マオ君、これから貴方は私の友達だよ!」

「・・・友達・・・か」

シオンの言葉に不思議に心が温かくなる

「(・・・不思議だな、不思議と心が温かくなる)」

残酷な人生を歩んで荒んでいたマオに

シオンの言葉は、文字通り救いになっていた

「シオン・・・俺頑張るよ」

「・・・うん!だったら私も負けないように頑張らないとね!」

「俺だって負けないさ」

「何をぅ!」

そう言って、二人はお互いに笑いあう


十年後・・・

マオはいつものようにハンターの仕事に精を出していた

今回の獲物はSランクの猛獣「ヴォルガノス」

かなり手強い飛龍種だが、マオにとってこの位は日常茶飯事であった

依頼表を手に取ると、近くで騒いでいた連中がこちらに歩み寄ってきた

その中の男には何か・・・不思議な何かを感じた

シオンの時のような・・・熱い何かを

その男が、仲間であろう女性の為に俺に勝負を持ち出した

面白い・・・

「では、登録しよう」

俺は先程登録した内容を訂正する

「ダン!生きて帰ってきてね!」

「おう!安心して待ってろよクーちゃん」

「・・・行くぞ」

「何時でもいけるぜ!」

タクシーバードへの指示をするとこの男、ダンと共に俺はクエストの場所である鉱山へと向かった

俺はこの時、想像もしていなかった

この男が、俺の人生にとって、掛け替えの無い存在になる事など・・・


end・・・





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