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般若は笑い花は咲く  作者: 水無月 郁
第一章 春
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第四話 哀れな男


 通された部屋に入れば、もう既に見合いに呼ばれた者たちが座っていた。どこも良家の者ばかりだ。


 ----------めんどくせーなぁ。


 「凪様」

 「な、なんだよ」

 「めんどくさくてもきちんとしてくださいね」

 「分かってるよ」


 ----------お前は読心術でも身につけてるのか!?


 すぐに見破られた心の内で桐葉に言う。昔からのつき合いだからか桐葉は凪の心の内を、的確に突いてくる。凪はなるべく端の方へ座った。

 めんどくさいと思いながらも、座ったそのさまは気品に満ちあふれている。

 目を閉じていると、スッと静かに襖が開いた。ゆっくりと瞼を持ち上げればそこには、後ろに女中を控えた1人の男が立っていた。背が高く、逞しい体つきだ。細身の凪はその男が若干羨ましかった。

 散々鍛えられたのだろう、音も立てずに数人の良家の息子たちが頭を下げる。逞しい男に頭を下げてないのは、凪を数えて五人程度だ。


 ----------何故、”あんな奴”なんかに頭なんぞ下げてるんだ?


 凪は表にこそ出さないものの、心の内で首をひねった。

 すると、その逞しい男は満足そうに笑い女中に何かを囁くと一歩後ろへと下がった。


 「今頭を下げているお方には即刻帰っていだたきます」


 女中頭だろうか、彼女の言葉に頭を下げていた者たちが驚いた表情かおをする。


 「どういう事か説明してもらおう!!」

 「我が家の当主の顔もろくに知らぬような方々に姫を合わせることなど出来ませぬ」

 「なにッ!?貴様!ただの使用人のくせに、誰に物を言っているのか分かっておるのか!?」

 「存じ上げておりますが、なにか」


 ----------この女、強い。


 凪の口元に笑みが浮かぶ。凛とした表情のまま、どんなに相手が怒鳴ろうと態度を変えたりしない。凪はその光景を静かに傍観していた。


 「貴様ぁ!!」


 その男は刀を抜いた。男に続き、頭を下げていた者たちが一斉に刀を抜く。その様を凪は冷たく見つめる。


 「・・・馬鹿な奴」


 溜息と共に凪の口からこぼれ落ちた言葉と共に、白刃が交わる独特の高い音が部屋に響く。女中頭の前には黒い装束に身を纏った1人男。その音を開始の合図とし、あちらこちらから高い音が響く。


 「まったく・・・馬鹿馬鹿しい」


 しかし、その口には笑みが。


 -----------昔を思い出すな。


 まだ凪の幼い頃、些細なことで兄弟と喧嘩をしてよく木の棒で斬り合いの真似事まねごとをしたものだ。昔の幼き想い出に浸っていると、独特の”気”が凪に向かってきた。目を閉じたまま、其れを掴む。


 「・・・東条家の忍び殿は敵味方てきみかた・・・あるいは、殺気を出している者と出していない者の区別がつかないのですか?」


 掴んでいる手に力を込める。忍びの1人は驚きに目を見開いていた。まぁ、その独特の装束のせいで目元しか見えないのだが。


 「私は殺気など出してはいませんよ?そんな面倒なことはいたしません。それよりも・・・あちらに向かうべきでは?」


 凪が向けた視線の先には、暴れ狂う哀れな男の姿。

 凪はもう一度忍びに向かって笑いかけた。

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