第五話 香澄家の少年
哀れな男とその他は忍びたちに連れられて城の外へと連れて行かれた。その様子を冷めた目で見る。くだらない、馬鹿馬鹿しい。凪はゆっくりと溜息をついた。そして再び瞼を閉じる。目を閉じれば些細な音にも気がつける。外を駆ける風の音が心地よい。
「あの・・・千桜様っ」
「なんでしょう?」
横からの声に凪は瞼を持ち上げる。声の主を見てみれば、まだ小さな少年。歳は凪の一つか二つくらい下だろう。凪は口元に微笑みを浮かべる。
「あ、あのっ!先ほどのお姿、とても素敵でした!刀を向けられても動じない!!とても尊敬しますっ!」
「そ、それはどうもありがとう」
熱烈に語る少年に頬を引きつらせながらも微笑む。凪に微笑まれた少年は、やっと自分が大声を出していたことに気がついたのだろう、かぁっと面白いほどわかりやすく赤面した。
「す、すみません・・・大声など出してっ・・・」
「いえ、お気になさらずに。私のことをそんなに褒めていただいて光栄ですよ、香澄殿」
「えっ・・・な、何故・・・」
何故名前を知っている?と聞きたかったのだろう。明らかにうろたえる少年を見て凪は小さく笑う。そして、その細い指で少年の背中を指さした。
「丸印にかすみ草、それは香澄家の家紋でしょう?」
くすりと小さく笑えば少年は、はっとした表情になる。障子の隙間から入ってきた風が少年の髪を揺らす。東鬼特有の黒い髪。凪とは違う漆黒の髪。