二律背反 side:ユウヅキ
赤、紅、アカ……。
赤に塗れた僕……。
赤は綺麗だと思う。
真っ赤で鮮やかな血の色。
それに染まる僕の手。
僕等は主人の望んだ姿になれるけど、今の主人はごく一般的な『人間』を望んだ。
僕も、僕の片割れの『兄』も、有り触れた『人間』の姿をしている。
黒い髪に青い瞳……。
『この世』で本当に有り触れた姿。
ツマラナイ。
あぁ……、ツマラナイ。
だから、僕は自分を真っ赤な『紅』に染める。
主人の命のままに。
……あれ? 手が動かない。
見ると『兄さん』が僕の手を掴んでいた。
「…………」
「どうしたの?」
『兄さん』は表情を変える事はあまりない。
でも、今は少し険しい顔つきをしているようだ。
「……もう、止めておけ」
「……?」
「そいつは、もう動かない」
僕の目の前で、無残な死体となっている人間。
なんだ……、そんな事か。
「どうせ、埋めてくれるような相手もいないんでしょ? なら……」
「…………」
掴まれている手に力が入る。
『兄さん』は少し険しくて……、少し悲しそうな表情をしている。
……なんでだろう。
僕は『兄さん』にそんな表情をしてほしくないのに……。
時々、『兄さん』のそんな表情を見る。
僕が『紅』に染まっているのを……、悲しそうに、哀れむように。
まるで僕が、間違った事をしていると言いたげに。
……あぁ、そうか。
僕は『壊れて』いるのか。
生まれた時から欠けている『何か』。
『壊れて』いるから、無残に人を『壊せる』のか……。
「…………」
『兄さん』の手から力が抜ける。
「ねぇ……、僕は『壊れてる』のかな……?」
試しにそう聞いてみた。
僕等は最初から『何か』が欠けているのに……。
「……分からない」
そう答えが返ってきた。
……当然の答え、なのかもしれない。
「分からないが……、それを補い合う為に、俺達はいるんだろう?」
…………。
あまり似合わない台詞だ。
『兄さん』もそれを自覚しているのか、「行くぞ」と言って背を向けた。
でも……。
「……ありがとう」
少しだけ、楽になれた。
離れていく背中にそう呟いて、『兄さん』の後を追った。